「一般のご家庭での豊かな食生活の実現」という非常に明快な企業理念を掲げるオイシックス(株)。健康食材は、身体に良いことはわかっていても、なかなか続けられないという声が多い。そこで同社では、健康に良く美味しいものを、生産者の論理ではなくお客様の視点に立ち、できるだけ便利なかたちでお届けすることによって、“続けられる”健康食生活の実現を目指している。
健康食材販売サイトとして国内最大規模の「Oisix(おいしっくす)」
有機野菜などの食品販売会社として2000年6月に設立されたオイシックス(株)。同社がエンドユーザーに対して展開している事業の柱は2つ。ひとつはインターネット販売。2000年6月にサイトを立ち上げ、オンラインショッピングを開始、同年10月に本格的にスタートした。現在、同社が運営する感動食品専門スーパー「Oisix(おいしっくす)」は食品販売サイトとして国内最大規模を誇る。もうひとつは、牛乳宅配店や酒販店を通じて食品を販売する「おいしっくす宅配便」で、2000年10月に開始した。
オンラインに加えリアルなショッピングチャネルを用意したのは、当時はまだインターネットの浸透度が低く、かつその環境やインフラの変化に企業の成長スピードが大きく左右されると判断したため。コンビニエンスストアのほか、 米穀店、 酒販店、 牛乳宅配店、新聞配達店といった宅配機能を持つ業態を比較検討。その結果、最も相応しいと判断したのが、牛乳宅配店であった。その理由のひとつは、 普段から高品質・高価格の牛乳を購入している牛乳宅配店のお客様は、健康に関する意識が極めて高く、 加えて宅配ニーズも高い。もうひとつは、 冷蔵庫やトラックなどの物流インフラが整っていたからだ。
また、従来のこだわり食品宅配サービスは、①決められたセットの定期購入スタイル、②入会金・年会費が必要、③宅配時間の指定は不可能であったため、一般家庭が買い続けにくいという問題を抱えていた。そこで同社は、「 “続けられる”健康食生活を実現します」というサービス理念のもと、誰もが手軽に利用できるように、①好きなときに好きな量だけ生活スタイルに合わせて注文できる、②入会金・年会費が無料、③土・日曜日を含め到着日時の指定が可能といったサービス体制を整えたのである。
取扱商品は、全国約30の生産者法人、約1,000の農家、300~400の加工品メーカーをネットワークし、厳しい商品基準をクリアした食材のみだ。
こうした同社の取り組みが気軽に、安心・安全にこだわり食品を求めている消費者に評価され、会社を設立した2000年度に約7,800万円だった売上高は、2005年度には約27億円に伸び、着実に成長を続けている。
現在、販売チャネルはインターネットと牛乳宅配店などの提携店で、売上構成比はインターネット宅配事業が65%、牛乳宅配店経由の店舗宅配事業が35%。インターネットからの購入経験者数は、2001年3月の4,398人から、2006年1月には20万人に急増。牛乳宅配店経由で配布しているチラシ (月刊『おいしっくす宅配便』)の対象世帯数は約87万5,000世帯に上る。また、1回当たりの購入金額は、牛乳宅配店利用者が約3,000円なのに対し、インターネット利用者は約4,800円に達している。
販売チャネルごとに異なる顧客を意識した取扱商品
それでは、同社のインターネット宅配事業と店舗宅配事業のサービスはどのように行われているのか。
インターネット販売では、在庫を極力持たず、収穫から宅配までの期間を最短にすることで鮮度の高い食品の提供を実現。商品は受注後に生産者に発注、これをいったん海老名にある配送センターに集めて仕分けし、お客様に宅配している。顧客層は、小さな子どものいる30代の主婦層や都市部在住者が多い。30代の主婦は、健康に悪いものは子どもには食べさせたくないという思いから、農薬やアレルゲンに関心が高い。取扱商品は、170品目を数える有機・特別栽培野菜や果物に加え、天然酵母パン、有機納豆といった無添加の加工商品1,200~1,300品を常時Webサイト上に掲載し、年間で計2,200品を取り扱っている。
一方、牛乳宅配店との提携によるサービスの仕組みは、牛乳宅配店が各家庭に毎週チラシを配布→各家庭では空き瓶返却の際に注文用紙を牛乳ボックスに入れる→牛乳宅配店が空き瓶とともに注文用紙を回収→次回牛乳宅配時に注文した食材が届けられる、という流れだ。配送や集金は牛乳と合わせて一括で行うため、お客様に手間がかからないようになっている。現在は、酒販店や米穀店でも実験的に同様の取り組みを展開している。顧客層は、 60~70代の熟年夫婦、 アクティブシニア層が中心。アクティブシニア層は、自分の健康にとって良いもの、効果のあるものを求める傾向が強い。
牛乳宅配店チャネル向けのチラシには、アクティブシニアというターゲットを意識して、月に30品目程度の健康志向食品や地方特産品などの食品を掲載。さらに、毎月チラシ掲載商品の約3分の2を入れ替え、お客様に年間150品目を紹介している。
牛乳宅配店を「健康ステーション」に
同社のサービスを利用するお客様は、食材に対するこだわりが強い。そんな顧客に納得して購入していただくため、同社では、お客様の声の収集には特に力を入れている。そこで、牛乳宅配店の場合は、店のスタッフがお客様とコミュニケーションをとって、お客様の声を収集し、定期的に各店を巡回している同社のスーパーバイザーが回収する。そのほか、プレゼントの応募者にアンケートの協力を依頼したり、購入経験者を毎月1回オフィスに招き、グループインタビューでお客様の声を収集している。
そもそも同社がお客様の声を収集するきっかけになったのは、食べる人と作る人の食材に対する意識が乖離しており、それを埋めるコミュニケーションがなかったことに起因する。生産者が「これが一番おいしい」と思うものと消費者が「おいしい」と思うものの間には、大きなズレがあったのだ。そこで同社は、お客様から寄せられた生の声を生産者に直に伝える。当初は、低い評価が下された時には反発の声が上がるが、こうしたやりとりを繰り返し伝えていくうちに、「収穫のタイミングを少しずらしてみよう」といった具合に、生産者側がマーケティング志向、お客様志向へと意識を変化させていくのだという。つまり、“食べる人と作る人の距離を縮める”のが同社の「御用聞きビジネス」と言える。
例えば、シニア層は、食べ物を残すことを嫌うが、市販されている食品の量は20代、30代に合わせたものがほとんど。同社が仲介役となりシニア層のニーズを生産者に伝え、新しい商品作りに取り組んでいる。実際に、海草・豆類・根菜などが入った具だくさんスープ(150g)を発売したところ好評を得た。まだまだ品揃えは限られているが、今後はシニア層のニーズにフィットする商品を増やしていく予定だ。
また、同社では、中長期計画の一環として、牛乳宅配店と共同で料理教室や健康相談などを行う「健康サービスステーション」を開設する予定である。単に食材を届けるだけではなく、お客様の健康を気遣い、一人ひとりの食のニーズに応える業態を目指す意向だ。
牛乳宅配店経由で配布されるチラシの中身は、シニア層が好む食品を載せている