東京・六本木に店舗を構える(株)マニックパニック東京では、ケータイにポイント機能を持たせて顧客を会員化。街頭配布用のフライヤーにQRコードを掲載してケータイからのアクセス促進を図る。店内でのコミュニケーションでお客様の警戒心を解き、来店数回目の顧客に対してアプローチし、入会を勧めている。
QRコードをつけたフライヤーからスタート
全国5カ所に美容室を展開する(株)マニックパニック東京。同社の母体は、美容・理容店の業務用ヘアケア商品の開発を行う(株)エイレックだ。同社では、ニューヨークで1977年に開発されたヘアカラーリング剤「マニックパニック」の日本進出に当たって業務提携を締結。そのブランド認知・顧客獲得を目的に、2003年、横浜に美容室1号店を開業。その後、大阪、神戸にも出店している。そのうちのひとつ、六本木店では、2004年12月より、ケータイを使った会員制システム「モバイルCRC」をテスト的に導入。会員顧客の来店回数に応じてポイントを付与している。ケータイというツールを使うことで、紙媒体の削減と、低コスト・効率のよい情報提供を実現すると同時に、ポイントシステムにより、来店促進と顧客との関係強化を狙ったものだ。
全国の美容・理容店の総店舗数は35万件と言われており、店舗数は飽和状態。そんな中、新規参入する美容室が顧客を獲得するのは至難の技だ。すでにほかの美容室に通っている顧客を呼び込んで、いかに自社の顧客にしていくか。「美容室の場合、飲食店やアパレルと違って、『今日はA店、明日はB店』といった利用はまずあり得ません。お客様に店を認知していただき、これまで通っていた美容室を差し置いてお越しいただくという初回来店のハードルも、2回、3回と通い続けていただくハードルも、正直、結構高いのです」と、同社マネージャーの斉藤恵一氏は語る。
美容室の認知・集客における一般的な手法としては、雑誌への記事掲載や、フライヤーの街頭配布による集客がある。これと平行して同社では、美容室開店時のオープニング・キャンペーンとして、「200人無料招待」をフックとしたアンケートはがき付きのフライヤーを3万部配布した。結果は、レスポンス率が10%と大成功。顧客をカテゴライズするアンケート結果は、そのまま見込客情報としてデータ化した。
2004年末からは、配布するフライヤーにQRコードを掲載し、ケータイからの会員登録に切り替えた販促活動を展開。現在では、ケータイによる会員登録者には1,000円分のクーポン券をプレゼントしている。
CRMツールとしてケータイの特性をフル活用
ケータイによるポイント制では、ポイントカードの製作コストがかからない上、お客様にも来店時に毎回持参する煩わしさがなくなる。さらに、単なるポイントカードや会員証としてだけでなく、情報配信ツールとしても活用できる。それまで紙媒体に費やしてきた月々30万~50万円のコストが、ケータイではほぼ無料。システム導入のイニシャルコストや月々の使用料を勘案しても、メリットは大きいということだ。
現在は、来店の翌日に、はがきかケータイeメールで、サンキューメールを送っているほか、来店後3カ月を目安に「お迎えメール」を配信。さらに、会員には定期的に「美」に関する情報の提供も行っている。
ターゲットを絞った販促ができるのも魅力だという。「例えば、予約が少ない雨の日に、近隣の人に、『雨の日特別割引』といったeメールも配信できます」(斉藤氏)。タイムリーなアプローチによって稼動率の低下を事前に防ぐことができるというわけだ。
予想以上だった警戒心 ポイント会員化は急がず3、4回目の来店時を目途に
当初、ケータイでのポイント会員化は、予想していたよりも難航したという。「導入当初は、『QRコードって何?』というお客様が大半で、その都度説明する必要がありました。さらに、お客様にとってどこが便利かということは理解できても、ケータイを用いて会員になる、ということ自体に警戒心を持つ人が意外と多かったのです」(斉藤氏)
初回来店時に、お客様に記入いただくアンケートでも、氏名、住所、年齢、プレイスポット、よく読む雑誌、休日の過ごし方などの項目が並ぶ中で、ケータイのeメールアドレスは未記入のケースが多かったという。そこで、ケータイ会員化を初回来店時から勧めるのではなく、まずはお客様との密なコミュニケーションを取ることを心掛け、信頼関係を築いた上で、3回目、4回目の来店時に再アプローチをすることで、徐々に会員を増やしてきた。現在、会員数は約600名。当初の目標の5分の1だが、この1年間で再来店した際は、必ずケータイ会員登録につながると確信している。1度のコンタクト時間が長時間にわたる上、「美」に関する繊細なサービスを提供していることを考えれば、うなずける話だ。
現在、ポイント会員の来店回数に応じて用意している特典は、来店5回目にマイナスイオンスチームを無料サービス、7回目にヘッドスパ・スカルプマッサージ、9回目にトリートメントのスペシャルサービスといった具合。特典はすべて、来店時に“ちょっとうれしい”
気分が味わえるサービスとなっている。
来店時、会員はケータイの液晶画面にQRコードを表示させてリーダーにかざすと、来店回数に応じたサービスを受けることができる
最終目標は“商品開発” 今後10年間で160店舗が目標
日本国内でのブランディングの一環として、お客様とメーカーの距離が最も縮まるのが美容室だとの考えの下、ブランド名を掲げた店舗を展開している同社。ブランド認知度を高めると同時に、現場のスタイリスト(美容師)とお客様とのコミュニケーションを活発化し、日本人のニーズに基づいた商品開発につなげたい、としている。
今後、フランチャイズ店も含めて10年間で160店舗という数字を掲げる。顧客情報を吸い上げるという意味では、直営店もFCも同じ店舗として機能する、と意気込む。
また、「事前に美容室の情報を取りたいお客様に対して、 適切な情報提供が必要。そのために、 サイトを訪れるきっかけづくりをしたい」(斉藤氏)。現在、 インターネットで六本木店の情報を見たという新規顧客は、 1カ月に30~40名程度いると言う。2006年4月には、 Webサイトをリニューアル。ファッション雑誌のモデルと契約し、 各人がブログに、 来店した感想を書くと同時に、同社サイトへのリンクを貼ってもらうかたちでのアフィリエイト・プログラムを稼動させる予定だ。