メルマガ活用でFIT30%を達成 潜在顧客を優良顧客に

マリアナリゾート&スパ

グアム・サイパンにおけるホテル業界では、個人の直接予約客(FIT)が30%を超えると成功、20%で一定の評価を得られると言われている。パッケージツアー客とFITの割合を平均7:3の比率で維持するマリアナリゾート&スパ。背景には、施設利用者の会員化およびそれに伴うeメール・マーケティング戦略がある。

日本・サイパンで同等の研修を行いDB管理を徹底

 30年前、広大な自然と海に囲まれたサイパンの最北端において、ゴルフ場リゾートからスタートした、マリアナリゾート&スパ。現在は、客室数124室のホテルや、アクティビティ、スパなどを擁し、癒しの時間を過ごすことができるリゾート施設として、年間延べ約7万人の宿泊客を迎えている。同社は、パッケージツアー客と個人の直接予約客(FIT)の割合を平均7:3の比率で維持している。
 サイパン旅行者のうち、約70%は日本人旅行客だ。このため、同社は2005年4月の個人情報保護法全面施行に合わせ、2月頃から、日本とサイパンの双方で、お客様からの問い合わせ対応や予約受付における個人情報の取り扱い方法に関する指導・教育を進めてきた。従来は宿泊や施設利用の予約時には、デポジットとしてクレジットカード・ナンバーなどの情報が必要であったが、この4月以降は、最もセンシティブな情報とされるクレジットカード・ナンバーの事前取得を廃止した。
 宿泊記録でもあり顧客情報でもある過去5年分のデータベース(以下、DB)は、東京と現地のシステムで管理している。DBにアクセス可能なPCは、東京は1台のみ。現地では、システムをホテル部門、アクティビティ、旅行などの部門に分け、それにかかわるスタッフ数名のみにIDとパスワードを付与している。記録には、過去の宿泊時に行った特別な手配(お客様の嗜好やお子様の食品アレルギー、車椅子の使用などセンシティブな事柄)を含んでいる。現在、顧客情報は基本的に3年間保管している。
 ツーリズムのトレンドが個人旅行へシフトしている一方で、旅行代理店を介したお客様の場合、同社が得る情報は氏名と宿泊日のみ。このため、何らかのトラブルや忘れ物があった場合にも、ホテルからは原則、お客様本人に直接連絡することができない。そこで、前述の独自の顧客DBを整える一方で、宿泊いただいたお客様との関係構築を目的とし、会員制メールマガジン(以下、メルマガ)とポイントシステムのサービスを展開している。

潜在顧客を会員化しリピーターへと醸成

 同社は、2001年12月に、メールマガジン(以下、メルマガ)「マリスパニュース」の配信を開始した。当時はパッケージツアーのお客様が主流で、個人のお客様はごくわずか。メルマガは、ホテルのスタッフ紹介など、身近なところから開始した。現在の会員登録数は、約8,500人。登録だけで施設を利用したことのない会員もいるが、リピーターの中には年に5、6回の利用者もいると言う。
 会員登録は無料だ。同社Webサイトの登録画面で、必要事項を入力すれば登録は完了。簡単な登録であれば、携帯電話のサイトからでも可能だ。その場合は、後から正式な登録案内が届く仕組みになっている。登録内容は、基本的な氏名・住所・メールアドレスに加え、お誕生日や記念日、サイパンの何に興味があるかをゴルフ、スポーツ、エステなどから複数選択するなど、30近い項目が設けられている。
 会員の募集は、Webサイトでの告知に加え、同ホテルの宿泊客に対して積極的にアプローチしている。ホテルの客室やフロントでのメッセージカードを利用した案内に加え、レストランや客室などのアンケートにお答えいただいた際にもアナウンスしている。また、現地スタッフがお客様と会話する中で、「ベストシーズンは?」「値段が安い時期は?」といった情報をメルマガでお知らせしていることを案内。電話による問い合わせ時も同様だ。こうして、多くの方が登録に至るというわけだ。
 メルマガの内容は次の通り。年に4回、春夏秋冬の季節ごとに特色のある商品や個人向けの宿泊プランを紹介したり、航空券情報や現地のお祭り、カウントダウン・パーティ、ハロウィンやサンクス・ギビング・デイなどのホットなイベント情報を案内している。
 eメールでの問い合わせに関しては、東京はもちろん、現地サイドでも現在までの流れをすべて担当者が閲覧できるようになっている。一方が不在でも、そのまま現地の人間への引き継ぎが可能。問い合わせ・予約のeメールは1日に30~50件を数える。お客様は、問い合わせの時点で旅行へのモチベーションが高まっているので、成約率のアップには迅速な回答が一番。24時間以内をルールに、クイック・レスポンスを推進している。eメールの問い合わせには複雑な内容も多く、これらのやり取りを経たお客様が施設利用などの成約に至る割合は高い。成約に至らないケースは2割程度だという。「施設なのか、客室なのか、食事なのか、サイパンなのか、それはわかりませんが、興味がある事柄についてお問い合わせをいただいた際、丁寧にご案内し、よく知っていただくことで、お客様との距離が縮まり、安心感をもっていただけます。そのため比較的高い確率で成約できています。1回だけのご利用のお客様は、予算ありきの格安旅行を重視される場合が多いですが、再度マリアナを選んでくださるお客様は、何らかの魅力を感じていただいているので、リピーターにつながります」(佐藤氏)
 このように、潜在顧客をアクティブ顧客へ変え、リピートしていただくのが同社の狙いだ。お客様は、事前にメルマガやWebサイトで情報収集した上で、実際にはパッケージツアーを利用する、といった具合に、メディアと実際のサービスをうまく使い分けている。それだけに、FITのお客様には、予約の段階から同ホテルのお客様として対応している。「弊社に直接予約をいただいた時点でホテルのエントランスをノックしているのと同じこと。非常に大事なお客様ですから、サイパンに到着したらホテルのシャトルバスで直接お迎えにあがります。チェックインも一般とは別に設けていますので、客室までのアクセスが非常に迅速です。個人旅行で来たという差別化意識を刺激することと、旅行前からすでにホテルスタッフと接しているという安心感を大切にしています」(伊藤氏)
 チェックアウトした翌日には「ご滞在ありがとうございました」メールを配信。中にアンケートを挿入し、お客様のアドバイスやご意見を今後のサービスの参考としている。中には厳しいコメントもあるが、次回も利用意向があるお客様が今回気になった点として書いていることが多いので、次につながる貴重な声として前向きにとらえている。
 客室数が124室と、ホテルの規模は決して大きくない。このため、経営効率の向上には、会員数よりもリピート率が重要と認識。マリアナのファンを増やすことに注力していくと言う。「季節に応じた料金設定やマーケティング・プランといった技術的な手段はもちろんありますが、ここから先は、いかにお客様とマンツーマンのコミュニケーションができるかが重要だと思っています」(佐藤氏)
 会員化が順調に進み、顧客データ量が増大した現在、その中から優良顧客をブラッシュアップしていく施策を模索中という。同社の今後の施策に注目したい。

スクリーン 1

同社Webサイト。右側に大きくメンバー登録のスペースを設けている


月刊『アイ・エム・プレス』2005年7月号の記事