参加者同士のコミュニティ化を図り商品理解とコアなファンづくりを促進

P&G

2004年秋、他社に先駆けてブログを活用したキャンペーンを展開し、注目を浴びたP&G。同社は日用品・化粧品など多種多様なキャンペーン実績を持つ。今回の取材では、初の試みとして、ブログを活用した洗濯用洗剤「アリエール」の「I (ラブ)困ったさんコンテスト」のキャンペーン企画・運営を担当した、ビーコン コミュニケーションズ(株)のプランナー 渡辺英輝氏にお話を伺った。

キャンペーンの目的とブログの特性が合致

 P&Gでは、2004年9月から12月までの3カ月間、洗濯用洗剤ブランド「アリエール」において、ブログを活用したキャンペーン「I (ラブ)困ったさんコンテスト」を展開、先行事例として注目された。この企画・運営を担当したビーコン コミュニケーションズ(株)インタラクティブストラテジック プランナーの渡辺英輝氏は、「他社のビジネスブログ事例と大きく異なるのは、ブログありきではなく、企画ありきで考えられたものだということです」と明言する。
 そもそも、今回は、販促キャンペーンの企画段階で、アリエールのTVCMで起用していた原田泰三(ネプチューン)扮する、家事の手間を増やす「困ったさん」というキャラクターを使って、もう一歩先の商品理解を促進するにはどうしたらいいか、という課題からスタートした。「いるいる」と消費者に一番共感してもらえるのは、やはり隣の家の人、一般の人の話。ただ、いわゆる投稿型コンテストや川柳といった応募型のキャンペーンはありふれている。そこで、一般消費者から募集した我が家の「困ったさん」エピソードを、寄せられたものからどんどん(ブログ)サイトに公開していき、それを読んだ一般の方の投票で大賞を決める、というアイデアを出したのだ。
 これまでの投稿型キャンペーンでは、例えば1万通の応募があっても、募集期間終了後に、受賞した数作品しか公表されないのが当たり前だった。今回のキャンペーンでは、ブログを活用し、より多数の応募作品を公開することにより、サイト訪問者が気に入った作品に投票したり、ブログを持っている人はトラックバックを通してキャンペーンに参加できる仕組みを作った。
 ブログ活用の利点は大きく2つ。ひとつは、低コストで、簡単に日々の投稿内容を更新できること。Movable Type(以下、MT)のCMS(Content Management System)を導入することにより、コンテンツ更新がスピーディーかつ低コストで実現できる。MT以前のCMSでは、導入だけで500万~1,000万円かかっていたことと比べると画期的だ。
 もうひとつは、消費者が投票というかたちで参加できること。これにより、参加者のコミュニティ性を持たせることができる。また、トラックバックされればリンク先(=入り口)が増え、ひとつリンクが増えれば、さらにリンク先を訪れる人も同社のブログサイトを知る。トラックバックによって自動的に口コミが発生する要素があり、トラックバックが増えれば増えるほどアクセス数も増える。さらに、投稿作品をトラックバックした先に投稿者が行ってコメントを書くなど、参加者同士の自発的なコミュニケーションが続いていくのだ。それらは透明性のあるものだから、一般の掲示板と違って荒れにくい。「ブログでなければありえない、まったく新しい消費者参加型キャンペーンを仕掛けることができました」と渡辺氏は言う。

量より質のコミュニケーションでサイトを演出し、商品理解を促進

 P&Gでは、投稿された中から良い作品を毎日5通ずつブログにアップ。一番トラックバックの多い作品、投票数の多い作品、P&Gの選考による作品の3つを大賞として発表。①受賞者には中国旅行を、②投稿し、サイトで発表された方にアリエールのサンプルを、③投票のかたちで参加した方の中から50名にアリエール半年分をプレゼントした。
 運営に当たっては、サイト内の演出が重要だったと同氏。家事、洗濯がテーマであったため、投稿内容がワンパターンになってしまうのではないかという懸念があったと言う。そこで、サイト上に「アリ夫さんとエル子さん」というキャラクターを登場させ、投稿作品に対し、漫才のボケとツッコミのような会話文を載せて面白さを演出した。「当然、その先には『洗剤には除菌力が必要』という製品のメッセージが秘められていました。アリエールの商品特性を会話文に組み込んだり、面白い投稿を4コママンガに仕立てて紹介したりと、随所に製品説明を織り込む工夫をしました」(渡辺氏)
 結果として、量・質ともに、予想以上に面白いエピソードが多数寄せられ、その効果は、トラックバックの内容にも表れた。「アリエールはこういうことをやっていて、商品の特徴はこうで・・・」という、今まで企業が一方的に流していたメッセージを、生活者が自身のブログに自分の言葉で書いていたのだ。トラックバックをたどっていくと、商品の理解が絶対的に上がったことを実感したり、コアなファンを見つけることができたという。

3カ月間ほぼ毎日投稿作品を更新

 最終的に、キャンペーン期間中に寄せられた、eメールやハガキの総投稿数は約2,500を数えた。うち、ほぼ毎日5通ずつの更新で300作品を公開。投稿型キャンペーンはもともと応募のハードルが高いため、数字だけを見ると、いわゆる応募するだけのキャンペーンとは比較にならないほど少ないが、量ではなく質を重視した今回のキャンペーンとしては充分だという。その証拠に、期間中、投稿作品数が増減することなく、一定量が寄せられていた。
 アクセス数・PVは未公表。「大企業が仕掛けた日本における最初の事例」と話題になったこともあり、2004年9月のオープン直後にかなり多くのアクセスがあった。その後も、ニュース掲載やトラックバックに影響された波はあったが、全体的には、毎日更新することでリピーターの再訪も得られ、10月半ば以降のアクセス数にも大幅な低下はなかった。
 トラックバックは一般の投稿内容に対してなされるので、仕掛ける側がコントロールできる類のものでもない。そのため、当初は、トラックバックは評価基準に入っておらず、投票による評価のみ考えられていたが、トラックバックもひとつの指数と見なした。というのも、当時、ブログを使っている人たちというのは、主婦層の中でもある種のオピニオン・リーダーだった。彼女たちのブログサイトから、トラックバック経由でサイトを訪れるケースが多かったのだという。
 今回のキャンぺーンでさまざまな知見が得られたという同氏は、キャンペーン終了当時と今を比べて、ブログの認知も利用者数もだいぶ違うと見ている。「今や、ブログは誰でも簡単に始められます。だからこそ、続けていくためには内容勝負です。ブログに何を書いていくかが一番重要」(渡辺氏)。特にマーケティングに使う場合は、目的を明確にしたプランニングとそれにあったツールを選ぶことが重要だと指摘する。ブログを活用した次なるマーケティング施策に期待したい。

P&G-2

「I 困ったさんコンテスト」トップページ。
3カ月間で投稿数2,490、投票数は1,090を超えた


月刊『アイ・エム・プレス』2005年5月号の記事