ブランド・プロモーションと社内における意識改革に活用

(株)三陽商会

総合アパレルメーカーの(株)三陽商会は、ITの活用が遅れているアパレル業界の中で、競合他社に先駆けてブログを投入。新ブランド「SmackyGlam(スマッキーグラム)」のプロモーションに活用するとともに、新ブランドの共感ユーザーを巻き込んだコミュニティ作りにも役立てている。さらに、ブログサイトを立ち上げた狙いには、Webサイトは更新しにくいという固定観念を払拭する意味も含まれており、社内の意識改革につなげていく意向だ。

アパレル業界でのファースト・ムーバーになる

 2003年に創立60年を迎えた(株)三陽商会は、日本を代表する総合アパレルメーカーの1社だ。同社は、1970年にバーバリー社とライセンス契約し、「バーバリー」 を発売。そのほかにも、「エポカ」「ポール・スチュアート」「フラジール」「K・オブ・クリツィア」「アレグリ」など数多くの婦人・紳士ブランドで知られている。
 同社では、2004年の夏から、新ブランドの展開を強化している。同年8月にはスポーツとカジュアルを融合したメンズブランド「スポーツトレイン」、2005年2月には20~25歳の女性をターゲットにした新ブランド「スマッキーグラム」をファッションビルという同社にとっては新しい販路に投入した。同じく2月に、メンズブランド「エポカ ウォモ」を、秋には百貨店販路の婦人ブランドを投入すべく進行中である。
 こうした中で、2005年2月14日に、同社は新ブランド「スマッキーグラム」のブログサイトを開設した。このブログサイトを立ち上げた、同社経営統括本部広報室担当課長の重信修氏によると、半年前からマーケティングにおけるブログ活用の可能性を探っていたという。しかし、その段階ではブログ機能を活かしきれるブランドを自社では持ち合わせていなかった。その後、新ブランド「スマッキーグラム」の概要がわかるに従って、ブログとの親和性の高さに注目。折りしも、ブランド・プロジェクト部隊にも、インターネットを使って新しいことを仕掛けてみたいという意見が上がり、ブログを活用してみることになった。
 同社ではブログの活用には、①未知の顧客に対して、ブランドの認知度を向上することができる、②( 「スマッキーグラム」は口コミで広がるブランドという認識のもと)共感ユーザーへの継続的な情報発信源に成り得る、③企画者と生活者の距離を近付ける、という3つのメリットがあると判断。そのほか、Movable Typeという既存のブログシステムを使うことで、これまでのWebサイト制作コストを削減し、これをデザインに振り向けることができたという。
 アパレル業界は、生活者への情報発信にとかく消極的で、新しい仕組みの導入にも遅れを取りがち。そこで同社では、ファースト・ムーバー(先制企業)になれるチャンスがあると考えたのだ。

共感ユーザーを意識したコンテンツを設ける

 「スマッキーグラム」のブログサイトには、「Updates! Smackyglam」「今月のイチオシ★」「マリトエリのセレブ道」「Shop Staff’s Voice」「Smack! Episode」「Brand Story」の6つのコンテンツがある。その中の「マリトエリのセレブ道」は、「スマッキーグラム」の対象になる20代前半の女性2人によるブログだ。これは、スマッキーグラム世代の彼女たちが、おしゃれや美容、エステなど、「スマッキーグラム」の共感ユーザーの生活観を書き綴ったエッセーというコンセプトである。
 「Updates! Smackyglam」については、ブランド自体が2月下旬に発売されたばかりであり、また、ファッションビルに出店していることから、オープニング・イベントとしての雑誌とタイアップしたイベント情報がほとんどだった。ただ、4月8日には春期の出店計画(12店舗)もひと段落着いて、次は秋以降になる。今後は、「今月のイチオシ★」を活用して商品紹介を行うほか、店長やスタッフのお勧め、お客様とのコミュニケーションにも使える「Shop Staff’s Voice」に注力する予定だ。同社が「Shop Staff’s Voice」を意識するのは、ブログ活用の目的は新ブランドのプロモーションにあるが、ブログを通じた共感ユーザーとのコミュニティ形成も不可欠だととらえているからだ。ここでのポイントは、店舗スタッフによるブログへの能動的な書き込み。これがなければ、コミュニティは作れないと見ている。
 「スマッキーグラム」のブログサイトを開設して約2カ月になるが、ユーザーの反応はどうなのか。ブログサイトのPVやアクセス数は、立ち上げ当初は、予想をはるかに上回ったものの、ここにきて落ち着いてきたという。「予想していたことですが、今後アクセス数を伸ばすためには、書き込む記事の内容にコミュニティ性を持たせなければいけないと思っています。また、現在はお客様の手元にようやく商品が届いたばかり。商品やショップがどう評価されるかによって、ブログの盛り上がり方も違ってくるでしょう」と、重信氏は期待する。現在、同社では、ユーザーの間口を広げるため、ブログを通じていろいろな情報を流している段階だ。

インフォメーション・ブログを作成し情報の更新頻度を高める

 また、「スマッキーグラム」のサイトをブログで立ち上げたのには、社外に対してだけではなく、社内に対しても、大きなメリットがあるという。重信氏によれば、社内のスタッフが抱いているWebサイトは更新しにくいものだという固定観念を、ブログによって変えることができると見ているからだ。
 「スマッキーグラム」のサイトを通じて、ブログの仕組みを知ってもらい、社員すべてに簡単だということがわかれば、情報発信に対する反応も違ってくる。重信氏は、「企画スタッフなどが持っている情報をどんどんサイト上にアップしていけば、必ず良いサイトになっていくはずです。その結果、ユーザーが一番のメリットを享受できる」と自信を覗かせる。最終的には、各ブランドの企画担当者に、ブログの更新にかかわる管理を任せる意向だ。それは、企画スタッフ自らが発した情報をもとに、ユーザーの反応を確かめながら、さまざまなマーケティングを試みることができると考えているからである。
 そこで同社では、第2段として会社全体のインフォメーションをブログで展開する。目的は、コミュニティの形成ではなく、あくまで情報の更新頻度を早くすることにある。これにより、サイトを持っているブランドはサイトの更新情報を、サイトを持っていないブランドはお客様に提供できなかった情報を、それぞれ新しい順番でブログに掲載できるというメリットが生まれる。「各ブランドの新作が店頭に並ぶ頃に情報を発信できるので、お客様にとって大きなメリットになると思います」(重信氏)。これまで以上に、ブランドのプロモーション展開がスムーズに図れるに違いないと言えるだろう。
 ITの活用が遅れているアパレル業界の中で、同社のブログを活用したチャレンジが新ブランドの成長にどのように寄与するのか、今後の動向に注目していきたい。

三陽商会 2

「SmackyGlam(スマッキーグラム)」のブログサイト。コンテンツのひとつ「マリトエリのセレブ道」は、スマッキーグラムの共感ユーザーのコミュニティ作りに一役買っている


月刊『アイ・エム・プレス』2005年5月号の記事