通信教育業界の最大手である(株)ベネッセコーポレーション。同社の事業で最も認知の高い「進研ゼミ」では、児童・生徒たちの学習スタイルに合わせてDMキャンペーンを展開。それぞれにさまざまなアイデアを駆使して、レスポンス向上に努めている。継続ビジネスであり、自発的学習に向けての刺激の与え方がポイントとなるDMキャンペーンの事例を取材した。
高いレスポンスを予測したDM展開
(株)ベネッセコーポレーションの2004年度3月期グループ連結売上高は2,601億円。このうちの63.3%(1,648億円)を占めるのが同社のビジネスの中核となる教育事業だ。中でも最も認知度の高いブランド「進研ゼミ」では、通信教育の最大手として、長年にわたって蓄積した豊富なノウハウを強みにマーケティング活動を推進している。
PC、インターネットの普及に伴うデジタル環境の浸透により、子どもの学習環境は確実に変化している。同社では早くからこうした傾向に合わせて“ブランドと顧客”“全体と個”“アナログとデジタル”などハイブリッドな視点によって顧客をより細分化・セグメント化し、それぞれに最適な販促活動を展開してきた。同社の広告戦略は、まず、テレビ、新聞などのマスメディアで主に保護者に向けて商品の認知・浸透を図り、追ってパーソナルなメディアであるDMを学習者本人に向けて送付するというものだ。
キャンペーン展開には、大きく新規顧客開発と継続促進の2つがある。見込客向けのDM対象は、同社が構築した独自の見込客リストだ。アンケート調査結果やDB分析の結果から細かくセグメンテーションし、レスポンスの予測を立てた上で発信している。DMのクリエイティブは、小学2年生以降は保護者向けから本人向けの傾向が強くなる。実際の学習は紙テキストが基本であることを踏まえ、通信教育ならではの「本人のやる気向上」と「保護者の理解促進」のバランスを常に意識しつつ、基本の商品そのものと販売促進するメディアにズレが生じないよう配慮している、と言う。また、DMは、パンフレットなどの販促物はもちろん、紙教材のサンプルやCD-ROMを直接送付することができる訴求力の高いメディアと位置付けられている。
入会促進目的のDM事例
進研ゼミのDM制作は、小学・中学・高校とも、1学年ごとに細分化された販促チームが担っている。学年によって学習の動機付けが働く時期が違うため、学習の進行度、進学・進級準備・受験などのタイミングに合わせてきめ細かい「問題解決」型のキャンペーンを展開するためだ。
今回は、小学3年生冬、新中学1年生(小学6年生冬)、高校1、2年生秋の新規顧客開発キャンペーン事例を紹介しよう。
12月初めより展開した新学期(1月)入会促進キャンペーンでは、小学3年生の男女別に、アニメやイラストを多用した2種類のDMを用意。フックとして、申し込みした場合のみ入手できる、漢字や計算のおさらいができる付録教材を入れるバッグを同封している。こうしたフックには過去のテスト・マーケティングの結果が活かされている。昨年、バッグ同梱の有無でコンペア調査をしたところ、レスポンス率にかなりの違いがあったのだという。最も神経を使うのは、同封物のバランスと内容の子細さ。「保護者に向けた案内物と子どもに向けた販促物のバランスが難しい。意志決定の文脈をいかにして作るか、が重要であり難しいところ」(松澤氏)。
小学6年生対象のキャンペーンでは、1月入会向けの「中学準備講座」の案内を送付。中学講座では、競合となるのは学習塾。クラブ活動との両立や、定期テスト・受験に向けた学習環境を整えることを意識し、多忙な中学生活の中で「続けるための」教材としての理解促進に配慮したDM制作を心掛けている。同封内容は、1~3月の3カ月間に届ける教材すべての一覧と教材の縮小版、中学英文法学習ソフトのお試し版CDROM。学習教材内容の理解促進を優先させた構成となっている。教材には、3年前から「総合」と「発展」の2コース制を導入。両者の縮小版を体験してもらうことでレベルをはかり、申し込みに当たって最適なコースが選択できるよう工夫している。CD-ROMには、前述の勉強コンテンツ以外にも、中学事情の映像による紹介や、進研ゼミ以外の同社商品の紹介を入れたクロスセリングを試行したりしている。まだ経験しない新生活を想像させ、意欲を刺激するのに有効だ。DM送付時のCD-ROMの活用は、5、6年前からテストを開始し、1年ほど前から頻繁に行っている。これは首都圏や主要都市などでPC所有率が9割、という調査結果を踏まえたものだ。
高校講座でほかの講座と大きく違うのは、大学別に専用コースを設けた大学受験対策教材であるということだ。ある大学へ入学希望かどうかを見極める目的で、まずインセンティブとして、DMで「A大学専用コースの無料テキスト送付」の案内を行う。レスポンスの結果からA大学入学希望者を特定し、彼らへの2度目のアプローチで、お試しテキストとともに入会案内を送付する、という流れだ。小学・中学生時代に受講していて中止した方への再入会を促す好機会であるため、大学入学の有無を早期に見極め、さらに希望大学別に受講者を細分化する目的がある。また、実際の紙教材を見本PDFのかたちでパソコンWebで見ることができたり、DM同封物に印刷されたQRコードから直接資料請求ができたりと、デジタルメディアへの導線を豊富に用意し、テキスト請求へのハードルを下げる工夫もしている。
(上から)小学3年、小学6年、高校1年生へのDM送付物。低学年は特に、冊子小包の特長を最大限に活かして付録を充実させている
細分化した教材を適切なターゲットへ
同社では、商品制作チームと販促チームとが同じ事業部に属しているため、DM制作に当たっては相互の連携を密にすると同時に、プレ調査や顧客へのヒヤリングを頻繁に行っている。同様に、市場の変化にいちはやく対応するため、個々のキャンペーンの反応を送付のタイミングごとに計測。ひとつのキャンペーンでも、送付のタイミングが1週間違う場合は1回目と2回目で送付内容を変えるなど、微細な調整をかけている。少子化が進行する中、同社では、商品・サービスの充実にますます注力していく必要があると認識している。売り手の論理先行ではなく、刻々と変化するニーズを捕えていくためには、余暇の過ごし方の変化、あるいはインターネットの普及や多チャンネル化などを踏まえて、今までと違うプロモーションを常にテストしていく必要があると考えている。その中で、DMがもつ訴求力を活かしつつ、紙媒体で伝えられないものを伝えるために、いかにWebとのメディアミックスを図るかが当面の課題だ。同社HPのPVはここ3、4年で飛躍的な伸びを見せており、6年前から受け付けているWebからの入会も、次第に比率が高まってきている。とはいえ、同社では、現在の数値にはまだ満足していない。一方、高校生の携帯保有率は約9割に達しているという調査結果もある。携帯メールへのアクションも今後視野に入れつつ、さまざまな導線を育てていきたいとしている。