コンタクト・ポイントを強化しお付き合いに向けてリテンション・プラスを追求

ボーダフォン(株)

2003年10月、J-フォンからボーダフォンへ社名変更後、加入者数は徐々に増え、3月に1,500万件を超えた。ボーダフォングループとしては、現在、26カ国、3億5,360万件以上の加入者数を持つ。グローバル企業としてのブランド・バリューを活かした同社の顧客生涯価値向上への取り組みを追った。

サービス内容とターゲット層とのマッチングが重要

 ボーダフォン(株)は、2003年10月1日に「J -フォン」から「ボーダフォン」にブランド名を変え、あわせてサービス名も変更。J-フォン時代のサービスには、地域によって利用できないものもあったが、これを機に、全国統一のサービスとして再構成した。
 例えば、毎月のボーダフォン利用料金に応じてポイントがたまり、たまったポイントで機種変更(ポイントアップグレード)や付属品の交換ができる「ボーダフォンマイレージサービス」。故障、紛失などの際の割引特典がある、月会費300円の有料サービス「ボーダフォンアフターサービス」。また、パケット通信料が最大5分の1になる「ハッピーパケット」や、土・日・祝日のボーダフォン携帯同士の通話料が、1通話あたり5分を越えるとその後の通話料が30分間無料になる「ハッピータイム2」と、新サービスを次々と打ち出している。
 これらのサービスは、いずれも、何らかの形での経済的メリットを顧客に保証するものだが、同社が目指しているのは、単に一時の利用金額や頻度をアップすることではない。現在の利用者がボーダフォンのファンになり、長く利用していただくことでトータルな顧客価値を高めていくことが狙いだ。
 サービスの内容とターゲット・グループをマッチングさせ、効率よく売り上げにつなげていくためには、データの蓄積が不可欠。ボーダフォンとしての1年目は、ショップやカスタマーサービスセンターといったコンタクト・ポイントを増やして顧客情報の収集を促進し、細かいセグメンテーションが可能な顧客データベースを整備。同時に、テクニカルサポートのためのナレッジ・ベースを構築することに注力してきた。

セグメント別プロモーション「リテンション・プラス」を展開

 同社では、ユーザーの使用状況やライフスタイルによってセグメンテーションの明確化を図っている。カスタマーサービスセンターでは、各セグメントをベースにお客様ニーズに沿った新サービス・新商品を案内し、「より便利に」「より多く」「より長く」使っていただくための底上げを図る役割を担っている。
 同センターの業務は、大きく4つある。問い合わせ窓口としてのインバウンド業務、ショップに来店したお客様の端末開通までのオペレーション業務、料金確認業務、テレセールスとしてのアウトバウンド業務だ。同社では、インバウンド時、アウトバウンド時ともに、お客様のセグメントや利用期間などの顧客情報に基づき、ニーズに合った機種、プライスプラン、家族割引など、プラスアルファとなるサービスを案内している。同社ではこれを、継続率を高めるOne to One施策「リテンション・プラス」と呼ぶ。
 どういうセグメントのお客様にどのようなサービスを勧め、その結果、何割の方が契約したのかといったプロモーション履歴を蓄積。次のアプローチ方法やセールストークに生かされる。これは毎回が、“try and error”の繰り返しだという。
 アウトバウンドでは、現在利用しているプランへの要望をデータとして蓄積。ここから傾向を分析し、提供するサービスの内容を変更していくのだ。
 お客様の要望は、同じ言葉でも意味するところのニュアンスがどんどん変わっていくことがある、という。「お客様の微妙なニュアンスの変化を把握していかないと、お客様と弊社との距離は埋められないばかりかどんどん離れていってしまいます。アウトバウンドのスタッフを定期的に集め、例えばAプランに対しての現在の説明では納得感が少なくなっている、という意見が出れば、その都度トーク・スクリプトをニーズにマッチさせるよう変えています」(佐伯美奈子氏)
 また、解約の危険性が高い場合、どれだけ早くその兆候をキャッチして、解約を阻止するようなサービスを提供していくか。利用金額などの細かい指数の組み合わせをもとにアプローチの方向を決め、それによって解約率が何割下がったかをフィードバックしている。その際、お客様へコンタクトをとるタイミング、案内する内容の鮮度に配慮しているという。
 こうしたノウハウは、CRMの成功事例やトレンドをグローバルで把握できる同社の強みと佐伯氏は言う。

「4つのパッション」を掲げグローバル企業としての強みを発揮

 「最近では、まずは弊社のホームページを訪れて情報収集するお客様が増えている上、求める情報内容もより専門的になってきています」(佐伯氏)。このため同社では、お客様の知りたいことにピンポイントで答えられるようにFAQの作り方を工夫している。「アンケートでは、『特別なことはそれほど期待していない』と言われるのですが、お客様の当たり前のレベルが高度になってきています」(佐伯氏)

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同社Webサイト内のFAQページ。どの地域からの問い合わせかがわかるようになっている

 「常にお客様に感動していただけるかを行動の価値基準、意思決定の基準とする」というルールを敷くと同時に、スタッフにどれだけ権限委譲できるかが課題と考える同社では、資格認定制度を設けて、より専門的なサービスの知識や対応スキルの向上に努めている。これは、顧客満足度調査の結果から、満足度形成の要因として、サービスの内容よりも、スタッフの対応の方がポイントが高いということがわかったからだ。
 カスタマーサービスセンターとショップでは、お客様のニーズも異なる。部長以上の社員がセンターやショップの現場へ出向き、そこでは何が求められているのか、実際に接客をしながら各自が顧客との接点を見出していくプログラムも持っている。
 お客様の声は、セグメントごと、課題ごとに分類し、タイムリーに社内に発信、部署別に閲覧できる仕組みとなっている。また好事例をフィードバックし、社内ナレッジの共有に努めている。課題は、誰が声のプロセスの進捗管理をし、責任を持ってフォローアップしていくかだという。「集まる声の中には、中・長期的な取り組みが必要な事柄もあり、結果がすぐに見えづらいです。でもこれが基本的に解決しないと、次のステップに進むことはできないのです」(佐伯氏)。
 移動体通信のグローバルリーダーとして、「お客さまへの情熱」「従業員への情熱」「成果への情熱」「私たちを取り巻く社会への情熱」という「4つのパッション」を掲げるボーダフォングループ。お客様満足度の追求の次のステップとなる今後の施策に注目したい。

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「4つのパッション」お客さまへの情熱、従業員への情熱、成果への情熱、私たちを取り巻く社会への情熱


月刊『アイ・エム・プレス』2004年10月号の記事