日本を代表する国際的ホテルでありながら「親切と和」の精神を大切に、変わらぬ“一流のホスピタリティ”でお客様に応えているホテルオークラ。優良顧客向けクラブと、顧客サービスの実態を追った。
オークラクラブ発足から41年 全世界で20万人のクラブ会員を保有
1962年の開業以来、IMF総会や各国首脳の宿泊受け入れなど、歴史の一場面を支えてきた(株)ホテルオークラ東京。また、グループ企業のオークラホテルズ&リゾーツは、国内18カ所、海外7カ所に広がる。
同ホテルでは、お客様にオークラを良く知っていただき、足を運んでいただきたいとの思いから、開業の翌年である1963年に、オークラクラブ「The Customer」を発足した。現在、国内のオークラクラブ(OC)が約14万5,000人、海外のオークラクラブ・インターナショナル(OCI)が約5万5,000人の会員を有している。同クラブは、成人であれば誰でも入会でき、年会費・入会金は無料。これには、まずはオークラに親しみを感じていただき、ファースト・コンタクトのきっかけをつくるという狙いがある。
OC会員向けのサービスとしては、ポイント制度や優待料金での宿泊および優先予約などの特典を設けている。ポイントはホテル内のギフトサロンで交換することが可能だ。また今年8月には、アメリカンエクスプレスカードと提携。クラブ会員が入会の際は、同カードの年会費が、初年度は無料、翌年から半額になる。
3年以内に宿泊いただいたOC会員には、会報誌「いちょう」(月刊)をお届けしている。会報誌の内容は、レストランの季節限定メニューや海外旅行ツアー、後述する文化イベントなどの案内だ。
同ホテルでは、OC・OCI会員のうち1年間で1度でも利用実績のあった顧客を「アクティブ」会員と定義している。現在、アクティブ会員は約5万人。顧客データには、購読する新聞、禁煙・喫煙の別、味の好み、食事の際最初に何を飲むか、宿泊する客室の指定の有無、低層階が好きか高層階が好きか、本館・別館の好みなど細かいリクエストもすべて履歴として蓄積されている。また、特に宿泊頻度の高いお客様には、お預かりしている荷物を客室へ入れておく、到着時の客室の温度などの対応も手抜かりない。
ほかのホテルと比べて、同ホテルはスイートルームの数が多い。この特長を活かして、OC会員に限らず、宿泊いただくすべてのお客様を対象に、5回宿泊いただくごとに、次の宿泊時にスイートルームに宿泊いただけるアップグレードサービスを実施している。
長年の経験を活かし「オークラ・ブランド」の文化活動を推進
同ホテルでは、ホテル単体としては珍しく、さまざまな芸術文化事業を展開している。
毎年、ゴールデンウィークに平安の間で開催する、「10カ国大使婦人のガーデニング展」は今年で5回目。8月に開催したチャリティーイベント「アート・コレクション展」は今年で10回目を迎えた。最初は、企業が収集した作品に限られていたが、経験と知名度の高まりにつれ、美術館や個人収蔵の作品を借りて展覧会を開催できるまでになった。1996年には「ホテルオークラ音楽賞」を設け、将来を嘱望される若手音楽家を奨励している。また、4年に1度開催している「サントリーホールで第九を歌う」というイベントには、今年4月の告知直後に応募が殺到した程の人気だ。
一方で、運営に関する苦労は尽きない。文化イベントでは社会貢献を追求しているため、収益は二の次。しかし、開催の波及効果やブランド・イメージのプラス効果には、数字では計り知れないものがある。ホテルに足を運んでいただくことを通して、お客様の安心感を醸成しているという。
「ホテルは人の集まるところです。泊まる、食事をする、ということに加え、絵や音楽などを楽しんでいただける場を人々に提供するのも役割のひとつだと思っています。そして、イベントは一度きりで終わらせず繰り返し行い、次の開催でより良いものをお客様に提供する。ホテルの宴会場を美術館さながらの展示スペースとして利用する、展覧会の運営ノウハウを持っているのがオークラの強みであり、歴史だと思っています。」(服部崇氏)。ホテルオークラには、メセナという形でお客様に還元する土壌が脈々と流れている。
毎年2フロアずつリニューアル 常に最高・最先端の設備を提供
同ホテルの企業理念は、創業以来変わらず、Accomodation(施設)・Cuisine(料理)・Service(サービス)の「ベストA.C.S」。施設の面でもメニューの面でも、ニーズをとらえ、お客様に常に新しい部分を感じていただく努力を続けている。
客室は、毎年2フロアずつリニューアルしている。また、今年2月にフレンチレストランの規模を半分に縮小し、残り半分のスペースに、シガーバーも備えたワインダイニング、「バロンオークラ」を新たに開店。9月1日には中国料理『桃花林』をリニューアルオープンした。
この9月からは、すべての客室においてビデオ・オン・デマンドを整備。従来のぺイ型の映画番組ではなく、ストリーミング技術によりビデオのように好きな時間に映画を楽しむことができるようになった。同時に、インターネット環境を整備。テレビ画面をモニターにし、ワイヤレスのキーボードを使って、簡単なインターネット検索などができるようになっている。
同ホテルの宿泊客の約45%は海外からのお客様だ。そのうち、約半数がOCI会員。時差に悩むお客様には、朝と夜の食事内容を考慮したメニューや、ジムでの運動、室内光の調節で体内時計がスムーズに移行するようなジェットラグプランを提供している。また、チェックアウト時には、成田空港までのリムジンバスやハイヤーの手配に加え、成田のフライト・インフォメーションをインターネットでその場で確認。オンタイムで出発できるか、現時点でのディレイが決定しているなどの状況によって、チェックアウトを延ばしたり、先に食事を済ませることをお勧めするなど、お客様が時間を有効に使えるよう提案している。
9月1日にリニューアル・オープンした「桃花林」の個室。特別にしつらえた家具と清朝時代の調度品が美しい。右は、ホテルオークラのシンボルがデザインされたオークラクラブの会報誌「いちょう」。
すべてはお客様の“ハッピー”のために
同ホテルでは、ウェディング用、宿泊用、レストラン用の3種類のアンケートを用意し、お客様の声を積極的に収集している。宛先はすべて総支配人となっており、何が起こっているかをまず総支配人が把握し、次に担当部署へ情報が伝えられる仕組みとなっている。
カスタマー・サティスファクションという言葉があるが、お客様の要望を満足させるという姿勢よりも、来ていただいた方が幸せな気持ちになる、「ゲスト・ハッピー」なホテルでありたいと服部氏は言う。「 『歩み入る人にやすらぎを 去り行く人にしはわせを』。ドイツのシュピタール門に書いてあるこの言葉を、故・川端康成氏が『オークラはこういうホテルだね』と、色紙に書いて贈呈してくださいました。今でも役員室に飾っているこの言葉のようなホテルでありたい、と常に思っています」(服部氏)。
オークラにとって、サービスとは、特別なことではない、という。当たり前のことを当たり前にやる。常識に則した基本が大事であり、お客様一人ひとりに応えるオークラならではのサービスを、今後も心がけていく。