顧客との関係を深めつつ時代の変化に応じた施策を打ち出す

(株)ヤマグチ

東京・町田は量販店が林立する家電量販店の激選区。ここで、地域に密着した商売を続け、量販店と肩を並べる電器店がある。それが「でんかのヤマグチ」だ。顧客データに基づき、科学的かつきめ細かなマーケティングを展開していることが繁盛店の秘訣である。

創業時からのモットーは「私たちでできることは何でもします」

 JR横浜線と私鉄の小田急線が交差する東京・町田市は、隣接する神奈川県相模原市を含めて、以前から商業の激戦区と言われてきた。家電においても、数年前からコジマ、ヤマダ電機といった大手量販店が進出し、いわゆる昔ながらの“町の電器屋”はどんどん減ってきている。しかし、そうした状況をものともせず、顧客志向に徹した商売を続けることで地域の顧客をガッチリつかんでいる家電店が「でんかのヤマグチ」だ。
 創業は1965年。松下系列の会社で修理の仕事をしていた山口勉社長が23歳の時に独立して開いた店である。創業時からのモットーは「地域のお客さまのために、私たちでできることは何でもします」。電球1個でも気軽に届け、どんな小さな修理でも引き受ける。実は、こうしたことはかつてはどこの電器屋でもやっていたのだが、効率の名のもとにどんどん切り捨てられてきたことなのだ。それを同社では40年近く変わることなく、「お客さまのかゆいところに手が届くサービス」を提供し続けてきた。その結果、顧客との強い人間関係を創り上げた同社には、価格訴求を旗印にする量販店にも負けず劣らない、地域になくてはならない存在となっているのである。

3万世帯の顧客データを半分に絞り込む

 量販店が進出を始めた約9年前、さすがに業績はダウンした。その対策として、いろいろと考えた挙句、当時顧客データとして管理していた約3万世帯を思い切って半分に絞り込んだ。
 「『競合、特に量販店に対抗するには、少しでも顧客を増やそうとするのが普通だろう』とよく言われたものです。しかし私の考えはまったく逆で、お客様との絆をもっと強くするために、あえて絞り込むことにしたのです」と山口社長は当時を振り返る。
 そこでまず、過去5年以内の累計購入額が1万円未満の顧客をリストから外し、残った顧客を下表のように、累計買上額と最新購入時期とによって9分割した。そして、A1・B1・C1の顧客は最低でも月1回、A2・B2の顧客は2カ月に1回は必ず訪問し、それ以外の顧客にはDMのみ、というように基本的な対応の仕方を決めたのである。

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 当然のことながら、営業担当者が訪問する頻度は高くなり、山口社長の目論見通り、顧客との関係はより強固なものになっていった。そのひとつの証拠として、2004年6月30日現在、同社のハイビジョンテレビの総販売台数は6,163台。これは単店では日本一だという。

毎週土・日のミニイベントが販促策のベース

 同店で最も注目されるのは、毎週土・日に行われているミニイベントだろう。その内容は、DMに招待状を同封し、それを持って来店した顧客にプレゼントを進呈するというもの。プレゼントするのはすべて食べ物で、26年間も続けられている。たまたま北海道の男爵いもが大量に手に入ったので、店頭で食べてもらいながらプレゼントをしたことがこのイベントを始めるキッカケだった。販促目的ではなく、顧客への感謝の気持ちで実施したのだが、このとき思いのほかに商品が売れた。「お客様に喜んでもらえることをすれば、結局、業績に結び付くということをあらためて実感した」(山口社長)ことで、次第に定例化させていったのだ。その後もプレゼントを食べ物にしたのは、やはり最初のときに、「電気屋でジャガイモをもらった」という意外性が顧客に大きなインパクトを与えたからだ。
 その後、顧客データデースが整備されたことで、このミニイベントは販促における中心的存在となっていった。先に挙げた9分割表や、営業担当者のテリトリーに基づき、DM送付先をその都度セグメンテーションして、営業と連動させている。

顧客のために 自分の都合を優先しない

 以上のように同社では、顧客との関係作りを最も大切にして、手間ひまを惜しまない商売を続けている。例えば修理に関しても、購入店やメーカーを問わずに対応しているが、このことはすでに広く浸透しているだけに、より効果的に感動を与えるには、顧客の心理を読んだちょっとした演出も必要になる。
 例えば、「冷蔵庫の冷凍室部分の調子が悪くて氷が作れない」との電話が入ったとき、修理のスタッフがすぐに飛んで行っても当たり前のこととして受け取られてしまう。そうしたときは、まず担当の営業が氷を持ってひと足先に出向く。そして、「すぐに修理の者が来ますが、とりあえずこれを使ってください」と言って氷を渡すのだ。その気遣いが感動を呼ぶ。実際、それがほかの量販店で買ったばかりの冷蔵庫だったことがあり、そのときは洗濯機を新しく買い換えてくれたとのこと。そう見事にいくケースはめったにないが、「ちょっとしたことの積み重ねが一番大事なんです。経費も大してかかるわけではないですし。しかし、こんな話を電器屋の集まりなどでしても、ほとんど関心を持ちませんね。だからウチのような店が何とか生き残っているんでしょうけど」と山口社長は笑いながら話す。中小専門店に限らず“ちょっとしたことの積み重ね”があってこそ、イベントやプロモーションなどさまざまな施策の成功率が高くなるもの。とは言え、これが最も「言うは易く、行うは難し」なのだが・・・。
 同店に見るように、真の顧客第一主義を貫くための必須条件は、「まずお客さまのためを思い、自分の都合を優先させない」ことだろう。そして、それを経営的に継続させていくには、妙な言い方になるが、時代の変化に惑わされない不易の部分をしっかりと持ちつつ、同時に時代の変化に敏感に応じた施策を打っていく、ということを実践していく以外にないのではないだろうか。

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量販店が林立する町田で健闘する「でんかのヤマグチ」(写真左)
一度見たら忘れられないシマ柄の社用車(写真右)


月刊『アイ・エム・プレス』2004年8月号の記事