地道な努力と専門店への特化 地域で絶大な人気につながる

(有)蔵家

2003年9月に規制撤廃が実施されたことに伴い、酒類販売にはコンビニエンスストアやドラッグストアなど異業種からの参入が相次いでいる。中小零細の酒販店では廃業もあとを絶たない。こうした逆風が吹く中にあって、東京・町田にある「蔵家」は、得意客はもちろんのこと、一流レストランや蔵元からも絶大な信頼を集めている。その秘密を探ってみた。

他店との差別化を図るためにワインに力を入れる

 東京・町田の境川団地近くの商店街の一画に、この6月4日にリニューアルオープンしたばかりの真新しい酒販屋がある。「リカー・ポート蔵家」(社長:浅沼正臣氏)だ。
 創業は1974年。現在の年商は約3億円。1998年には「全国優良小売店農林水産大臣賞」も受賞しているが、社長の正臣氏と夫人の清子氏が商売を始めた時は、ふたりともまったくの素人だった。それ以前は、社長の正臣氏はカメラマン、夫人の清子氏はテレビ局勤務の会社員。たまたま清子氏の実家がスーパーマーケットを営んでいた関係で周囲から酒販店を経営することを勧められたが、「従来の酒屋さんとは一味違った趣の酒屋にしたい」と考え、オープン当初からワインに力を入れてきた。
 社長の正臣氏は、フランスをはじめ各国のワインの産地を視察して仕入れ先を開拓する傍ら、得意のカメラを活かして、ワイナリーで働く人々や産地の写真を撮影。それらを店内に掲示し、ビールや日本酒を買いに来たお客様にもワインの無料試飲をお勧めし、詳しい商品説明を行った。「とにかく口にしていただくことから始まりました」と正臣氏は当時を振り返る。
 ほかにもワインに興味を持ったお客様を自宅に招き、ワインの勉強会やワインに合う料理を紹介するなど、ワインを広める努力を惜しまなかった。また、「ロシア民謡を歌いウォッカを楽しむ夕べ」「シャンソンを聴きながらワインを楽しむ」「チャンピオンバーテンダーを招いたカクテル教室」「フラメンコとスペインワイン」「イタリアワインと料理と食文化」「ピアノ演奏会」といった催しを年に3~4回ほど開催。始めたころは6~7人だった参加者が、今では50人以上になることもあるという。
 一方、清子氏は国内の酒を担当。全国各地の蔵元を訪れて、あまり知られていないが優れた地酒の銘品を集めることに努めた。今では焼酎、泡盛、地ビールの醸造元へも足を運んでいる。
 現在、扱っている商品は、ワインでは世界のスーパーワイン、オールドヴィンテージワイン、デイリーワインまで、国産品も含めて2,000種類、日本酒は300種類、焼酎、泡盛は150~200種類に上り、今もなお増え続けているという。また食料品では、全国からの注文もあとを絶たない。こだわりのチーズケーキや菓子、全国各地の旨い珍味、直輸入のグッズなども扱って人気を集めている。

創業以来書き留めてきた3,000人の顧客データ

 社長の正臣氏は1996年に、ワインの総合アドバイザー「コンセイエ」の第1号の資格を取得。フランスの著名な生産地から高い信頼を受け、2002年には「ボムロールワイン騎士団」に入団するなど、ワインのスペシャリストとして研鑽を積んでいる。また、夫人の清子氏は、1994年に女性第1号の日本酒「利き酒師」となり、1997年には「ビアテイスター」の資格を取得した。こうしたふたりの姿勢はスタッフにも浸透しており、ソムリエの資格や日本酒の利き酒師の資格を取得するスタッフも現れてきている。
 店のカウンターには、日本酒や焼酎、ワインなど数種類がいつも試飲できるように置かれている。こだわりの店にありがちな“うんちく”は一切語らず、買い物を済ませたお客様に対して、さりげなく試飲をお勧めしている。
 スペシャリスト揃いのスタッフと、量販店にも負けないほどのお酒の種類。しかしそれだけが同店の人気の秘密ではない。ほかにも1974年の創業以来続けている地道な活動がある。
 例えば、顧客情報の収集・蓄積。顧客の家族構成から、どの顧客が、どの商品を、いつ、どのくらい買ったかというデータをとっているのである。それを基に、例えばビールがそろそろなくなるころを見計らってご用聞きの電話を入れるなど、きめ細かな“個客対応”を行っているのだ。これも同店の好業績の要因のひとつになっていると言える。当初は大学ノートに手書きで書き留めていたが、今では約3,000名の顧客データをコンピュータにより管理しているという。
 顧客データはコンピュータ管理されていても、個々のお客様の情報は「ここに入ってます」と清子氏は頭を指して笑う。スタッフにも顔を見ただけで、家族構成から、好きなお酒の種類などを思い浮かべられるように指導しているそうだ。

お客様との会話を重視 スタッフ教育にも力入れる

 さらに蔵家が力を入れているのが、“接客”である。お客様との会話を何よりも重視している。
 取材に訪れた時、店内の隅でスタッフの様子を見学していると、「おはようございます」と来店客に元気で明るい声をかけるスタッフの姿があった。お客様の注文への対応は迅速だ。また、お酒を選ぶのに困っているお客様を見かけると、さりげなく「何をお探しですか」と尋ねたり、お酒を飲まれる方の出身地などを聞いて、そこの地酒を紹介するなど、スタッフの対応は行き届いていた。
 それでも、「お店を活気付けるために若いスタッフを増やしましたが、まだまだ思うようにはいきません」と清子氏の評価は厳しい。
 また、接客同様に力を入れているのがギフトユースだ。結婚式や還暦祝い、父の日、母の日などにお客様の要望に合わせて、オリジナルボトルや名前入り徳利、オリジナルラッピングまで演出するなど、お客様への細やかな心配りがなされている。
 「常にお客様に満足していただける“おもてなし”ができるようになりたい」という正臣氏や清子氏の思いが全スタッフに共有されているからこそ、転廃業する酒販店が後をたたない時代にありながら、蔵家は絶大な人気を博しているのだ。

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6月4日にリニューアルオープンした蔵家

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店内にはワインや、日本酒、焼酎などが壁一面に並べられている


月刊『アイ・エム・プレス』2004年8月号の記事