自慢の味をネットに乗せて多数のヘビー・リピーターを獲得

やがさきファームズ(株)

食品の中でも「キムチ」という単品商品を扱う、やがさきファームズ(株)。楽天ではジャンル別の1位に輝き、同社のキムチの価格が相場を作ると言われるほど。ネットに参入してわずか4年で繁盛店に成長。固定客に支えられつつも、新規顧客獲得の取り組みは欠かさない。味を守りながらヒット商品を生み出す秘訣はどこにあるのか。

キムチのネット販売店の存在を知り、ショック受ける

 JR亀有駅から徒歩約20分。住宅街の一画からキムチの匂いが漂ってくる。その方角に向かって歩を進めると、やがさきファームズ(株)の建物が見えた。
 同社代表取締役の矢ケ崎敏一氏によると、インターネットに参入するきっかけは、2000年3月に、同社のFC加盟店の応募に訪れた2名の男性によってもたらされた。「楽天のセミナー帰りなんですが、自分のWebサイトでキムチを販売したいので、作り方を教えてください…」。このとき、「楽天」にキムチを販売しているサイトがあることを知らされる。
 同社では、1990年頃から新聞折込チラシなどで通信販売を行っていた。キムチの通販はほかでは行っていないと思っていた矢ケ崎氏にとって、インターネットで月に何百万円も売っているお店があることは驚きであり、ショックだったという。
 2000年5月、同社は楽天に加盟し、同年6月2日にネットショップをオープンさせた。取扱商品はキムチ、チャンジャ、ナムルなど約10種類。その後、少しずつ品数を増やしていった。
 オープン初日に、1件の注文を受け、矢ケ崎氏はビックリした。なぜなら、数年前に自社のオフィシャル・サイトを作成し、注文も受けられるようにしていたが、それまでに受けた注文は、たった数件。氏自身に 「ネットは売れない」という先入観があっただけに、オープン初日に注文があるとは思ってもいなかったという。
 オープンの10日後に、楽天に小さな広告を出したところ、1日に10件ほどの注文が舞い込み、さらに驚かされる一方で、「これは行ける」という確信も生まれた。初月の売り上げは40万円に上った。
 同社は、酒類の量販店をはじめ、ラーメン店(3店舗)、キムチ直営店「やがちゃんキムチ」(3店舗)などを手掛けているが、これらの直営店と比較しても、インターネット通販「楽天市場店」の売り上げが最も伸びているという。
 「味には自信がある」(矢ケ崎氏)だけに、競合他店との差別化では、とにかく“味”を強調したという。さらに、どんなキムチでも自社で製造できるという利点を生かして、バリエーションを増やしていった。現在、約150種類のキムチがある。「思い立ったらすぐに商品が作れて、ネットで販売し、その日のうちに注文が入るというのが当社の強み」(矢ケ崎氏)。素材が決まれば、あとはベースとなる12種類のキムチのタレをブレンドすることで、さまざまな味が生まれてくるそうだ。
 「ネット販売のキムチで、これだけのバリエーションがあるのは当社だけです。当社が作るキムチの値段が相場になる。メーカーなので、安い価格で販売できます。他社が追随しようとしても難しいでしょう」と、自信を覗かせる。楽天における主な受賞は、2003年の「キムチ漬物ジャンル」売上ランキング第1位や2004年キムチ売上連続4週1位などだ。
 また、リピーター比率は6割以上と、楽天の中でも上位に位置。さらに、ひとりの顧客の購入頻度が非常に高く、中には3年間で50数回というヘビー・ユーザーもいる。ただ、「固定客が多くて、一見さんが少ないことは、当社の弱点でもあった」(矢ケ崎氏)。弱点を克服するために、 2004年3月、 ホームページを大改装。白菜キムチやチャンジャ、ナムルなどに分類したり、おすすめのランキングを設けるなど、一見客にも入りやすいトップページに作り変えた。
 ただ矢ケ崎氏によれば、新規顧客の獲得はホームページを見やすくしたからといってできるものではなく、味の良し悪しだという。それというのも、多くのお客様が買い物カゴに飛んでくる前に見ているのはBBS。ほかの購入者の感想を参考にして商品を購入していることがわかったからである。

「メルマガから販促へ」 商品購入の流れを作る

 現在、顧客サービスとして、メールマガジン(以下、メルマガ)を週3回程度配信している。同社のWebサイトへのアクセスは、そのメルマガからが7~8割、残りはヤフーや楽天などから訪れるケースだ。メルマガの登録者数は約6万人に上る。「メルマガ勝負みたいなところもある」と語る矢ケ崎氏。商品紹介ばかりでは顧客が飽きてしまうことから、キムチに関連した情報や小説を掲載したりとさまざまな工夫を凝らしている。「ご登録のお客様には定期的にメルマガを配信し、継続的に読んでいただく。これをベースにセールのご案内をして購買に結び付ける」(矢ケ崎氏)というように、メルマガから購買への流れが作られている。
 同社の売り上げは、オープン当初、40万~50万円程度だった。その後、2000年9月から楽天で共同購入がスタート。同社で売り出した「チャンジャ」がヒットし、月の売り上げが100万円を突破。同年12月には、1カ月で300万円の売り上げを上げた。2001年には、売り上げは月平均150万円に上り、2002年は月平均300万円、2003年は月平均600万円と順調に売り上げを伸ばしている。特に2003年末には月商1,000万円を突破するなど、同社のネット通販事業は急拡大している。
 1日のアクセス数は5,000~1万件。「ひとりのお客様が平均3ページは閲覧しているので、大体2,000~3,000人ということになります。そのうちの100人ほどのお客様に購入していただいています」(矢ケ崎氏)。転換率は3~5%と楽天の食品部門の平均2%を大きく上回る。また、1万円と2万円(季節ごとのイベントでは5万円も発行)のプリペイドシステムを導入したところ、この会員が現在、約300人に上る。こうした「ヘビー・リピーター」と呼べる優良顧客層を抱えていることも、同社の強みとなっている。
 しかしながら、順調に売り上げを伸ばしている同社も、いくつかの課題を抱えているようだ。
 2003年12月に月商1,000万円を超えたときは、製造・発送の両現場ともキャパシティーを超えてしまった。発送数が1日200~300件に上り、午後1時~午後8時まで矢ケ崎氏を先頭にスタッフ7~8名で取りかかっても発送時間までに終わらなかったという。いくら注文を受けても製造はできるが、それを梱包し発送するためのスペースが確保できなくなってきた。
 そこで、今年に入ってから配送の外注化を推進。ヤマト運輸に梱包から配送までを委託している。昨年末の苦い経験を糧に、現在のところは順調に運んでいる。
 今年は、「行者にんにくキムチ」がヒットしている。昨年は1分タイムセールスとして「活きカニのチャンジャ」を50個限定で販売したところ、53秒で完売してしまった。次々にヒット商品を誕生させる矢ケ崎氏であるが、ヒット商品を作り出すことは難しいと語る。「ネット販売はプロデュース業です。いかに商品コンセプトをお客様に納得させ、理解させる演出ができるか。ページ表現にしても画像にしても、そこがポイントです。もちろんその背後には、商品製造にかかわる情熱が必要です」(矢ケ崎氏)
 キムチという単品商品を扱いながら、顧客に飽きられることなく、ヒット商品を次々に生み出す原動力。そして何より矢ケ崎氏の味に対する自信がなければ、ここまでの成功はなかったと言えるだろう。

やがさき

「やがちゃんキムチ」楽天市場店のホームページ http://www.rakuten.co.jp/kimuchi/


月刊『アイ・エム・プレス』2004年7月号の記事