米ぬかを主成分とした化粧品「米ぬか美人」は、その使い心地の良さが酒販店を通じて口コミで広がり、今や日本だけでなく米国でも人気を集めている。「米ぬか美人」の販売元は、何と日本酒醸造の老舗、日本盛(株)。販売チャネルの構造変革とともに伸び悩んだ売り上げを回復させたのは通販だった。
アイデアと熱意から生まれた「米ぬか美人」
1889年(明治22年)の創立以来、業界のリーディングカンパニーとして市場を牽引してきた日本盛(株)。同社では、1989年に創業100周年を迎えたのを機に、「健康」「自然」「新鮮」をキーワードとした新しいプロジェクトをスタートさせた。そのひとつが、米ぬかを主成分とした自然派化粧品「米ぬか美人」である。
「米ぬか美人」は、発売から18年目に突入した現在でも店舗と通販で売り上げを伸ばしており、今や同社の主力商品としての地位を確立。低迷が続く酒造業を補うほどに成長している。
「米ぬか美人」の開発は、あるひとりの男性営業スタッフのアイデアから始まった。ご存じの通り、日本酒は原料の酒米を精米し、白米の部分だけを使用する。このときに残される“米ぬか”を活かすことはできないかと考えたのだ。米ぬかには、赤ぬか、中ぬか、白ぬかの3種類があり、酒造過程からは普段私たちが目にすることのない貴重な“白ぬか”が得られる。白ぬかには美容に効果的なビタミンB群やE、カルシウム、鉄分、たんぱく質などが豊富に含まれているだけでなく、ぬか特有の匂いがない。昔は、木綿の袋に米ぬかを入れて石鹸代わりに使用していた点に着目し、米ぬか成分を使用した化粧品の開発を検討したのである。
しかし、経営陣から示されたのは却下の意向。「酒造メーカーが化粧品なんて…」というのがその理由だった。ところがそのとき、ひとりの女性研究員が「商品化を担当したい」と手を挙げたのである。仮に失敗したとしても500万円の損失。思い切ってやってみよう、という決断が下された。
女性研究員の熱意が実って誕生したのが、新鮮な白ぬかを使った自然派基礎化粧品、「米ぬか美人」である。1987年4月、「米ぬか美人」の初の商品、洗粉(洗顔料)が発売された。初年度の売上目標は500万円。化粧品の販売ルートを持たない同社では、試供品を酒販店の奥様方に配布したところ、使用感の心地良さを実感した奥様が、店を訪れる顧客にすすめてくれたのである。当時は今より酒販店の数が多く、全国に約14万店あった。この販売網と奥様方による口コミがパワーを発揮。初年度の売上目標をたった1日で達成してしまったのである。「米ぬか美人」に対する会社の認識が180度変わったことは言うまでもない。
現在では、「米ぬか美人」シリーズは19アイテムに拡大。このほか、高級旅館などの客室や浴場に試供品を置き、お土産売り場で商品を販売するルート限定商品の「日本酒美人」シリーズと「もち肌美人」シリーズも取り扱っている。
停滞ムードを通販で打破
「米ぬか美人」のターゲットは40代以上の女性。商品の良さに加えて、1アイテム1,500円~2,800円というリーズナブルな価格帯を実現していることもあり、発売以来、順調に売り上げを拡大していった。ところが、1992年頃から売り上げは横這いになり、次第に下降し始める。アルコール飲料がコンビニやスーパーで売られるようになると同時に、至る所に安売り量販店が登場。これにより、酒販店の顧客が減少し、「米ぬか美人」は不遇の時代を迎えたのだ。同社ではこうした状況を打破するために、1999年11月、通信販売の開始に踏み切った。
顧客と直接コミュニケーションを図ることができる上、粗利率が高まる通販は、同社にとって魅力的。だが一方で、酒販店とのあつれきが懸念された。しかし、酒販店とのトラブルもなく、通販は順調なスタートを切ったという。
まず新聞広告で洗顔クリーム、化粧水、モイスチュアクリームの基本の3品を4分の1サイズにしたお試しセットを販売し、見込客を獲得。受注窓口にはフリーダイヤルを設置し、電話応対、データ入力、発送作業までのすべてを社員で行った。酒造業の低迷による余剰人員を化粧品業務に活用したのである。
通販の効果は絶大だった。それまで下降していた売上高は回復したばかりか、毎年300%の成長を続けた。「通販を始めるまで約10年にわたって『米ぬか美人』を販売していましたが、いかに知られていなかったかを認識しました」と、米ぬか化粧品事業部部長・安台勝哉氏は当時を振り返る。
顧客の声をもとに独自性に優れた商品を開発
同社では、事業基盤の整備と足並みを揃えて品揃えを拡充、2001年1月には他社の追随を許さない画期的な商品「米ぬか美人NS-Kシリーズ」を販売した。これは、日本酒酵母より抽出した酵母エキスを初めて化粧品に配合することに成功して生まれたもの。NS-Kは、日本盛酵母の頭文字である。
この開発には2つの目的があった。ひとつは、通販のメリットを活かし、顧客の声に応えること。「米ぬか美人」には必要最低限のパラベン(防腐剤)が含まれているが、「パラベンを配合しない商品はできないのか」という声が多く寄せられていたのである。
もうひとつは、日本盛でしか買えない商品を作ること。杜氏の手はきめが細かく色が白い。その秘密が日本酒酵母にあることを突きとめた同社は、国税庁に掛け合って日本酒酵母を酒造以外にも使用できるよう認可をとり、NS-Kシリーズを発売したのである。必ずいいモノができるという自信と情熱が、商品化を実現させたのだ。
課題はOne to Oneのサービス
2003年10月現在、同社のデータベースに登録されている顧客数は約50万人。2002年度には、店舗と通販、そしてルート限定商品も含めて17億円を売り上げた。米国の高級化粧品店でも販売されており、リブタイラーなどハリウッド女優にも愛用者が多いという。
同社では、「米ぬか美人」のさらなる市場拡大を目指して、2000年より健康食品、「けんこう胚芽タブレット」と「発芽玄米」の販売を開始した。新聞広告やテレビCMは利用せず、 既存顧客にDMで告知することで、CPR(Cost Per Response)を抑えることに成功している。化粧品にはまだまだ及ばないが、2003年度の売上高は2億4,000万円に達する見込みだ。
今後同社では、50万人に及ぶ顧客データをセグメントし、 One to Oneのマーケティングを展開していく意向。「これまでは購入金額にかかわらず、すべての顧客に同じ内容のDMを送付していましたが、顧客は敏感で正直ですから、これでは気持ちが離れてしまいます。ロイヤルカスタマーを維持・育成するためにも、これからは顧客をセグメントし、購入金額なり購入期間に見合ったサービスの提供やメッセージを投げかけていきたいと思っています」(安台氏)。
これと併せて、より一層、顧客の声に耳を傾けていく構えだ。現在同社では、コミュニケーション紙「Hot・Hot・NEWS」を年4回発行している。ここで実際に顧客を訪問して記事を作成したり、顧客からのお便りを紹介しているが、今後はアンケート調査なども本格的に行い、より積極的に顧客の声を収集していくという。
「私の夢は、酒造業を補い社員、そして顧客に幸せを与えることです。そのためにも『米ぬか美人』で100億円の売り上げを目指します」(安台氏)。
次に生まれる、顧客の声を反映した商品とはどのような商品になるのだろう。楽しみである。