その新技術に製薬業界や医療機関が注目 イソフラボン製造特許を武器にB to C分野に進出

ニチモウ(株)

漁網・漁具や水産物を扱う水産専門商社、ニチモウ(株)。同社では、養殖魚の餌の研究・開発に取り組む中で、偶然と必然から大豆イソフラボンの生産を始める。この特許を取得し、大豆イソフラボンを原料として他社に供給していたが、2001年6月からエンドユーザー向け商品「イソラコン」の通信販売をスタートした。

日本初のアグリコン型大豆イソフラボン 生産の契機とは

 ニチモウ(株)は、1910年(明治43年)の創業以来、日本の漁業の近代化に尽力してきた100年近い歴史を持つ老舗企業。現在では、海洋事業、食品事業、資材事業、機械事業、バイオティックス事業を展開する水産専門の総合メーカー・商社として知られている。
 そのニチモウが、大豆イソフラボンの含有食品「イソラコン」でサプリメント事業をスタートさせたのは、2001年6月。健康食品分野の担い手と言えば、薬品メーカー、食品メーカーというのが相場の中、同社のサプリメント事業への参入は異色であった。
 しかし、ニチモウが開発した大豆イソフラボン製法は、高い品質のアグリコン型大豆イソフラボンの製造を可能にした独自性の高い技術として内外から評価されている。日米2カ国で特許も取得。異業種からの参入という目新しさだけでなく、その中身においても、サプリメント業界全体から注目される堂々の登場だった。
 ところで、「海」を事業フィールドとするニチモウが大豆イソフラボンの生産を始めたのは、ある意味で、偶然と必然の結果と言うことができる。それは、ニチモウが大豆の研究を始めたのは、小魚に代わる養殖魚の餌を開発するためだったからだ。
 小魚の代用として、植物性たんぱく質が豊富な大豆に注目したことが、ニチモウの運命を変える大きな契機になった。そもそも養殖魚の餌として利用しようと研究に着手したわけだが、結果としては、消化器が単純な魚には大豆はうまく消化されないため、当初の目的は断念。しかし、その研究過程で大豆に含まれる成分、特にイソフラボンが人間にとって高い機能性を持っていることが分かったのである。イソフラボンの中でも吸収性に優れた「アグリコン型イソフラボン」に着目。産学共同で研究を進めてきたことが、現在のサプリメント事業へとつながったのである。

吸収率の高い大豆イソフラボンの製造に成功 サプリメントの競合社からも注文が殺到

 現在、国内で大豆イソフラボンを生産している企業には、食用油メーカー、醤油メーカーなど数社がある。その中で、ニチモウの大豆イソフラボン製造技術の特徴は、胚芽を原料としている点だ。
 大豆全体から抽出できる大豆イソフラボンは、わずかに0.2~0.4%(重量比)と極端に少ない。対して、胚芽には、大豆全体の約10倍のイソフラボンが含まれる。大豆そのものを活用し、その後の副産物としてイソフラボンを抽出する他社と異なり、胚芽から直接抽出するニチモウは、より効率的なイソフラボン抽出法を実現したというわけだ。
 また、大豆イソフラボンは、そのままでは人体に吸収されないグリコシド型と、体内にすばやく吸収されるアグリコン型の2種類がある。アグリコン型を抽出するには、グリコシド型に含まれる糖分を取り除く工程が必要だ。ニチモウは、原料の大豆胚芽を麹菌で発酵させることでこのアグリコン型を製造する技術を確立し、特許を取得している。アグリコン型イソフラボンの工場生産は、ニチモウだけの独占的な技術なのである。
 こうしたクオリティの高い大豆イソフラボンへのニーズは当然、高い。イソフラボン製品を製造する薬品メーカー、食品メーカーからも注文が増えている。

医療界でイソラコンを使った臨床試験もスタート

 大豆イソフラボンは、植物性ポリフェノールの一種で、効率よく血流を改善する効果が知られている。特に、アグリコン型イソフラボンは、女性ホルモンの「エストロゲン」に分子構造が似ているため、エストロゲンの減少から発症する女性の更年期障害に高い効果がある。そのほかにも、骨粗鬆症、肥満の予防、乳ガン・前立腺ガンなどのホルモン感受性ガンの予防、脳卒中、動脈硬化、高脂血症の予防、免疫機能の向上など、多様な効用が確認されている。
 ニチモウは、こうした大豆イソフラボン研究を、国内で最初に始めたパイオニア。大豆イソフラボンを分析し、その効率的な製造法を開発するまで、およそ10年の歳月を費やしたという。ニチモウの大豆イソフラボン生産の事業化は、こうした地道な研究の賜物なのである。
 研究成果に注目し、アグリコン型大豆イソフラボンを活用する医師も増加中だ。聖マリアンナ医科大学産婦人科学教室では、今年7月から臨床試験をスタート。副作用の心配のない大豆イソフラボンは、新しい治療法として期待が高まっている。その中心的担い手が、ニチモウの「イソラコン」なのである。

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イソラコン

将来の目玉事業として期待 大きな新市場の創出に向けて始動

 健康食品における大豆イソフラボンの市場は、現在、80億~100億円と言われている。しかしニチモウにとって、イソラコンは初めてのエンドユーザー向け商品だ。
 当然、販売チャネルはなく、通信販売で事業はスタートした。注文をフリーダイヤルで受け、リピーターを育てる、いわばニチモウ流“手作り”ダイレクトマーケティングを模索したのだ。
 その後、「イソラコン」専用のコールセンターを開設して、更年期障害に悩む中高年女性をメインターゲットに、イソフラボンの効用を粘り強く解説しながら、商品認知度を高めていく戦略を展開中だ。顧客の囲い込み策としては、「イソフラボン倶楽部」を組織し、ニーズに即した情報提供を積極的に進めている。商品の信頼性の高さから通信販売のリピート率が高いのが特徴になっている。
 また、ニチモウでは、専門家を起点とする口コミの促進にも力を注ぐ。例えば更年期障害、乳ガン、前立腺ガンなどの学会で商品展示を行うなどして医師たちへの告知活動を積極的に展開。医師たちのニーズが高まれば、その医師を通じて患者たちにイソフラボンの情報が広がるルートが確立されることになる。これも、こうした患者たちが、次回購入時からイソラコン通信販売の顧客になることを狙った販売戦略のひとつなのである。
 また、今年4月からは、三越、高島屋、伊勢丹などの大手百貨店で店頭販売もスタート。薬剤師や管理栄養士が店頭に立つ百貨店に売り場を確保できることは、商品の信用力の証左でもある。こうしたことからも、イソフラボンの認知度は着実に向上してきている。「現在は、ドクターや薬剤師などの専門家に『イソラコン』を認知していただくことに努めています。メディカル界での評価が高まれば、個人ユーザーへも広まっていくはず。派手な広告、宣伝で売るのではなく、イソフラボンの効用を着実に啓蒙する、そういう地道な活動で、顧客を拡大・定着させていきたいですね」(マーケティングチームリーダー 野宮徹氏)。
 研究開発も地道なら、販売活動も地道。こうしたニチモウの堅実で誠実な社風がしのばれるゴーイング・マイ・ウエイの姿勢が、新市場の創出と新チャネルの確立を力強く支えているのだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年12月号の記事