見込客を組織化し20%以上の契約率を達成

野村不動産(株)

顧客接点で得た情報を販売部門と製造部門が共有。同じテーブルを囲んで新企画を論じ合う。製造・販売・管理を一環して手掛ける野村不動産では、各顧客に適したプロモーションを展開することによって、モデルルーム来場者の20%が契約に至る驚異的な成果を上げている。

8万人の見込客を組織化

 野村不動産が見込客情報の収集とその顧客化の基盤としているのは、入会金・年会費無料の「プラウドクラブ」をはじめとする見込客組織である。同社ではもともと「赤い屋根」「オーダーメイドクラブ」「eメイト」「ステイツクラブ」など、さまざまな会員組織を持っていたが、これをブランド戦略に活用する方針を決定。2003年1月にマンションのブランド名を「プラウド」に統一するとともに、これらの会員組織をプラウドクラブに一本化した。
 会員は30代前半から40代半ばを中心とする8万名。各組織に所属していた既存会員7万名に加え、Web、住宅情報誌などの紙媒体での告知、モデルルーム来場者に対する案内により、新規会員1万名を集めた。それではここで、プラウドクラブがどのように運営されているのかを順を追って見ていこう。
 プラウドクラブは紙媒体、そしてWebの2つの顧客チャネルを持つ。前者の会員数は4万名、後者は5万名だ。
 今年1月に創刊した会報誌「プラウド」は、「野村不動産のマンションに住めば、こんな素敵な暮らしができるかもしれない」といったイメージを植え付けるブランディングを目的とし、住生活にかかわるライフスタイル提案と物件情報で構成される。4色刷り約100ページのボリュームで、隔月の発行だ。
 一方Webは、物件情報を送るメールDM「PROUD@MAIL」と、ライフスタイル提案のメルマガ「PROUD@MAGAZINE」を活用する。
 会員登録の際に、希望物件の間取り・広さ・予算・路線などの詳細情報をとり、メールDMではこれを基にカスタマイズされた情報のみを案内する。「HPを立ち上げました」「モデルルームの準備ができました」「購入登録を開始しました」など、毎回異なった内容のメールDMを送付。販売期間によって送信回数は異なるが、3カ月の場合で約5回となっている。「eメールは鮮度が命。新鮮味のない内容や不必要な情報は御法度で、回数が多過ぎると逆にレスポンス率は低下する。送信回数と効果の微妙なバランスをとるノウハウは確立済み」と、住宅カンパニー 業務部 営業企画課課長代理 半田昭博氏は話す。
 しかし、顧客が希望した沿線に物件がない場合はまったく情報を送れなくなってしまう。これを補完し、プラウドと同様、ブランディングを目的とするのがHTML形式のメルマガである。ライフスタイル・マガジンをコンセプトに、月に1回送付する。
 同社ではインターネット、特にeメールをプッシュ型の媒体ととらえ積極的に活用する一方、顧客がプッシュされていると感じないよう工夫を施す。情報の最適化を図りOne to Oneを実現する一方、ホームページ上に個人専用にカスタマイズした「Myページ」を用意。eメールアドレスとパスワードを入力しただけで、希望条件に合う物件のみを即座にポップアップする仕組みを築くなど、“利便性”で見込客の心をつかむ。
 同社によると、eメールでモデルルームを案内すると、来場率は15~20%に上り、来場者のうち実際に成約に至る割合は20%に達するという。

クラブ化のメリットは“気軽さ”の演出

 新規に発売する物件ごとに期間限定のクラブも組織している。東京・神楽坂で発売予定の「神楽坂トワイシア」では「クラブトワイシア」を組織。俳優・三國連太郎氏をイメージ・キャラクターに起用した会員誌「神楽坂LIFE」を送付している。こうした見込客組織化のメリットについて、半田氏は次のように指摘する。「 “このクラブに入会しませんか”とアプローチすることで、見込客が特典内容を電話で尋ねたり、入会申込ハガキを記入しやすくなる。心理的な抵抗を感じさせずに見込客情報を収集できることが、クラブを組織する最大のメリットだ」。
 このほか、見込客にDMを送付する際には、価格帯に応じてクリエイティブに変化を持たせている。高額物件用のDMでは封筒や紙の質、書体などにもこだわり、センスやイメージを重視。一方、低価格帯の物件の場合は、上質すぎるDMを作成すると、実際の物件との間にギャップが生じて来場者が違和感を感じるのだという。見込客に合わせた情報提供も大切だが、商品=物件に適したクリエイティブも見込客を顧客化する重要なキーとなる。

野村資料

プラウドクラブ会報誌「プラウド」(左)と、期間限定の会員組織神楽坂トワイシア会員向けの会報誌「神楽坂LIFE」(右)

イメージ向上につながるかブランド戦略がすべての起点に

 それではここで、同社が見込客を顧客化するに当たって重視するポイントを3つ説明しよう。
 まずひとつ目は、社内の情報共有だ。同社では約2年前におよそ2億円を投じてCRMシステムを導入。顧客の属性、クラブ入会の経路、入会につながった媒体などの顧客および見込客情報を全社で共有。東京のモデルルーム来場者が関西の会場に現れたとしても、どのような物件を希望しているのかを把握した上で対応ができるようにしている。来場者にはおよそ20項目におよぶアンケートを実施。ここで得た情報もすべて共有している。
 2つ目は、プロモーション活動を組み立てる際の思考法である。①来場案内、②来場、③契約の3段階を、①②③の時系列でではなく、③②①とさかのぼって考える。つまり、「モデルルームの来場案内に対するレスポンス率は約20%」「来場者の成約率は20%」などのマーケティング・データに基づき、例えば20戸の物件を販売するのに必要な来場者数は100名、100名の来場者を獲得するにはメールDMを500名に送ればよいといったように、まず目標を設定し、次にその目標を達成するための見込客数とプロモーション法を決定するのである。
 最後に、ブランディングを起点としたマーケティング活動が挙げられる。会報誌、メールDM、メルマガ、電話対応、モデルハウスや営業担当者の接客。これらすべてを「ブランディング=企業のイメージアップにつながるかどうか」に基づいて設計していくのだ。多くの人々にとって一生に一度の買い物である不動産物件では、企業に対する信頼=ブランドが購入決定の大きな要因となる。見込客の顧客化にブランドを徹底活用する。これが、成約率20%を達成する強さを支えている。
 高い成約率を保つ一方で、クラブ会員を募集する際のレスポンス率はこの3年間、徐々に下がり始めているという。各クラブの会員募集のため、春と秋の年2回行うプロモーションでは、使用媒体・予算とも毎年ほぼ同様であるにもかかわらず、例えばWebのレスポ ンスは年率約5ポイントの割合で下がり続けており、新聞の折込チラシでは、1万件当たりのレスポンスが1件にとどまる場合もあるという。見込客を顧客化するノウハウを蓄積しつつある同社にとって、いかに良質な見込客をより多く収集するかが、今後の大きな課題となりそうだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年7月号の記事