ユニークなブランディングでファンを創り購買を後押し

日本コカ・コーラ(株)

サイトのファンを増やすにとどまらず、サイトを通して製品のファンになってもらうことが重要――日本コカ・コーラ(株)ではこのような認識のもとにエンターテインメント性の高い会員制サイトを運営し、実際の製品購入にまで結び付けている。

基本コンセプトは「気分転換」と「前向きな力」

 人気タレント・浜田雅功氏を起用したストーリー性のあるCMでお馴染みの缶コーヒー、「ジョージア」。日本コカ・コーラ(株)では、同製品の公式サイト「ジョージアネット」において登録会員専用の「ナンデーモ・カンパニー」を開設。CMと連動したストーリーによるコンテンツ作成など、ユニークな取り組みによって顧客の製品に対するブランド・ロイヤルティを確立している。同社の取り組みについて紹介しよう。
 ジョージアのブランドコンセプトは、もともとコーヒーが持つ「気分転換」というイメージと、顧客調査から明らかになった、現代サラリーマンが手に入れたいと願っている「前向きな力」の2つを組み合わせることによって生まれた。すなわち、「ジョージアを飲んで前向きな力を手に入れよう」が、同製品のブランドメッセージである。顧客ターゲットは、性別を問わず“働く人”とし、メインキャラクターである浜田氏の実年齢、39歳を中心としながらも幅広い年齢層を狙う。
 現在、Webで展開されている「ナンデーモ・カンパニー」は、2001年1月に開設した「トアール・コーポレーション」(とある所にある会社、という意味)を、テレビCMのストーリー展開に合わせて今年1月にリニューアルしたものだ。入会金、会費は無料。現在、会員数26万人で、男女比は6:4となっている。

何度もアクセスしたくなる娯楽性の高いサイト作り

 ナンデーモ・カンパニーの運営に当たって留意している点について、マーケティング本部 第2ブランドグループ 統括部長 篠原幸治氏は、次のように説明している。
①プッシュ型のテレビCMとは異なり、インターネットはプル型のメディアであるため、サイトに強い魅力がなければ消費者からのアクセスは望めない。消費者が積極的にアクセスしたくなるようなコンテンツが求められる。
②単に多くのアクセスを得るだけでは不十分。ひとり当たりの接触頻度を上げるために、「もう一度見たい」と思わせる仕組み作りが必要となる。
③バーチャルの世界を楽しむにとどまらず、顧客が製品に対するロイヤルティを深め、リアルの世界で実際に製品を購入してくれるような仕掛けを生み出さなければならない。
 以上3点が、エンターテインメント性を前面に打ち出した、ゲーム感覚で楽しめる同サイトの誕生につながった。それではここで、同サイトを概観してみよう。
 同サイトでは会員を「社員」、サイトの案内は「会社案内」「会社訪問」、会員登録シートを「履歴書」、会員登録することを「入社」、登録後のアクセスを「出社」と表現。同サイトを会社に見立てたひとつのコミュニティととらえる姿勢を貫く。会社のプロフィールもある程度設定されており、例えば事業内容は「なんでもやること」、資本金は「それなり」などと、ウィットに富んでいる。
 かつての「トアール・コーポレーション」は浜田氏が所属する大企業という設定だったため、出社を重ねると昇進できるなどの仕組みになっていた。一方、「ナンデーモ・カンパニー」は、浜田氏が大企業から独立して設立した企業という設定である。社員となった会員は、新会社の業務拡張を手伝うことで、受け持ちの営業エリアを拡大できる。出社(アクセス)などによって得たポイント「ナンデーモ・ポイント」をためると、オリジナルプレゼントがもらえたり、Webでしか見られない特製CMを閲覧できるなど、優秀な社員に対する優遇策が設けられている。「会員は、何度もアクセスするなどの努力に対して、ご褒美をもらうことができる」(篠原氏)仕組みだ。
 また、日・週・月単位で違った楽しさを味わえるよう、飽きのこないコンテンツ作りを行っている。例えば、月ごとの楽しみとして、川柳の募集がある。これは、会員から募集した川柳の中から金賞・銀賞・銅賞を選んでWeb上で発表するというもので、金賞の受賞者には、表彰状を入れるための額縁が実際に郵送される。さらに、缶コーヒーに貼付するキャンペーン応募シールの裏側で、優秀作を紹介することもある。自分が応募した川柳が購入製品に貼付されているかもしれないという新たな楽しみを演出し、ジョージアブランドに対する愛着を高めるとともに、数ある競合商品の中からジョージアを選択してもらうための動機付けを行っている。

コカ・コーラ2

資料:「ナンデーモ・カンパニー」のイメージ画面

ファン作りから購入の後押しまで

 テレビCMでは表現し切れない、ジョージアの世界観を伝えることもWebの重要な役割と言える。例えばそれは、会員にのみ閲覧可能なWeb限定CMなどを通じて会員に伝達される。前述の川柳に表現されるのもやはり「ジョージアの世界観」であり、それを会員が共有することでより強固なブランドイメージが築かれていくことを、同社では期待している。
 一方、篠原氏は、「サイトが楽しいだけでは、単なるファンサイトで終わってしまう。こうした仕組みの中でいかに製品に対するロイヤルティを高めていくか、製品を手に取ってもらえるよう、顧客の背中を押すかがポイント」と語り、サイトの好感度を上げるだけではなく、サイト内で築かれたブランド・ロイヤルティを実際の購買行動に結び付けるような仕掛けの重要性を指摘する。
 一例として、キャンペーン応募によって「ナンデーモ・ポイント」を加算するなどの仕組みが挙げられる。ポイント数によって営業エリアを拡大できるバーチャルの世界と、ポイント獲得のために商品を購入するという現実の世界をうまく結び付けたキャンペーンと言えるだろう。Webによってどれだけブランド・ロイヤルティの向上が図れたかを見極めることは難しいが、同氏は、2002年9月~12月に行ったキャンペーンが、ひとつの確証につながったと話す。同キャンペーンは、缶に貼付されたシール15枚を指定のはがきに貼り付けて送付するというものだったが、驚くべきことに会員の約9割が複数口を応募。サイトが育てた“ファン”が、実際に商品を購入していることを証明した。ジョージアの公式サイトは2003年1月の1カ月間で3,200万ページビューとなっているが、篠原氏は「翌2月はこの数字を上回った。まだまだ増やせるはず」と強気の姿勢を見せている。
 同サイトの平均滞在時間が1時間という驚異的な数字を示していることからも、会員が同サイトに寄せる愛着、そしてブランド・ロイヤルティの高さが伺える。同社では、Webを通してジョージアの世界観を顧客に伝え、ファンを創出するとともに、製品に対する支持獲得にも成功しているのである。


月刊『アイ・エム・プレス』2003年4月号の記事