B to B、B to Cそれぞれに向け、先鋭的な戦略を展開

マイクロソフト(株)

「Windowsシリーズ」「Officeシリーズ」等で圧倒的なシェアを誇るマイクロソフト。顧客維持に関して同社では、製品の性格上、B to B、B to Cのそれぞれに異なった施策を講じている。主にビジネスユーザー向け施策を講じている経営企画室と、主にパートナー(販売店)に対し、PC用S/Wのプロモーションを展開しているパーソナルシステム事業部を取材した。

B to Bに向けた施策

①コールセンターを最大限に活用
 現在、同社の主要商品である「Windowsシリーズ」「Officeシリーズ」は、PCのソフトウエアとしては最大のシェアを獲得している。同社は大ヒット商品となった「Windows 95」「Office 95」発売のあたりまでは、大規模なイベントを開催するなどして、PC市場全体やシェアの拡大を図ってきたが、ある程度PCが企業内に導入され、Windows、Officeが企業内に浸透している現在では、すでに導入されている上記のシリーズ商品を継続的にバージョンアップしてもらうことがビジネスの中心になってきている。製品のバージョンアップは、顧客企業内のナレッジワーカーの生産性を高め、顧客企業の成長を促進させることを目的としているが、それには個々の顧客のニーズを的確に把握し、それに合った提案をすることが必要になる。しかしながら同社商品は、パートナー経由で販売されたり、PCに最初からプリ・インストールされている場合が多く、実際のユーザーのプロファイルやビジネス、ニーズが見えてこないという問題を抱えていた。
 そこで同社は、B to Bの顧客のプロファイルやビジネスニーズを正確に認識し、その解決策としてWindows、Officeのバージョンアップを促す機会を拡大するための施策のひとつとして、ここ1年、コールセンターのオペレーション・プロセス拡充を図ってきた。同社センターには、エンドユーザーからの問い合わせが多く寄せられるが、そのユーザーが企業ユーザーであっても、その企業名、個人名を名乗ることは非常に少なく、同社側からもあえてユーザーの名前等を確認することはなかった。しかし、これらの問い合わせをビジネス機会にすべく、ユーザー名とその問い合わせ内容をきちんと記録し、データベース化することで、その情報を営業部員に伝達する体制を整えた。このことで、個々の顧客ニーズに即した商品の提案が可能になり、バージョンアップ案件数が飛躍的に伸びたという。
②パーソナライズされた新鮮な情報をDMで送付
 また、同社ではソフトウエアを5ライセンス以上購入する際に価格メリットがある「ボリュームライセンス」という形態での商品販売も行っている。この形態で購入した顧客のデータはパートナーを通じて同社に吸い上げられる。また、年に一度大規模な顧客調査を実施し、情報システムの現在の導入状況および今後の予定などをヒアリングしているが、これらのデータも「ボリュームライセンス」のデータと併せて一元的に蓄積している。現在、同社ではこれらの顧客データを元に中規模企業2万社に対してパーソナライズされたDMを送付している(写真)。このDMには前述の顧客データから予想される個々の顧客ニーズと同社が提供している製品やライセンス形態を照らし合わせて、顧客にとって最も有益と思われるソリューションが明示されている。また、問い合わせ電話番号も、代表番号ではなく、企業ごとの個別の担当者の番号を載せている。これにより、個々の企業に「 (自社は)特別な存在である」という優越感、ひいてはマイクロソフトに対する親近感を感じさせることに成功している。また、“フレッシュな情報がつまっている”イメージを演出するため、封筒に真空パックの採用も行った。
このDMは、通常に比べて4~5倍のレスポンスがあった

DMの中身

同社が送付しているDMのブロシュア

B to Cに向けた施策

 一方、B to Cに向けた施策には以下のものがある。
①キャッシュバック施策
 2001年から、旧バージョンを使用している顧客に対し、キャッシュバック特典を提供。初めて購入する顧客よりも10~20%程度安価に購入できるサービスを展開している。
 ビジネスソフトでは従来からアップグレード版などを販売してきたものの、製品数の多いコンシューマー・ソフトウエアについては、SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)の観点などからSKUの削減を行いつつ、常連顧客の満足度を下げないための施策が必要であった。そこで同一SKUで旧バージョンを持っている顧客に対しては、キャッシュバックを行う施策を実施している。また、最近ではアップグレードの適用範囲をゲーム製品にも広げている。
②DM施策
 同社では年間に200万通に上る新製品告知DMを発送しているが、費用対効果や満足度向上のために、顧客の過去の購入履歴に応じて、豪華なコンテンツ入りの封書と、はがきやeメールによる案内とを使い分けている。製品によって異なるので一概には言えないが、基本はeメールによる告知のみである。しかしながら、登録ユーザーの中で購入率上位20~30%の上位顧客には封書プラスeメール、次の10~15%の顧客には、はがきプラスeメールというように差別化を図っている。
 eメールによるコミュニケーションについては、2002年からは希望する顧客に、HTMLメールによるリッチなコンテンツの配信を開始した。
③早期購入者特典の提供
 従来、大型製品発売時に実施してきたサービスだが、優良顧客になればなるほど、新製品発売後すぐに購入するケースが多く、そのことが他社製品の購入を検討している潜在的なユーザーに強い影響力を持つことが多々ある。そこで、パートナーを通じ、早期購入者向けの特典(ノベルティ)を提供している。
④Webによる情報提供
 2000年6月より「Users」という個人ユーザー向けの情報提供サイトを開設(www.microsoft.com/japan/users/)。これは家庭でパソコンを楽しく使うための情報を中心に、新製品に関する情報や、既存ユーザーに向けたさまざまなプレゼントや、テンプレートのダウンロードなど、付加価値が高く、バラエティーに富んだサービスを提供することを目的としている。立ち上げ当初は10万ページビュー/月程度であったが、オリジナルグッズのプレゼントや広告に連動した企画、Office/Windows発売時の記念プレゼント企画などを経て、徐々に読者を増やしている。昨年末にはWindowsXPの発売記念企画で200万ページビュー/月を記録しており、その後もコンスタントに50万/月を超えるページビューを獲得している。

CPLでさらなる満足度、信頼感の向上を推進

 同社は1998年より、企業理念としてカスタマー&パートナー・ロイヤルティー(CPL:98年当初CS、2000年より現在の名称)を提唱。顧客やパートナーである販売店の同社への満足度、信頼感の向上を目指している。この企業理念のもと、例年、法人ユーザー5,000~1万人を対象に満足度調査を実施。製品やサービス品質、営業社員の対応品質、企業イメージなどの項目についてアンケートを行っている。アンケートから得られた結果から不満足な点が見て取れれば、大企業の顧客には個別に、それ以外の企業については統計的に不満足な点を割り出し、セグメントごとにフォローしている。今後は、調査の結果を受けてフォローをするだけではなく、積極的な顧客満足度向上施策も推進していく予定である。
 また、パーソナルシステム事業部では、製品のユーザー登録率の向上、特にeメール・アドレスの登録者数を拡大させていく施策を検討中である。製品登録時にeメールの登録を同時に行うと、購入製品が特定できるため、より効果的なOne to Oneマーケティングが可能になると見ている。さらに、同社MSN事業部およびXbox事業部と協調したマーケティング施策を実施していくことで、より多くの顧客に、より満足度の高いサービスを提供し、同社への信頼をさらに高めたい考えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2002年6月号の記事