MCIFの導入がマーケティングの鍵
(株)ディーシーカードは、2001年3月現在でDCグループ全体で880万人の会員を擁し、136万店におよぶ加盟店をもつ国内大手のクレジットカード会社である。グループ取扱高はショッピングで1兆5,607億円、キャッシングで3,739億円、計1兆9,346億円に上る。
同社では1994年4月にデータウェアハウスの構築を開始し、1998年10月にはこのデータウェアハウスをレベルアップ。業務用のデータベースの蓄積に活用している。このレベルアップに合わせて、顧客データベースのファイル、MCIF(マーケティング・カスタマー・インフォメーション・ファイル)を新たに構築した。これには顧客のデータベースを活用することで、より効果的なマーケティングを行う目的があった。MCIFは「基本情報」「利用情報」「サービス情報」「プロモーション情報」「アンケート情報」「分析情報」の6つから構成されている。現在ではデータウェアハウスとMCIFの2つを併用している。この他にも同社ではデータウェアハウスの構築を開始した当初から、リスク分析のためにSAS社の分析用ソフトを導入しており、その後、やはりSAS社のデータマイニング・ツール「エンタープライズ・マイナー」を導入した。同社ではデータウェアハウスからの会員の購買履歴等の情報や、MCIFからのMCIF特有の情報をもとに、データマイニングを行っている。
データは、カード申込の際に顧客が記入する属性情報と、カード利用に応じた購買履歴、および、MCIF特有のデータである、同社が提供する付帯サービスの利用履歴、DMなどのプロモーションに対するレスポンス履歴などから集められ、それぞれがテーブルに分かれて保存されている。また毎年1回会員に対し、趣味や関心、ライフスタイルに関するアンケートを実施しており、このアンケートから得られたデータもテーブルのひとつとして保存されている。
“予測”を採り入れたカテゴリー分け
同社におけるデータマイニングの活用法のひとつは会員への情報提供。以前より加盟店の情報を会員にDMで紹介するサービスを行っているが、その際に会員を属性や購買履歴からマイニングしてセグメント化し、個々の会員の嗜好に合うであろう情報や商品を紹介している。これによりDMのヒット率が従来の3倍になったという。
また、最近ではこれに加え、優良顧客の識別にもデータマイニングを活用している。同社では上位10%の顧客を「ヘビー・ユーザー」と呼んでいるが、将来的に「ヘビー・ユーザー」になる可能性が高い人たちをデータマイニングで発掘するというわけだ。同社ではこの手法により、すべての会員をA〜Eにカテゴリー分けした。ここでポイントになるのは、単に過去の取引実績だけをカテゴリー分けの指標にするのではなく、“予測”の観点を取り入れている点である。これにより、前年の購買実績が低くても、翌年に急激に伸びて上位のカテゴリーに入る顧客を見つけだすことができたという。今までの過去のデータのみに重点を置いたプロモーションから、一歩抜き出た手法と言えるだろう。マイニングに活用されたデータは属性、購買履歴。この優良顧客の識別のためのデータマイニングにおいて、特徴的であったのは、その傾向がいわゆる「RFM(リーセンシー・フリクエンシー・マネタリー)」に近い要素も併せもっていたということである。上位10%になる可能性の高い、いわゆるAカテゴリーの会員には、頻繁にカードを使っている顧客、過去半年から1年の間に高額の利用があった顧客が目立った。インターネットをはじめとした利用分野の広がりを背景として、極めて多様な分野での利用も特徴として表れていたという。同社ではこのモデルをベースに、カテゴリーに応じた提案サービス・メニューの体系化等を進めている。
DC Webサービスのサイトhttp://www.dccard.co.jp/internet/dcweb/shikumi.shtml
夏から秋にかけて本格的なWebサービス開始を計画
また同社はウェブ・マイニングを検討中である。インフラとしては、IDパスワードを入力することで支払金額や利用履歴の照会ができるサービス、「DC Webサービス」を1998年10月にスタートさせた。この種のサービスはカード業界では初であった。このサービスの狙いは、請求金額の確認を頻繁に行う顧客(=カードの使用頻度が高い顧客)を囲い込むことである。顧客のID登録は無料だが、登録に関して特別なキャンペーン等を行わなかったことで、本当にこのサービスを必要とする、真に優良な顧客(以下、 Webサービス会員)の獲得を実現しているという。これらの Webサービス会員は、サイトに訪れる頻度もかなり高く、同社のアウトバウンドのひとつである請求金額が確定するとEメールで知らせるサービス「DC@メール」などを通じて、非常に密なコミュニケーションを取ることに成功している。 Webサービス会員の多くは、前述の同社がカテゴリー分けした会員の中でもA、Bの上位のカテゴリーの会員と重なり、特にAの会員のシェアが高い。
サイトに来訪した Webサービス会員は、IDパスワードにより個人を特定できるわけだが、近い将来同社では個々の会員についてクリック・ストリーム分析ができるツールを本格的に導入する予定である。このツールの導入により、 Webサービス会員がどのように動いたか、どのような行動を起こしたかを的確に把握することができるようになる。
さらに会員に向けた利用明細お知らせページを2001年4月1日に従来のHTML形式から、XML形式に切り替えた。これはブラウザの限定から、XMLを表示できるブラウザでのみ表示できるが、対応していないものに関しては、HTML形式に戻して表示しているということだ。今後はこれらのツールの組み合わせにより、2001年の夏から秋を目安に、One to Oneの Webサービスを計画中という。具体的なサービス内容はまだ公開されていないが、XMLの使用により、請求月順に明細を並べたい、利用日順に並べたい、海外利用分のみをまとめたい等の顧客の要望に応えられるようなサービスを検討中である。
さまざまなチャネルを有効活用
同社では、前出のMCIFの導入には構想に1年を要したという。何に活用し、どういった戦略を立て、どのようなデータを収集するのかといったことを明確にした上でデータベースを構築したので、データマイニングの実用化も大変スムースに進んだということだ。目標を定めず、「とにかくデータマイニングの導入を」という企業も多い中、しっかりとした目的意識をもってのツールの導入が、何においても同社の成功のポイントだろう。
One to Oneに近いかたちでカスタマイズしたサービスの提供については、まだこれからであると同社では認識している。実践面においては上記のようなさまざまな試みをしているが、それらひとつひとつの完成度を高めていくことが今後の課題であるという。前述のようにウェブに関しても積極的な姿勢で臨んでいる同社であるが、「ひとりの顧客にひとつのチャネル」と考えるのではなく、インターネット以外の、郵便、電話といったチャネルも複合的に活用し、効果を検証してモデル化していきたいとしている。
データマイニングを有用に活用することで、確実な成果をあげる一方、人間の経験に基づく仮説も重要だという同社は、これらをうまく結び付けてさらなるOne to Oneを実現、理屈だけでない、本当の意味でのCRMを実践していきたい考えだ。