「富士ファーストクラブ」のコンセプト
富士銀行は1998年3月から会員制サービス「富士ファーストクラブ」を開始した。富士ファーストクラブの開設は、一般に言われる「2対8(ニッパチ)の法則」が同行にも当てはまったことに端を発する。この優良顧客の囲い込みのために設けられたサービスが富士ファーストクラブであり、同行の利用顧客に「利用すればするほど満足していただける価値」を提供し、信頼関係を一層強化していくことを目的に“他行にないサービス”を目指した。同行は、富士ファーストクラブが、顧客との長期的な取引を維持・成長させ、重層的な取引の促進を推進する原動力になると期待している。
富士ファーストクラブには以下の3つのコンセプトがある。
ひとつめは、金融サービスと非金融サービスを組み合わせること。非金融サービス、「ライフスタイル・アドバンテージ」は、富士銀行と提携した、全世界で7,000万人の会員を有するセンダント コーポレーションの日本法人、(株)センダント ジャパンが提供している。2つめは獲得ポイントに応じたメリット・バック。他の多くのポイント制が一定のポイントに達するまでは使えないのに対して、富士ファーストクラブでは、1ポイントを5円に換算して、いつでもポイント数に応じたギフトカードと交換することができる。そしてもうひとつは、有料サービスであることだ。
有料でもメリットを感じてくれる顧客を対象に
富士ファーストクラブには「プレミアムコース」と「スタンダードコース」がある。手数料はプレミアムコースが月額525円、スタンダードコースが月額262円。学生は学割料金で入会できる。入会条件は富士の総合口座をもち、ファーストクラブ・テレホンバンキングに加入していること、また入会時点の「普通預金または貯蓄預金の残高(合算も可)」または「1カ月以内に遡って作成(書替)した定期預金(積立)の合計残高」がプレミアムコースで10万円以上、スタンダードコースで5万円以上あること。契約は1年ごとに更新され、更新の際も入会時と同様の条件が適用される。また会員の都合により契約を解消することもできる。
プレミアムコースでは用意されたすべての特典を受けることができる。スタンダードコースはショッピング・サービスを中心とした「ショッピングコース」か旅行サービスを中心とした「トラベルコース」かのいずれかのサービスを選ぶ仕組みだ。これらのサービスの中で特筆すべきは、前述の「ライフスタイル・アドバンテージ」だ。この非金融サービスは、10万点を超える世界の一流ブランド商品がディスカウント価格で購入できる「ショッパーズ・アドバンテージ」と海外パッケージ・ツアーが5%割引で利用できる「トラベル・アドバンテージ」、有名ホテルが最大50%の割引料金で利用できる「ホテル・アドバンテージ」からなる。
富士ファーストクラブがターゲットとしているのは、「画一的な商品提供では満足せず、マン・ツー・マンで対応することによってある程度の囲い込みが期待できる『プライベート・バンキング』層」である。他行がどちらかというと「(囲い込みが難しい顧客を)切り捨てる」という発想であるのに対して、同行では「すくいあげる」ことを発想の根幹に置いている。
たとえばプレミアムコースに入会した場合、年間手数料は7,200円になるが、ほとんどの会員がこれを上回るポイント数を獲得している。富士ファーストクラブは既存顧客・新規顧客の双方を対象としているが、有料だからこそ、それ以上のメリットを享受できる優良顧客を確実に組織することができるのである。告知、申込は店頭のみで行い、同行側から積極的な営業をかけることはしていない。
会員は個人口座数の6%
富士ファーストクラブの入会動機には以下のようなものがある。
(1)ATMの時間外手数料が無料であること
(2)住宅ローンの優遇
(3)テレホンバンキングの利便性
(4)ポイント制
(5)キャッシュカード盗難保険
このほか、テレホンバンキングやサイバーバンクなどの普及にともない、お客様番号と暗証番号が盗まれて他人に不正使用された場合に備えた保険の人気が高まっているが、会員にはこれらの保険の補償額が大幅にアップするというのも魅力のひとつだ。
富士ファーストクラブの会員数は「プレミアムコース」、「スタンダードコース」を合わせて80万人(2001年3月末現在)。これは同行の個人口座数の約6%に当たる。コース別で一番多いのはショッピングコース。以下、プレミアムコース、トラベルコースと続く。ショッピングコース、トラベルコースは女性の会員が多く、逆にプレミアムコースは男性会員が多いということだ。
預かり資産のうちの会員が占める割合は約3割。その中で投資信託、外貨預金に限っていうと6割、住宅ローンでは5割が会員によるものである。さらに住宅ローンの2000年1年間の純増実績5,500億円のうち、会員が占める額は5,200億円。また金額の増加分に注目すると、預かり資産の増加分の5割が会員によるものであり、投資信託、外貨預金にいたっては7割が会員によるものである(数字はすべて2001年3月末現在)。同行では当面の目標会員数を300万人としている。当初の目標どおり、優良顧客の取引の維持・拡大が実現されているのがわかる。
「富士ファーストクラブ」のパンフレット
顧客のライフ・タイムバリューを推進
同行では銀行業界に特有の顧客流出の兆候を見る指標として、「年齢」に応じた取引量の変化を挙げている。銀行の目標のひとつは顧客のライフ・タイム・バリューを高めていくことだが、人生の節目の年齢(あるいは年代)──たとえば就職、結婚、住宅の購入、子供の進学などの際に取引を増やすことが肝要。もし利用が増えていなければ、それは銀行にとって顧客流出の“兆候”なのである。しかしこれは見方を変えればチャンスでもある。
10年ほど前までは銀行においてはマスマーケティングが主流であったが、現在では周知のとおり、より緻密なマーケティングが求められてきている。それには蓄積した顧客情報をいかにうまく活用できるかがポイントになるが、同行ではRMDB(リレーションシップ・マーケティング・データベース)の導入により、有効な顧客情報の活用手法を構築済みである。
RMDBは同行のすべてのチャネルから集まってくる顧客情報をひとつに集約化したもので、同行が顧客とどういう取引をしたか、どこで誰が顧客と対応したか、顧客とどういった会話をしたかといった詳細な情報を共有化できるシステムである。
また同行は、2000年9月に(株)第一勧業銀行、(株)日本興業銀行とともに総合金融グループ、「みずほフィナンシャルグループ」を創設した。みずほフィナンシャルグループは、「最先端の総合金融サービスで、新時代をリードする革新的フィナンシャルグループ」を目指しており、同行も「みずほ」としてのブランドイメージの一般への浸透にも今後ますます力を入れていく考えだ。