商品企画から、マーケティング手法までライフサイクルすべてに顧客の声を反映

松下電器産業(株)

タイムリーにニーズに応えるEコマース&コミュニティサイト「パナセンス」

 幅広い製品ラインナップと、全国2万店のナショナルショップという強力な販売網を誇る松下電器産業(株)。同社では、生活者の価値観や志向が多様化している現在、事業拡大を図るためには、タイムリーに顧客のニーズをつかみ、製品に反映する姿勢が不可欠と考え、2000年4月、Eコマース&コミュニティサイト「パナセンス」をオープンした。
 これは、掲示板やメールマガジン等による顧客との双方向コミュニケーションをベースに、ニーズに応える商品の企画・販売、情報提供を行うもの。
 Eコマースでは、パソコン、一部の家電製品などのほか、アクセサリー、周辺機器等を約1,000点販売。一般の店舗では品揃えが少ない商品も、購入翌日に顧客の手に届く利便性を備えているほか、色やロゴを自由に選んでオーダーメイドの自転車を購入できる「自転車お仕立て工房」というカスタマイズ販売のコーナーも用意している。また、カーナビのソフトなど定期的にバージョンアップされる商品については、同サイトで旧バージョンを購入した人に、新バージョン発売の数カ月前から案内メールを送るなど、きめ細かにニーズに応える工夫を施している。一方でコミュニティ機能では、同社はワインセラーも扱っていることから、ワインをよりおいしく飲むための情報提供・意見交換を行う「ワイン倶楽部」を用意。ほかにも同社の商品関連の情報について、掲示板方式でB to C、C to Cで意見交換できる3つのコンテンツを確保している。
 そして今回紹介するのは、2001年1月にスタートした「デザイン工房」。顧客の意見をもとに、商品のコンセプト作りから商品化、市場導入、サービスまでを創造する、商品開発に特化したコンテンツである。

松下電器HP-1 松下電器HP-2

「パナセンス」(http://www.sense.panasonic.co.jp/)と「デザイン工房」のトップページ。


顧客との共同実験店舗

 「デザイン工房」の狙いは、顧客との双方向コミュニケーションにより、顧客が真に欲している商品・サービスを生み出すこと。顧客の意見は、特定のテーマを設けたアンケート、またテーマについて自由に発言できる掲示板で集める。商品開発に向けて、設問を変えたアンケートを数回繰り返すことで、徐々により深くニーズを聞き込んでいくわけだ。
 具体例を挙げよう。現在実施中の第1回アンケートのテーマは「贈り物」。モノにこだわりのある人は、贈り物でも自分のセンスにこだわりをもって選ぶもの。その「こだわり」に応える商品開発をここで実現しようというものだ。
 今回のアンケートでは、ギフトを贈る歳時や、実際に贈ったことのある製品、自分の思いを伝える有効な方法など、ギフトにまつわるさまざまなニーズを聞き出している。今後は、この回答を踏まえ、第2回、第3回と、より商品開発に絞り込んだ質問を設定。一例としては、回答をもとにデザイナーがコンセプトやラフ案を制作して工房に掲示し、再び顧客の意見を募る。それをさらに反映して、商品が具体的な形になった時点で人気投票。最終的には市場導入を目指すといったことも視野に入れている。
 「デザイン工房」最大の特徴は、商品開発のみに終わっていないこと。前述した第1回アンケートの「自分の思いを有効に相手に伝える方法」といった設問からもわかるように、商品のニーズだけではなく、それを贈る際に希望する状況までも聞き込んでいる。つまり冒頭でも触れたが、商品開発と同時に、その市場導入の仕方、導入後の商品関連サービスといったマーケティング手法にまで、顧客の意見を取り入れる姿勢を貫いているのである。この点から同社は、「デザイン工房」を「顧客との共同実験店舗」と明確に位置づけている。

「マス・カスタマイズ」に全社的に取り組む

 「デザイン工房」の会員には、オープンして1週間で実に約1,300名ほどが集まった。前述の第1回アンケートも応募は約6,000。また、アンケートのテーマと連動して意見を集める掲示板も設けているが、そこにも2月上旬の時点で60件程が書き込まれた。「子供やお年寄りでも簡単に操作できるシンプルなメール送受信機があれば」など、具体的な商品提案も20件ほど寄せられ、同社では今、大きな手ごたえを感じている。
 しかしサイト立ち上げ当初は、「顧客の要望にどこまで応えられるのか」という不安もあった。
 というのも、大規模メーカーである同社の生産システムは、大量生産・販売を前提としたもの。顧客の声に応えるとはいえ、完全なカスタマイズではなく、大多数の要望に応える「マス・カスタマイズ」を行うことが条件となる。そのため商品化に当たっては生産ライン、品質基準、原価構成等、商品開発以外にも、あらゆる問題を考慮した全社的な取り組みが必要となるのだ。
 そこで同社では、掲示板の書き込みや、「Q−BOX」というコーナーで日常的に受け付けている意見・質問を、関連の担当者にメールで送付。具体的な商品提案については、関連の事業部に問いかけて商品化を検討するなど、各事業部との連携を図っている。ちなみに、こうした運営は「パナセンス」全体を管轄する松下ネットワークマーケティング(株)と松下電器総合デザインセンターが共同で担当。単に顧客の意見を集めるのではなく、それを確実に商品化につなげるバックオフィスの仕組みを確立している点も「デザイン工房」の大きなポイントだろう。
 従来はデザイナーの強い要望があっても、社内的な理由で商品化されないものも多かった。しかし、こうした社内の仕組みは“こんな商品を作りたい”というデザイナーらの“思い”を顧客に問うことを可能にし、商品開発の可能性を拡大した点でも非常に意義深い。

パナセンスの目指す姿

“川下”の顧客と“川上”のメーカーを橋渡し

「デザイン工房」では、アンケート、掲示板のほか、世界各地で活躍する社内デザイナーが、各地のトピックスをデザイナーの視点からリポートする「ワールドレポート」、照明器具、小物ストッカーといった、幅広いジャンルのオリジナル作品を募集・掲載する「マイギャラリー」などを用意。また、「ショッピング」というコーナーでは、「デザイン工房」で誕生した商品を実際に紹介・販売していく予定だ。販売やアンケートだけではなく、エンターテインメントを充実させることで集客と継続的な双方向コミュニケーションを図る姿勢は「パナセンス」全体のテーマとなっている。
「パナセンスは、さまざまなニーズをもつお客様と我々がOne to Oneで直接お付き合いし、継続的にその声を汲み取っていくサイトです。そして意見を元に新商品・サービスを生み出し提案していく、言わば流通の川下である顧客と、川上であるメーカーの橋渡しをするものと定義しています。特にテーマをモノ作りに特化した『デザイン工房』は商品開発から市場導入、サービスまで、すべてをお客様とともに創造していく点で、新たなビジネスモデルといえるのではないでしょうか」(松下ネットワークマーケティング(株)ビジネスプランニンググループ ゼネラルマネージャー 木下健氏)
 今後は、アンケートを1カ月に一度のスパンで実施。顧客の要望をより深く聞き込み、できるだけ早い段階で、新商品を提案していく計画。また意見・質問の顧客データベースと、実際に「パナセンス」で商品を購入した顧客のデータベースを一元管理。顧客のもつ意見と購買動向を結びつけてニーズを先読みし、よりタイムリーに顧客の要望に応えていく考えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年3月号の記事