生活者の「空想」を実現するDesign To Orderという新たな方法

エレファントデザイン(株)

本当にほしいものを手に入れる

 現在は数多くの製品が存在する時代。特に家電をはじめとする工業製品は種類も充実。機能面、価格面ともに接近した製品が多いだけに、デザインが購入動機の鍵を握る傾向が強まっている。しかし、種類は多いにもかかわらず、自分好みのデザインを探してみると、意外に見つけにくいのが現実だ。
 そんなニーズに応えたのが、エレファントデザイン(株)が運営するサイト「空想生活」だ。このサイトは生活者からほしい製品案を募集し、それをもとに同社とパートナー関係を結ぶデザイナーがデザイン案を作成。サイト上に発表して、投票形式でその製品の購入希望者を募り、生産可能なロット数に達し次第、メーカーに依頼して生産・販売を実現する、というものだ。本来工業製品は、その製品専門の技術開発や金型が必要なため、オーダーメイドは不可能だった。しかし「空想生活」はこうしたDTO(Design To Order)を実現するとして、99年1月のオープン時(当時のサイト名は「空想家電」)から大きな注目を集めている。
 理念は「本当にほしいものを手に入れる」こと。これは同社代表取締役、西山浩平氏自身の希望でもある。同氏はかつて、携帯電話の品数がまだ乏しかった当時、好みのデザインの電話を見つけることができなかった。そこでデザイン案をCGで作成。住所と電話番号を入れたチラシを制作し、東京・表参道で通行人に配布。「ほしい」という人を募ってみると、予想外に多くの人から反応があった。そこで、今度は出版社にこの企画を提案。雑誌上で同じデザインを発表し、ハガキで意見を募ったところ、これも反響を呼び、生産可能なロット数に達する購入希望者を集めることに成功。メーカーに交渉し、同氏がほしかった携帯電話カバーの商品化を実現したのだ。
 現在の「空想生活」は、この経験がベースとなっている。つまり、多くの人との双方向コミュニケーションを低コストで実現するインターネットが、生活者のニーズを集めてメーカーに伝達することを、ビジネスとして成立させたわけである。

エレファントHP

http://www.cuusoo.com/

意見を募りつつ商品化を進める

 「空想生活」の利用は会員制。会員になると、月2回メールマガジンが配信されるほか、ほしい商品の商品化への進捗状況など、自分の望む情報のみを集めたカスタマイズページ「マイインデックス」が利用できる。現在、会員数は1万3,000人。トップページビューは1日当たり1万8,000と高い人気を博している。
  商品化の手順は図表の通り。まず「ほしいもの提案室」というコーナーに、利用者は自分の望む製品アイデアを送信。その後、提案は30日間公開され、その間に投票形式で、商品化を望む賛同者を募る。公開終了後、同社スタッフが投票結果と提案内容を審査。「注目アイテム」と認定された提案のみ商品化候補と決定する。
 その後、デザイナーが提案をもとにデザイン案を作成。サイト上に発表し、再び利用者の意見を募る。人気を集めた提案のみ、同社がメーカーに打診。生産の概算見積り、試作品制作の段階まで話を進めると同時に、サイト上で「最終投票」を実施。候補のうち、「どの商品を、いくらで購入したいか」といった購入条件とともに再び投票を募る。その結果、最小ロットに達した時点で、提出された購入条件をもとに最終仕様、価格、販社などを決定。正式に予約を受け付けるといった具合だ。ちなみに、提案から予約受付までの期間は約3カ月。現時点で商品化・販売に至った商品はMDケースなど3点。商品化候補は73点にも及ぶ。
 なお、デザイン案の公開時には、各製品ごとに掲示板を設置。利用者同士で製品について意見交換しつつ、投票するか否かが決められる。こうしたコミュニティ機能も、サイトの人気を高めている一因だろう。また、掲示板や投票時に寄せられた意見・要望は蓄積してデータベース化。デザインがテーマなだけに、「嗜好性」を軸に自社でマイニングし、その傾向値を実際のデザインとマッチングさせている。

生活者、デザイナー、メーカーのすべてにメリットを約束

 こうした取り組みは、「空想生活」に賛同し、自主的にパートナー関係を結ぶデザイナー、メーカーの存在があってこそ実現できるものだ。同社ではサイト上で、登録デザイナー、メーカーを常時募っているが、現在デザイナーは450名、メーカーは中小企業を中心に100社に上る。
 特にデザイナーには人気が高い。というのも、一般にメーカーに所属する工業デザイナーは、たとえばエアコンのリモコン専門など、担当するアイテムの幅が限られている。さらに技術的、コスト的な設計要素を考慮せねばならないなど、あらゆる制約が存在する。その点で利用者の声をカタチにする「空想生活」では、自分の“思い”を発表できる。そして、こうした志向をもつデザイナーが多く集っていることは、提案を質の高いデザインに具現化してくれる点で、利用者にとっても大きなメリットとなっているのだ。提案はEメールで提出されるものがほとんどだが、デザイナーが提案者と直接メールでやり取りし、その要望をきめ細かく聞き出すこともあるという。
 一方で、登録メーカーは自社工場をもつ中小企業がメイン。生産可能な予約数が集まった商品の製造権、販売権をメーカーが取得する契約となるが、在庫リスクを抱えずに済む点が好評を博している。

空想生活

確実に普及しつつあるDTO

 松下電器産業やソニーがユーザーの要望に応じて、製品をカスタマイズ販売するなど、DTOは徐々に大手企業にも浸透しはじめている。これにともないDTOをネット上で行う同社のシステムを、製造機能と流通機能をもつ大手メーカーにOEM供給するケースも増えてきた。実際、98年の同社の調査でも、生活者は「製品の機能、価格面よりも、デザインに満足していない」という結果が出ている。
「従来のマーケティングは、作ったものをどう売り切るかがテーマ。また、メーカーが商品企画の段階で生活者にほしいものを聞くことはあっても、商品化途中で意見を聞くことはありませんでした。しかし『空想生活』では、企画段階はもちろん、商品化の過程でも生活者の意見を聞きとっています。これは同時に、いかに必要のないものを作らないか、という技術でもあるんです。生活者は真にほしいものを、適切な価格で手に入れる。メーカー側は必要なものを、必要な分だけ製造する。『空想生活』を通して、DTOがもっと身近で便利なサービスとして普及していくことを望んでいます」
 2001年1月、Ver6.5として7度目のリニューアルを行うなど、ますます内容の充実を図っている「空想生活」。今後は海外へのサービス提供も検討。ネットの双方向性、スピードを活かしつつ、多くのユーザーの「空想」を忠実にカタチにしていく考えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』2001年3月号の記事