1999年にIMC専門組織を設置
IBMは、周知の通り全世界に拠点を持つグローバル企業。1937年に設立された日本IBM(株)も、情報処理システム、通信システムなどの分野で高い実績を築いてきたが、国内向けの製品・サービスブランドに関しても、IBMのワールドワイド戦略が貫かれている。
現在IBMがブランディング戦略の核として打ち出している言葉は「e-business」。同社はこのキーワードを「インターネットを活用した新しいビジネスの仕組み」と定義。これには「ネットワークとコンピュータを経営戦略に有効に活用し、企業の基幹システムと関連会社、協力会社など、すべての関係者をインターネットで結びつけ、ビジネスプロセスの全過程に大きな変革をもたらし、企業に新たな競争力を作り出すもの」という意味合いが込められている。したがってIBMは「インターネットをビジネスに取り入れる際、ただ単にハードウェアやソフトウェアを提供するのではなく、各企業のビジネス環境を把握し、ビジネスプロセスをより効率的なかたちに変える“ソリューション”を提供する」という姿勢を明確にしている。
日本IBM(株)を含む、米国IBM以下、全世界の拠点では、顧客とのすべてのコミュニケーションにおいて、この理念を反映させるよう配慮。IBMとしてひとつのブランディング戦略を実施し、顧客との良好な関係づくり、すなわちCRMを推進している。
IBMは、こうしたコーポレート・ブランディング戦略を実現するため、全拠点のマーケティング部門に、IMC(インテグレィテッド・マーケティング・コミュニケーション)専門の組織を1999年から設置している。
ヨコ軸とタテ軸でマーケティング活動を統合
日本IBM(株)のIMC組織は、基本的に米国IBMの体制を踏襲している(図表参照)。
マーケティング・コミュニケーションにはさまざまな手段があるが、同社はそれらを、ウェブ、コールセンターなどの「ダイレクト・マーケティング」、「インタラクティブ・マーケティング」、広告などの「アドバタイジング」、イベントなどの「イベント・マーケティング」、フェアなどの案内の際、ターゲット顧客を選出する「データベース・マーケティング」という手段ごとに分類し、5つの専門組織としてIMCの元に設置している。
また、同社はさまざまな製品・サービスを提供しているが、その業態カテゴリー別に、ソフトウェア・グループ、サーバ、サービス、インダストリー・ソリューション・ユニット(産業別営業部門)など8つのブランド、および、ビジネス・ユニットがあり、これらに対応するプランニング組織を、IMC組織の元に設置している。プランニング組織には各ブランドごとにプランナーという担当があり、社内のさまざまな事業部が主催するキャンペーンに際して、「そのキャンペーンで担当するブランドをどうアピールしていくか」というマーケティング・コミュニケーション戦略を立案。同時にそれを「どうIMCのプランとして展開していくか」を考える。プランナーは、そうしたブランド組織の意見のまとめ役となる。このプランナーが中心となり、IMCの各組織からの担当者とともに、ブランド、およびビジネス・ユニットごとのバーチャルチームが作られている。
このIMC内の5つの組織は相互に機能しあい、各ブランド組織が立案したマーケティング・コミュニケーション戦略の内容が、ブランド間で統合されるよう調整する役割を担う。つまり、①各事業部がキャンペーンを計画、②IMC組織が各事業部と一緒にキャンペーン内容の検討、実施計画、問い合わせに対するフォロー体制といった一連の流れを考案。その際、③各ブランドのバーチャル・チームそれぞれに意見を出し合い、広告、イベントなどのブランドのマーケティング戦略にタテ串を通す。同時にプランナーは、広告、イベントなどで打ち出すイメージが、各ブランドによって異ならないようヨコ串を通すというわけだ。
どの顧客接点からも読みとれる一貫したメッセージ
昨年、e-business事業部の主導で実施した「e-businessキャンペーン」を例にとり、IMC組織の動きを見てみよう。
まずe-business事業部は、インターネット・ユーザーの動向を把握したり、競合他社製品の販売状況などを分析。市場における自社のポジショニングを明確にし、それに基づいた戦略プランと「e-businessキャンペーン」で最も訴えたいこととして、「ストラテジック・ブランド」戦略を立案した。
そこでIMC組織が参画。「ストラテジック・ブランド」を効果的に打ち出すには自分のブランドはどうすればよいのかというブランドごとの戦略(カテゴリー・ブランド)をプランナーが考え、広告、イベントなどの具体的プランを練った。同時に、各ブランドの広告については「アドバタイジング」が、イベントについては「イベント・マーケティング」が各ブランドのプランナーと協議し、イメージ統一を図った。
この結果、すべてのブランドのマーケティング・コミュニケーションが統合。「ストラテジック・ブランド」は各ブランドがもつ個々の製品・サービスのイメージに踏襲されたわけだ。もちろん「ストラテジック・ブランド」は、前述のIBM全体の理念、コーポレート・ブランドに基づいている。つまり「IBM(コーポレート・ブランド)が考えるe-businessは、このソリューションで実現できます(ストラテジック・ブランド)。それにはこの製品・サービスが必要で、この製品はこういうことができます(カテゴリー・ブランド)」といったIBMの一貫したメッセージを、広告、イベントなど、すべての顧客接点から伝えることができたのである。
もちろん、この実現のためには、CMや 広告などの制作レベルにまで気を配る必要があるのは言うまでもない。CMなどの基本内容はすべて米国IBMが企画し、各拠点はそれに基づいて制作しているのだ。自国の状況に適合するようアレンジはするが、基本イメージは全世界共通。広告代理店も全世界でオグルビー&メイザー1社に絞っている。
オールマイティなスタッフを育て、IMCをレベルアップ
IMC組織によるコミュニケーション統合の成果測定は、外部の調査機関に依頼。やはりこの調査機関も1社に絞り、毎回同じ調査内容でキャンペーンごとに顧客の反応などをチェックしている。もちろん日本IBM(株)もキャンペーンごとに結果をチェックするが、IMCの結果は確実に数字に現れている。
前述の「e-bisinessキャンペーン」では、あらゆる規模の企業のストラテジストなど約500人を対象にしたアンケートの結果、「e-businessを知っているか」という質問に対し、「知っている」と答えた人は、キャンペーン開始時点から約9ヵ月で78%から89%に増加。「e-businessと聞いて想起する企業はどこか」という設問でも「IBM」と答えた人が最も多かったのだ。もちろんこれは収益にも反映され、目標値を達成。現在展開中の「CRM・BIキャンペーン」でも同様の成果が現れている。
しかしIMCは効果が高いとはいえ、いくつもの組織を統合するのは決して容易なことではない。同社では、昨年は各ブランド間、いわゆるヨコのコミュニケーションの円滑化に重点的に取り組み、今年はIMCの組織間、つまりタテの強力な連携の強化に力を入れている。その一環として、「アドバタイジング」「ダイレクト・マーケティング」など5つの専門組織のスタッフを、約1年ごとに数人ずつローテーションする考え。一人ひとりのスタッフが幅広いマーケティング活動のノウハウに精通することで、よりレベルの高いIMCを実現していく意向だ。
「顧客のマインド・シェアを向上させ、着実にマーケット・シェアに反映させることがIMC組織の役割。そのためにはスタッフが各マーケティング・コミュニケーションのノウハウを経験した上で、それらを統合するIMCのスキルを学ぶことが有効。今後もウェブなどを効果的に活用して、よりOne to Oneに近いかたちで、IBMとしてひとつのメッセージを伝えていきたいと思います」(日本IBM(株) マーケティング インテグレィテッド・マーケティング・コミュニケーション担当 木田晴夫氏)