顧客をより深く理解するために

英・British Telecommunications社

顧客のプロファイルを作成

 英国通信業界の競争は、年々熾烈さを増している。British Telecommunications社は、年間売上高290億ドルを誇る英国最大手の通信会社であるが、国内には同社と競合する通信関連企業がおよそ160社存在する。こうした中で競争優位性を維持し、国内外における電話、およびデータ・サービス供給のリーダー的存在であり続けることは容易ではない。既存顧客の維持、新規顧客の獲得、それにともなう売上増大を実現していくためには、自社商品、およびサービスを、誰が購入しているのかを知る必要がある。また、貴重なマーケティング予算を最大の収益に結びつけるためには、顧客の購買傾向と、将来における顧客の価値を予測しなければならない。そこで、同社ではまず精確な顧客のプロファイルを作成し、その後、特定の顧客を対象とした新商品を開発することを意図して、データを分析し、探索モデルを構築する取り組みを開始した。
 まず、同社のビジネス・コネクション部門内に、シニアコンサルタントをリーダーとするチームを結成し、顧客属性とキャンペーンへの反応の関係についての分析に当たった。チームの最初の仕事は、1998年9月に発売された同社の商品「Business Highway」の顧客プロファイルをモデリングすることであった。「Business Highway」は小規模事業者をターゲットとしたサービスで、1回線につき3件の電話番号(1件が標準、2件がデジタル対応)を提供するもの。発売と同時に大規模なダイレクトメール・キャンペーンと全国的なメディア戦略を展開した。
 この「Business Highwayキャンペーン」では、ダイレクトメールへの返信率を通例の2倍に増大させ、セールス、およびマーケティング部門に、対象を絞り込んだ“最良の見込み客”リストを提供することに成功した。
 当初、マーケティングに有効な顧客の属性、商品、請求、購買履歴といったデータは、全社に散在していた。そこで、同社ではデータベース・マーケティングを行うために、それらのデータを一元化して新規のデータマートを構築することからはじめた。データを保存先のシステムから抽出し、準備する段階で、データのマッチングからクリーニング、統合に至るまでの作業を行わなければならないため、かなりの時間を要したという。しかしこれは、データの分析作業を開始するために必須の行程であった。

データマイニングで最良の見込み客を発見

 データ分析と実験的モデリングのための主要ツールとしては、広範囲な分析手法を活用でき、外れ値、欠損値、有用性の低さなどデータ上によく見られる問題を容易に扱えることから、SPSSのClementineを採用。
 データ分析の作業過程では、データの質を識別し、データ全体とその分布を理解するとともに、「Business Highway」の購入決定への関与度が低いと思われるデータ属性を排除。そして、顧客の購買傾向との関係について、個々のデータの属性の予測を数値化した。その結果、2桁の地域コード、つまり地理的因子と、ダイレクトメールへの返信率、および購買データとの関係が明確になった。
 さらにこの分析結果をもとに決定木の手法を使い、一連の実験モデルの構築と検証を実施。これをビジュアル化することで、顧客選択に最適の条件を明らかにすることができたのである。
 同社はデータマイニング・ツール・キットを使用した成果を「データマイニング・プロジェクトで迷子になってしまうことなく、さまざまなアイディアを即座に試せるので、ミスを事前に防ぎ、失敗によるコストを削減できた。数多くの探索モデルを、わずか2、3日で構築できる」、また「我々はBusiness Highwayを購入する可能性のある最良の見込み客リストと、なぜそれらの顧客に話をするべきかを示したチャートをセールス&マーケティング部門に提供できた」と評価する。
 データマイニングの導入により、対象顧客への理解が深まるとともに、通信市場におけるそうした顧客の行動パターンを把握することが可能になった。同社では、データマイニングによって導かれた結果は、将来のマーケティング・アクティビティの指針になり得ると考えている。今後はこの手法をマーケティング・キャンペーンに対する返信率、および製品売上や市場シェアの拡大に向けて積極的に展開していく方針で、たとえば、いわゆる“顧客離れ”のパターン判別などにも応用していく考えだ。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年12月号の記事