来店動向を把握して、顧客ニーズに応える

西九州ウェルマート(株)

数でなく“個客”としての対応

 長崎県佐世保市にある西九州ウェルマート(株)は、1998年度売上高130億円の地元密着型の食品スーパーである。1958年に(有)ますや商店として創業、日本ではまだ珍しかった、顧客が自分で商品を選んでレジへと運ぶセルフサービス形式をいち早く採り入れるなどして、事業を拡大してきた。現在は西九州でスーパーマーケット18店舗と書店2店舗を経営している。
 同社は、顧客データの収集とその活用に基づいた顧客囲い込みを推進中。具体的には、購入金額に応じてクーポン券を発行するシステムと、会員制カード・システムとを連動させたポイント・サービスを実施している。
 同社がこうした取り組みを開始したのは、1983〜1984年頃の造船不況がきっかけだった。その時期には何を売っても、何をやっても売れず、同社も戦略の転換を余儀なくされたのだ。ちょうどPOSシステムが普及しつつある頃であったが、同社は顧客データの活用に重点をおき、投資を決定。(株)ロイヤルオペレーションのシステムを導入し、顧客を単に数ではなく、異なるニーズをもったひとりひとりの“個客”としてとらえる戦略の展開を開始した。
 まず、1994年に以前から実施していた顧客サービスを強化して、購入金額500円ごとにクーポンを発行し、それがたまると店頭の特売品や特定商品、そのほかカタログに掲載されたブランドものの雑貨などと交換できるサービスの提供と併せて会員制のポイントカードを発行した。
 ポイントカードの名称は「エルカード」。このカード導入の目的は顧客情報の収集にある。
 まず、入会時に、住んでいるエリアや家族構成、誕生日などの顧客の基礎データを集める。このデータは、会員の誕生日にプレゼント・クーポン付きのハガキを郵送するなどの販促に活用。同社は、現在、毎月7,000名の会員にこうしたハガキを郵送しているという。
 そして、来店時に入口に設置してある専用機にカードを通すと、来店ポイントが加算されるシステムを採用。顧客がカードを差し込む際に、自動抽選を行い、7点、35点、50点のいずれかのポイントが加算されるほか、ボーナス・ポイントをつけるなど、顧客がポイントの蓄積を楽しめるように工夫がなされている。また、100ポイントたまるごとに、その場でクーポン券を発行し、当日の買い物に利用できるシステムを導入することで、顧客の来店率を上げるとともに、その来店情報を収集している。
 さらに同社では、収集した情報を基に、会員をAランクからDランクに分類。毎月の来店頻度から顧客の来店動向を把握し、B、CランクからどれだけAランクに変わったのか、あるいはAランクから下位ランクに移ってしまったのかをつかんでいる。A-1、つまり上得意から、来店なしのDランクに転落した顧客があれば、まずは20回分のクーポンと来店を促すご案内をポスティング。再来店がなければさらにもう一度、同様のポスティングを実施する。それでも来店がない場合には、その顧客を直接訪問して、来店が途絶えた理由を直接尋ねるというやり方を採り、優良顧客の店離れを防ぐとともに、原因の解消につなげている。
 同時に各店では、担当地区をいくつかのエリアに分け、地区ごとに任意の会員を抽出して、店員自らが、店の印象や、不満点などを直接聞いてまわる地道な訪問活動を続けている。やはり、直接話をしなければわからないことも多いからだ。これは、訪問する顧客が同社にとってどういったポジションにある顧客なのかをあらかじめ踏まえた上で行われており、貴重な情報収集活動となっている。
 たとえば、同社の大村空港通り店は、売場面積約500坪、年間売上18億円の大型店舗だが、周囲に6店もの競合がひしめく激戦区に立地している。したがって、この店では、既存顧客をいかに維持するかが最大の課題であり、「エルカード」による会員情報の収集と活用が大いに威力を発揮している。
 現在、「エルカード」の会員は5万人。申し込みは、各店舗のサービス・カウンターで受け付けている。
 同社では、今後、顧客データと商品データを統合する計画。これによって将来的には、よりきめ細かいパーソナライズされたマーケティングを展開していきたいと考えている。

生活者の視点を考慮した店づくりを実践

 DMやポイントカードで来店を促しても、最終的に顧客の定着は、店員やレジ係に代表される“人”の力によるところが大きい。そこで同社では、従業員が一丸となって、顧客対応に当たる姿勢を前面に打ち出している。
 たとえば開店前には、バックヤード、レジ担当にかかわりなく、全スタッフが商品棚の整理を行い、全員の目でこの商品が足りない、あるいは配置がわかりにくいなどといった“ここが気になる”というところをチェックし、書き出していく。こうすることで、単に従業員としての発想ではなく、生活者の視点から反省点を洗い出すとともに、従業員間のコミュニケーションが深まっているのだ。
 商品の発注はパートの女性たちにまかされている。担当者は頻繁に商品をチェックし、“今日、仕入れたものは、今日、売り切る”という精神でこまめに商品を発注。これは、“バックヤードでは売り上げは上がらない”という同社山本重信社長の信念による、バックヤードに極力在庫を置かない方針に基づいている。
 このほか、生活カレンダー向上委員会という名称で、パートの女性たちからなる委員会を設け、地域の顧客に喜ばれるイベントの企画を行っている。パートの女性たちは地域情報に精通しており、ここでも、生活者の視点が顧客の立場に立った企画立案に生かされている。
 店員の顧客対応力の強化策として、同社では毎年、チェッカー・コンテストを実施。これは、レジにおいてどれだけ素速く的確な対応ができているかを、店対抗と個人対抗で競うものである。社員には販売士資格の取得を義務づけており、幹部クラス以上は2級販売士、一般社員は3級販売士の資格を取得するように定めている。これは資格の取得が自信につながるだけでなく、社員それぞれが自らの仕事においてクリアすべき課題に主体的に取り組み、道を切り開いていく力を身につけるための社員教育の一環である。こうした基本姿勢を貫くことが、日々の業務への励みとなり、臨機応変な顧客対応を可能にしていると同社では考えている。
 一方で店作りにおいても、数々の新しいチャレンジが続けられている。たとえば、大村空港通り店などでは、一目で商品が見渡せるように、アメリカのスーパーマーケットのレイアウトに準じて90cmの商品棚を20本つなぎ、通路の幅を2mとるなどの配置を採用したほか、どこに何が置いてあるかがわかりやすいように、商品カテゴリーごとにポップを張り付けるなど、商品の見せ方にも工夫をしている。また“じげもん市場”と称するコーナーを設け、地元の生産業者に売場を貸して、各自で値段をつけてもらった青果類を販売するといった試みも行われている。
 同社は常に顧客ニーズに耳を傾け、それに応える努力を続けることで、地域での大型スーパーの指標となるべき店を目指しているのである。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年8月号の記事