インターネットで顧客に“最高の価値”を提供

デルコンピュータ(株) 

インターネットは基本思想を具現化する強力なツール

 デルコンピュータは、1984年の創業以来、15年間で世界第3位のシェアを占めるまでに成長した、コンピュータ・メーカーである。
 同社の成長の核となったのが、「デル・ダイレクト・モデル(以下、デル・モデル)」と称する基本思想だ。これは、顧客とのダイレクトな関係を築くことにより、製品の品質・性能・価格・納期・サービスなどあらゆる面において、常に最高の「バリュー(価値)」を顧客に提供していこうというもの。この思想に基づいて、直接販売と注文生産を開始し、顧客データベースと、資材の調達から受注、生産、物流、配送、サポートに至るまでのすべてのプロセスを一元管理するシステムで、納期とコストの圧縮を実現。これによって生み出された利益をもとに、商品の低価格化を推進し、顧客にもそのメリットを還元している。このサプライ・チェーン・マネジメントの仕組みが、同社の飛躍の大きな原動力である。
 デル・モデルは、図表に示した3つの段階から構成されている。1984年から、第1段階として直接販売と注文生産(BTO:Build to Order)を推し進めながら、各分野のリーダー企業との水平統合的なパートナーシップの確立に基づき、高品質な製品を提供できる技術環境を整備するとともに、データベースに基づいたきめ細やかなサービスで、顧客の信頼を獲得。1992?1993年からの第2段階では、「DellPlus(デル・プラス)」「DellWare(デル・ウェア)」といった、より高いレベルの製品のカスタマイズに対応するサービスを開始。周辺機器やソフトウェアのインテグレーションまでを同社工場内で行うことで、顧客に対する新たな付加価値の提供に取り組んできた。
 そして1995年からは、第3段階として従来から活用してきた電話やFAXに加えて、インターネットによるビジネスとサービスの展開に着手している。同社にとって、インターネットはデル・モデルを実現する究極のツール。受注、物流システムの一元管理が同社の強みだが、これをインターネットを中心とした情報システム網につなぐことで、同社と部品メーカーなどのサプライヤー、そして顧客による「バーチャル・インテグレーション(仮想統合)」が実現した。部品メーカーや輸送機関と情報を共有化することで経営効率を向上させると同時に、これまで以上に顧客にとっての利便性を高めた上、さらにクイック・デリバリーという大きなメリットを顧客にもたらしている。
 日本では1993年に事業を開始。1996年にインターネットを導入。1997年3月、ホームページ上に「オンラインストア」をオープンした。

【図表1】「デル・ダイレクト・モデル」(デル独自の直販モデル)
【図表2】デルコンピュータ日本法人のパソコン輸送の仕組み

ホームページ上のサービスは顧客主導型

 デルコンピュータのホームページのデザインや構成は、多少の違いは見られるものの、同一イメージを保つために世界的にほぼ統一されている。昨年、主にデザイン面で大幅にリニューアルされたが、これはサービス・メニューの拡大にともなってホームページが複雑化してきたため、より少ないクリック回数で、顧客が求める情報にたどり着けるようにとのコンセプトに基づき実施された。このほか顧客のニーズに応えるため、細部においては随時、改善・更新を進めており、特に企業や官公庁、あるいは個人といった顧客層ごとの情報の充実化が図られている。
 顧客は約8割が法人であり、日本でもその比率は変わらない。日本のホームページでは、顧客を法人、SOHO、個人、官公庁、研究・教育機関、医療機関の6つに分類し、それぞれのカテゴリーに見合ったサービスを提示している。さらに法人は、従業員数300人以上とそれ以下に分けて、詳細な説明を掲載している。
 同社がインターネットで提供している主な顧客サービスとして、「オンラインストア」「オーダーステイタス」「プレミアページ」の3つが挙げられる。
 「オンラインストア」では、顧客は自由に見積もりを算出した上で、手順に従ってオーダーできる。オーダーに当たっては、目的に合わせて個々のパーツを選んで、組み合わせることも可能だが、参考として同社の推奨モデルも掲示されている。
 「オーダーステイタス」は、顧客が注文品の納期情報を自分で検索できるサービスである。顧客は注文時に電話、またはEメールで通知されたオーダーナンバーを画面に入力することによって、注文した製品が、たとえばまだ工場で組み立てられている途中なのか、それともすでに配達されようとしているのかといった、現在の状況を知ることができる。毎月のように、さまざまな種類の製品を注文する法人会員には、カスタマーナンバーが与えられ、それを入力すると注文状況や配達状況といった情報を一覧表示で確認できる画面が表れる。オーダーナンバー、お客様注文ナンバー、お届け予定日、オーダー状況の項目を一覧表で見ることができるほか、オーダーナンバーをクリックすると、オーダーごとの詳細情報が表示される。また各項目名をクリックすれば、お客様ナンバー順やオーダー状況順に一覧を並べ替えることも可能だ。さらに、一覧の右端には登録チェックの項目が設けられており、ここにチェックを入れておけば、製品が配送センターから出荷されると同時に、Eメールで顧客に連絡がいく仕組みになっている。
 「プレミアページ」は、パスワードを持った法人会員に提供されているカスタマイズ画面で、世界で8,500社以上が利用している。日本では1998年10月から本格的に稼働。この画面は顧客固有の商品仕様や価格をあらかじめ組み込んだコマース画面となっており、顧客の希望に合わせたコンテンツの作成や変更も可能だ。同社の社印入り見積書をオンラインで入手できるほか、いち早く「XMLフォーマット」に対応したデータ送信機能を装備して、将来的な企業間データ交換時の環境構築も見据えている。1999年2月からは「プレミアページ」において、「Image Watch(イメージ・ウォッチ)」サービスを開始。顧客社内のIT管理者の負担軽減を目的に、同社製品の新規格への移行計画情報などを、半年?1年前から事前に公開提示する。
 3つのサービスはいずれも、インターネットを通じて顧客と情報を共有化することで、顧客自身が自分の知りたい情報を、必要な時に自ら選び、得ていくという形態。同社にとってインターネットはセールスマンの業務を補完するツールであるが、顧客サイドから見ると、求める情報に自由にアクセスできるという意味で、セールスマン以上にメリットが大きいと言えるだろう。

デルコンピュータのトップページ画面URL:http://www.jp.dell.com/

デルコンピュータのトップページ画面
URL:http://www.jp.dell.com/

オンラインストアにはカート機能が備えられており、顧客はカートに入れた製品の価格を確認しながら、何度でもシミュレーションを繰り返して製品を選んでいくことができる

オンラインストアにはカート機能が備えられており、顧客はカートに入れた製品の価格を確認しながら、何度でもシミュレーションを繰り返して製品を選んでいくことができる

インターネット・ビジネスでも電話を活用

 日本の場合、ホームページ上には開封済み、または未開封の返品商品を販売する「デル・アウトレット」や「デル・エクスプレス」が設けられているが、米国には直営店が存在するために、ホームページ上ではそうした販売は行っていない。
 一方、日本と米国に共通している主な特徴は、ホームページのどの画面においても、右上、右下あるいは左下に必ず同社の問い合わせ電話番号が掲載されている点だ。インターネットでのビジネスを推進していく上でも、従来からの電話を積極的に活用していることがうかがえる。
 日本では基本的には顧客からの最初の問い合わせはすべて電話で受け付けており、購入を検討している法人に限ってホームページからの問い合わせもできるようになっている。この場合は、営業マンからの折り返し連絡を待つかたちとなるが、顧客サイドが電話かEメールのいずれか、希望の連絡方法を選択できるようになっている。オンラインストアで直接購入した顧客には、コールセンターから折り返し確認連絡が入る。
 電話には川崎にある日本本社内に設置されたコールセンターが対応、WebやEメールによる問い合わせには、本社営業部が対応している。電話番号は、問い合わせ全般と個人・SOHO、法人、官公庁・学校・病院など5つの専用ダイヤルが設けられている。ちなみに米国では着信課金サービスを導入しているが、日本では一般加入回線を採用。通話料金を負担することよりも、その分製品価格を下げることで顧客に価値を提供したい考えである。
 また、カスタマー・サポート面では、日本でも1994年から他社に先駆けていち早く電話による24時間受付を開始しており、こちらは“メーカーの責任”としてフリーダイヤルを導入している。カスタマー・サポートの電話も同じコールセンターでの受け付け。コールセンター以外の拠点としては東京以外にも名古屋、大阪に営業拠点を構えているほか、サードパーティーと契約することで、故障などの際に修理に向かう全国120カ所のサービス拠点を確保している。
 同社では、現在、顧客が指定した日に製品を届ける「指定納期配達プログラム」を進めており、これにより顧客の一層の信頼を得るとともに、顧客満足をさらに高め、販売を拡大していく意向である。


月刊『アイ・エム・プレス』1999年3月号の記事