“よきモノづくり”に消費者の声を活かす

花王(株) 

「花王エコーシステム」で情報を共有化

 花王(株)が独自の顧客対応システム、「花王エコーシステム」を導入したのは1978年。きめ細かな顧客対応を実現するためにコンピュータ・システムを導入した先進事例として、同社の生活科学研究所は業界内外から大きな注目を浴びてきた。この生活科学研究所は昨年の組織改編によって消費者対応部門である消費者相談センターと、生活文化に関する研究を行う花王生活文化研究所とに分離し、それぞれ新たなスタートをきっている。消費者相談センターがマーケティング部門の独立した組織として位置付けられているのは従来通り。同社の理念である「“よきモノづくり”を通して顧客の心を打つ満足を」を実現するために、問い合わせをくださったお客様に満足のいく対応をするのはもちろん、その意見を研究所、生産部門、企画、販売部門などにフィードバックして商品作りに活かすことにより、すべてのお客様に還元するのが消費者相談センターの役割だ。
 「花王エコーシステム」はこれまで3回にわたってバージョン・アップが行なわれており、97年10月に稼働を開始した現行のシステムは4代目。システムの機能は窓口支援システムと、相談情報解析システムの大きく2つに分けられるが、今回の主な改良点は、窓口支援システムでは、商品情報の検索スピードが向上したほか、必要に応じて画面情報をFAXで送れる機能などが付加されたこと。以前はデジタル・ビデオテックスのカラー自然画情報と電子ファイルの白黒イメージ情報をワークステーションがコントロールしていたため、相談員ひとり当たり3台が必要だった端末も、今日ではひとり1台にスリム化。タッチパネルの採用など、操作性も格段に向上した。端末操作に煩わされずに顧客との対話に集中し、正確・迅速・親切な顧客対応を実現する…。できる限り操作を簡易化することは、システム開発上の大きなポイントだ。
 相談解析システムも充実した。センターが受けた相談内容はその日のうちにすべてデータベース化され、翌日朝には社内の全部門から検索できるが、それぞれの部門が独自のニーズに沿ってデータを自由に活用できるよう、新たに3種類の解析プログラムを用意した。また、顧客から寄せられた手紙などの画像情報を読みこむ機能に加え、電話相談の内容をそのまま音声で蓄積・再生することも可能になり、コード情報だけでは語り尽くせないリアルな“声”を、各部署にフィードバックできるようになった。
 「データを見ることを強制しているわけではありませんが、毎日、各部署から、前日の相談についての問い合わせがあります。社内に、まず顧客の声を聞くという風土ができ上がっているんですね」と消費者相談センター室長の青木秀子氏は言う。

年に数回、商品をリニューアル

 相談窓口に寄せられる問い合わせの件数は、91年までの数年間は年間約4万件でほとんど変化がなかったが、92年以降、増加傾向をたどっている。97年度は1日平均400?500件、年間で約8万6,000件、前年比109%の相談を受け付けた。現在、消費者相談センターは東京・大阪の2カ所。総勢50人のスタッフは電話対応、関連部署への情報のフィードバックと“よきモノづくり”への参画、窓口支援システムや消費者向けの情報作りの3つの業務をこなしており、電話対応に当たるスタッフは毎日10?15人。直接顧客と接しているからこそ、正確な情報を、臨場感とともにフィードバックすることができる。
 同社が取り扱う商品は約800アイテムであるが、相談受付の電話番号はスキンケア、ヘアケアといった商品ジャンルごとに6番号を設置。担当スタッフも6つのグループに分かれている。スタッフの男女比は1:2である。
 ここ数年、相談件数が増加しているのは、同社がより専門化、パーソナル化された商品を次々と投入してきたことによる。「自分に合った商品はどれなのか、詳しい使い方を教えてほしいといった、これまでなかった種類の質問が増えているのだと思います」と青木氏は語る。どの家庭でも日常的に使用する洗剤などについて、わざわざ問い合わせをする必要性は薄い。しかし特定のターゲットに向けた嗜好性の強い商品の販売にともなって、問い合わせ件数が増加すると同時に、個々の消費者像を伝える情報がセンターに入ってくるようになったわけだ。
 電話の受付時間帯は平日の午前9時から午後5時まで。それ以外の時間は緊急連絡先を知らせるメッセージを流している。緊急の問い合わせと言えば、以前は「洗剤が目に入った」「漂白剤を飲んでしまった」という事故に限られていたが、近年は違う。たとえば入浴時に使用する染毛剤について「今使いたいから、今聞きたい」という消費者が増えており、97年度は休日・夜間に941件の相談を受け付けた。
 同社は顧客の声をもとに、商品にこまめに改善を加えている。商品開発・改善に当たっては、モニターに長期間使用してもらい、意見を収集するなど徹底した消費者調査を行っている。しかしそれでも、実際に市場に出てから予想もつかなかった声が入ってくることも多い。この声を反映して、商品には頻繁にリニューアルがほどこされているという。歴代の商品情報も蓄積する必要があるため、商品データベースの情報は膨大な量に上っている。
 髪を手軽に好きな色に染められる「ヘアマニキュア」を例にとると、「手や頭皮に色が付いてなかなか落ちにくい」という声に対して、専用ブラシからの染毛料の出方を調節したり、生え際用の目の細かい櫛を付けたり、専用リムーバーを添付したりと、何段階もの改善を加えてきた。「ある時、耳から首にかけて一面にオレンジ色に染まってしまったという電話を受けて、お客様のお宅へうかがいました。その方はまさか肌に付いた色がなかなか落ちないとは思わずに、手袋もカバーも使わないで、しかも必要量以上の『ヘアマニキュア』を使ってしまったんですね。使い方の説明書も『頭皮や手肌に付いた色はなかなか落ちない』旨の注意書きを徹底的に目立たせて、なおかつ防ぎ方と落とし方がわかりやすいように変更しました」(青木氏)。このような努力によって、クレームは目に見えて減っていく。また、カラーリング(「ヘアマニキュア」を含む染毛剤)に関しては、「今すぐ知りたい」顧客の要望に応えるられるよう、定型的な質問に自動音声とFAXで365日24時間対応する「花王カラーリングBOX」を設置しており、ここには月に約2,000件のアクセスがあるという。
 「商品を育てるのは顧客」(青木氏)。顧客の要望に応え、常に“よきモノ”を提供し続けることが、同社の基本姿勢だ。これを実践するために、消費者相談センターはなくてはならない存在なのである。

染毛料の出具合いや使い方説明書の改善、リムーバーの添付など、お客様の声に応え何段階もリニューアルを重ねている「ヘアマニキュア」

染毛料の出具合いや使い方説明書の改善、リムーバーの添付など、お客様の声に応え何段階もリニューアルを重ねている「ヘアマニキュア」


月刊『アイ・エム・プレス』1998年7月号の記事