顧客とのコミュニケーション・ツールとして、カタログ通販を開始

(株)XABLE(エクサブル)

継続的なコミュニケーションのために

 (株)XABLE(エクサブル)は外壁、タイル、浴室などの住宅設備機器全般を取り扱うメーカー、(株)INAX(イナックス)の100%出資子会社。97年6月の設立だ。
 (株)INAXは日本全国に多数の顧客を有するが、住宅の新築、およびリフォームの機会は、生涯にそう何度もあるものではない。したがってこれらの顧客といかにコミュニケーションを継続するかが、同社の課題であった。そこで、顧客サービスの充実を図り、日常生活から発生する顧客のニーズを吸い上げる手段としてカタログ通販に注目。(株)XABLEを設立して、生活領域全般を網羅するカタログ通販に参入したのだ。
 INAXの「X」には限りない可能性という意味がこめられている。XABLEという社名は、この「X」と、やはり可能性を表す「ABLE」を組み合わせ、さらなる未知への可能性を表現している。
 カタログ『Xable』は97年10月に創刊号を、98年2月に第2号を発行。今後は2月、7月、10月の年3回の発行を予定している。当面は号当たり10万部を作成し、そのうち約80%を(株)INAXの既存顧客に配布。ほかにインターネットのホームページ、新聞・雑誌のパブリシティと、複数カタログを一堂に紹介する新聞折り込みチラシ「カタログコレクション」を活用してカタログ請求を募り、希望者に配布している。

“潤いある生活”を届ける

 『Xable』の体裁は297mm×230mm、約60ページ。約300アイテムの掲載商品は、ヨーロッパを中心とした海外からの輸入品や、日本の伝統的な工芸品など実に多彩。テーブルウェア、調理器具、ガーデニング用品、塗料などの住まい回りの製品から、食品、趣味用品、衣類まで、そのジャンルも幅広い。エスニック調デザインの手紡ぎ・手織の衣類があるかと思えば、色鮮やかな絵柄をほどこしたフランス製の食器もある。現代的でシンプルなデザインの調理器具があれば、日本全国各地の名人職人が作り上げたわっぱや包丁もある。また、その中には「蕎麦打ち道具セット」「パン作り道具セット」やテラコッタポットなどの『Xable』オリジナル商品、タイルや庭園灯など(株)INAXの製品も顔をのぞかせている。コア・ターゲットである(株)INAXの顧客、すなわち住宅を新築・リフォームした経験のある40〜60代の熟年層に向けて、単なるモノではなく、これらを介在することによって得られる生活の潤い、生活シーンの広がりを提供するというのがMD、カタログ制作のコンセプトだ。
 (株)INAXではヨーロッパのセラミック・デザイナーとの交流を目的に、1989年から毎年「INAXヨーロッパデザイン大賞」のコンテストを行っているが、『Xable』にはこの受賞者の手による陶芸品も掲載されている。正真正銘、ここでしか買えない一点物だ。またこれに限らず、同社では商品選定の基準のひとつに創り手の顔・理念が見えることを挙げており、カタログ各所にデザイナーや商品供給者の顔写真やメッセージが散りばめられている。
 商品価格帯は1,000円以下の書籍から20万円の陶芸品まで幅広いが、1万円前後が中心。現在のところ特に人気が高いのは健康関連用品で、客単価は約2万円だという。カタログの企画・制作とMDは東京で行っているが、受注およびデリバリーの拠点は愛知県知多市にある。注文はフリーダイヤルの電話とFAX、および料金受取人払いのハガキで受け付けている。

現在配布中の『Xable』98年春号。高感度の商品がゆったりと配置されている 現在配布中の『Xable』98年春号。高感度の商品がゆったりと配置されている 現在配布中の『Xable』98年春号。高感度の商品がゆったりと配置されている

現在配布中の『Xable』98年春号。高感度の商品がゆったりと配置されている

長期的視野で媒体・顧客を育成

 現在同社では、創刊号の売上分析を終えたばかり。掲載商品、カタログ配布対象のセグメントなどどれをとっても「試行錯誤の段階」と取締役社長の寺前英男氏は語る。たとえば創刊号と第2号ではカタログの表紙のイメージもページ構成も大きく異なる。さまざまなトライアルを重ねながら、顧客ニーズを見つけ出し、『Xable』らしさを確立していきたいと同社では考えている。
 しかも『Xable』の目的は、必ずしも短期的な商品売上の獲得ではない。40代以降は両親との同居などをきっかけとして住宅リフォームのニーズが発生しやすい年代でもあるが、そのような時にすぐ“INAX”を思い出していただける、ロイヤリティの高い顧客を育てるのが最終的な狙いであることからも、『Xable』の成否を判断するのはまだ時期尚早と言えるだろう。「INAXという企業をもっと知ってもらうために」(寺前氏)、誌面には愛知県常滑市にある「INAX TILE MUSEUM」の催しの案内や住まいのリフォーム・ショップ「LIFA(ライファ)」の紹介など、(株)INAXからのお知らせも掲載されている。
 この個性的なカタログが、メーカーとユーザーの距離を縮めるためにどのような役割を果たしていくのか、また、自分自身の生活や余暇を大切にする熟年層にどのように受け入れられ、成長していくのか、今後に注目したい。


月刊『アイ・エム・プレス』1998年4月号の記事