読者サービスの一環として通信販売を開始
(株)ウエルネットは、健康をテーマとした出版事業を行う(株)法研の100%出資子会社。健康関連用品の販売会社として、1992年4月に設立された。
(株)法研は、健康保険組合、共済組合、厚生年金基金などによって担われる健康保険組合事業のひとつである“組合員の健康維持・管理”を、健康情報の発信という側面からサポートしている。同社の出版物は、社会保険専門図書などの健康保険組合・厚生年金基金向けのものと、機関誌など個々の組合員を対象としたもの、家庭医学書など一般生活者向けの書籍の大きく3つに分けられる。このうち組合員を対象とした機関誌には、独身者のための『ジャストヘルス』、既婚者向けの『すこやかファミリー』、熟年層向けの『ヘルス アンド ライフ』、高齢者向けの『お元気ですか』、年金受給者のための『ゆたか』があり、合わせて月に約200万部が配布される。これらの機関誌では読者のページを設けるなどして、健康に関わる質問や要望を積極的に受け付け、対応している。ここに「健康関連用品の情報がほしい」「健康関連用品を売っている店舗を教えてほしい」といった声が数多く寄せられたため、これに応えて信頼できる商品を届けられる仕組みを構築するプロジェクト・チームを発足。これが(株)ウエルネットの前身である。
同社の通販事業は、健康保険組合・厚生年金基金に健康関連用品情報の掲載を希望するか否かを聞き、これを希望する団体により配布される機関誌、合計70万部に通販広告を綴じ込むかたちでスタートした。また、8万人を数える実績顧客には年に数回発行する独自のカタログ『HEALTHY PEOPLE』を送付している。
年齢にかかわらずすべての人々にとって健康は大きなテーマ。しかしその中でも最も健康への関心が高いのは、病院に行くほどではないけれども腰痛、肩凝りなど何らかの症状が現れ、老いを意識しはじめる50代だ。子どもの教育費や住宅ローンなどの出費が減り、自分自身の健康に投資する余裕ができる年代でもある。通販利用者は50代が約40%を占め、40代が約20%、30代が約15%、20代が約10%、60代以上が約15%。男女比は約4:6で、客単価は9,000?1万円だという。
同社の年商は、98年3月期で約9億円。今、団塊の世代が50代にさしかかろうとしており、健康関連ビジネスには追い風が吹いている。同社代表取締役社長 佐藤正巳氏は「今後数年間、年商は約2億円ずつ伸びるだろう」と予測している。
オピニオン・リーダーと密なコミュニケーションを
同社では今年4月から、自社通販の体制を改める。原則的に機関誌での通販展開をとり止め、媒体を『HEALTHY PEOPLE』1本に絞る。この送付先も、通販実績顧客、それも繰り返し利用している、あるいは最近の利用実績があるなどの優良顧客3万人に限定。ターゲットを絞り込み、反応率を高めるのがその目的だ。商品購入者に対しては、新製品案内のチラシなどを商品に同梱して、販売促進を図っていく。
一方、新規顧客開拓のためには、(株)法研が発行する機関誌に不定期で1ページ広告を出稿する予定。『HEALTHY PEOPLE』は今後、年5回の発行とし、そのうち1回はスリーピング顧客の掘り起こしのため、8万人全員に送付するという。
同社は自社通販と並行して、店舗や通販企業へのオリジナル商品の卸しを行っている。約1年半前からこちらに力を入れてきた結果、現在では売り上げの75?80%が卸しによるものだ。今回の体制見直しは、今後一層、オリジナル商品の開発、および卸し事業のウエイトを高め、自社通販をこのためのパイロット・チャネルとして位置付けようという考えからだ。自社通販で売れる数量には限りがある。販売力のある企業との取り引きを拡大することで、商品開発により多くの時間やコストを費やすことが可能になる。
健康に非常に高い関心を持ち、健康関連用品に敏感に反応するオピニオン・リーダーと直接コミュニケーションをとることで、マーケットのニーズを吸い上げ、望まれる商品を開発。さらに自社通販で実際の反応を確認した上で、カタログ送付数に対して0.1%以上の購入率が上がった“ヒット商品”を取引先に卸す。『HEALTHY PEOPLE』にはオリジナル商品と他社製品が約40アイテムずつ掲載されており、それらの売上動向はオリジナル商品の競争力判定の材料としても活用されている。また同社では商品にアンケートを同梱するなどして利用者の声を積極的に収集し、商品の改善などに役立てている。
またこの4月から、受注体制にも変更が加わる。これまでアウトソーシングしていた受注業務をインハウス化。受注用にフリーダイヤル4回線と一般加入回線1回線、問い合わせ対応用に一般加入回線1回線の計6回線を設置し、テレマーケティング・エージェンシーからの派遣スタッフによってセンターを運営する。注文は電話のほか、料金受取人払いのハガキでも受け付ける。
機関誌に通販広告を掲載。特に『ゆたか』で反応が良かった商品は、ほかの媒体でもよく売れるという
自社通販の主軸媒体『HEALTHY PEOPLE』。号当たり約80のアイテムが掲載されている
年齢ではなく、健康に焦点
同社がこれまでに企画・開発したオリジナル商品は200アイテムを超える。これらの商品は、「健康(健康グッズ)」「福祉(思いやりグッズ)」「生活便利(アイディアグッズ)」の3本柱に沿って企画される。企画に当たるのは同社の社員。これに当たっては、医学顧問である高輪メディカルクリニックの久保明氏から商品開発のヒントの提供や、医学的見地での商品チェックなどのサポートを受けている。
このうち最も大きなウェイトを占めるのが「健康」で、これには快い睡眠を得るための寝具、食品を清潔に、かつおいしく調理するための器具、光を反射して光る生地を使用した夜間の交通事故防止用の衣類やバッグなどが含まれる。中でも健康寝具の「テンピュールシリーズ」は、国内で年間約8万個、全世界では年間約120万個を売り上げる大型ヒット商品に育っている。また、食中毒防止のためにショッピング・バッグとして使用することを想定して作られたクーラーボックスシリーズも、人気が高いという。
「福祉」とは、身体が多少不自由な人の日常生活をサポートする、自助具と呼ばれる商品群である。重い物を楽に運べるショッピング・カート、浴槽に取り付ける安全手すり、わずかな力で使いこなせる缶切り・栓抜きなどがこれに含まれる。「アメリカなどと比べて日本には作業療法士、理学療法士など、この分野の専門家が少なく、また、商品開発も非常に遅れているのが現状です。しかし、65歳以上の高齢者の中で介護を必要とする人はわずか5%。残りの95%の人々が望んでいるのは、介護用品ではなく、これらの健康グッズなのです」と佐藤氏は語る。これらの商品は“介護”ではなく“健康”をキーワードに、介護者ではなくあくまでも利用者本人に対して訴求されるものだ。
「生活便利用品」にはUVカット機能を持つ帽子、ガーデニング用の手袋やエプロン、車止めマットやシートに装着する枕といったカー用品などがある。
同社のカタログには“シルバー色”は一切ない。「高齢→障害→介護用品」という図式はそもそも誤った認識であり、“シルバー”“老人”といった言葉をカタログの前面に押し出すのは間違いだというのが同社の考えだからだ。「特にビートルズ世代と言われて育った団塊の世代は、“50歳、60歳はこういう年齢”という決めつけを極端に嫌います。それに実際、『テンピュールシリーズ』などでは、20代の購入者比率もとても高いのです」と佐藤氏は指摘する。すべての人々の健康な暮らしを手助けする厳選した品々を、正しく詳しい説明を添えてお届けする…これが同社のポリシーだ。
(株)ウエルネットは決して通販という販売手法にこだわっているわけではない。「通販利用者の比率は限られています。全国主要都市に、現物を見て、触れて、確認できる専門店が設置されることが望ましい。コンセプト作り、商品供給などの面で、それをサポートすることができればいいと考えています。またゆくゆくは、健康に関するセミナーの開催、専門知識に長けたホームヘルパーの派遣などのサービス事業も行っていきたい」(佐藤氏)と、夢は大きく広がっている。