店頭の販売活動を側面から支援

ピジョン(株)

ベビー&シルバーのケア用品、ソフトサービスを提供

 ピジョン(株)は、1997 年 1 月期で 312 億円の年商を上げているベビー用品のトップメーカーである。ピジョン(株)哺乳器本舗として、ほ乳びんの製造・販売を中心に、実質的に企業としてのスタートを切ったのは 1957 年。1975 年からはシルバー市場に参入、失禁関連用品や歩行補助器などを取り扱う。売り上げに占めるベビーとシルバーの割合は約 9:1 である。
 マタニティ・インナーおよびアウターの製造・販売は関連会社のピジョンウィル(株)が担当。百貨店や専門店との直取引で商品を販売している。一方、ピジョン(株)では原則として全国 16 カ所の特約代理店から、さらに 55 カ所の問屋を通じて販売を行っている。例外として(株)赤ちゃん本舗と日本トイザらス(株)とは、直接、取り引きを行っている。
 またピジョン(株)では、ハードとしての商品の提供だけではなく、ソフト面での事業も併せて展開することにより社会に貢献しようと、1993 年に茨城県の常総研究所内に保育園を開設。現在では JR 吹田駅構内、JR 稲毛海岸駅前、JR 柏駅前などで、4 つの保育園を経営している。ほかに全国 7 カ所のスポーツクラブ、百貨店、ショッピングセンターなどで託児サービスを、1996年からは1都3県でベビーシッターの派遣を行っている。

企業イメージ、知名度アップのためのキャンペーンを展開

 同社ではここ数年間、毎年、新製品にスポットを当てたキャンペーンを展開してきた。たとえば昨年は、ベビーフードの「手作り上手さん」。テレビのスポット CF、『たまごクラブ』『ベビーエイジ』『ピーアンド』などの育児雑誌への広告出稿と、店頭に設置するポスターや応募ハガキにより商品の認知を促進、売上拡大を図るというものだ。

ピジョン(株)が展開中のキャンペーンの店頭告知用チラシと雑誌広告

ピジョン(株)が展開中のキャンペーンの店頭告知用チラシと雑誌広告

 今年の重点商品はトイレ・トレーニング用パッド「オムツとれっぴ〜」。4 月から育児雑誌への広告出稿を開始している。広告にはサンプル請求券を添付、5,000 人にサンプルを提供する予定だ。
 さらに今年は、数年ぶりに企業全体のイメージ、知名度の向上を目的としたキャンペーンを展開中。キャンペーンは、クイズに答えると 100 組のペアに温泉旅行が当たるオープン懸賞と、「おしりナップ」、ベビーフード、または携帯用ほ乳びんの「ネオ」を購入し、バーコードをハガキに添付して応募すると「選べるごちそう宅配便」、マッサージ器の「ネコの手マッサージャー」、電話の着信をベルを鳴らさず光で伝える「電話だニャン」のいずれかが合計 2,400 人に当たるクローズド懸賞の 2 コースからなる。応募期間は 4 月 15 日から 9 月 30 日まで。広告にはタレントの田口浩正氏、こうのようこ氏をキャラクターに起用。店頭に POP、応募ハガキ付きチラシなどを設置するほか、マタニティ・育児雑誌や地方紙に広告を出稿、また、5 〜 7 月にはテレビ CF でも告知を行う。

数々のベストセラー商品を開発

 同社のヒット商品は数多いが、特に好調なのは「ベビー用おしりふき おしりナップ」、月齢によって飲み口を変えて長い期間利用できるシステムカップ「マグマグ」、ベビー専用電子体温計の「chibion(チビオン)」など。「chibion」は赤ちゃんの脇の下に収まりやすい形状と、44 秒の予測検温と 5 分の実測検温ができることが特徴で、1988 年の「グッドデザイン賞 福祉商品賞」を受賞。初年度に約 40 万個を販売し、その後も年間約 30 万個を売っている。
 ベビー用品は使用期間が短いため、商品情報をタイムリーにターゲットに向けて届けることが重要。しかし毎月、育児雑誌に広告を掲載しても、紹介できる商品は限られている。にもかかわらず数々のベストセラー商品が生まれているのは、育児雑誌のパブリシティや、「口コミ効果が大きい」(総合企画室 PR グループ マネージャー 大薮克実氏)。自分が使ってみて満足したものを友人に奨めたり、プレゼントするケースが多いのだという。だがもちろん、同社では広告のほかにもさまざまな方法で、商品の告知に努めている。
 たとえば、「おしりナップ」などの消耗品については、病院・産院で出産のお祝いとしてサンプルを提供。(財)日本母子衛生助成会が全国各地で主催するセミナーでも、サンプルを配布している。
 また同社では、商品カタログを制作、店頭でエンドユーザーに配布している。過去には毎年、出生数と同じ部数を作成していたが、数年前から育児情報などを加えて増ページを図り、配布部数は年間 50 万部とした。新製品の発売に合わせ、年 4 回、一部掲載商品を差し替える。

お客様からの問い合わせは年間約 2 万件

 同社では 1975 年に生活者相談の窓口として「お客様相談室」を開設した。平日の午前 9 時から午後 5 時まで、同社の社員が対応する。これとは別に、火・木曜日の午前 10 時から午後 3 時 30 分までと、土曜日の午前 9 時から正午までは「ピジョンマタニティ&ベビーテレフォン相談室」を開設しており、保健婦や看護婦の資格を持つスタッフ 3 人が相談に応じている。これらの電話番号は、商品パッケージや広告で告知されている。
 「お客様相談室」に寄せられる相談内容のうち、最も多いのは、購入後の商品の使い方に関するものだ。また、「こんな商品を作ってください」という提案はすべて商品開発部門に引き継ぎ、データベースで管理。場合によってはお客様に再度電話をかけて詳しい話を聞くなどして、商品開発のヒントとして役立てているという。
 「ピジョンマタニティ&ベビーテレフォン相談室」には育児に関する悩み、産前産後や子どもの健康に関わる事柄をはじめとして、時には嫁姑の問題など、母親の人間関係についての相談も寄せられる。通話時間は「お客様相談室」よりやや長く、平均約 5 分である。
 この 2 つの窓口のほかに、全国 22 カ所の支店・営業所でも相談に応じており、これらを合わせて年間に受け付ける問い合わせは約 2 万件に上る。問い合わせは電話と郵送で受け付けているが、電話の割合が圧倒的に高い。郵送による問い合わせについても、電話か郵送で必ず返答している。

モニターと直営店から生の情報をキャッチ

 同社では 1 歳以下の子どもを持つ母親を、常時約 2,000 人、モニターとして組織している。この中には、毎年新製品、約 30 品目に添付するアンケートに“これ以降もアンケートに協力してもいい”と回答して返送した顧客や、同社の社員などが含まれる。モニターには随時、新製品のサンプルを送付して意見を聞くといった方法でアンケートを実施、結果を商品開発部門などにフィードバックしている。
 また同社では約 10 年前から、熊本市と大阪市でマタニティ&ベビー用品専門の直営店「10 months」を経営している。他社製品を含め、エンドユーザーの購買動向やニーズを調査するためのアンテナ・ショップである。
 一方、小売店で得られた売れ筋情報やニーズは、営業担当者が日、週、月ごとにレポートにまとめて各部門にフィードバック。小売店に対しては、年 4 回発行、A4 判 32 ページの「ピジョン・ニュース」で、エンドユーザーや売り上げが好調な店舗の情報を届けている。
 同社のベビー用品は 2 歳までが対象。その後も顧客との関係を継続していくためのひとつの方法として、同社では 1986 年から毎年「ピジョン赤ちゃん誕生記念育樹キャンペーン」を開催、今年で第 11 回目を迎える。これは前年 1 月から当年 2 月までに生まれた日本全国の赤ちゃんを 3,500 〜 5,000 人募集し、その誕生の記念として国有林にヒノキの苗木を植樹、木が育ち、伐採するまでの 50 年間、同社が育樹の費用を負担するというもの。その間、参加家族、地元住民と同社は、育樹や行事を通じて親睦を深めていく。 1996 年に実施した第 10 回までに、4 万 5,000 人もの赤ちゃんが参加した。 
 出生数の低下にもかかわらず、同社の売り上げは増加を続けている。ベビーとシルバー、2 つの市場に向けてビジネスを展開している以上、ひとりの顧客と取り引きを継続するのは困難だ。しかし、子どもに一番良いものを与えたいという親の願いは、いつになっても変わらない。「我々にとっての永遠のテーマは、ほ乳びんの飲み口をお母さんの乳首にできる限り近づけること。また、商品開発に生かすために、赤ちゃんの泣き声に関する研究にも取り組んでいるところです」(大薮氏)。次の世代、またその次の世代の赤ちゃんにより良い商品を提供するため、同社は飽くなき努力を続けているのである。


月刊『アイ・エム・プレス』1997年5月号の記事