フリーダイヤルでファンドを購入

野村證券(株)

電話窓口で潜在顧客を開拓

 証券会社最大手の野村證券(株)が投資信託(ファンド)の通信販売をはじめた。1996 年 12 月 2 日にスタートした「ファンドネット」がそれ。通信販売を行っている証券会社はほかにも数社あるが、投資信託に特化しているのは同サービスのみである。
 従来、ファンドは証券会社の窓口でのみ販売されていたが、最近では証券会社による 通信販売や投資信託会社による直接販売などに、販売チャネルが広がっている。とは言え、証券会社は一時期の「中期国債ファンド」ブームで一般生活者にぐっと身近な存在になったとはいうものの、郵便局や銀行に比べるとまだまだ馴染みの薄い存在。日本人の有価証券保有率はわずか 15%弱と言われている。ここ数年続いている超低金利時代は、個人資産を銀行預金からファンドに移行させる絶好のチャンスだ。この機をとらえて顧客拡大を実現するためには、全国約 135 の支店の営業力に 100%を頼っていたのでは追いつかない。店舗でフォローしきれない、近くに店舗がない、店舗に足を運びたくないといった人々のために手軽な電話窓口を設け、間口を広げることによって、これまで取りこぼしてきた需要をすくい上げることが「ファンドネット」の狙いである。

電話 1 本で取り引きOK !

 「ファンドネット」とは、電話と郵便だけで投資信託が購入できるという新しい仕組み。 ターゲットは「長期的な投資ができ、ガイドラインさえ示せば自分で判断、行動することができ、証券会社に対してネガティブなイメージを持っていない 20 〜 40 代」(投資信託部ファンドネット課主任 佃孝文氏)。特に「アーリーアダプターであること、家計を握っているのは 7 割が女性と言われていることから、女性は重要な存在」(佃氏)と考え、『レタスクラブ』や『ミセス』などの雑誌に記事広告を出稿してサービスの認知に努めた。まず、商品について知ってもらうのが営業活動の第一歩。広告では商品の説明から運用の仕組みまでがわかりやすく解説されている。一方で、1 日で捨てられてしまう新聞で詳しい商品説明をするのは難しいとの判断から、現在のところ新聞では広告展開を行っていない。
 この 1 月にはテレビ・コマーシャルもスタートさせている。こちらの狙いは、これまでの証券会社のイメージを払拭し、身近さ、親しみやすさをアピールすることにある。
 対象商品をファンドに特化したのは、一般生活者にも比較的わかりやすい商品だから。広告やパンフレットなどで仕組みを説明し、お客様本人に商品を理解した上で選んでいただく。これによって営業コストが削減できるため、販売手数料も低く抑えることができるわけだ。現在は 1%に設定しているが、将来的には無料にすることも検討しているという。

『ミセス』と『レタスクラブ』に掲載された記事広告。2 〜 3 ページにわたって、詳しい商品説明がなされている

『ミセス』と『レタスクラブ』に掲載された記事広告。2 〜 3 ページにわたって、詳しい商品説明がなされている

事前調査で確かな手応え

 同社は、商品開発の芽はすべて顧客にあるとの考えから、日頃から顧客の声に耳を傾けてきた。たとえばマネー雑誌などに広告を出稿する際にはフリーアンサー欄を設けた返信用ハガキを添付し、集まった意見のすべてに目を通す。また、定期的な顧客満足度調査も実施している。「自分の住んでいる街に店舗がなくて不便だ」「窓口は午後 4 時に閉まってしまうので行く時間がない」など、寄せられる意見の内容はさまざま。それらのデータの分析を繰り返す中で、「ファンドネット」の具体的なサービスイメージが見えてきた。
 ファンドを電話で買うのは、アメリカではごく一的なサービス。だが日本では、そもそもファンドという商品そのものがよく知られていない状況だ。プランニングに当たっては、自社で行った顧客満足度調査ばかりではなく、業界団体の調査結果などを綿密に分析して顧客ニーズの収集に全力を尽くしたという。
 「ファンドネット」のサービス概要がほぼ固まった 1996 年 9 月、同社は発行部数 20 万部の『あるじゃん別冊 お金が増える常識 BOOK』に広告を掲載、サービス開始に当たっての事前調査を行った。その結 、巻末添付の返信用ハガキによる資料請求のレスポンスが約 4,500 件あり、ファンドへの関心の高さを裏付けた。
 「マーケットニーズは明らかにある」。「ファンドネット」は確信に裏付けられてのスタートを切ることができた。

見やすく、わかりやすいスターター・キット。初心者の身になって考えられたつくりになっている

見やすく、わかりやすいスターター・キット。初心者の身になって考えられたつくりになっている

資料請求者の約 2 割が口座を開設

 サービスを開始して間もないにもかかわらず、「ファンドネット・カスタマーサービス」のフリーダイヤルには、日によって波があるが、1 日平均約 400 件の問い合わせが入る。主婦からの電話が最も多く、ピークは午前中と夕方だ。勤務先からかけてくる男性も少なくない。
 気軽に電話ができるように、オペレーターは一切「勧誘をしない」方針。これはパンフレットなどにも明記されている。しかし、わざわざ電話をかけてくるのは、優良な見込客ばかり。ほとんどの人が資料を希望し、資料を手にした人の約 2 割が口座開設に結び付いているという。「ファンドネット」では問い合わせはもちろん、資料請求、新規申込、追加購入、乗り換え、残高・取り引き照会、住所・氏名変更から解約業務まで、幅広い要望にその場で応えることができる。ただし新規口座開設の際には、まず書類を郵送することが必要。その手順は、①見込客が電話で資料を請求→②資料請求者に対して同社から「ファンドネット」スターター・キットを郵送→ ③口座開設申込書を同社に郵便で返送→④口座開設の確認書を送付→⑤顧客が電話で注文をした上で購入資金を同社の口座に振り込み→⑥取引報告書・月次報告書などを送付となっている。
 「ファンドネット・カスタマーサービス」は本社の一角にある。その場で相談や手続きに応じるオペレーターには高度な商品知識と営業センスが必要とされるため、全員が支店経験者。スタート前には、商品知識を習得するための講義やロールプレイなどからなる 2 カ月間のトレーニングを実施した。教育・研修に投入された費用は、オペレーション・マニュアルの作成などを含めると約 2,500 万円に上る。
 オペレーターによる電話受付時間帯は、平日の午前 9 時〜午後 8 時と、土曜日の午前 9 時〜午後 5 時。それ以外の時間帯には留守番電話で資料請求を受け付けている。また、1 月 16 日よりアンサーフォンによる、24 時間 FAX& 音声情報サービス「ファンドネット・ファックス・エクスプレス」(FFX)を開始した。電話、FAX ともにフリーダイヤルを利用している。
 資料請求者、口座開設者のデータベースは、各支店の顧客データベースとは別個にファンドネット課が構築・管理している。コンピュータ・システムは米国製のものをもとに新たに開発。このシステムによって、過去のコミュニケーション履歴に基づいた的確な対応が可能となっている。前述の雑誌広告に対するレスポンス・リストによって、同社ではすでに数万人の見込客・顧客データベースを保有している。
 サービス開始から 20 日間で獲得した新規口座は数百件。顧客ひとり当たりの取引額は 50 万〜 200 万円と店舗より低いが、狙い通り、これまで店舗で対応しきれていなかった“証券初心者”の若者、女性層の掘り起こしに威力を発揮している。
 この 2 月からは、「ファンドネット」の顧客向けに、金利情報などを掲載した「ファンドネットプレス」を発行し、コミュニケーション促進に役立てていく。

顧客の声を日々集計、ビジネスに生かす

 資料請求者に送付される「スターターキット」には、ファンドの仕組みや選び方のポイントなどがわかりやすく解説されたステップ 1 〜 3 までの小冊子 3 冊と、商品ごとの受益証券説明書 4 冊がセットになっている。たとえば小冊子「ステップ 1 よりよいライフプランのために」では、投資スタイル診断テストで各自のニーズに合ったポートフォリオ(ファンドの組み合わせ)がわかるようになっており、「ステップ3 ファンドネットへようこそ」では「ファンドネット」の仕組みや特典が示されている。「ファンドネット」の説明に入る前にライフプランの立て方やファンドの商品特性などの基礎知識を懇切丁寧に説明するという、利用者本意のつくりになっているのが大きな特長だ。
 このキットもお客様の声に応え、サービスのスタートから 1 カ月を待たずに、すでに改訂作業が行われているという。「○○ページのこの部分について詳しく説明してほしい」といった問い合わせが複数件入った場合には、解説方法がわかりにくいと判断、スピーディな改善に結び付けていくという。
 「カスタマーサービス」に寄せられた声は日々集計、担当者がすべてに目を通す。業務の効率化という観点から問い合わせ、資料請求など目的別に電話番号やスタッフを振り分けると、必ずこぼれる情報がある、という考えから、あくまでも顧客の声はひとつの電話番号で受け付けていく意向だ。
 顧客の声から生まれた新しいサービスが、証券市場をどう変えていくのか。これからが楽しみなサービスである。


月刊『アイ・エム・プレス』1997年2月号の記事