生保通信販売において圧倒的なシェアを確保
1972 年に設立された日本初の外資系生命保険会社、アリコジャパンは、世界最大級の保険グループ、 AIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)のひとつ。「創造と挑戦」を企業モットーに、“日本ではじめて”という明確なコンセプトのもと、次々に新たな商品展開を図っている。今ではすっかりお馴染みになった無配当の終身保険や入院保険も、国内では同社がはじめて発売した商品だ。また、生命保険商品の通信販売を日本で最初にスタートしたのも同社であり、通信販売については業界で圧倒的なシェアを誇っている。
日本の生命保険会社との大きな違いはその販売チャネルの豊富さにある。営業社員による直接販売はもちろんのこと、損害保険会社の代理店での生命保険の併売、百貨店やスーパーでの店頭販売、カード会社との提携による保険サービス、銀行との提携による預金セット商品の提供、マスメディア広告による通信販売と、販売チャネルは生活のあらゆる場に広がっている。外資系生命保険会社は、たとえ世界的に知名度があっても、日本では後発組。日本の生活者にとっては馴染みが薄いことも多い。特に信頼感や安心感を売る生命保険会社にとっては、知名度を上げるための地道な広告活動が重要になってくる。販売チャネルの多様化は、潜在顧客とのさまざまな生活シーンにおける接触機会を増やすという点で、非常に重要な役割を果たしているのだ。
保障金額アピール型から感情訴求型へ
同社の契約件数は 1996 年 5 月末現在で約 255 万 1,000 件、契約高は約 10 兆円に上る。この中で通信販売の占める割合は、契約金額ベースで 10%弱、契約件数でみると約 30%である。通信販売で取り扱っている商品は、「入院保険」や「ガン保険」「定期保険」「終身保険」など、保険料を低額に抑えたタイプのもの。対面による詳細な説明が不要で、なおかつ人を介さなくとも安心して購入できる商品、すなわち保険料金が割安で、かつ保障が実感できる商品をラインナップしている。
ターゲットはあまねく一般の人々であるが、特に反応が良いのは 30 〜 40 代。第二次個人輸入ブームを支えてきた、まさに通信販売に抵抗のない世代である。通信販売そのもののパイが広がっていることで、このところ保険の通信販売売上高も上向きになっている。
同社が行っている通信販売は、①カード会社や通販・流通会社などの代理店によるものと、②直接販売の 2 つに大きく分けられる。
前者では、各代理店が顧客に対して送付する請求書に商品案内のパンフレットを同封するといった方法が主体。どのような顧客に対してどの商品を訴求するかは、各代理店の判断によるところだ。
直接販売で利用している広告媒体はテレビやラジオ、新聞、雑誌など。雑誌では女性誌や『週刊新潮』などの週刊誌に広告を出稿している。雑誌よりも発行部数の多い新聞のほうが多くのレスポンス数を獲得できるため、主体となっているのは新聞である。これもしかし、告知の頻度が高すぎるとかえってコスト・パフォーマンスが低下するため、テストを繰り返しながら慎重に出稿頻度を決めているという。
また、表現方法についても、どの年代にどのような表現が訴求力があるのか、どの地域でどの打ち出し方が有効だったのかなど、綿密なマーケティング分析が繰り返されている。これまでは保障金額を前に打ち出した広告が主流であったが、最近はどんな時に保険が頼りになるのかという具体的なシーンや、対話を盛り込んだ感情訴求型の広告への取り組みも行っている。現在はガン保険のコマーシャル・キャラクターにタレントの宮川大助・花子を起用、彼らが自らの闘病体験をもとに保険加入を勧めるという内容の広告を展開中だ。また今年からは、ホリプロタレントスカウトキャラバンでグランプリに輝いたばかりの大型新人、深田恭子を広告に起用する。
通信販売による新規顧客獲得は、まず広告で資料請求者を募り、レスポンスのあった人に対して申込書を同封した資料を送付するという 2 ステップ方式で展開されている。資料請求のあった見込客のデータはその場でコンピュータに入力し、翌日中に資料を発送する。資料送付後、レスポンスがない場合にはフォローコールを行い、それでも申し込みに結び付かなかった場合は一定期間をおいた後に別の商品の案内を送るといったように、一度コンタクトをとった見込客には少なくとも 3 回はアプローチをかけているという。
ワン・トゥ・ワン・マーケティングの実践
通信販売で最も重要な顧客接点となるのは電話だ。たった 1 本の電話で、顧客の企業や商品に対する評価が決まる。
同社が行っているテレマーケティングの主なアプリケーションは、広告に対する資料請求や問い合わせを受け付けるインバウンドと、追加加入の獲得などを目的としたアウトバウンドである。
アリコジャパンの商品広告。直接販売の場合、主体となるのは新聞だ
受付電話番号はすべてフリーダイヤル。ほかにハガキと FAX があるが、フリーダイヤルの利用が圧倒的に多く 90%を超える。また、フリーダイヤル番号は 10 種類以上を確保しており、広告ごとに告知する番号を変えることによって広告効果を測定すると同時に、スムーズな対応を実現している。受付時間は、平日は午前 9 時から午後 9 時、土・日曜日と祝日は午前 9 時から午後 6 時が基本だが、朝刊に広告を掲載した当日は午前 7 時から午後 9 時、夕刊に掲載した当日は午後 11 時までと、利用者の便宜を考えてフレキシブルに受付体制を変化させている。
受付センターには専任のオペレーターが常時 10 人待機しており、広告出稿時には随時、増員体制をとるとともにアウトソーシングを拡充する。電話が顧客のニーズを吸い上げる大切な窓口であると同時に、売り上げに直結するものである以上、ここでの手抜きは許されない。そこで同社では、オペレーター全員に専門の教育機関で研修を施すなど、常に最善の体制を組んでいる。今、通信販売は、すべてのお客様に一律のサービスを提供するという考え方から、ひとりひとりのお客様に合った対応を行うワン・トゥ・ワン・マーケティングへと変わってきている。このような中でオペレーターの果たす役割は今後ますます大きくなり、かつ高度なスキルが求められるようになってくるものとしている。
資料請求受付の電話では、ただ単に相手が希望した商品パンフレットを送るのではなく、その人が求めているのはどのような商品か、あるいは、その人に最適な商品は何なのかを判断するために聞き込みを行う。その場で相談にのってもらえるのは利用者にとって有難いことだが、これは同社にとっても顧客スクリーニングの貴重な機会である。みすみす捨てられるパンフレットを送らずに済めばコストが節約できるし、また、データベースに顧客の要望などパーソナルな情報を加えることによって、次の一手につなげる“生きた”データベースを構築することができるのである。
資料請求者に送られる DM キットの一例。中身を取り出すと、封筒中面に印刷されたフリーダイヤル番号が現れる仕組み
既契約者とのコミュニケーションを活性化
顧客との接点が限られている通信販売では、顧客や見込客とのコミュニケーションを継続する工夫が必要になる。同社ではアウトバウンド・テレマーケティングを、既契約者との関係強化やダイレクトメールのフォローに役立てている。これは同時に、データ・メンテナンスの意味合いも大きい。
同社は「営業につながることは何でもやってみよう」というスタンスで、良い印象を与えて販売につなげるためのアイディアを積極的に実行に移している。お客様が今、まさにほしいと思っていた情報を提供することによって、お客様から家族の生年月日などの貴重なマーケティング・データを教えていただけるといった二次的効果も生まれる。また、 通信販売で購入した顧客のみを対象に実施しているアップセリング、クロスセリングのアウトバウンドは緻密なデータ分析に基づいて行われるため、獲得率は非常に高い。
このほか同社では既契約者へのサービスの一環として「ナイスデイクラブ」を組織。ファイナンシャル・コンサルティング・サービスや、電話による 24 時間健康相談、健康関連の優待割引サービスなどの特典を設けて、顧客とのコミュニケーション強化を図っている。
現在、インバウンドとアウトバウンドを含め、インハウスとアウトソーシングの割合は約半々。しかし近い将来には、発信電話番号表示サービスなどを利用した、よりきめ細かなサービス提供を視野に入れ、情報の一元化、データベースのメンテナンスと有効活用を実現するために、すべてのオペレーション部隊をインハウス化していきたいと考えている。
常に試行錯誤を繰り返しながらマーケティング・データを積み重ねる。入ってきた声を速やかに商品開発や広告づくりに生かし、またその広告で告知した商品に対する声を集めるという繰り返しが、まさに同社のノウハウなのだ。広告づくりから現場のオペレーション管理までを一環してダイレクトレスポンス部の企画担当者が行っていることも、お客様の声を確実に生かすための秘訣である。
同社では見込客開発〜見込客の顧客化〜リピートオーダーの獲得といったすべてのマーケティング・プロセスを、必ずしもダイレクト・レスポンス・メディアのみでクリアしようとは考えていない。しかし、信頼性の高いデータベースを構築し、見込客を絞り込むためには、これらのメディアの活用が不可欠。通信販売へのニーズの高まりを追い風に、同社のダイレクトマーケティングはますます活発化し、精度を高めていくことだろう。
「ガン保険」では宮川大助・花子をコマーシャル・キャラクターに起用