良いりんごを割安価格で、心ゆくまで賞味
市場で取り引きが終了するまで、果物の価格はないも同然。通常、生産者は仲介業者に市場への販売を委託するのが決まり事になっているが、日によって相場はバラバラ、地元では高い値が付いたのに東京では底値、ということも稀ではない。生産者が丹精こめて作ったりんごが納得のいかない価格で取り引きされるのに耐えかねたある問屋が、定価販売で直販を行うために 1985 年 5 月に設立したのが、青森りんご流通振興協会(株)である。
定価販売と言っても、小売が介在しない分だけ良い商品を安く提供できる。同社ではさらに、4、5、6、 7、8 回の頒布会方式を中心に据え、あらかじめ販売量を確保することで、より割安な価格設定を実現した。りんごは品種によって収穫期が異なる。その時々に穫れるりんごを、3kg、5kg、10kg のうち顧客が指定した量だけ届けるというシステムである。価格は 3kg の 4 回コースで 1 万円から。最高級 10kg の 8 回コースが 7 万 2,000 円だ。
数年前からは有機栽培を行っている農家のグループと組み、有機栽培頒布会も設定した。りんごのほかに、青森産のぶどう(スチューベン)、メロンや、りんごジュース、りんごケーキ、フルーツシャーベットなどの加工品も取り扱っている。
頒布会よりやや割高であるが、単品での注文も OK。千秋、世界一、王林など 9 つの品種のりんごを、 3kg、5kg、10kg の単位で申し込める。ちなみに価格は 3kg 詰めの場合、家庭用で 3,000 〜 4,000 円、最高級で5,000〜6,000円。10kg詰めでは家庭用で6,000 〜 7,500 円、最高級で 9,500 〜 1 万 2,000 円となっている。
一度でも購入歴のある人は、同社の会員になる資格がある。会員になると、商品によっては 1 割程度の割安価格で購入できるという特典が受けられる。
マス広告からダイレクトメールへの転換
商品の注文は、電話、FAX、商品に同梱する追加注文カードで受け付けているほか、前払いの郵便振替で代金を支払うだけでも OK。電話に関しては、以前は東京、大阪、名古屋、福岡の 4 カ所に一般加入回線の窓口を設け、そこから専用回線で本部に転送するシステムだったものを、5 年前にフリーダイヤル回線に切り替えた。ただし電話による注文受付は会員でなければ利用できない。平日の午前 9 時から午後 5 時まで、3 人の専任スタッフが対応している。
配送はヤマト、日通いずれかの宅配便と、「ゆうパック」を併用。顧客の指定によって使い分けている。支払方法は郵便振替のみ。初回は前払い。それ以後は産地から商品を発送後、郵送で郵便振替用紙を届ける。頒布会はすべて一括前払いとなる。
同社では新規顧客開拓のため、年 3 回、定期的に読売新聞に広告を出稿している。毎年、出稿地域を変えており、今年は東北、関東地区版にそれぞれ半 5 段の広告を掲載した。しかし新聞広告のレスポンスは年々下降傾向にある。現在ではひとりの顧客を獲得するために数万円のコストがかかる計算。
そこで同社ではマス媒体から、パーソナル・メディアであるダイレクトメールへ、広告戦略を転換しつつある。実際に、ダイレクトメールで年間数百人の新規顧客が獲得されているという。また、既存顧客による口コミを促進。顧客に「ご紹介カード」を送り、被紹介者が頒布会の申し込みをした場合、紹介者に商品購入の際に使える1,000円分の「りんごギフト券」をお礼として送っている。
単品注文にギフト需要が多いという予測は容易に立つが、頒布会においても、申込者と届け先が異なるものが約 20%にも上っている。母が子に、娘が母に贈るといったケースも多いのだが、同社が頒布会のギフト利用を促進している面も見逃せない。当然、頒布会には単品購入より割安な価格設定がなされているわけだが、同社では、たとえば頒布会の 8 回コース料金で 8 件にギフトを贈ることができるというサービスを提供しているのだ。
同社の年商は現在、約 5 億円。最近では米の取り扱いも開始するなど、事業拡大のための新しい試みにも積極的にチャレンジしている。
DM に同封されている各種カード
商品を訴求するリーフレット類。上は、同社が販売しているりんごジュース
顧客とのコミュニケーションを設計
同社の顧客数は累計で、現在約 15 万人。このうちアクティブ・ユーザーは、頒布会会員が約 2 万人、単品購入者が約 2 万人の計約 4 万人である。居住地域では首都圏、関西圏の都市部が中心だ。
頒布会は毎年 10 月からスタート。既存顧客には 7 月にダイレクトメールで募集を告知し、8 月から申し込みを受け付ける。このほか、りんごジュースのリーフレット、ギフト用のパンフレットなどを随時送付している。ダイレクトメールには、要望や意見を自由に記入できる「お問い合わせカード」を同封。
また、青森県の観光情報や民話、りんごを使った料理の紹介、顧客からの「おたよりコーナー」などからなる B5 判 4 ページのかわら版「りんごっこ」を 2 カ月に 1 回発行し、顧客とのコミュニケーションの促進に役立てている。
ダイレクトメールにはギフトの届け先を書き込む「お届け先明細カード」や「追加注文カード」、意見や要望などを自由に記入できる「お問い合わせカード」が同封されている。「お問い合わせカード」は「美味しかった」などの顧客から同社への通信や、前述の「りんごっこ」への投稿などに活用されており、月に約 20 件の戻りがあるという。「りんごにキズがあった」などのクレームには、迅速に代替品を届けて対処している。
頒布会利用者の継続率は約 70%にも上る。この固定客へのサービスとして、同社では今年からポイントシステムを導入した。これは 1,000 円の購入ごとに 20 ポイントをコンピュータに入力、1,000 ポイントになった時点で 1,000 円分の「りんごギフト券」を発行、送付するシステムだ。
産直の良さは、収穫、発送のタイミングをきめ細かくコントロールできること。色や形が美しいということばかりでなく、「本当に美味しいりんごを顧客に届け続けたい」(取締役 白戸淳氏)と同社は考えている。