和洋書合わせ300万タイトルの注文OK

(株)紀伊國屋書店

「店舗」の強みを生かして

 (株)紀伊國屋書店パーソナルセール部はこの 10 月、総数 300 万タイトルの和洋書をインターネットを介して自由に検索・注文できる「KINOKUNIYA BOOK WEB」(http://bookweb.kinokuniya.co.jp)をスタートさせた。同社では約 10 年前から、主に学者や研究者を対象に、パソコン通信を活用して同社の在庫管理用のデータベースから和洋書を検索できるサービス「KINO DIAL」を提供してきたが、これをより使いやすく、より多くの人に利用できるように発展させたもの。これにともなって「KINO DIAL」は今年度で廃止し、この会員は自動的に「BOOK WEB」に移行させる。
 同サービスの最大の“売り”は和書 120 万、洋書 180 万タイトルという膨大な商品数だ。180 万タイトルの洋書の確保は、米国の大手取次店 B&T(ベーカー・アンド・テーラー)との提携によって可能になった。書籍と言えば、米国にはベンチャー企業が提供する有名な人気サイト、Amazon.comがあるが、こちらの取り扱い総数は、もちろん洋書のみで 100 万タイトル。さらに日本から注文するのであれば、「BOOK WEB」のほうが通信料金が安く済むばかりでなく、多くの場合、商品到着までの期間も圧倒的に短い。在庫を持たず、受注後に出版元に商品を発注する Amazon.comに対し、同社は新宿本店にある 100 万タイトルの在庫を活用することができるからだ。
 ここ数年、同社の洋書売上は伸び悩んでいたという。このひとつの原因として、インターネットで直接海外に書籍を注文できるようになったことが考えられる。「BOOK WEB」には、海外サイトに流れていた顧客を呼び戻そうという目算もある。

本好きの「個人」がターゲット

 10 月 10 日のサービス開始に向け、9 月 5 日にプレスリリースを発行。朝日と日経新聞にそれぞれ 9月 23 日、10 月 7 日に全面広告を出稿したところ、ホームページには 5万件のアクセスがあったという。お得意様には外商部隊を通じて周知に努めた。また、申し込み専用ハガキ付きパンフレットを 12 万部作成し、全国 45 店舗の店頭で配布するとともに、電話で問い合わせのあった顧客に郵送した。

「BOOK WEB」のパンフレット。12 万部を作成し、主に店頭で配布した

「BOOK WEB」のパンフレット。12 万部を作成し、主に店頭で配布した

紀伊国屋(図)

 「BOOK WEB」を利用するには、まず登録が必要だ。ホームページから申込書をダウンロードするか、専用ハガキを使い、氏名、自宅と勤務先の住所、電話番号、E-mailアドレス、クレジットカードの会員番号、パスワードなどを記入して郵送か FAX で申し込む。支払い方法はクレジットカードのみ。年会費は 3,000 円だが、1997 年 9 月末日までの申し込みに限り 1,500 円とした。
 10 月までに会員登録を行った人は約 3,000 人。現在のところ学者や研究者が多い。ただし、支払い方法がクレジットカードに限られていることもあり、ビジネスではなくプライベート利用が中心。海外に向けた告知活動は一切行っていないが、このうち約 200 名は、北米、アジア、オセアニア、ヨーロッパなどの在留邦人だ。注文は平均して 1 日約 500 冊といったところ。平日の日中と、金曜日の夜間のアクセスが多いという。
 会員はジャンル、著者名、タイトルなどからデータベースを検索でき、在庫状況もその場でわかる。和書の場合には絶版・品切れ情報や、出版社の在庫状況も確認することができる。また、店頭で気の向くままに書籍を手にとって眺める楽しさが味わえる、仮想棚のコーナーもある。経営、コンピュータ、医学、児童書など幅広いジャンルの中からピックアップした同社おすすめの書籍が書棚に収められており、興味のある本をクリックすると表紙の写真や内容の解説を見ることができるというもの。随時内容を入れ替えながら、常時約 450 冊を紹介している。

商品お届けは最短で3日

 前日までの注文状況は毎朝 10 時までに集計される。和書の場合、新宿本店に在庫のあるものは午前中にピッキング、社内便で東京・世田谷区のロジスティックセンターに集められ、宅配便で出荷。最短で注文から 3 日目には、商品が会員の手元に届けられる。新宿本店に在庫がなかった場合には、国内 VAN を介して取次店に依頼、取次店に在庫があれば注文から 4 日目に会員に届けることが可能だ。送料は冊数にかかわらず、注文 1 回につき 480 円。入荷したものから順次出荷するので、配送が複数回に分かれることもあるが、この場合でも会員は 1 回分の送料だけを負担すればよい。
 洋書の場合には国際 VAN を介して B&T、および海外各出版社に発注し、ニューヨークとロンドンにある海外集荷基地を経由してフェデラル・エキスプレスの航空国際エアカーゴ便で日本に到着。早ければ 1 週間、平均して 2 〜 3 週間で会員に届けることができる。近い将来にはフェデラル・エキスプレスの荷物追跡システムとつなげ、会員が自分で注文した書籍が今、世界のどこにあるかを確認できるようにすることも計画している。
 「BOOK WEB」は洋書の実質的な値下げを実現した。日本の店頭に並ぶ洋書の価格には、当然のことながら仕入れ、在庫管理のコストが上乗せされている。それに対して「BOOK WEB」では、書籍の外貨 × 前月平均の TTS 為替レート ×1.0 〜 1.3 と、発行国で購入するのと限りなく近い価格で洋書を手に入れることができる。別途、消費税と海外送料(一冊につき 250 円)、国内送料がかかるが、それでも店頭よりかなり安いという。 
 インターネットの普及は加速度的に進んでいる。同社は 10 万人の会員獲得、年間売上 10 億円を、「BOOK WEB」の 3 年後の目標にしている。


月刊『アイ・エム・プレス』1996年12月号の記事