テレビショッピングが活況を呈している。従来のテレビショッピングのスタイルとは異なる新たな番組が続々と登場しているのだ。バリエーションが豊富になるということは、テレビショッピングの利用者を様々な層に拡大することにつながる。この章では、話題の番組に焦点を当て、テレビショッピングの新潮流をレポートする。
インフォマーシャルの新風を吹き込んだ「テレ・コンワールド」
テレビショッピングがホットな話題として採り上げられるようになったきっかけとも言えるのが、1994 年 7 月からテレビ東京でスタートした「テレ・コンワールド」。深夜 2 時. 3 時台のオンエアであるにも関わらず評判を呼ぴ、現在ではその他のローカル局とも提携し、ほほ全国で放映している。
仕掛人は三井物産だが、事業主体はテレビショッピングにおいて 10 数年の実績を持つ米国・ナショナルメディア社で、三井物産は受注や物流などを支援している。
なぜ同番組が注目されるのか。テレピショッピングの新スタイルである「インフォマーシャル番組」だから必見、という仕事熱心な向きもあるだろうが、やはり単純明快に、一般視聴者にとって「おもしろしい」からではないだろうか。一般視聴者に同番組の印象を聞くと「もろにアメリカン・ジョークという感じのトークが、ヘンでオモシロイ」 「1 商品を30分もかけて説明するんだけど、とにかくテンポが速くて、つい引き込まれる」という答えが返ってくる。たたみかけるような語り口、観客参加の実験を多数盛り込む点など、ノリとしては実演販売に非常に近い。一説に「日本の一般的なスタジオ撮りのテレビショッピングに比べると、 7 ~ 8 倍の予算をかけているだろう 」 と言われるだけあって、商品テストのためにロールスロイスに火をつけてしまうといった派手な演出も見られ、とにかくエンターテインメントとして楽しめる構成だ。
放映開始から 1年強の間に扱ったアイテムは 20点。取り扱う商品ジャンルは①カー用品、 ②健康用品、③キッチン用品が中心だ。絞り込まれたこの 20 アイテムの中から毎回 2 点を選び、 1点当たり約 30分を費やして繰り返し紹介する。最もヒットしたのは、汚れを強力に落とし、つきにくくする車のコーティング剤 「オーリ」( 5,800 円)で、これまでに約 50 回放送し、合計数万個を販売した。消耗品であるため、リピーターも相当数いるという。
深夜番組なので視聴者は自由業や学生が多いかと思いきや、「包丁セットなどもコンスタントに売れており、客層は予想以上に幅広い」(三井物産担当者)。現在、顧客データの保有数は数十万件に達しているが、これの活用についての議論はまだ早いとみている。特にカタログや D M などへの展開については、紙メディアの行く末が案じられていることもあり、現段階では計画されていない。
さて、好調の要因を当の三井物産はどう見ているのだろうか。「一言でいうとすれば、商品の持っている力。ナショナルメディア社の M D のノウハウが最大の差別化ポイント」。
派手な演出で楽しめる「テレ・コンワールド」
インフォマーシャルは今後ますます増加すると見込まれているが、 1商品に多大な時間を割いて説得を重ねていくこの形態においては、当たり前のことながら説得材料をどれだけ持った商品であるかが、最大の鍵となる。まず商品ありき、という視点を持たずして成功はあり得ないといえよう。
情報番組型の老舗「出た MONO 勝負」
「テレ・コンワールド」が深夜枠のテレビショッピングの新参者だとすると、 1987 年 5 月に始まったフジテレビ系「出た MONO勝負」は古株的存在。
もともとフジテレビは、キー局の中でも特にテレビショッピングへの取り組みが先行しており、その始まりは 1970 年、「リビング 4」 という番組の1コーナーとしてテレビショッピングをスタートしたことに遡る。そしてこの翌年、テレビショッピングを始めとするダイレクトマーケテイング事業の専門会社として、フジサンケイリビングサービス( FLS )を設立するに至った。
こうした経緯からもわかるように、現在放映している「出た MONO 勝負」(2 カ月に1 回、全国 9局ネット)、番組コーナー型の「いいものセレクション」(月曜~金曜、全国 13 局ネット)、 F-1 レース開催時に放映される「F-1 MONO コック!」(全国 4 局ネット)はいずれも、フジテレビと FLS が2 人 3 脚で作り上げている。番組の企画段階からFLS のスタッフが参加、商品決定の最終的な GOサインを出すのは番組プロデューサー、という具合だ。 FLS テレビ部のマーチャンダイザーは現在20 名。昼の番組、夜の番組、というように担当を分けている。
「出た MONO 勝負」は、「テレビショッピングの新しいスタイルを他社に先駆けて確立する」という上層部の決断でスタートした。人気長寿番組「なるほど・ザ・ワールド」の制作チームが担当しているだけあって、「世界中のおもしろ情報を紹介する」視点と長年のノウハウを活かした番組に仕上げている。
ここでは、2 時間にわたって、大ヒット映画『フォレスト・ガンプ』の主人公がバスを待つシーンで座っていたベンチ(100 万円)、現在は生産されていないシトロエンの 2CV (160 万円)など、珍しいモノが次々に紹介される。もちろん手頃な値段の品物もあるが、いずれもうんちくのあるモノばかりだ。もちろん海外ロケも複数箇所にわたり、これだけをとっても予算のかけ方が違うなと感じさせる。これは、エンターテインメント番組として他に引けを取らないものを作ると同時に、予算をかけて集めた付加価値の高い商品でなければ、商売としても成功しないという考えがベースにあるからである。 FLS によると、「出た MONO 勝負」は単体で 1991 年から黒字になっている。
「出た MONO 勝負」は先に述べたとおり、テレビショッピングの新しいスタイルの確立を目指した番組であり、最近では、パソコン通信の NIFTY-Serve 上に「出た MONO 勝負」のコーナーを設け、番組を連動させるという試みを始めている。ちなみに 8 月中のアクセス件数は 6,567 件・ 1万 6,414 分に達した。予想を遥かに上回る結果を、 FLS テレビ部長・川間茂氏は「興味のある商品のスペックをパソコン通信で確認する、という利用の仕方が多いのではないか」 と分析する。映像に弱いパソコン通信と文字情報に弱いテレビは、連動するのに適した関係、というわけだ。同社では、来るべきマルチメディア時代を脱みながら、今後さらにパソコン通信の活用を拡大していく計画で、近々PC-VAN、 People を「出た MONO 勝負」 と連動させるほか、インターネット上でのホームショッピングの展開を考えている。
そもそも FLS はメディアミックスに積極的で、テレビショッピングの利用者に対してはカタログを送付している。 一言でテレビショッピングの利用者といっても、「出た MONO 勝負jは20~30代男女、「F-1 MONO コック!」は 20~ 30 代男、「いいものセレクション」は40代以上の女性が中心というようにプロフィールが異なるため、 13種類のカタログから適していると思われるものを選んで、送付。これら 13 種類の中には、カタログ版「出た MONO勝負」「F-1 MONO コック!」も含まれている。
同社のテレビショッピングは、高い番組性を指向することによって個性を打ち出し、フ ァンを獲得してきたが、 一方で商売の視点から見ると、同じネタを 2 度と使えないという悩みもあった 。 今後は、ビジネス性に重きを置いたインフォマーシャル番組の展開も考えていく意向だ。
世界中の珍しいモノ満載の「出た MONO 勝負」
ローカル局を中心に増える協賛型ショッピング番組
ここ数年の新たな動向として無視できないのが、ローカル局を中心に展開されている協賛型ショッピング番組の台頭である 。 協賛型ショッピ ング番組とは、主に 55 分の放送枠の中で、複数企業の商品を次々と紹介していくもの 。事業者が放送枠を買い取り、協賛(出展)企業を募って、ひとつの情報番組として制作する 。 考え方としてはテナントの集合体、ショッピングモールのようなものだ。特長を挙げるとすれば、 ①男女1名ずつのタレントを進行役に起用するほか 、協賛企業の担当者が商品の説明役として出演する、 ②スタジオ内に観客がいる(中年女性が多い)、③1商品当たりの紹介時間は 3 ~ 5 分、といったところだ。
これら事業者のひとつであるジェイ・テ ィ ー ・シーは、番組型、 C M 型のテレビショッピングの他にラジオショッピング、カタログ制作も手掛けている。中でも柱となるのは番組型テレビショッピングで、年開放映回数は数百回に上っている。
同社の 60 分番組(放映 53 分)の場合、 1 商品に割り振られた時間は 3 ~5 分程度。化粧品、寝具、台所用 品などテレビショッピングの定番ともいえる商品の他に、 24 時間風呂、生命保険といったものも登場する。ジャンルを問わず共通しているのは、「説得商品であること」(ジェイ・ティー・シー担当者)だ。生命保険の場合、もちろん電話で契約までは行えないので、資料請求を受け付けるわけだが、ガンが身近な病気であり、膨大な治療費がかかることなどをデータを盛り込んだ映像で見せることによって、 「ガン保険」への興味を駆り立て、優良見込客を開発することができる。このほか、ある自動車メーカーが軽乗用車を紹介し、ここで得た見込客情報をディーラーにフィードバックする、というようなセールス・サポート的な新たな活用法も出てきている。
出展企業の中には「商品はあるが顧客開発チャネルがない」という悩みをもつものも多い。自社でテレビに広告展開するまでには踏み切れない、という企業にとって協賛型テレビショッピングは、大いに魅力ある存在だろう。
ジェイ・ティー・シーでは「テレビの活用は目的ではなく、あくまでも手段であると考えてほしい。売りたい商品を持っていることが大前提」といい、より効果を上げてもらうため、出展企業に対し商品選定などについて提案を行うこともある 。競合他社との差別化ポイントも「ダイレクトマーケティングのトータルサポートができる点」であるとし、番組の企画・制作から電話受注までを自社で行っている。
これらの経験を踏まえて、テレビショッピング成功のポイントを挙げてもらった。まずひとつに、説得型商品をラインアップすること、 2 つ目に認知度・信頼度の高いタレントを起用すること。さらに商品の価格設定については、 1 万円以下の商品は難しいが、逆にこれ以上はダメという上限はなく、重要なのは値頃感だという。ディスカウンターが台頭し、従来のようにコストから販売価格を割り出すのでなく、最初に販売価格を決定してモノ作りをするような昨今にあっては、値頃感の見極めが難しくなってきているという。
また最近の傾向として、受注曲線が以前に比べ、なだらかになってきている。究極の衝動買いであったテレビショッビングも、他のメディアと比較検討した上で注文するスタイルへと様変わりしつつあるようだ。
放送番組制作者陣が全面的にバックアップ「痛快!買い物ランド」
「痛快!買い物ランド」 を制作・展開している東京テレビランドは、放送作家である佐々木敏郎代表を筆頭に、映像ディレクター、スタイリストなどからなるテレビ番組制作者集団。参入の動機は「たまたまテレビショッピング番組の台本を書く機会があり、その内容があまりにも悲惨だったから」(佐々木代表)。番組制作のノウハウを存分に活かして、例えばドラマ仕立て、実演販売風、ドキュメント風など、個々の商品に合わせていかようにも訴求の方法を変えることができるのが同社の強みだ。
「痛快!買い物ランド」は 53 分間の番組。その中で 17 もしくは 18 の商品が、それぞれ 2 分 30 秒間ずつ紹介される 。 1993 年 9 月にスタート し、 2カ月に1 度、全国 22 局で放映されている。放映時間は局によって午前中、ゴールデンタイムなどさまざまだが、売れ筋、受注量などに大きな差は見られないという。
毎回、男女の 2 つのペア、計4人のパーソナリティが登場し、テンポ良くセールス・ポイントなどを紹介していく。この番組の特徴のひとつは、アドリブが多いこと。パーソナリティが自分の言葉でストレートに感想を述べた方が訴求効果があると考えているためだ。これまでのヒット商品は、手を汚さずに絞れるモップ「スーパーモップ」 、真空調理器「力一杯新鮮」、衣類の黄ばみもすっきり落ちる洗剤「マルチイオンクリーナー」 など。利用者は主婦が多いが、年齢は 20~60代と、ほかの番組より幅広い。また、男性の利用も少なくないという。
次から次に様々なジャンルの商品を紹介する「痛快!買い物ランド」
商品撮影費、番組制作費、放映費を含めた商品提供企業の参加費用は 396万円。これは独自に C Mを制作するのに比べて格段に安い。さらに、同じ商品をスポット CM でも展開したいという場合には、コストメリットはますます大きくなる。 1商品に割り当てられた 2 分 30秒間の枠は、パーソナリティによるスタジオでの商品紹介と、別スタジオでの商品説明によって構成されているが、これはパーソナリテイが登場しない商品説明の部分の映像をそのままCMに転用できるからだ。
協賛型テレビショッピングの場合、テレビ局にとってのクライアントは、あくまでも番組枠を買い取った事業者。同社では責任をもって問い合わせやトラブルに対応するために、購買実績客のデータベースを構築してきた。この秋からは、ここに登録された 5 万人の購買実績客に向けてカタログ通信販売を展開するが、ここでも「痛快!買い物ランド」用に撮影した画像データを利用することができるという。参加企業は、同じ商品をさまざまなメディアで効率良く訴求でき、それぞれの効果を比較検証することが可能だ。
さらに 10 月には、インターネットによる通信販売を開始。米国、ニューヨークのサーバーから、番組を 4 コママンガ風に編集し直した情報を提供する。現状では、インターネットで爆発的にモノが売れるとは考えにくい。「マルチメディアに関して皆が知りたがっているのは、技術的なことではなくて、これで何がいくら売れるかということ。来るべき時代に的確なマーケティングを提案するために、今からデータを収集する」のが、同社の目的だ。
「テレビショッピングは、バクチではない」(佐々木代表)。テレビショッピングが広く認知され、多くの利用者を獲得している現在、商品提供企業にとっても、広告、販売、あるいはテストマーケテイングの場として、テレビはますます身近な存在になってきているといえるのではないだろうか。
テレビショッピングのこれから
今日、番組型といわれるテレビショッピングはいくつも出現し、様々なタイプに枝分かれしてきている。これまで長い間、テレビショッピングはあくまで物売りであり、故に CM の括りに入るという位置づけにあった。これが番組の領域にまで範囲を拡大し得たのはなぜだろうか。
ひとつには、テレビ番組が情報カタログ化してくる一方で、テレビショッピングにおいても、商品の背後にある情報や文化を事細かに見せることが次第に重視されるようになってきた、つまり両者が次第に歩み寄り、質的に似てきたということがあるだろう。
「番組と CM の境がなくなりつつある」という指摘は、双方の質的な類似もさることながら、番組と CM の枠組みそのものが転換期を迎えていることをも言い表している。
「テレビの消える日」(講談社刊)という本の中で、著者のジョージ・ギルダーは「テレビという技術は過去の遺物」と言いきり、双方向のメディアであるテレコンピューターがこれに変わる、と説いている。
マルチメディア時代のテレビの位置づけについては多くの議論があるところだが、少なくとも現時点においては、映像の持つインパクトによってテレビは独自のメディアといえるだろう。テレビの映像は、目の前にいる人を見ているようにスムーズに動く。この動きの伝達力がテレビの優位性であり、パソコンはこの点で大きく差をつけられている。テレビショッピングが実演販売に非常に似ているのも、人の表情、場の空気をリアルに伝えられるテレビの特性を活かした結果と捉えることができょう。
メディアの行方がどうあろうとも、モノを売るという脈々と続いてきた行為と、そのベースにある知恵やセオリーは、そう簡単に変わらない。たとえメディアが変わっても、テレビショッピングで培われた売りのノウハウは無駄にはなるまい。
今、テレビの中で繰り広げられる様々な店づくりは、次代の売り方を模索する過程での試行錯誤といえるのかも知れない。