コンタクトセンター最前線(第145回):コールセンターをCRMの中核にエンゲージメントによる収益増大を目指す

ダノンジャパン(株) 

チルド乳製品などを世界120カ国以上で販売するダノングループ。その日本法人であるダノンジャパン(株)では、品質保証部のお客様相談室がコールセンターを運営。顧客エンゲージメントにより収益を上げる方針の下、今年度からはマーケティング部門へのリポートも開始。電話応対による“共感”の醸成に加えて、ポイントプログラムの運営やメルマガの配信も担っている。

独自ポイントプログラムの「ダノンポイントクラブ」

 ダノンジャパン(株)は、ヨーグルトなどのチルド乳製品をはじめ、乳幼児向け食品や医療用栄養食を世界120カ国以上で販売する、フランスに本拠を置くダノングループの日本法人で、2007年に設立された。日本国内では、「ダノンビオ」「ダノンデンシア」「ベビーダノン」などチルド乳製品の製造販売事業に力を入れている。
 ダノングループでは、お客さまに安全で安心な製品をお買い上げいただくために、各国の品質管理部門にお客様相談室を設け、お客さまからの問い合わせに対応。日本法人においても、品質保証部に置かれたお客様相談室が、コールセンターの運営をはじめとするCRM業務全般を担っている。
 2010年にダノンジャパンの代表取締役社長に就任したジョージ・ザリフィ氏は、お客さまとのコミュニケーションを従来以上に活発化させ、顧客エンゲージメントをビジネスに生かす意向を示した。同相談室では、こうした意向を受け、販売数量の増加に伴い増加傾向にあった電話の応対品質の改善に着手。当初は、センターの運営形態をそれまでのアウトソーシングからインハウスに切り替え、同社が直接センターを運営する方向に傾いたが、2011年3月の東日本大震災を契機に、災害発生時のBCM(事業継続マネジメント)を重視すべきとの意見が高まり、本社と離れたロケーションでセンターを運営することができるアウトソーシングを採用しながらも、委託先との連携を強化し、品質改善を進める方針を決定。オペレーションの強化に向けて新たな委託先を選定し、2011年8月から現在の体制に移行した。
 また、同相談室では、顧客エンゲージメントを強化するという方針の下、今年度からは「コンシューマーコネクト」として、マーケティング部門へのリポートも開始。2013年3月にスタートした独自のロイヤルティ・プログラム「ダノンポイントクラブ」の運営業務も担っている。
 ダノンポイントクラブは、リピート商品であるヨーグルト購入者を対象としたポイントプログラム。Webサイトの専用フォームから会員登録を行った上で、ヨーグルト製品に印字されたシリアル番号を入力することでポイントを蓄積できるほか、ハガキでの応募も受け付けている。シリアル番号は14ケタのユニークなもので、お客さまが製品のカップのふたを開けて食べるときに目に付きやすいことから、ふたの裏側に印字。例えば、4個セットの「ダノンビオ」を購入すると、セットのうち1個のふたの裏側にシリアル番号の記載があり、3ポイントが獲得できる仕組みになっている。長期にわたる継続的なプログラムで、最低6ポイントから抽選でプレゼントが当たる懸賞に応募できるほか、200ポイント以上集めると、もれなく景品がもらえる仕組みとなっている。
 「ダノンポイントクラブ」には、すでに30万人弱の会員登録がある。アンケート結果によると、同クラブへの入会に伴い、会員の消費量が増加しているほか、会員の購入点数が非会員より大幅に多くなるなど成果を上げている。また、一部のメールマガジンも担当。お客さまとの直接的なコミュニケーション・チャネルであるコールセンター運営と併せ、こうしたアウトバウンド系の施策も担う同相談室は、同社におけるCRMの中心的な存在となっている。

グループ標準仕様のシステムでフランス本国とネットワーク化

 コールセンターは前述の通り、BCMの観点から、同社とは別のロケーションで、委託先側の施設で運営されている。メンバーは7人と少数精鋭。一方、同社側では、お客様相談室長をはじめ本社勤務の3人が、センター側と緊密に連携しながら運営を主導している。
 全国のお客さまからのコールを受け付けるのは、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル1番号・20回線で、下6桁は「ヨーグルト」の語呂合わせで、「409610」。番号告知には積極的に取り組んでおり、Webサイトや製品パッケージをはじめ、新製品や各種キャンペーンを周知する広告にも極力、明記するようにしている。
 コールセンター・システムについては、基本的に委託先の設備を利用しているが、着信時にはIVRを利用して、「ダノンポイントクラブ」などキャンペーンに関する問い合わせと、それ以外の問い合わせに二分することで、応対業務の効率化を図っている。
 なお、問い合わせの内容などを記録し、必要に応じて履歴を参照できるデータベース機能などを備えたCRMシステムには、世界のダノングループ共通の独自仕様のシステムを採用。データベース用のサーバなどはフランス国内に置かれており、フランス本社とネットワークで結ばれている。問い合わせや苦情などは、商品別、および内容別に、ダノングループ共通のコードで分類の上、データベースに登録する仕組みだ。
 なお、電話の受付時間は、平日の午前9時から午後5時30分で、年末年始などは休業。

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ダノンジャパンのお客様相談室は、BCMの観点から、本社とは離れたロケーションでアウトソーシングにより運営されている

電話やeメールを寄せるお客さまの大半が女性

 顧客エンゲージメントの強化を目指す同社では、お客さまとの直接的なコミュニケーションを促進するため、受電件数を増やしていく方針である。同相談室のコールセンターでは、電話のほか、同社のWebサイト上の専用フォームからの問い合わせにも対応。電話とeメールを合わせた受付件数は、2012年時点で約2万6,000件で、うち同年4月から対応を開始したeメールが5~6%を占めていた。受付件数はその後も前年同様のペースで推移していたが、「ダノンポイントクラブ」の運営が本格化した4月以降は、同クラブに関連する問い合わせが増加し、前年を2割程度上回るペース。2年目を迎えたeメールによる問い合わせも、全体の12%程度に増加している。
 受付件数は、年間を通じて春と秋に増加する傾向がある。これにはこの時期に合わせて新製品を発売し、TVコマーシャルをはじめ広告宣伝に力を入れていることが影響している。
 電話やeメールの内容を問い合わせと苦情に大別すると、前者の問い合わせが全体の7割以上を占めている。
 問い合わせの内容をさらに詳しく見ると、最も多いのが、各製品の特徴や味に関するもの。健康づくりのために製品を求めるお客さまからの食べ方に関する問い合わせがこれに続いている。具体的には、「どの製品を」「いつ」「どのように」といった質問だが、同社では自ら提唱する「one yogurt a day (毎日1個ヨーグルト)」の考え方を紹介するなど、お客さまに継続的に食べていただくようお奨めしている。3番目に多いのは、「ダノンポイントクラブ」などキャンペーンに関するもので、ポイントの貯め方、懸賞やプレゼントの応募方法など多岐にわたる。
 なお、同社製品を日常的に食べている層は、男女を問わず、40代から50代をボリュームゾーンに幅広い年代にわたるが、同相談室に電話やeメールを寄せるお客さまの大半が、子育て中の母親や高齢者を中心とした女性となっている。

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お客さまとのエンゲージメント強化には、コミュニケーションを活性化することが必要という観点から、お客様相談室のフリーダイヤル番号の周知を徹底。商品のパッケージにも同相談室の案内を掲載している

商品情報などを積極的に案内する「プラスアルファトーク」を励行

 受付件数の増大という大きな目標に、すでに一定の成果を上げつつある同相談室であるが、応対品質の維持・向上に向けた取り組みも活発であり、①KPIによる運営管理、②コールモニタリング評価、③センター利用者対象のCS調査を実施している。
 ①は、電話の応答率やeメールに対する24時間以内の返信率など、一般のコールセンターでも広く採用されている複数のKPIを採用。ただし、顧客エンゲージメントを強化するという観点から、応答時間は組み込んでいない。 
 また、②は毎月、受付件数全体のうち一定割合のコールについて行うこととなっており、現場のマネージャーなど受託側と同社側が、同一のコールの音声をモニタリング。応対内容の正確さや入力オペレーションの迅速性、お客さまに“共感”する姿勢をはじめ、話し方や質問の仕方などを点数化して評価している。
 さらに同社では、問い合わせの電話に対し、回答だけに終始せず、お客さまに役立つ商品情報などを積極的に案内する「プラスアルファトーク」を励行。②の評価においては、こうした応対を最大10点の加点対象としており、ほかの評価項目と併せて、110点満点で採点している。
 ちなみに、「プラスアルファトーク」の一例としては、乳幼児を持つ母親に、子どもの年齢に応じて最適な商品をお奨めするといったことがある。同社では、生後6カ月から6歳までの乳幼児向けに、成長に応じて3種のブランドを販売しているが、こうした製品を適切なタイミングで薦めるためには、子どもの成長や食生活を把握するためのやり取りが不可欠。また育児の苦労に対する共感を示すことで、プラスアルファトークが初めて生きてくるという。
 さらに③については、電話対応の最後に、アンケート担当のオペレーターに交代して聞き取り調査を行っているほか、eメールの利用者には、調査依頼のeメールを送り、返信を求めている。満足度は、5段階評価(最高5ポイント)で回答してもらうもので、結果を現在の委託先に移行した2011年8月の前後で比較すると、以前は平均4.3ポイントだったものが、4. 6ポイントに上昇。なお、同社製品を「継続して購入するか(再購入意向)」という問いに対しては、現在では98%程度が購入すると回答しているとのこと。これは苦情を申し出た者も含めた数値とのことなので、まさに驚異的な高さと言えるだろう。

キャンペーンの問い合わせに「当たりますように…」の一言

 このように高い顧客満足を実現するために、同相談室では人材育成の面でも、委託先との連携による独自の制度を導入している。新人教育では、同社側が開発した、2週間の座学とロールプレイイングによるカリキュラムを経て、実際の応対業務に就いてもらう。基本的な電話応対の流れも同社側で取り決めており、着台後もモニタリングなどを通じて継続的にフォローアップしている。
 同社ではお客さまの気持ちに寄り添う共感を重視していることから、教育においては状況に応じた適切かつ多様なバリエーションの応答スキルの習得が大きなテーマ。例えば前出のプラスアルファトークの一環として、オペレーター自らの提案に基づきキャンペーン応募の問い合わせ対応の最後に、「当たりますように…」という一言を付け加える取り組みを行っているが、これが自然に口にできるようになるには、お客さまに対する真摯な姿勢や経験が不可欠だという。

賞賛や感謝の声を全社員に共有

 お客さまとの貴重なコンタクトポイントであるコールセンターの運営状況は、CRMシステムを介して、同社品質保証部の関係者などがリアルタイムで閲覧できるほか、賞賛や感謝の言葉などは社内のイントラネット上で全社員に公開している。
 また、センター運営の動向や業務改善などに役立つ情報は月次でレポートにまとめ、同社幹部が集う会議の席上で報告するほか、関係部門に共有。さらに、万一の異物混入など重大な情報については、受信から遅くとも8時間以内に経営幹部に連絡できる体制を整えている。
 なお、フランス本国では、日本を含めた各国のセンター運営状況を定量的にモニタリング。ただし、苦情などの件数を国際比較する際には、日本人の品質に対する意識が諸外国と比べて最も敏感であるため、実態が過大に評価されないように、国際調査のデータに基づく係数を用いて補正値を算出するようにしているという。

登録会員増加が目標 売上高や販売数量の拡大へ

 同相談室では、会員登録の伸びが好調な「ダノンポイントクラブ」は、顧客と同社のコミュニケーションの深化の程度を知る“バロメーター”になるものととらえており、2014年には登録会員をさらに増やし、売上高や販売数量のさらなる拡大につなげていくという大きな目標を掲げている。
 こうした中、問い合わせ件数は今後もさらに増加していくものと見られるが、同相談室では引き続き、応対品質の維持・向上を図ると同時に、収集した情報の活用に注力していく意向。また、現段階では未着手のソーシャルメディアへの対応も同相談室で担っていく計画であり、同社のCRM戦略の要として、その取り組みを一層活発化させる考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年12月号の記事