コンタクトセンター最前線(第144回):交通や物流の“大動脈”を快適に安心して利用いただくために高い応答品質を実現

東日本高速道路(株)

東日本エリアの高速道路の管理運営・建設事業などを担う東日本高速道路(株)では、利用者の問い合わせなどに対応するコンタクトセンター「お客さまセンター」を運営している。悪天候や災害などによってコール数が大きく変動する難しさがありながらも、交通や物流の“大動脈”である高速道路を快適に安心して利用いただけるよう、品質向上に努めている。

ブランドネームの「NEXCO」は事業運営の姿勢と熱意を象徴

 東日本高速道路(株)は、日本道路公団の民営化を受けて、2005年に中日本高速道路(株)、西日本高速道路(株)とともに設立された。新潟県および長野県の一部を含む関東以北を事業エリアに、高速道路の管理運営・建設事業をはじめ、サービスエリア事業、駐車場事業、高架下活用事業などを行っている。
 事業エリアにおける高速道路の総延長は3,733km(2013年7月1日現在)に達し、通行台数は1日当たり平均269万台(2012年度)。このほか、インターチェンジが418カ所(同9月20日現在)、利用がETC搭載車両に限定されたスマートインターチェンジは36カ所(同8月25日現在)となっている。
 ブランドネームの「NEXCO(ネクスコ)東日本」は、同社の英語表記である「East Nippon Expressway Company Limited」に由来するが、同時に「Next(次なる)」と「Co(共に)」の2語を包含した造語としての意味合いもあり、同社グループの姿勢や熱意を示しているという。
 そして、事業エリアにおける高速道路の利用者から寄せられる問い合わせ、意見、苦情などに対応するのが、同社コンタクトセンター「お客さまセンター」である。
 同センターの開設は、同社が設立された翌々年の2007年3月。公団時代に各地のハイウェイ・ガイドや料金所などで担っていた電話応対業務などを同センターに集約したもので、対応チャネルは電話、eメール、郵便。電話の受付時間は24時間365日、eメールへの対応時間は平日の9時から18時までとなっている。
 なお、同社では道路交通情報については、IVR(自動音声応答)による専用サービスの「ハイウェイテレホン」でも提供しているほか、高速道路上における落下物の通報などについては、「道路緊急ダイヤル(#9910)」で、各地の道路管制センターが受け付けている。

コミュニケーターは“少数精鋭” 夜間は3人体制

 同社では、専門性の高いコンタクトセンター運営業務のリソースを外部に求めており、(株)もしもしホットラインにアウトソーシング。都内1カ所の拠点で事業エリアのすべてのコールに対応しており、施設規模は約30席、使用回線数は46回線となっている。
 組織体制を見ると、もしもしホットライン側のスタッフは、電話応対のオペレータが約70人、SVなどが約20人。オペレータの性別では、男女がおおむね同数の5対5の割合。24時間のシフトを組んで時間帯ごとに稼働人員を増減させて対応するが、オペレータは、昼間の午前9時から午後6時の時間帯が18人と最も多く、深夜の午後10時から午前7時が3人と最も少ない。深夜の時間帯は、男性スタッフが多くシフトに入っている。
 同社側では、センター長を筆頭に10人の社員を配置。そのうち5人が、エスカレーション対応などに当たるチーフマネージャーで、やはり24時間のシフトを組み、同社の現地社員やもしもしホットラインのスタッフと連携を取りながらセンター運営に当たっている。
 受付電話番号には、「0570」で始まるNTTコミュニケーションズ(株)のナビダイヤルを使用。通話料金のうち、市内通話相当分を利用者が、市外通話相当分を同社がそれぞれ負担。問い合わせなどのサービスの利用に一定の受益者負担を求める方針を貫いている。一方で苦情などのコールについては、同センター側からお客さまの指定番号に折り返す旨を伝え、お客さまがそのまま通話することを希望された場合を除いて、速やかにコールバック。こうした運用面での工夫を通して、料金負担に対する理解を醸成している。
 受付電話番号の告知には、公式Webサイトや各種告知ツールをはじめ、高速道路に設置した横断幕、サービスエリアやパーキングエリアに掲示するポスターなど、多様なメディアを活用している。
 なお、“少数精鋭”の同センターでは、効率性の観点から、オペレータにあらゆる内容のコールに対応できる“マルチスキル”を求めており、IVRによりコールを振り分けるようなことは行っていない。

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NEXCO東日本の「お客さまセンター」では、計70人のオペレータがお客さまからの電話に対応している(左)/お客さまセンターの電話番号は、ポスターなどでも告知されている。写真は9月27日から開始された「東北復興応援キャンペーン 東北観光フリーパス」のポスター(右)

東日本大震災に見舞われた2011年は応答率が大きく低下

 同センターの受電件数は、日々の変動幅が極めて大きい。月別の受電件数を見ると、受電件数を押し上げる特別な要素のない時期は、おおむね5万件以下の水準となっているが、高速道路利用料金の休日特別割引が始まった2009年3月は約14万件。また東北地方を中心に高速道路の運営に甚大な影響を及ぼした東日本大震災が発生した2011年3月も約14万件。さらに震災後に東北地方で無料措置が始まった同年6月には最多の22万件超を記録。その後も翌2012年にかけて無料措置の見直しなどがあったことから、5回にわたり、10万件を超える月があった。
 さらに今年に入ってからも、首都圏が大雪に見舞われた1月14日には受電件数が2,248件と、いつもの2倍程度に跳ね上がったという。
 このように、同社のセンターは、災害や料金制度の変更など外的要因の影響を受けやすいことから、日にちや時間帯によっては応答率の著しい低下を招いている。
 応答率を年度別に見ると、平年はおおむね80%前後で推移しているが、東日本大震災の影響を受けた2011年度は平年を20ポイント下回る約60%だった。
 また日別の応答率では、前述した首都圏が大雪となった2013年1月14日は18.8%。これは同センターのPBXシステムに入電した件数を分母として算出したデータだが、PBXシステムでも受け切れていない話中コールを含めると、受電できている比率はさらに低下する。
 同センターでは、業務の運営状況を管理するKPIとして応答率80%をひとつの目標に設定している。しかし、リソースに限度がある現状においては、災害など外的要因による応答率の低下は実に頭の痛い問題。そこで、事故や天候不良による通行止めなどの際は、オペレータにつながる前に流れる音声ガイダンスで、問い合わせの多い主な路線の交通規制に関する最新情報を提供するなど、できる限りの対応に努めている。

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目まぐるしく変化する交通規制はホワイトボードに手書きして共有

 利用者から同センターに寄せられた電話やeメールを内容別に見ると、ここ数年は外的要因が大きく作用して年度ごとのばらつきが大きい。ただし2012年度のデータを見ると、無料措置など「料金関係」が最も多く、約29%。次いで、通行止めや速度規制など道路交通情報の「交通」が約28%、ETC時間帯割引など「料金割引」が約15%となっている。
 このような内容のコールは事業エリア内の全路線に及ぶため、各オペレータには多くの知識が求められる。そこで同センターでは、オペレータが正確な情報を基に応答できるよう、手元のPC端末からFAQや必須情報が参照できるイントラネットを完備。同社側から提供する情報を充実させることで、一次対応の完結率を高めている。ただし、特に各路線の通行止めなどの交通規制は、刻々と変化する天候や道路状況を受けて目まぐるしく変化することから、オペレータなど主要なスタッフ全員が見やすい位置にホワイトボードを置いて、随時、4カ所の道路管制センターから収集した情報を書き込んでいる。イントラネットを通じて情報を共有することもできるが、これが最新情報をオペレータに迅速かつ確実に共有する最良の手段であるとの結論に至ったという。
 なお、同社の各路線における道路上の落下物や何らかの異常事態に関する通報は、♯9910で受け付け、当該路線を管轄する各地の道路管制センターにつながる仕組みとなっているが、こうした通報がお客さまセンターに入電するケースも少なくない。その場合、道路管制センターと確実に連絡が取れるように、不測の事態で通話が切断されても、「#9910」に再架電するよう案内した上で、道路管制センターにコールを転送するなどして対応。通報者との連絡手段が確保されるように配慮している。
 一次対応のオペレータが即答できず、エスカレーションが必要なコールについてはSVに確認することになるが、SVでも対応できない場合は、同社側のチーフマネージャーに回答内容や対応方針の確認がなされる。さらに、本社をはじめ各事業所や各地の道路管制センターなど担当部署に照会が必要と判断された場合には、チーフマネージャーが連絡調整の役割を担う。原則的に回答は、オペレータからの折り返しの電話で行うフローとなっているが、地域事情に密接にかかわる内容などについては、同センターを経由せずに、現場から直接、回答することもある。
 こうしたエスカレーション案件は、同センターを中心に複数の部署間のチームプレーによって対応がなされているが、このときの連絡手段には、電話に加えて「お客さまの声データベース」と呼ばれる情報システムも活用。緊急対応は電話を使うなど、状況に応じて使い分けている。
 お客さまの声データベースは、同社の各部署からアクセスできるご意見・苦情のデータベース・システムで、同センターが利用者からの問い合わせ内容などを登録すると、それを見た担当部署側が回答などを入力。回答に対するお客さまの反応なども、このシステムを活用して担当部署にフィードバックできる。同社ではこれとは別に過去の問い合わせ全件を蓄積、社内で検索できる「お客さまの声ポータル」を運用しており、これとセンター側のCRMシステムとをシステム的に同期させることで、NEXCO東日本グループとの情報共有を図っている。

第三者機関HDIの調査で2年連続で「三つ星」を獲得

 高速道路は、交通や物流の“大動脈”として機能している代替が利かないインフラである。こうしたインフラの利用者をサポートする重要な責務を預かる同センターでは、特に応対品質の管理を徹底。利用者とオペレータの通話内容については、もしもしホットライン側で内容を抽出してモニタリング、各人に定期的にフィードバックしているほか、同社側でも必要に応じてリアルタイムでモニタリングし、突発的な事象などにも適切な応答がなされているか、監督している。
 また、応対品質の水準については、第三者機関に評価を依頼しており、HDI-Japanの格付け調査では、2012年と2013年の2年連続で「三つ星」の最高評価を獲得している。

モチベーション向上につながるサービスエリアの見学会

 こうした高い応答品質を実現するために、オペレータの新人教育では、延べ100~120時間のカリキュラムを用意。同センターの品質管理担当者が講師を務める座学は延べ約50時間。高速道路の管理運営の仕組み、路線やサービスエリアなどについて学ぶ。このほか、先輩オペレータの隣席に座って、先輩の応答ぶりを学んだり、OJTを行うといった機会も50時間ほど設けている。こうして新人には、充分なスキルを習得した上で着台してもらっているのだ。
 オペレータ全員を対象とするフォローアップも、少人数の集合研修やSVによる個別指導のかたちで継続的に実施。このほか同社施設の見学会も実施しており、同社が「Pasar(パサール)」とのブランド名で、サービスエリアやパーキングエリアに展開している商業施設などを訪れている。
 なお、こうした見学会を通じた施設の理解促進や、前述のような格付け調査による高い評価の獲得は、オペレータのモチベーション・アップに大きく寄与しているという。

「正確」「迅速」「親身」な応対を日々実践

 同センターに寄せられたコールの履歴情報は、CRMシステムで管理しており、意見や苦情をはじめ、対策が必要と考えられる重要な内容などについては、日次で、同社の役員や関係部署に共有。また、同センターの幹部が出席する月次の「品質管理会議」では、センター運営の改善テーマを個別に議論し、応対品質向上策の見直しなど、具体的な対策を講じることにしている。
 高速道路などの施設を快適に安心して利用してもらえるように、同センターでは今後も、「正確」「迅速」「親身」な応対を日々実践していく方針。お客さまの声を傾聴し、共感することに努めると同時に、お客さまのナマの声を適切に、本社をはじめとする各事業所に伝えることで、ネクスコ東日本グループの事業展開に貢献していく考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年11月号の記事