コンタクトセンター最前線(第142回):顧客満足度の向上に向けて「コールバック・システム」導入や応答の“質”の指標化に着手

(株)QVCジャパン

テレビショッピング番組を24時間365日体制で生放送する(株)QVCジャパンでは、お客さまの注文や問い合わせに対応するコールセンター「カスタマーコンタクトセンター」を運営。独自の評価指標である「ソフトKPI」の運用に加え、8月には待ち時間の短縮に向けて「コールバック・システム」を導入するなど、顧客満足度の向上に注力している。

24時間365日、生放送のテレビショッピング

 24時間365日、テレビショッピング番組を生放送する(株)QVCジャパンは、米国通販大手のQVC,Inc(以下、米国QVC)が資本の60%を、三井物産(株)が40%を出資し、2000年に設立された。
 米国QVCは、テレビショッピングやEコマースなどを駆使したマルチメディアの通販事業を世界各国で展開している。日本のほか、ドイツ、イギリス、イタリア、中国に進出しており、テレビショッピング番組の視聴世帯は世界で計約2億5,000万世帯、米国QVCや各国子会社の総売上高は85億1,600万ドル(2012年12月期)に達する。
 QVCジャパンは、QVCグループが世界で培ってきたノウハウをベースに、日本のマーケットのニーズに合わせて通販事業を展開。2001年4月から、24時間365日の放送を始め、当初は、生放送15時間と再放送9時間の体制だったが、2004年5月からは24時間の生放送に移行した。
 主力販売チャネルであるテレビショッピング番組は、CS放送やケーブルテレビなどを通じて視聴できる。最も人気がある企画である「TSV(Today’s Special Value)」の番組は1日5回の放映で、一押しの商品について、ナビゲーターと呼ばれる司会進行役と、商品供給会社の営業担当者といったゲストが、実演を交えて紹介していく。取扱商品は、1週間で約870点に上り、ジュエリー、アパレル、ファッション雑貨、食品、家電など幅広い。
 顧客は日常的な番組視聴などを通じて気に入った商品を探し、時には電話で商品の詳細を問い合わせるなど吟味して購買に至るが、中でもロイヤル顧客においては、こうした買い物のプロセス自体を楽しむ傾向が強いという。そのため、番組では、商品のこだわりや製造現場の様子なども取り上げて、エンターテインメント性を高める演出を重視している。
 販売チャネルにはテレビショッピングのほかにもカタログ、ECサイトがあり、総顧客数は約550万人。1年間に130万~ 140万人からの注文があるといい、総受注額の90%以上がリピート購買となっている。顧客の90%以上が女性で、40 ~ 60代が中心。受注チャネルは電話とWebサイトで、チャネル別の売上高構成比はおおむね7対3となっている。
 こうした問い合わせや注文の電話に対応しているのが、同社の「カスタマーコンタクトセンター」。通販会社である同社において、同センターは貴重な顧客とのコンタクトポイント。電話応対が顧客の満足度を大きく左右するとの認識から、気軽に相談をしてもらえるように心掛けるなど、顧客とのコミュニケーションを重視。ここ数年は、特にコールセンター業務の品質改善や生産性の向上に注力している。

注文のコールをIVRで受け付ける「クイックアクセス」も

 2013年1月、番組制作用のスタジオや放送設備などを備える千葉市美浜区の同社新社屋「QVCスクエア」が竣工したことに伴って、以前は本社にあったコールセンターも新社屋に移転。新しいコールセンターシステムの調整やオペレーションの試験実施を経て、同年3月から本格的に稼働を開始した。
 コールセンターは約300席で、要員は全体で約550人。運営体制を見ると、マネージャーやシフトマネージャーなど管理部門は約50人で、コールの応対などに当たるコミュニケータが約500人。コミュニケータには、注文を受ける「アドバイザー」と、問い合わせや相談を受ける「コンサルタント」の2つの職種があり、アドバイザーは約400人、コンサルタントが約100人。アドバイザーやコンサルタントは、18のグループに分けられ、それぞれのグループには、とりまとめ役のグループリーダーが1人ずつ配置されている。
 主要な電話番号は、①受注用(アドバイザー対応)、②IVRによるセルフサービスの受注用、③問い合わせや相談の受け付け用(コンサルタント対応)、④Webサイトの利用に関する問い合わせ用、⑤視聴機器の地上波デジタル放送対応などに関する問い合わせ用の5番号。これらを合わせて約1,200回線を使用している。
 いずれもNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを採用。ただし携帯電話からのコールについては一般加入回線で受けている。受付時間は、①②③⑤が24時間365日で、④は午前8時から翌午前2時までで無休。
 また、②は、音声ガイダンスに従って電話機のプッシュボタン操作で注文の手続きを行ってもらうもので、顧客などには「クイックアクセス」の名称で告知している。

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新本社「QVCスクエア」で運営される「カスタマーコールセンター」。応対に当たるメンバーの様子や表情がグループリーダーから見えるように座席が配置されている

最もコールが集中するのは午前0時から午前1時

 受電状況を見ると、IVRも含めた全体で1日当たり約4万2,000件。内訳は、①のアドバイザーによる受注が約2万2,000件、②のIVRによる受注が約1万8,000件、③の問い合わせや相談が約2,200件などとなっている。全体の受電件数は年間を通じてほぼ一定だが、年末商戦の時期にやや増加する傾向がある。また1日を通じては、5回のTSV放映のタイミングでコールが増加する傾向にあり、最もコールが集中するのが、やはりTSVが放映される深夜の午前0時から午前1時の時間帯となっている。
 受注用の①は基本的に、テレビショッピングの番組、カタログ、Webサイトで商品を見たお客さまからの注文のコールの受付業務となるが、サイズや色など商品選びに関する質問や相談が寄せられることも珍しくないため、対応に当たるコミュニケータにはこうした場合にも柔軟に対応できる高度な商品知識や高い応答スキルが要求される。他方、問い合わせや相談用の③には、商品の返品、交換、配送、期間限定実施のキャンペーンに関する問い合わせなど、多様なコールが寄せられる。
 現在、①と③でそれぞれ受け付けているコールは、設立当初は同一番号で受け付けていた。しかし、コミュニケータがコールごとに用件を確認して対応する必要がある上、受注と問い合わせでは応答時間などの適正値が異なるため、定量的なKPIで生産性を評価できないという難点があった。そのため、2001年中に①と③に番号を分離し、現在の態勢に移行。受注か問い合わせかといったコールの目的が明確化でき、お客さまのニーズにより的確に対応できるようになった。

お客さまを電話口でお待たせしない「コールバック・システム」

 テレビショッピングでは一般的に、番組の放送中や放送直後など特定の時間帯に視聴者からの電話が集中する。こうした中、コールがつながらず延々と待っているうちに、希望の商品が完売してしまい、電話がつながったときにはもはやその商品を入手することはできないという事態も十分に起こり得る。お客さまは電話が着信するのを待ちながら、このような強いストレスにさらされているのだ。
 そこで同センターでは、以前から受注用の①で、待ち時間に商品を“予約”できるIVRのサービスを提供してきた。これは、コールの集中時に自動的に音声自動応答サービスを起動し、お客さまに電話機のプッシュボタン操作により希望の商品の在庫を確保してもらう仕組みで、その後、アドバイザーに電話が着信した時点で、注文の手続きを完了するという流れになっている。
 この8月からは、これに加えて「コールバック・システム」の運用も開始。前述のプロセスにおいて商品を確保した後、アドバイザーにつながるまでの時間がおおむね3分を超えると予測される場合、同システムが起動。そのまま待つか、同センターからの折り返しの電話を希望するか、いずれかを選択することができる。
 同システムは当面、人気のTSVや特別編成のイベント番組が放送される時間帯などに限って運用することにしているが、将来的には、利用状況を検証しながら、運用時間帯を含め、段階的にサービスを拡充していく方針という。

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効率性と品質の両面からバランスの取れた評価を目指す

 コールセンター業務の品質改善や生産性の向上を目指す同社では、電話応対のオペレーション業務全般を評価・管理する指標として、応答率や応答時間といった一般的なKPIに加え、「ソフトKPI」という独自の指標を導入している。
 「ソフトKPI」は、通話モニタリングにより、定量的な指標では評価しづらい応対の“質”を評価するもの。顧客満足が達成されているかどうかをできるだけ客観的にとらえると同時に、電話でのやり取りを含めて同社の顧客がショッピングを楽しんでいる実態をより積極的に評価し、一層の顧客満足の獲得につなげていくことを狙いとしている。
 その一方で、オキュパンシーやハンドリングタイムなど従来型の定量的なKPIを、同社では、「ハードKPI」と呼んでおり、両者を組み合わせることで、効率性と品質の両面から、バランスの取れた総合的な評価を行えるよう配慮している。
 「ソフトKPI」については、アドバイザーとコンサルタントを対象とした評価・判定を定期的に実施。グループリーダーがメンバーそれぞれの通話を一定時間モニタリングし、所定の項目について評価する。こうしたモニタリングの実施は本人に事前に通知するようにしており、実施後は48時間以内に本人にフィードバックし、問題点の改善を促している。
 運用面では、グループリーダーがモニタリングなどの管理業務を行いやすいよう、グループごとにメンバーがおおむね同じ時間帯に勤務するよう、シフトを組んでいる。また、新社屋のコールセンターについては、設計段階から、グループごとに島を構成するレイアウトを採用。座席は、グループリーダーの席からメンバーの表情が見やすいように、メンバー各自の席がグループリーダーの席の方向を向くように配置している。
 なお、同センターでは、アドバイザーやコンサルタントの人材は直接雇用のパートが担っており、千葉ベイタウンに居住する30 ~ 50代の主婦が中心。採用された後は、60時間に及ぶ研修を経て着台する。研修では、取り扱うジュエリーやアパレルなどの商品知識の定着も重視。パートを社員に登用し、管理業務などで活躍してもらうケースも少なくない。
 アドバイザーやコンサルタントのモチベーション向上に向けたユニークな施策として、「サンキューボックス」がある。これは、お客さまからの評価ではなく、職場の同僚からの評価を投書形式で募る仕組み。同僚のお客さま対応を賞賛したり、感謝の気持ちを伝えたりすることで、センターの活性化に寄与している。

運営状況を役員会で討議し顧客満足度の向上を目指す

 同センターの運営状況や特筆すべきコールの内容については、週次のレポートにまとめ、毎週月曜日に行われる役員会で報告。業務やサービスの改善が必要と判断される事項については、担当役員などを通じて速やかに対応が講じられる。同社では特に、業績拡大に向けて、リピート促進につながる顧客満足度の向上に力を入れている。受注と問い合わせ用の電話番号の分離、「ソフトKPI」の導入といった取り組みも、こうした役員会の場で熱心に討議され、方針が打ち出されたものである。

「ソフトKPI」の活用で応答品質の向上を目指す

 2013年3月のコールセンターの新社屋移転で業務環境の面でも態勢が整ったことから、同センターでは、今後も引き続き、独自の「ソフトKPI」を活用した応対品質の向上に取り組んでいくことにしている。
 また、テレビショッピング番組などを見て注文するお客さまに対応することがミッションである同センターは、24時間365日の運営体制。それだけに、高い応対品質をコンスタントに維持するには、アドバイザーやコンサルタントのモチベーションや、多様な顧客ニーズに柔軟に対応できる“現場力”が求められることになる。こうした中、同社では今後も人材マネジメントを重視。同社の通信販売を通じて、お客さまにショッピングを楽しんでいただけるよう努めていきたいとしている。

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テレビショッピング番組は24時間・365日体制で放映。これに合わせて、カスタマーコンタクトセンターも24時間・365日体制で稼働している


月刊『アイ・エム・プレス』2013年10月号の記事