コンタクトセンター最前線(第140回):継続加入の促進に向けて加入者データの分析を顧客応対に活用 Webチャネルとの融合も推進

(株)WOWOW

衛星放送の(株)WOWOWは、未加入者や加入者の問い合わせなどに対応する「WOWOWカスタマーセンター」を運営。近年では、加入者の登録データの分析を通じた継続加入促進のためのスクリプト開発や、ソーシャルメディア対応に力を入れている。

2011年からフルハイビジョンの3チャンネル体制に移行

 (株)WOWOWは、1984年に国内初の民間衛星放送会社である「日本衛星放送」として設立され、1991年に開局、24時間の有料放送を開始した。契約ベースで新規加入の件数から解約の件数を差し引き累計した「累計正味加入」は、開局の翌年に当たる1992年8月に100万件に達し、1996年1月には200万件を突破。1998年以降は、250万件前後の水準で推移してきた。
 2011年の10月からは、フルハイビジョンによる3チャンネル体制に移行。幅広いジャンルの番組を総合的に編成する「WOWOWプライム」(191チャンネル)、スポーツや音楽ライブなどの番組を中心に編成する「WOWOWライブ」(192チャンネル)、洋画と邦画を合わせて年間約1,400タイトルを放送する映画専門の「WOWOWシネマ」(193チャンネル)の構成とし、視聴者の幅広いニーズに対応している。
 このほか、2012年7月には、PCやスマートフォンで一部の番組が楽しめる加入者向け無料番組配信サービスの「WOWOWメンバーズオンデマンド」をスタートさせた。
 2012年度末(2013年3月末)の累計正味加入は前年同期比3.3%増の約263万件。契約者は、世帯主である40~60代の男性がボリュームゾーンだが、実際の視聴者は男女を問わず、あらゆる世代にわたる。
 月額視聴料は、BS、CATV、CSなど視聴方法にかかわらず一律2,415円(税込)。新規加入を増やすために視聴料を割引くといった価格訴求とは一線を画す。エンターテインメント性の高い良質な番組を提供する一方で、無料番組配信などの付加サービスを充実させることによって、新規加入を取り込むと同時に、顧客満足度を高めて解約を防止、継続加入を促す戦略を打ち出している。
 こうした営業戦略を推進する上で、各種サービスの告知や手続きなど未加入者や既加入者との直接的なコミュニケーション・チャネルと位置付けられるのが、「WOWOWオンライン」をはじめとするオンラインサービスと、コールセンター業務を担う「WOWOWカスタマーセンター」。2012年度の新規加入数は約63万件に及ぶが、Web経由とコールセンター経由の申し込みの割合は、年々Web経由が増加傾向にある。後者のWOWOWカスタマーセンターでは、加入申し込みの受け付けのほか、加入者を対象としたサポートや見込客を対象としたプロモーションも担当。インバウンド、アウトバウンド双方の電話に加えて、TwitterやFacebookといったソーシャルメディアにも対応している。

管理部門の体制をスリム化しマーケティング活動を強化

 同センターを運営するのは、1991年の開局以来、電話対応を担ってきた社内のコールセンター部門を分社化するかたちで1998年2月に設立された(株)WOWOWコミュニケーションズ。WOWOWのセンター運営で培ったノウハウを生かして、今日ではグループ外企業のコールセンター業務も請け負っており、60億円強の年間売上高の半分程度は、こうした外部からの受託によるものとなっている。
 コールセンターは、横浜市内のWOWOWコミュニケーションズ本社に併設された「横浜カスタマーセンター」をはじめ、「沖縄カスタマーセンター」「札幌カスタマーセンター」の3カ所。席数は、横浜が200席、沖縄が190席、札幌が110席で、電話応対に当たるコミュニケータの人員は、3カ所合わせて550 ~ 600人に上る。例年、年末年始に特別番組を企画していることもあり、新規加入申し込みが年末に集中することから、この時期にコミュニケータを増員するなど年間を通じて人員の調整を行っている。
 オペレーション部隊は、一般コミュニケータ約15人に1人の割合でスーパーバイザー(SV)を配置しているほか、SVの候補者をリーダーに任じ、SVを補佐してもらっている。また、横浜では、公式サイト上のWebフォームから寄せられる問い合わせ対応や、ソーシャルメディアのアカウント運営、サポートに約15名程度が専従している。
 同センターを運営するWOWOW事業部では、近年、コールセンターにかかわる管理部門のスリム化を進めてきた経緯があり、現在では、総責任者となる部長を筆頭に、センター運用や営業などを担当する各課に課長を、各コールセンターには管理業務を総括する社員を1人ずつ配置しているのみ。一方で、eメールやソーシャルメディアへの対応、データ分析に従事する部門は人材を拡充してきた。このほか、品質管理や教育、研修を担当する専門部隊である「WOWCOM College」は、事業部の外に独立した組織として設置。SV経験者から選抜された「認定トレーナー(TR)」ら15人程度を配属している。

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解約抑止のための複数のスクリプトを会員のタイプに応じポップアップ

 3カ所のコールセンターはネットワークで結ばれており、受電したコールは、ロケーションを問わず、人員の配置や稼働状況、スキル設定などに応じてシステム的に各コミュニケータに振り分けられる仕組み。横浜に置かれたコマンドセンターが、リアルタイムで全体の運営状況のモニタリングや管理を行っている。
 電話回線については、大半の番号にNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを採用している。このうちあらゆる問い合わせを受け付ける総合ダイヤルでは、IVRを活用して、用件ごとに適切なコミュニケータにコールをルーティング。新規加入の受け付けについては、雑誌や新聞など告知する広告媒体ごとに異なる番号を充て、どの媒体のレスポンスであるかを判別できるようにしている。
 受付時間は、総合ダイヤルなど一般的な問い合わせも受け付ける番号が午前9時から午後8時まで。未加入者向けの番号については、午前9時から午後9時まで。いずれも年中無休となっている。
 システム面では、Avayaのコールセンターシステムを採用し、同IVR機能を活用。また、加入者の個人情報などを管理するCRMシステム「WISM(ウィズム)」は2008年に開発したもので、以降、使い勝手を改善するための仕様変更や改修を重ねてきた。このほか、WISMを補完するものとして、ブラウザベースの情報管理・分析システムなどを導入している。
 同センターの受電実績は、年間約255万件の水準で推移。毎年、年末が新規加入が集中する繁忙期に当たることは前述したが、日々の受電件数も、特別番組や新番組の投入などに小きざみに影響される。話題性の高い番組の放送を告知すると、午前9時の受付開始直後からコールが集中するほか、こうした番組が放送される午後7時から10時のゴールデンタイムの直前にも急増する傾向が顕著に認められるのだ。
 コールの内訳を見ると、未加入者と加入者の割合は、おおよそ4対6。未加入者では、加入の申し込みが最も多い一方、加入者では、番組内容についてのリクエストや問い合わせが最も多い。
 いずれにおいても、単なる業務処理に終わらせず、加入を検討されるお客さまには番組編成の紹介などにより加入を促進する一方、解約を検討されるお客さまには各々のニーズなどに応じて放送予定の番組を紹介するなどにより解約の抑止に努めている。
 特に解約希望のお客さまへの対応については、この2月に、コミュニケータ端末の画面上に、加入者のタイプ別に最適な解約抑止のスクリプトをポップアップ表示する機能を追加。これは加入者の基本属性や加入履歴、および加入動機や視聴スタイルに基づき、10種類の中から最適なスクリプトを表示するもので、高い効果を上げている。
 また、新しいコミュニケーション・チャネルとして急速に存在感を増しているのが、2011年の対応開始から3年目を迎えたソーシャルメディアである。同センターで運営を担当しているのは、TwitterとFacebookの計13アカウントに及ぶ。Twitterの公式アカウントは、「総合」「映画」「洋楽」など番組のジャンルごとに設けており、パッシブサポートはもちろん、アクティブサポートも展開、ここ1年で大きくフォロワー数を伸ばしている。2013年5月現在のTwitterのフォロワー数は、全アカウントの合計で延べ10万人超。Facebookページの「いいね!」数は、計11万人に達している。
 これらソーシャルメディアの運用マニュアルでは、当初、文末を「です」「ます」の敬体にするといったルールを設けていたが、媒体特性などを考慮して、これを撤廃。ユーザーと同じ目線からコミュニケーションが図れるよう、フランクな表現も許容するなど、運用を通じて改善を積み重ねている。
 このほか、eメールによる問い合わせは年間約2万5,000件で、加入者からの具体的な番組内容に関するものが中心だ。

音声データの解析に専従する「モニタリングセンター」

 品質管理や業務改善への取り組みを重視する同センターでは、運営状況の指標となる主なKPIとして、①応答率、②未加入者からの問い合わせを加入に導く「加入獲得率」、③解約を検討する加入者の問い合わせを継続加入に導く「リテンション成功率」を設定。最近では、特にリテンション成功率の向上に注力していることは、すでに述べたとおりである。
 また、この4月には、お客さまとコミュニケータの音声データの解析を業務改善に役立てる専門部隊として、「モニタリングセンター」を沖縄に開設。20人の専従メンバーが4半期ごとにテーマを設けて、複数項目をモニタリング・評価している。開設直後である現在のテーマは、前述した解約抑止のアプローチやトークに関するコミュニケータの実践状況や効果の検証だ。
 このほか、VOC活動としては、コールセンターに寄せられた番組編成などに関するお客さまの声を「ホットボイス」と称するデータベースにリアルタイムで入力し、翌日にはWOWOWの経営層を含む全社員にイントラネットを通じて提供。また、週次、月次の問い合わせ傾向についてはリポート化して、必要に応じて関連部署にフィードバックしている。一方、ソーシャルメディアについては、定量的な集計結果に加え、テキストマイニングによる傾向値の分析結果や特徴的な投稿の内容をまとめたリポートを週次で、やはりWOWOWの全社員にイントラネットを通じて共有している。
 コミュニケータの雇用形態は、3カ月更新の契約社員で、新人は採用後、TRが講師を務める7日間の座学とロールプレイングの後、先輩コミュニケータによるOJTを経て、個人差はあるが約1カ月で独り立ちする。
 その後については、WOWCOMCollegeによるフォローアップ研修や、前述のモニタリングを通して、スキルを磨いていくことになる。
 なお同センターでは、コミュニケータのスキルごとに3つのランクを設けている。最上位にランクされたコミュニケータの中で、特に管理者としての適性に優れている者については、希望に応じて、年に1 ~ 2回実施される資格試験などを経て、SVに昇格する仕組み。SVは1年更新の契約社員待遇であり、さらにキャリアを積むことで、ライフタイム社員と呼ばれる正社員への登用の道も開かれている。

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横浜カスタマーセンターのオペレーション風景(左)/横浜・沖縄・札幌の3カ所のカスタマーセンターをコントロールするコマンドセンター(右上)

加入件数の増加など期待される売り上げへの貢献

 新規加入の大量獲得から、加入者の解約抑止と継続加入の促進へとWOWOWの営業戦略が大きく転換したことを受けて、同センターには累計正味加入件数の増加など目に見えるかたちでの売り上げへの貢献が期待されている。
 今後は、従来は活用し切れていなかった加入者の登録データや電話応対の録音データの分析や解析を通じて、リテンションのノウハウを確立すると同時に、コールセンターをはじめWebサイトやソーシャルメディアといったチャネルの融合を加速させていく方針。このような取り組みを通じて、お客さまの声を広告宣伝や番組編成に適切かつスピーディーに活用できる環境をこれまで以上に整備し、WOWOWグループのマーケティング戦略を推進していきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年7月号の記事