コンタクトセンター最前線(第135回):証券会社と銀行の新しい形「証銀連携」を下支え

(株)大和ネクスト銀行

大和証券グループのインターネット銀行、(株)大和ネクスト銀行は2011年の開業以来、着実に口座数や預金残高を伸ばしている。特長は、効率経営で実現した好金利と、証銀連携による利便性。サービス面では「大和ネクスト銀行サポートセンター」が、ネット銀行ならではの不安解消に一役買っている。

金利水準は国内トップクラス 投資家向けサービスが充実

 (株)大和ネクスト銀行は大和証券グループのインターネット銀行で、(株)大和証券グループ本社の100%出資により2010年4月に設立、2011年5月から営業を開始している。
 一般に証券会社では、株式や債券などの金融商品の取引を希望する個人投資家に、資金を運用する証券口座の開設を求めている。しかし、こうした証券口座は、入出金を利用者の側で管理する必要があることに加え、銀行振込で入金する場合には手数料が掛かるなど、利用者に一定の負担が生じることは避けられないと考えられてきた。
 しかし、大和証券グループでは、同行と大和証券(株)が営業面で連携する新しい「証銀連携モデル」により、個人投資家向けにワンストップのサービス提供を推進している。例えば、個人投資家向けの代表的なサービスである「スウィープサービス」は、銀行口座を証券口座と連携させることで、大和証券の商品取引時に自動的に資金の振替ができ、かつ振替手数料不要のサービス。投資の待機資金を好金利の普通預金で無駄なく運用できるのが特長だ。
 また、ネット銀行は一般に、リアル店舗への投資を抑えることで経営の効率化が可能と言われているが、同行は自行と大和証券の双方に口座を保有する「ダイワのツインアカウント」のお客さまの窓口を大和証券の店頭およびコールセンターとすることにより、独自の店舗やATM(現金自動預け払い機)がないばかりか、キャッシュカードや預金通帳もない。
 こうして経営の効率化を推進する一方で、顧客サービスへの投資を強化。定期預金など商品の金利水準は、国内の銀行ではトップクラスにあり、本人名義の他行口座への振込手数料も無料とするなど、お客さまのメリットを大きく打ち出している。こうした独自路線は、大和証券の顧客を中心に、資産運用に積極的な幅広い層から支持を得ており、開業以来、急速に口座数を増大。2012年9月末現在の口座数は61万7,000口座、預金残高は1兆8,726億円となっている。

サポートセンターは少数精鋭体制

 こうした営業スタイルにおいて、お客さまとの直接的なコミュニケーションを担う貴重なチャネルとなっているのが、コールセンターの「大和ネクスト銀行サポートセンター」(以下、サポートセンター)である。同行が営業を開始した2012年5月からサービスを開始。これに先立つ準備には、およそ1年半の歳月を費やした。
 現在、サポートセンターは、大和証券へのアウトソーシングにより運用されており、大和証券のコールセンターと同じ都内の施設に置かれている。人員は、大和証券のコールセンターが約450席体制と大規模であるのに対して、10人以下とコンパクトな体制。業務を統括する役席を中心に、SV(スーパーバイザー)とASV(アシスタント・スーパーバイザー)がそれぞれ1人、オペレーターが5人以下の構成となっている。受付時間は平日が午前8時から午後6時まで。土日と祝日が午前9時から午後5時までとなっている。
 また、サポートセンターでは、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを導入。これをより多くのお客さまの声に耳を傾ける手段としても活用している。また、お客さまにサポートセンターをより身近な存在として感じていただけるように、あえてIVR(音声自動応答)は導入しておらず、オペレーターによる人的対応を重視。各オペレーターは、CRMアプリケーションの画面を見ながら、お客さまからの問い合わせに対応している。

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お客さまからの問い合わせに対する「大和ネクスト銀行サポートセンター」は、インターネット銀行ならではのお客さまの不安解消に寄与している

ネットを利用しないお客さまが7割

 サポートセンターのターゲットは、言うまでもなく同行の口座保有者であるが、これは大和証券の口座を保有していないお客さまと、「ダイワのツインアカウント」のお客さまの2種類に大別される。2012年12月現在、サポートセンターに寄せられるコールのうち前者のお客さまからのコールは3割に過ぎず、後者のお客さまからのコールが7割を占めている。
 この後者、すなわち「ツインアカウント」のお客さまへのサービス提供は、原則的に大和証券の営業担当者やコールセンターが担当している。これは大和証券が同行の代理店を担っていることに加え、銀行側では、証券口座の資産情報を閲覧できないことなどが理由。ところが、こうした「証銀連携」特有の事情は、お客さまには理解しづらいところ。例えば、「ツインアカウント」保有者が定期預金を申し込むに当たっては、銀行のサポートセンターに問い合わせてくるケースが少なくない。
 そのため、主に公式サイト上で行っているサポートセンターの告知では、「ツインアカウント」のお客さまがサポートセンターにコールすることがないよう、表記方法に工夫を施している。

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Webサイト上では、「大和証券に口座をお持ちのお客さま」と「大和証券に口座をお持ちでないお客さま」に分けて、問い合わせ先のフリーダイヤル番号をわかりやすく紹介している

 一見、煩雑にも見える仕組みではあるが、大和証券の営業担当者やコールセンターが、銀行サービスを提供している点は、大和証券グループの証銀連携モデルの大きな特長。これが同行の口座拡大に大きく寄与しているのはもちろん、サポートセンターが少人数体制で運用できているのも、このスキームがあればこそと言えるだろう。
 なお、同行の口座保有者のうち、インターネットバンキングを一切利用せず、大和証券の営業担当者やコールセンターに依頼する形で銀行サービスを利用している方は、高齢者層を中心に、実に約7割に上っている。一般に、インターネットバンキングの顧客拡大は、パソコン操作などITリテラシーの問題が障壁となりがちだが、大和証券グループでは、この独自のスキームによって、ひとつの解決策を見出したとも言えるだろう。

センター開業直前に業務の大幅な見直しを実施

 サポートセンター開設後の受電実績を見ると、1日当たりの受電件数は、営業開始直後が目立って多かったが、それ以降は徐々に減少している。営業開始直後は、大和証券に口座を保有する顧客の多くが一斉にサービスの利用を始めたことで、ピーク時には1日当たりの受電が200件強に達していた。しかしその後、開業から1年が経過した時点では、平日で40~50件、土日祝で10件程度の水準まで減少している。
 同行では、営業開始直後のコール集中をあらかじめ想定、入念な対策を講じていた。例えば、営業開始から1年余りの期間については、オペレーションをグループ外企業にアウトソーシング。事前に受電件数や応答時間などが予測できなかったことから、入電が集中して応答率が極端に低下するといった事態を回避するために、常時、10人以上の体制を組んでいた。それでもオペレーターの人員が不足するようならば、随時、増員する準備も整えていたが、そうした事態に陥ることはなく、初期のコールの集中は想定した人員内でこなすことができた。
 こうしたスムーズなスタートが切れた背景としては、開業直前に業務計画の大幅な見直しを行ったことも見逃せない。
 ここで見直しの対象となったのは、本来は証券側のコールセンターが担当すべきコールが銀行側に寄せられるケースや、反対に銀行側が担当すべきコールが証券側に寄せられるケースへの対応だった。
 こうしたケースは、準備段階でも相当な件数に上ると予測され(実際に開業後に発生している)、当初は、証券側でも、銀行側でも、お客さまに正しい電話番号をお知らせし、電話をかけ直していただくよう、お願いする方針だった。しかし、開業前のアセスメントで、こうした対応では、お客さまに面倒をお掛けするだけではなく、受電件数の増加など、結果的に両センターの負担を大きくする恐れがあると見て、方針を抜本的に変更。それぞれのセンターで、できる限りワンストップで対応することを決めたのだ。
 これは営業開始まで2カ月を切った段階でのことだったが、FAQの見直しなどの作業を急ピッチで進め、無事、開業に間に合わせることができたという。

オペレーターと一緒に取引サイトの操作を確認

 サポートセンターが受けているコールを内容別に見ると、そのほとんどがインターネットバンキングの利用方法に関するもの。すなわち、口座を保有するお客さまからの「取引サイトにアクセスしたが、思うようにサービスや商品が利用できない」といった問い合わせである。具体的には、「取引サイトにログインできない」が最も多く、以下、「振り込みができない」「定期預金の申し込みができない」と続き、これらの3つが全体の7〜8割を占めている。
 サポートセンターに電話をかけるお客さまの年代については、当初は30代と40代が中心と予想していたが、実際には、60代と70代がボリュームゾーン。特に、ITリテラシーが低く、パソコンの操作に不慣れな方が多いのが特徴だ。
 そこで電話対応においては、手元にあるパソコンなどをお客さまに操作していただきながら、オペレーターが一緒になって取引サイトの操作手順を1つずつ確認。原則的にはトラブルが解決できるまで対応する方針だが、コールのピーク時には、お客さまが独力でトラブルを解決できるメドが立った時点で対話を終了することで、応答率を維持するよう心掛けている。
 サポートセンターのSVやオペレーターの人材は、約450席体制の大所帯である大和証券側のコールセンターからの異動により賄っている。大和証券側のコールセンターでは、オペレーターに金融商品の取引資格の取得を義務付けており、電話対応の基本的な知識や経験もあるため、異動に当たっての研修期間は1週間程度と短い。

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同行では、お客さまからの問い合わせ内容をFAQに反映させることで、コール数の減少を図ってきた

地道な改善活動により受電件数を削減

 サポートセンターの運用が軌道に乗ってきた現在、平均応答時間は5~ 6分で推移しており、応答率はほぼ100%の水準を維持している。
 また同行では営業開始当初から、他部門の関係者を交えての「CS会議」を毎月開催し、VOC活動に注力している。「CS会議」では、サポートセンターの定量的、定性的な運営状況を共有するほか、問い合わせや苦情を契機とした具体的な改善策を討議。現在までの1年半にわたり積み上げた改善案件は、FAQの修正や追加をはじめ、サイトのシステム改修など多岐にわたる。
 改善例を挙げると、ゆうちょ銀行の支店名は漢数字3桁であり、検索できないお客さまが多かったことから、金融機関名や支店名の検索画面に具体的に検索方法を例示する対応を行ったことなどがある。
 前述の通り、サポートセンターの受電件数は、口座数が増加しているにもかかわらず減少傾向にある。これはインターネットバンキングを利用するお客さまが、操作に困る場面を未然に防止できていることを物語っており、「CS会議」の取り組みの成果と言うことができるだろう。
 とはいえ、同行の口座数は今後も増加が見込まれており、大和証券グループとしてもこれを戦略的に推進していく構えである。そこでサポートセンターでは、人員増強を視野に入れつつも、これまで同様、VOC活動による問い合わせ数の削減に注力する方針。具体的には、従来は苦情にカウントしていなかった、問い合わせ対応でお客さまのトラブルが解消できたケースについても「CS会議」での討議項目に加えることにより、お客さまがストレスなくサービスを利用できる体制を構築していく考えである。


月刊『アイ・エム・プレス』2013年2月号の記事