コンタクトセンター最前線(第129回):顧客満足度向上と低コスト運営を推進 プロフィット化にも取り組む

(株)ジャックス

(株)ジャックスは、ショッピングクレジットをはじめとする金融商品を取り扱う企業である。主に電話でお客さまからの各種問い合わせに対応する同社の東京カスタマーセンターでは、顧客満足度の向上と低コスト運営という、トレードオフの関係にある2つの運用理念を実現するべく、「早帰り希望制度」の導入やコンタクトセンター・システムの更改など多岐にわたる施策を展開。加えて、2007年より取り組んできた効率化、品質改善、Webチャネルの強化、センターの価値向上をさらに推し進めることで、より高い効率性と収益性を実現するとともに、一流の顧客サービスと応対品質を追求している。

これまでの取り組みが評価されカスタマーセンターに改称

 1954年の設立以来、ショッピングクレジット、オートローン、クレジットカード、信用保証、住宅ローン保証、集金代行といった事業を展開する(株)ジャックス。同社のサービスの詳細や各種申込方法に関する問い合わせなど、さまざまなお客さまからの問い合わせ対応業務を担っているのがジャックス・カスタマーセンターである。
 同センターの前身は、事務センターカスタマーサービス。1992年4月の開設以降、顧客満足度の向上と営業店事務の集約による事務の合理化・効率化の推進を目的に、東京・大阪の事務センター内でそれぞれカスタマーサービスを運営していたが、2011年12月にカスタマーサービス部門を分離してカスタマーサービス部を発足し、カスタマーサービスからカスタマーセンターに改称した。
 この組織変更の背景には、カスタマーセンターが2007年から取り組んでいる中長期計画の成果がある。効率化、品質改善、Webチャネルの強化、センターの価値向上といった取り組みが高く評価され、社内でのカスタマーセンターに対する理解が一層、深まったのである。中長期ビジョンの最終年である2012年は、これまでの取り組みをさらに推し進める重要な年であり、同センターでは効率性と収益性のさらなる向上を図るとともに、一流の総合顧客窓口として顧客サービスと応対品質を追求しているところだ。
 同センターの根底にある基本理念は、「強く・堅(固)く・柔軟な組織へ」。①お客さまへより高いサービスを継続的に提供する、②存在感が大きく、なによりも信頼されることを目指す、③すべての従業員の成長を通じて、誇りとやりがいを持って働ける職場を目指す、④対外的にも高く評価されることを目指す、⑤高い専門性を有し、環境の変化やイレギュラーに即応できる体制構築を目指す、という5つの方向性を明文化し、「必也正名呼(必ずや名を正さんか)」という孔子の教えにある姿を実現するべく、基本理念を正しく理解し、その実現に向けて日々の業務に取り組んでいる。

有人対応では月間7万件に対応

 今回紹介する東京カスタマーセンター(以下、カスタマーセンター)は、東日本のお客さまを対象としたコンタクトセンターである。神奈川県海老名市に拠点を構え、自社スタッフおよび業務委託先2社のスタッフの合計296名で運営している。スタッフの内訳は、社員(総合職、一般職)が61名、契約社員が3名、派遣スタッフが232名。これらのスタッフは受電チーム、メンテナンスチーム、ジョイントサービスの3つに分かれて、それぞれの業務に当たっている。
 各チームの具体的な業務内容は 次の通り。
 まず受電チームでは、商品やサービスに関する各種問い合わせに対応している。電話窓口にはNTTコミュニケーションズ(株)のナビダイヤルを導入し、平日の9時30分から17時30分までは有人、それ以外の夜間および土日・祝日は、IVR(自動音声応答装置)で対応しており、有人対応では月間約7万件、IVRでは月間約4万件を受信。このほか、Webサイトから寄せられるお客さまの意見や要望への対応も担っている。さらに、2010年5月にはインフォメーションデスクの名称でアウトバウンド部隊を発足し、カード企画部と協力してリボ払いの勧誘やリボ払いへの変更受付をスタート。月間8万〜9万件を発信して収益性の向上に寄与している。
 受電チームで受け付けたお客さまからの申し出を実際に処理しているのが、メンテナンスチームである。月間約20万件に及ぶ基幹システムへの入力に加え、お客さま宛ての郵便物が戻ってきた場合の処理や、提携先との調整が必要なカードの管理など、比較的複雑な判断を伴う多品種少量の業務処理も担っている。
 最後にジョイントサービスでは、経理、人事、総務といった業務を担当している。
 なお、受電チームで対応に当たるスタッフは、直接お客さまに対応するエージェント、スーパーバイザーの役割を担うユニットリーダー、管理職で構成されている。カスタマーセンターがコミュニケータをエージェントと呼ぶ理由はこうだ。カスタマーセンターでは、運営理念に顧客満足度の向上と低コスト運営を掲げている。つまり、一定の応対品質の担保を前提に、運営の効率化を最適化することが求められるわけだが、このトレードオフの関係にある2つの要素のうち、顧客満足度の向上を実現するには、ESの向上が必須であるというのがカスタマーセンターの考え。そこで、お客さま対応の最前線を担うスタッフをパートナーととらえてエージェントと呼び、社員と同様に分け隔てなく接しているという。

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ジャックスWebサイトのお問い合わせ画面では、よくある質問とカスタマーセンターのナビダイヤル番号をわかりやすく告知

低コスト運営とES向上に貢献する「早帰り希望制度」

 カスタマーセンターの顧客満足度の向上と低コスト運営の実現に向けた取り組みのひとつに、「早帰り希望制度」がある。これは、当日の受電予測に基づき、多くの余剰人員が生じると判断された場合に、早く帰宅したいエージェントを募り、募集人数の範囲内で早帰りさせるという、カスタマーセンター独自の制度である。同制度の導入当初、早帰りの時間は1日1回で14時30分としていたが、特に子育て中の主婦エージェントから好評なことから、16時の早帰りも導入した。「早帰り希望制度」の実施の流れは図表の通り。早帰りの日の給与は実労働時間で計算されるため、カスタマーセンターにとっては人件費の削減につながる一方、エージェントにとって働きやすい職場環境作りにも貢献していると言える。

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 ただし、運営にはいくつかのポイントがある。それは、一定の雇用を守る。公平性を担保するために、募集人員を越える場合は抽選で決定する。受電のピーク日、研修や勉強会、ミーティングの実施日は対象外とする。評価制度においては早退扱い(マイナス)はしないなど。加えて、早帰りを予定していても応答率が低い場合は中止するというように、フレキシブルな運用を行うことも制度を生かす秘訣である。

CTIの導入により顧客満足度と業務効率をアップ

 カスタマーセンターでは、2011年7月にコンタクトセンター・システムの全面更改を実施。PBX、CMS(Call Management System)にはAVAYA、ボイスロギングシステムにはVERINTを導入した。同時にCTIも導入し、本人認証に必要な会員番号と発信元電話番号、コール履歴をIVR経由で取得可能とした。
 全面更改に当たっては現場に近いスタッフが要件定義に加わり、従来使用していたシステムの入力画面と配色を揃える、手入力を極力少なくするなど現場の視点を盛り込むことで、エージェントの負担を軽減すると同時に入力の漏れやムラを解消した。加えて、CTIを導入したことで、過去の問い合わせ内容を踏まえた対応が可能になったほか、本人確認の重複を解消することができ、顧客満足度と業務効率の向上を実現している。また、すべての応対履歴が残り、その閲覧が可能になったことで、エージェントに緊張感が生まれるというメリットも得られたという。

アウトバウンドとクロスセルで収益性を高めビジネスに寄与

 カスタマーセンターでは、センターの価値を高めるための取り組みとして、自ら利益を生み出し、ビジネスに寄与することを目指している。その具体的な取り組みが、アウトバウンドとクロスセルによるプロフィットセンター化だ。
 前者は先に述べた通り、2010年5月よりインフォメーションデスクを発足。52名のエージェントを有し、リボ払い会員の獲得、およびリボ払いへの変更をおすすめしている。
 後者は、お客さまから問い合わせいただいた機会を利用したリボ払いへの変更促進である。2011年11月より約10名のエージェントでテスト稼働を開始し、本格稼働に向けたノウハウの蓄積、費用対効果の測定を行った。その結果を踏まえて、この7月から本格的にスタートする予定だ。
 アウトバウンドおよびクロスセルによる具体的な収益は非公開だが、2012年4月に社長賞を受賞したことから、その社内評価の高さがうかがえる。
 インバウンドとアウトバウンドのミックスは、センター運営の効率を高めるという効果もある。現在、約10名のマルチスキル・エージェントが受電状況に応じて双方の業務を担っているが、今後はさらなるセンター運営の効率を高めるために、マルチスキル・エージェントを計画的に育成していく構え。
 また、2012年8月にはインフォメーションデスクの席数を現在の2倍に拡大する予定。今後は、ジャックスカード会員専用のインターネットサービス「インターコムクラブ」の会員獲得プロモーションを展開していく計画だ。

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壁側の一角がインフォメーションデスク。カード事業の収益拡大への貢献が評価され、社長賞を受賞した

プロフィット化を推進し将来的にはセンターの運営経費を賄う

 カスタマーセンターにおける現在の課題は、BCPの整備である。2011年3月に発生した東日本大震災後、カスタマーセンターがある神奈川県海老名市は計画停電の対象となり、大阪カスタマーセンターへコールを振り分けることで対処したという経験を持つ。これを機に、カスタマーセンターではBCPを検討し、プランの演習を実施。課題を発見して改善するというプロセスを何度も繰り返し、現在のBCPは第6版に及んでいる。この8月に第6版の演習を予定しており、いざという時に適切な対応ができるよう備えるとともに、BCPのさらなるブラッシュアップを図る意向だ。
 これから日本の人口は減少を続ける。こうした市場環境の中、今まで以上に重視されるのが顧客維持である。総合顧客窓口であるカスタマーセンターでは、電話応対の品質向上とWebチャネルの強化がより一層、不可欠になると見ており、その大切さを社内に浸透させるべく、継続的に働きかけていくという。具体的には、カスタマーセンターで培ったノウハウを生かして、社内のほかのコールセンターの応対品質を高めようと、コンサルティングを開始した。2012年5月にはオーソリセキュリティセンター、6月にはクレジットセンターへのコンサルティングを実施。各センターの業務内容に即した応対品質向上のプロセスを体系化し、その遂行をサポートしている。
 カスタマーセンターのプロフィットセンター化への取り組みは始まったばかりだが、カスタマーセンターではこうした取り組みを推進していくことで、数年後にはセンターの運営経費を賄えるまでに収益を拡大できると見ている。今後の展開に注目していきたい。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年8月号の記事