コンタクトセンター最前線(第126回):「GSKスタイル」、トレーニング、品質管理の3本柱で高品質なカスタマー・ケアを提供

グラクソ・スミスクライン(株)

医療用医薬品、コンシューマーヘルスケア製品の研究開発、輸入、製造、販売を手掛けるグラクソ・スミスクライン(株)。同社のコンタクトセンターであるカスタマー・ケア・センターは、製薬会社における一般的な医療従事者向けの情報提供窓口とは一線を画し、医療従事者から一般生活者までを幅広く対象としている。知識レベルの異なるお客さまへの対応は容易ではないが、同社ではそうした中でも正確、かつ迅速でホスピタリティにあふれた高品質のサービスを提供している。そこにはどのような秘訣があるのかを探った。

サービス拠点、かつマーケティング・ツールとしての役割を担う

 グラクソ・スミスクライン(株)(以下、GSK)は、英国に本社を構え、世界100カ国以上で事業を展開する世界最大級の製薬会社であるグラクソ・スミスクライン・グループの日本法人である。事業内容は、医療用医薬品、コンシューマーヘルスケア製品の研究開発、輸入、製造、販売。代表的な取扱製品としては、医療用医薬品では中枢神経系用剤、呼吸器系用剤、抗ウイルス剤、抗がん剤のほか子宮頸がん予防ワクチンなど。一方、一般用医薬品では「コンタック」「シガノンCQ」、オーラルケア製品では「シュミテクト」「ポリデント」などがある。
 GSKでは2001年、東京に医療用医薬品に関する問い合わせを受け付けるコンタクトセンター、「カスタマー・ケア・センター」を開設した。製薬会社のコンタクトセンターと言えば、学術情報部門による医療従事者向けの情報提供窓口が一般的だが、GSKのカスタマー・ケア・センターはそれらとは一線を画している。その特徴のひとつは、医師、看護師、薬剤師といった医療従事者のみならず、患者やその家族といった一般生活者も顧客ととらえ、問い合わせに対応している点。加えて、うつ病や喘息などの疾患についての正しい理解の浸透や偏見の軽減、早期受診の促進などを目的とした疾患啓発活動や、新薬の研究開発に伴う臨床試験の被験者募集などのマーケティング活動をサポートする役割も持っている。この背景には、同社がセンターの運営をマーケティング活動の一環としてとらえ、「Proactive Call Center」というセンター理念を掲げていることが挙げられよう。つまり同センターは、情報提供窓口としても、企業と顧客との関係づくりの基盤としても重要な役割を担っており、他部署からも注目される存在となっているのだ。

「GSKスタイル」、トレーニング、品質管理で高品質な応対スキルを継続的に実現

 カスタマー・ケア・センターのミッションは、「人々が“生きる喜びを、もっと”得られるよう、お客さまに最高のクオリティー・カスタマー・ケアを提供する」こと。正確、迅速でありながら、かつホスピタリティにあふれた問い合わせ対応を行うことで、お客さまの期待を超える質の高いサービスを提供することを心掛けている。
 これを実現するために、カスタマー・ケア・センターの日々の応対において実践されているのが「GSKスタイル」と呼ばれる行動規範だ。お客さまとのコミュニケーションにかかわる方法論を示したもので、センターにおけるコミュニケーションのベースとなる。
 カスタマー・ケア・センターでは、レップを採用した後、デビューまでに2カ月に及ぶ導入研修を行う。そこでミッション・ステートメントや「GSKスタイル」を徹底的に理解させているほか、オフィスのそこかしこにそのメッセージを掲げ、常に意識させることで浸透を促し、お客さま対応品質についての共通の理解を築いている。
 「GSKスタイル」の理解に続いて行われるのが、「GSKスタイル」を実行するエンジンとなるテレフォン・スキル・トレーニングである。「GSKスタイル」を実践するための、お客さまとのトークの一言一句に至るまでのGSK流コミュニケーションの具体的な方法論を定めたカスタマー・フォーン・インタラクション・ガイドラインの徹底に加え、延べ100時間にも及ぶロールプレイングを経て、一人前のレップとしてデビューする。
 デビューした後は、グループモニタリングやセルフモニタリングの実施、外部講師によるトレーニングなどにより、日常的なスキルアップが図られる。
 「GSKスタイル」への理解と、徹底したトレーニングによって身に付けたテレフォン・スキルにより応対品質を最大限に引き上げるには、レップごとの応対品質を公正に評価する仕組みが必要となる。そこで同センターでは、電話応対スキルを評価するクオリティー・モニタリングと、対応に必要な知識の習熟度を測るナレッジモニタリングを実施。この2つの側面からチェックした評価を、各レップに毎月フィードバックしている。同センターでは「GSKスタイル」の浸透、徹底したトレーニングと品質管理により、質の高い応対スキルの継続的な実現に努めているところだ。

1205S1

トレーニングの模様

一次解決率90%以上を達成

 カスタマー・ケア・センターは、お客さまの期待を超える質の高いサービスを提供するために、インハウスで運営されている。応対に当たるスタッフには、顧客対応業務経験者など、サービス・マインドの高い“人財”を優先的に採用。会社の代表としてお客さまに対応するという重要な責任を担っていることから、レプリゼンタティブ(代表者)の略称であるレップと呼んでいる。
 受付チャネルは電話、ファクス、Webサイト上の問い合わせフォーム、手紙の4種。電話窓口には、カスタマー・ケア・センターの開設時から、お客さまの視点に立って当然のごとくNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・サービスを利用している。受付時間帯は、土日・祝日および同社規定による休業日を除く9時から18時まで。ただし、ファクス、Webサイト上の問い合わせフォームについては24時間受け付けている。
 コンタクトセンター・システムにはPBX、IVR、CTI、CRM、ロガー、CMSなど一連のテレフォニー関連システムがフル装備されている。まず、CTIについては、発信者番号をキーに顧客データベースと発信者をマッチングして、顧客情報や過去の問い合わせ履歴をポップアップ。また、PBXのルーティング機能を利用して、お客さまの用件とレップのスキルをマッチングしてコールを分配することで、スムーズな対応を実践している。フリーダイヤルやこれらのシステム導入は、一般的なコンタクトセンターでは基本の装備であるが、製薬業界ではいまだ多数派とは言えないのが実情という。
 お客さまの期待を超える質の高いサービス提供には、KPIによる管理の徹底も不可欠である。KPIとしては、サービス・レベルを始め、常時数十項目の指標を用いて管理。例えば、医療従事者からの問い合わせの中で、調査が必要なものに関してはスーパーバイザーにエスカレーションすることもあるが、現在その比率は数%にとどまっており、一次解決率は90%を上回る数値を達成している。また、通話時間についてはテレフォン・スキルの向上によってトークが洗練されることで結果的に短縮が図られることはあっても、それ自体を目標とはせず、応対履歴入力のスピードアップや事務的作業の軽減によって後処理時間を短縮することで、レップ1人当たりの生産性の向上に努めているところだ。

細心の配慮がなされた快適な職場環境

 具体的な問い合わせ内容を見ると、一般生活者からは薬の服用の仕方や器具の使い方など、医療従事者からは製品や疾患に関する科学的、専門的な問い合わせが寄せられる。最近の問い合わせ内容の傾向としては、子宮頸がん予防ワクチンの公費助成の開始により、全国の自治体や学校、女性から同ワクチンに対する問い合わせが多く寄せられているという。
 また、医薬品を取り扱っているため、患者からの深刻な相談や副作用の報告などもあり、明るく対応できる内容ばかりではない。そのため、レップが常に前向きな気持ちでいられるよう、年間を通じてセンターをデコレーションしており、季節ごとに変わるデコレーションが明るく楽しい雰囲気を演出している。加えて、対応には端末を2台使用するため大きめのデスクを採用しているほか、医薬品に関する情報は膨大で対応に必要な資料が多いことから、十分な収納スペースを用意。細心の配慮で快適な職場環境をつくっている。

1205S2

春らしいピンク色を基調とした花や蝶のデコレーションが施された、明るく楽しい雰囲気のカスタマー・ケア・センター

1205S3

お客さまから寄せられる感謝の言葉は、スタッフのモチベーション・アップに効果絶大

CSウイークでレップをいたわりモチベーションをアップ

 カスタマー・ケア・センターが応対品質を高め、顧客満足を維持し続けるには、スタッフのモチベーション・アップも欠かせない要素のひとつと言える。そこで同センターでは、前述したセンター内のデコレーションや、CSウイークの開催などを積極的に行っている。CSウイークは、顧客対応に従事している組織やスタッフを労う感謝週間のことで、米国で始まり、その後ヨーロッパ、アジア諸国に広がっていった。国内では外資系企業のコンタクトセンターから始まり、最近では国内企業のコンタクトセンターでも行われるようになった。同センターでは、レップに対する感謝の気持ちを表すことを目的に2008年からスタート。企画や運営はマネジメント層が行い、クイズやゲーム、パーティー、アワードなど、毎日異なるイベントを開催してレップへの感謝の気持ちを表す。
 同センターでは、積極的に他部署のスタッフやカスタマー・ケア・センターとかかわりのある社外の人々にもCSウイークへの参加を呼び掛けており、毎回、多くのゲストが参加。CSウイークを通じて交流を図ることで、同センターの活動に対する理解を深めるきっかけともなっている。日頃、カスタマー・ケア・センターという限られた空間の中で業務を遂行しているレップたちにとって、社内外の人々と交流し、開放的な気分を味わうことができるCSウイークは楽しみのひとつとなっているという。さらに、CSウイークの開催をきっかけにスタッフ間の会話が増えるなど、コミュニケーションの促進にもつながっていることから、同センターでは今後も継続していく意向だ。
 もうひとつ、スタッフのモチベーション向上に大きく寄与しているのが、お客さまから寄せられる感謝の言葉である。カスタマー・ケア・センターではこれを専用カードに記載し、「『ありがとう』の一言」と題して掲示。お客さまの声をスタッフに伝えることでモチベーションを高め、顧客満足度の高い対応が実現するという、好循環の創造を狙っている。

1205S4

バルーンなどCSウイーク用の装飾が施されたカスタマー・ケア・センター

1205S5

各レップのデスクに置かれた、スーパーバイザーからのメッセージカード

1205S6

カスタマー・ケア・センターにおける業績表彰も行われ、同社コマーシャル企画部門長のフィリップ・オヴァロ氏から表彰状と賞品が手渡された

1205S7

CSウイーク最終日に開催されたパーティーは、ゲームなどで盛り上がった

さまざまな出来事に迅速に対応できるリソースとスキルの確保が課題

 カスタマー・ケア・センターでは現状の課題として、日本におけるワクチン事業への進出などGSKのビジネスの拡大や、新型インフルエンザ、東日本大震災など次々に発生する大きな出来事に迅速に対応できるリソースとスキルを確保することを挙げている。新型インフルエンザ流行の際はわずか1カ月で、すでに流行が終息していた那覇市にインフルエンザ・レスポンス・センターを立ち上げ、インフルエンザに関する情報提供を行い、東日本大震災の際には発生から10日も経たぬうちに福井市に臨時の拠点を立ち上げ、東京のセンターの万が一の場合に備えた。GSKでは、このようにさまざまな出来事に即時に対応できるリソースとスキルの確保を急務としており、早期実現に向けて取り組んでいるところ。今後も、同社のカスタマー・ケア・センターの取り組みに注目していきたい。


月刊『アイ・エム・プレス』2012年5月号の記事