コンタクトセンター最前線(第121回):電話での受注・問い合わせ受付業務を集約 組合員の声の把握と応対品質の均一化を目指す

パルシステム生活協同組合連合会

1都9県で130万人の組合員を対象に食品の個配事業などを展開するパルシステムグループでは、組合員の声の把握と電話応対品質の均一化を目指して、2011年5月30日にパルシステムサービスセンターを開設。2013年度中の完全集約に向けて、電話による受注と問い合わせ受付業務の集約をスタートした。新センター開設から約6カ月。集約は一部が完了した状態であるが、さっそく効果も見え始めている。

各種問い合わせ受付業務を集約するべくサービスセンターを開設

 1990年に首都圏コープ事業連合として設立されたパルシステム生活協同組合連合会(以下、パルシステム)。日本には約600の「生協」や「コープ」があり、各組合がそれぞれの理念に基づき活動しているが、パルシステムは「食・環境・たすけあい・商品・サービスにおいて高付加価値の事業・運動を展開し、全国のコア生協グループとしての役割を果たすことで、日本の生協運動を発展させる」ことを目指している。
 活動エリアは、東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、茨城県、栃木県、山梨県、群馬県、福島県、静岡県の1都9県。パルシステムを構成する会員生協から出資を受け、子会社とともに主に無店舗個配事業を中心に、共済事業など多角的なサービスを展開している。組合員は、1都9県に63カ所ある配送センターのうち最寄りのセンターに所属し、所属センターから商品を配送によって受け取る仕組みだ。
 近年、安心・安全な食へのニーズが高まっていることに加えて、ライフステージに合わせたカタログ、鮮度の高い青果の提供、取扱商品の拡充などにより組合員のニーズに応えることで受注が伸長。2010年度末には1,903億円に達した。また、年々組合員が増加。2007年には98万7,000人だった組合員が、3年後の2010年には130万人にまで拡大した。
 パルシステムサービスセンター(以下、PSC)は、この130万人に及ぶ組合員を対象に、注文および配達、交換・返品、請求、利用の休止、住所変更などの問い合わせを受け付けるコールセンターである。これまで、上記問い合わせには各配送センターで対応してきたが、今後は電話受付業務を1カ所に集約するべく、2011年5月30日に開設されたばかりだ。しかし、63カ所の配送センターで行っていた受付業務を一斉にPSCへ移行するのは、人材の確保と育成、電話回線の切り替えなどを考慮するとリスクが高い。そこで、パルシステムでは2年の移行期間を設け、段階的に移行することとした。PSCの開設以降、毎月、1都県の生協を2〜3回に分けて移行しており、2011年10月末時点で、神奈川県、静岡県の全配送センターと茨城県の1配送センターの電話受付業務の集約を終えたところ。今後は、2012年3月までに茨城県と東京都の全配送センターの電話受付業務を集約した後、2013年3月までにはグループ会員生協の全配送センターの電話受付業務を集約し、移行を完了させる予定だ。

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パルシステムサービスセンターの受付風景。SVがセンター内を循環し、オペレータをサポートしている

集約の目的は組合員の声の把握と応対品質の均一化

 パルシステムが、電話受付業務の集約に着手した目的としては、次の2つが挙げられる。ひとつは、組合員の声を把握すること。もうひとつは、応対品質の均一化と向上を図ることである。パルシステムの運営は、各都・県ごとの会員生協が行っていることから、パルシステム生活協同組合連合会として全生協の組合員の声を把握することが容易ではなかったのだ。加えて、同一都・県の中でも配送センターごとに対応が異なったり、電話のつながりやすさに違いがあったり、応対品質にバラツキが発生。さらには受付時間帯も異なっていた。そこで現在パルシステムでは、電話のつながりやすさを重視するととともにローカル・ルールを撤廃し、統一ルールの下、PSCの運営に当たっている。

人件費に加えて食文化の観点から札幌を選択

 PSCの開設に当たっては、コールセンターの集積地として知られる札幌を選択した。理由は、運用コストの多くを占める人件費が比較的安価であり、人材が確保しやすいこと。方言が少なく、生活習慣や食文化においてもパルシステムの事業エリアである関東との差が少ないことから、札幌が適地であると判断したためだ。ほかの候補地として沖縄も挙がっていたが、食文化が異なる。特に、おせち料理は関東のそれとはまったく違うことから選択には至らなかった。コールセンターの立地要件として食文化が考慮される点は、食品を取り扱うパルシステムならではと言える。
 運営にはアウトソーシングを採用。2011年4月から採用と教育をスタートし、業務量に応じて段階的に人材を拡充しているところだ。10月末現在の在籍オペレータ数は110名で、コールの波に合わせて30〜70席を稼働させている。

受付時間帯を拡大し組合員サービスを向上

 PSCが担う注文と各種問い合わせとでは、必要な知識や求められるスキルが異なることから、「問い合わせセンター」と「受注センター」とに分けて、それぞれ専任のオペレータが対応に当たっている(図表1)。

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 受付時間帯は、「問い合わせセンター」が月曜から金曜日の9時から20時までと土曜日の9時から17時までで、日曜日は休業。「受注センター」が、月曜から金曜日の9時から21時までと、土曜日の9時から11時30分までで、こちらも日曜日は休業となっている。いずれの窓口も、未集約の配送センターでは受付時間を18時までに設定し、かつ土日を休業としている場合が多い中、PSCでは開設を機に受付時間を延長し、組合員サービスの向上も図った。
 電話回線には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを活用。PSCの開設に当たり、問い合わせと受注とでそれぞれ専用の新しい番号を用意した。配送センターでもフリーダイヤルを使用しているが、集約が済んだ配送センターの電話番号は廃止している。新番号の告知には、番号切り替えの2〜3週間前から専用のチラシを配布したほか、カタログとWebサイトを活用した。
 なお、「問い合わせセンター」には、隣の家に宅配BOXを置いてしまったなど、至急の対応を要する要件も寄せられることから、フリーダイヤルを携帯電話からでも利用できるように設定。「受注センター」については固定電話からのみ着信可能とし、携帯電話からはナビダイヤルで受け付けている。

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カタログの裏表紙に各配送センターのフリーダイヤル番号一覧を掲載している

PSCと配送センターとでシステムを共有し対応を連携

 コールセンター・システムには、生協用のパッケージをカスタマイズして使用している。ブースには2つのモニターが設置されており、オペレータは一方のモニターで組合員情報を閲覧しながら応対履歴を入力。もう一方のモニターで供給情報(注文に対して実際に届けることができた商品の情報。野菜は、天候などの影響により欠品や量の変更が生じることがあるため、注文と届けるものが一致しないケースがある)を閲覧しながら対応に当たる。例えば、配送に関する問い合わせで、現地での対応が必要な用件については、PSCから該当配送センターに対応を依頼。配送センターでもコールセンターと同じシステムを閲覧・入力できるようになっており、対応が完了すると同システムに応対履歴を入力する。これにより、PSCとの情報共有を可能にしているのだ。応対履歴は組合員をキーに時系列で閲覧できるようになっているため、過去の対応を踏まえて対応に当たることができる。これにより、PSC開設の目的のひとつである組合員の声を把握できる環境が構築できた。
 このほか、CTIを導入。ナンバーディスプレイサービスを使用して、電話番号をキーに組合員情報をモニターにポップアップさせている。スピーディーな対応を行うことで、効率の向上にも努めているのだ。注文や問い合わせは自宅からかけてくるケースが多いことから、ヒット率は比較的高いという。また、ボイスロギング・システムも導入。クレームの内容や対応を確認するために、全件の通話を録音している。

オペレータに決裁権を与え一次解決率を高める

 2011年10月現在のPSCにおける受付状況を見ると、月間コール数は「問い合わせセンター」が2万1,000件で、「受注センター」が2万8,000件。1日の中でのコール数の推移を見ると、曜日により若干の違いがあるものの、9時から12時までと16時から18時までにコールが集中する傾向がある(図表2)。

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 これまでの配送センターごとの運営体制下では、配送センターごとに受付状況の把握レベルが異なっていたことから、業務の集約に当たってはコール数の予測が非常に難しい状況にある。しかし、PSCでは両センターとも90%以上の平均応答率を実現しており、目標としている90%をクリアしている。応対品質の評価指標としては、20秒以内に80%のコールに出るというサービスレベルも設定しているが、こちらはいま一歩といったところだ。
 応対品質の評価指標としては、一次解決率も採用している。パルシステムでは、生鮮品の傷みに関しては返金もしくは値引きで対応している。これまでは返金や値引き処理に当たっては、配送センターで金額を含めて判断し、処理していたところを、現在、この決裁権をオペレータに与え、エスカレーションをなくすことに取り組んでいる。オペレータに決済権を与えるのは勇気のいることだが、その決断のおかげで一次解決率は以前に比べて改善されてきたという。

オペレータ教育に注力しサービスレベルの達成を目指す

 PSCの現状の課題は、サービスレベルの達成だ。現在、在籍している110名のオペレータのうち開設当初からのメンバーは約3割。新人オペレータの比率が高いことから、回答までに時間がかかっており、通話時間が長くなりがちで、応答率は90%以上に達しているものの、サービスレベルの目標を達成するには至っていないのだ。PSCでは11月をもって採用が一段落するため、それ以降はオペレータの教育に注力し、通話時間の短縮を図る計画である。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年12月号の記事