冷凍さぬきうどんやパックご飯を主力商品とする総合食品メーカーのテーブルマーク(株)。同社のお客様相談センターは、日本たばこ産業(株)の食品事業と(株)加ト吉との事業統合を機に、お客さまの声を受信し、それを社内に発信する「アンテナ」としての役割を果たすことを目的として2009年1月に再構築。お客さまとの対話を通じて得た声を商品の開発や改善に生かす一方、2011年4月からは販売店検索システムの運用を開始し、問い合わせを実売につなげる活動にも注力。事業活動への貢献度を向上することで、その存在意義を高めている。
会社概要とお客様相談センターの概要
テーブルマーク(株)は、冷凍食品やパックご飯などの加工食品や調味料、べーカーリーなどの製造・販売を手掛ける総合食品メーカーである。同社の前身は、冷凍食品や冷凍水産品などを手掛ける(株)加ト吉。2008年1月に加ト吉が日本たばこ産業(株)(以下、JT)の子会社となり、同年7月にJTの食品事業を加ト吉に移管するかたちで事業を統合。統合から1年半後の2010年1月1日に現社名に変更し、現在に至る。
新社名は、「食卓、食事、ごちそう、料理、テーブルを囲む人々」を意味する英語の“テーブル”と、「印、目印、トレードマーク」を意味する英語の“マーク”を組み合わせたもの。「笑顔があふれる食卓の“トレードマーク”」でありたいという意思と、「お客様支持No.1の食品メーカーに向け最大の努力を行う」という誓いの気持ちが込められている。
同社の取扱商品は、看板商品である冷凍さぬきうどんとパックご飯のほか、即席麺などの家庭用から業務用まで多数に及び、2011年3月期には年間1,833億円を売り上げた。この中の家庭商品に関する問い合わせや意見などを受け付けているのが、同社お客様相談センターだ。
お客様相談センターの歴史は、旧加ト吉時代にさかのぼる。1993年ごろ、香川県観音寺市にある本社の品質管理部門にお客様相談センターを開設し、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルを導入して全国のお客さまからの問い合わせや意見の受け付けをするようになったのが始まり。その後、JTとの事業統合を受けて、2009年1月に両社のお客様相談センターを統合・再構築したという経緯がある。
統合・再構築に当たっては、社内での位置付け、機能、設置場所などについて議論を重ねた。議論のベースとなったのは、お客さまが抱く食の不安を解消するべく、リスク低減への取り組みをしっかりすること。お客さま対応を強化するために、情報を積極的に開示していくこと。そして、加ト吉とJTの良さを生かして、1+1=2ではなく、それ以上に組織を強化するという事業統合におけるコンセプト。お客様相談センターではこれらをわかりやすく具現化しようと考えたのである。こうして導き出されたキーワードが「アンテナ」。お客さまの声に耳を傾ける受信と、自社の情報を積極的に提供していく発信の2つのアンテナ機能を持つこととした。また、設置場所は、東京都中央区築地にある東京本社内とした。
インハウスを選択してスムーズに業務をスタート
お客様相談センターの受付チャネルは、前述のフリーダイヤル電話とeメール、そして手紙の3つ。電話の受付時間帯は、平日の9時から20時までと、土日・祝日および年末年始の午前9時から18時まで。年中無休の受付体制を構築している。センター統合前は土日・祝日は受け付けていなかったが、アンテナ機能を強化するべく、統合を機に受付時間の拡大を図った。
運営体制は、同社のセンターに業務委託先のスタッフが常駐して実際の業務に当たるインソースで行っている。スタッフ数は、委託先のコミュニケータ、リーダー、スーパーバイザー(以下、SV)が9名、リーダーとSVを支援する同社社員が8名で計17名となっている。
お客様相談センターは同社の顔である。従って、開設時から一定の応対品質に達していなければならないことに加えて、事業活動に貢献することが求められる。さらに、自前でスタッフを雇用した場合は彼らのキャリアプランが必要になってくる。その上、年中無休で運営することなどを考えると、すべて自前で運営するのは負担が大きい。そこで、同社が選択したのはインソースというスタイルだった。
委託先の選定に当たっては、同社を理解し、同社とともにパートナーとしてお客様相談センターの運営に当たってくれる企業を選んだ。電話応対の専門知識とスキルを持ち、同社のお客様相談センターのコンセプトを理解した上で業務に臨んでくれるテレマーケティング・サービス・エージェンシーに業務を委託することで、一定の品質を確保した上でスムーズに業務を開始することができたという。
Webサイトのお客様相談センターのページ。問い合わせ方法やよくある質問などが記載されている
将来のセンター拡張に備えてコールセンターシステムはシンプルに設計
使用回線数は席数より多い数を用意。これはJTの冷凍食品部門が持っていた回線と、リコール用回線として利用する予定で残しておいた回線があるためだ。さらに、お客様相談センターに隣接する会議室はセンターを拡張するために確保しておいたスペースでもあり、最大50席まで増設できるように備えている。
コールセンターシステムとしては、PBX、IVR、ボイスロギングシステムを利用。現状のコール数や将来の拡張を考慮して、あえてACDやCTIは導入せずシンプルな設計にしているため、子機の増設も柔軟にできる。
応対に当たっては、食の安全管理システムに蓄積されている商品データベースを閲覧したり、お客様相談センター内に常備している商品パッケージを見たりしながら、お客さまの申し出を正しく理解し、的確な回答を行うよう努めている。「食の安全管理システム」は、全国の拠点とネットワークでつながっており、香川県観音寺市の本社、東京本社、支社、支店、食品開発センター、工場のすべての拠点で閲覧することができる。このシステムに余力があったことから、お客さまとの応対履歴も蓄積できるようシステムを改作。これにより、自動的に全国の拠点で応対履歴の閲覧も可能となっている。
応対の留意点は“インタラクティブ”
お客様相談センターがお客さま対応において留意している点は、“インタラクティブ”である。トークスクリプトは、どのコミュニケータが対応しても同じ情報を伝え、一定レベルの応対品質を実現するのに役立つが、これに頼り過ぎると会話がワンパターンになったり、お客さまの意図を無視した一方的な会話になってしまったりするケースもある。そこで同センターでは、スクリプトに沿った応対ではなく、お客さまにあわせた応対を第一に考え、お客さまと対話しながら、あらかじめ用意してある多数のFAQを活用して最適な回答をすることを推進している。
同センターでは、録音した音声データを毎月モニタリングしており、お客さまと会話のキャッチボールができているか、いないかを基準に気になる応対をピックアップして、研修に役立てている。
研修は、委託先で実施するもののほかに、センター長が主催する勉強会を定期的に開催している。勉強会では、モニタリング結果のフィードバックのほか、テーブルマークにおける電話応対のあり方を中心にレクチャー。応対スキルの向上はもちろんのこと、CSマインドの醸成やモチベーションアップも図っている。加えて、経営陣とコミュニケータが直接話し合える機会を年に数回設けている。これらの取り組みなどにより、コミュニケータの育成と定着に努めているのだ。
年間1万3,200件に対応 年間平均応答率は93%を実現
受付状況を見ると、2010年度(2010年4月から2011年3月)には1万3,200件の問い合わせや意見などが寄せられた。このうち95%は電話で、残りの5%はeメールと手紙となっている。eメールでの問い合わせには、電話で回答しており、連絡がとれない場合は、電話での連絡をお願いする旨の返信を送っている。eメールで寄せられた問い合わせへの回答を電話で行っている理由は、丁寧に情報を伝達できる口答(電話)での対応を基本とすることで、対応に万全を期すためである。eメールの返信文の中に回答の転載を禁止する旨を記載しているが、一度、発信してしまった情報は同センターでコントロールできないため、極力、電話窓口へ誘導しているのだ。
問い合わせ者の属性を見ると、男女の割合は35対65で、年齢層は40〜50代が中心。最近の傾向としては、一人暮らしのお年寄りや男性、これまで料理をする機会がなかったような方からの問い合わせが増えているという。
問い合わせが寄せられる商品の内訳は、さぬきうどんやたこやきなど冷凍食品に関する問い合わせが約3分の2。パックご飯や即席麺などの常温食品に関する問い合わせが約3分の1となっている。
「アンテナ」として受信機能を担う同センターでは、90%の応答率を目標に設定。実績を見ると、年間の平均応答率は93%で、目標をクリアしている。なお、平日は96%を実現しており、これまで電話がつながらないという苦情が寄せられたことはないという。
約半年で改善商品を市場に投入するケースも誕生
「アンテナ」の発信機能としては、お客さまからの問い合わせ対応を通じた情報提供のほかに、社内へのお客さまの声(VOC)のフィードバックがある。
同センターでは、月次で受付内容、応答率、よくある問い合わせ、お褒めの言葉、商品の改善提案などを取りまとめ、これを品質管理部門、営業部門、製造部門、商品部門の代表が参画するCS委員会で配信。CS委員会では、同センターからの報告および改善提案に基づき、食品開発センターなどと連携して商品の改善、開発を推進している(図表2)。
また、お褒めの言葉は製造部門にも配信しており、工場スタッフのモチベーション向上に役立てている。
このほか、毎年4月にセンターの1年間の活動をまとめた「お客様の声白書」を発行しており、経営会議で報告。お客さまの声を経営層とも共有している。
VOCを生かした商品開発事例としては、「小分けうどん」の開発が挙げられる。「うどん1玉は多すぎて食べきれない」「朝食時や小腹がすいたときに食べられる少量のうどんがほしい」といった声が寄せられていたことから、2009年に通常の1玉の2分の1サイズのうどんを6袋入れた「小分けうどん」を開発、発売した。
商品改善事例としては、賞味期限印字位置の変更が挙げられる。たこやきパッケージの開封口のノッチ(切り込み)が賞味期限表示の近くにあるため、開封後に賞味期限がわからなくなるという意見が寄せられたことから、賞味期限表示をノッチの反対側に配置し、開封後も賞味期限がわかるように変更した。この改善は、数カ月で完了。改善提案から約半年後には改善後の商品を市場に投入することができたという。
もうひとつ、商品改善例としては、「ライスバーガー」の内袋への商品名記載が挙げられる。「ライスバーガー焼き肉」と「ライスバーガー牛カルビ」では、同じ無地の内袋を使用していたが、外袋を開けてしまうとどちらが焼き肉でどちらが牛カルビかわからなくなるという意見が寄せられた。そこで、内袋に「焼き肉」「牛カルビ」と記載することで、ひと目で商品名がわかるように改良した。
VOCに基づき開発された 「小分けうどん」(上)と、VOCに基づき改善されたパッケージの賞味期限印字(下)
問い合わせを実売につなげる事業活動への貢献を強化
お客様相談センターでは2010年に「販売店検索システム」を導入し、2011年4月末より運用を開始した。これは、スーパーマーケットなど販売店での同社商品の取扱状況を検索できるシステムで、お客さまから個々の商品の取扱店舗を尋ねられた際に、その商品を在庫している店舗を伝えたいという思いから導入されたもの。住所や商品名をキーに、店舗名、商品名、納品日、納品数を検索することができる。これにより、単にチェーン店の名前を伝えるだけでなく、そのチェーンのどの店舗で取り扱っているのか、お客さまの住まいに一番近い店舗を探し出し、納品日も含めて伝えている。このほか、問い合わせ商品の取り扱いがない場合は、類似品を案内するよう努めている。例えば「冷凍さぬきうどん」の5食入りについて問い合わせがあったけれど、お客さまの最寄りの店舗では5食入りはなく3食入りがある場合はそれを案内するというように、お客さまの視点で対応しつつ、実売につなげる応対を推進し始めたのだ。同センターではこの「販売店検索システム」を活用して事業活動への貢献度を高めていくべく、今後は最大限に力を注いでいきたいとしている。同センターで案内したお客さまが実際に店舗で購入したことを検証することができれば、より一層、同センターの社内での位置付けを高めることができると言えよう。