コンタクトセンター最前線(第113回):「お客様センター」の社内的地位を高め受付体制を拡充 VOC活用の推進を図る

大建工業(株)

大建工業(株)は、1945年の創業以来、地球環境に配慮した製品、健康で快適な住環境を創出する製品の提供を続ける、エコ資材にこだわった住設メーカーである。2002年にCS部にお客様センターの前身であるお客様相談室を開設。その後、マーケティング部に移管されたが、2010年には経営直結の一部門として独立。社内的地位を高めるとともに受付体制の拡充を図り、満足度の高い対応とVOCの活用に注力している。

プロフェッショナルから施主まで幅広い顧客に対応

 終戦直後の1945年9月に創業した大建工業(株)。荒廃と混乱の中、「復興資材として木材・製材品を生産し、日本の社会や国民の生活の再建に役立ちたい」という熱い志のもと、各木製品と床材の製造に着手したことがビジネスの始まりだ。その後、合板分野へ事業展開し、経営基盤を構築するとともに、1958年には資源を無駄なく活用できる「インシュレーションボード」の生産を開始し、建材メーカーとして新たな一歩を踏み出した。以降、製鉄の副産物であるスラグウールを主原料とする「ダイロートン」、木質材料を有効活用した「MDF」、そして火山灰をまったく独自の技術で実用化した「ダイライト」など、再生資源や未利用資源を主原料としたエコ素材を開発。地球環境に配慮した製品、健康で快適な住環境を創出する製品の提供を続けている。
 現在の取扱製品群は、内装材や住宅機器、下地材などの住宅・マンション用建材、ビル・公共施設・産業用エコ資材など広範囲にわたり、その数は数十万点に及ぶ。この膨大な製品の問い合わせに対応しているのが、同社お客様センターだ。同社が取り扱う製品は、それ単体で機能するものではなく、工務店を通じてエンドユーザーである施主に届けられる、工事を含めた商材である。従って、同社の顧客は工務店や設計事務所をはじめとするいわゆる建設のプロから、住宅建材などの流通事業者、そして施主と幅広い。お客様センターでは、これらすべての顧客の問い合わせに対応している。
 なお、有償の修理と部品交換などに関する受付業務は、グループ会社のダイケンホーム&サービス(株)が担っている。

お客様センターを一部門に昇格し社内的地位を高める

 同社がお客様センターを開設したのは2002年。当時はCS部の管轄で、お客様相談室の名称でスタートした。スタッフ数は4名で、小規模な相談室であった。その後、相談室はマーケティング部に移管され、2010年3月まで5名体制で運営していたが、同年4月にマーケティング部から独立し、経営直轄の一部門として昇格するとともに「お客様センター」に改称。相談員を15名に増員し、かつセンターのシステム化を図ることで受付体制を拡充した。
 同社がお客様センターの社内的位置付けを高め、受付体制の拡充を図った背景には、市場の変化がある。国土交通省の調べによると、ここ数年における新築住宅(持ち家、貸家、分譲住宅)の着工戸数は減少傾向にあり、2007年には年間約130万戸であったものが今日においては90万戸を下回っている。これに対して増加傾向にあるのが、分譲マンションなどのリフォームである。このように、市場が新築からリフォームへ移行していることで施主が自ら商品を選択する機会が増えているため、施主からの問い合わせが増加し始めたのだ。
 また、顧客の声(VOC)活用の推進もあった。単に問い合わせに対応するだけでなく、顧客対応で得たVOCを製品、Webサイト、カタログなどの改善に役立てていくためのインフラ整備が必要だったのである。

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パーティションで1席1席区切らず、ほかの部署と同様のレイアウトを採用。壁には、お客様センターで頻繁に使用するあいさつ文が掲示されている

相談員には社員を起用しセンター内での回答に努める

 お客様センターは、本社大阪事務所内に設置されている。受付時間帯は9時から17時までで、土日・祝日および年末年始とお盆は休業。電話窓口には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤルとナビダイヤルを導入しており、前者は2006年、後者は2010年から利用。固定電話からはフリーダイヤル、携帯電話からはナビダイヤルで受け付けるというように使い分けている。
 Webメールは、同社Webサイトのお客様センターのページに用件ごとにフォームを用意。ここでも顧客の属性がわかるようにすることで、適切な回答に努めている。Webメールへの対応も相談員が行う。ただし、担当は固定せず、1週間単位で持ち回るという方法を採っている。
 顧客対応には製品知識が必要となることから、相談員には社員を起用。“即戦力”を人選のポイントとし、開発、品質保証、営業、マーケティングなどさまざまな部門から豊富な製品知識を備えた人材を選抜した。このほか、事務職からも商品知識を覚えられるポテンシャルが高いと見られる人材を選んだ。相談員一人ひとりの製品知識をそれぞれが補い合いながら、チーム力を高めてセンター内での回答を促進している。
 業務に精通し、製品知識を備えた社員を相談員に起用しているとは言え、どのような問い合わせにも正確かつ迅速に対応するには、システムでのサポートが不可欠である。そこで、お客様センターではよくある質問とその回答(FAQ)や製品の図面をデータベースに蓄積しているほか、取扱説明書やカタログといった紙資料を備え、対応に必要な情報を容易に入手できるようにしている。
 このほかには、ロギングシステムを導入し、相談員のスキルアップに役立てている。通話録音については、フリーダイヤルとナビダイヤルのオリジナルガイダンス機能を利用して、相談員に電話がつながる前に顧客にアナウンスしているほか、Webサイトのお客様センターページで告知。確実な周知に努めている。
 なお、オリジナルガイダンス機能では、受付時間外と話中もアナウンスしている。

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問い合わせ用Webフォーム

月平均アクセス数は約4,300件 約85%が建設関係者からの問い合わせ

 顧客対応に当たりお客様センターが留意している点としては、次の2つが挙げられる。
 ひとつは、顧客に応じたわかりやすい回答をすること。建設関係者に対しては、専門用語を用いて簡潔にわかりやすく説明。施主に対しては専門用語を使わず、平易な言葉で表現することを心掛けている。言葉を使い分けて顧客に応じた回答を行うことで、満足度の高い対応を目指しているのである。
 もうひとつは、正確な情報を提供すること。誤解を招く表現を避け、正確な情報を伝えることに注力しているのだ。さらに、どの顧客接点においても発信する情報を統一するために、基本的にはカタログに沿った内容を回答。踏み込んだ問い合わせについては営業スタッフに引き継ぎ、個別に対応している。
 受付状況を見ると、電話とWebメールで月平均約4,300件の問い合わせが寄せられている。
 顧客グループ別に受け付けの割合を見ると、多い順に「建設・工事業」が45%、「設計事務所」が19%、「施主」「流通業」がともに14%という構成(図表1)。約85%が、建設関係者からの問い合わせとなっている。

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 チャネル別受付状況を見ると、電話が9割、Webメールが1割という割合。お客様センターには、法人から寄せられる問い合わせが多い割に、eメールの利用が少ない。
 具体的な受付内容は、製品内容、修理用の部品・部材、サンプル・カタログの請求、不具合など。本来、不具合や修理については工務店が対応するのだが、問い合わせ先が不明の際に、施主がお客様センターに相談を持ち掛けるケースもあるそうだ。

VOCに基づきカタログやWebサイトを改善

 お客様センターに寄せられた問い合わせは、すべて対応履歴データベースに音声情報とともに蓄積、全社で共有されている。対応履歴は各部門で必要に応じて閲覧できるようになっているが、お客様センターではより一層、VOCを活用するべく、蓄積された情報の中から重要課題を抽出し、分析・検討を実施。開発、営業、マーケティングなどの関連部門にさまざまな改善提案を行っている(図表2)。

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 対応履歴データベースを導入したのは2010年10月と比較的最近のこと。導入前は手作業で集計していたことから、管理者の負担が大きかったが、システム化により大幅に作業負担が軽減されると同時に、VOCの集計から分析、改善提案までの流れを効率化することができた。
 最近のVOC活用事例としては、2010年9月に行ったWebサイトの改善が挙げられる。Webサイトの“見やすさ”を追求する同社では、問い合わせページにたどり着きやすくするために、トップページ右上に「お客様サポート」と表示。この文字をクリックすると、お客様センターをはじめとする各種問い合わせ先が書かれたページにアクセスできるようにした。お客様サポートページからはFAQのほか、使用上の注意といった顧客に知ってもらいたいことなどを掲載したページへのアクセスも容易になっている。最近は、Webサイトを見ながら電話で問い合わせをする顧客も少なくないことから、顧客が求めている情報の所在を教えることで、セルフサポートの促進が期待できる。
 続いて、同年11月にはカタログの表記統一も行った。同社では2部構成の総合カタログを発行しているが、一部、双方に重複掲載している製品がある。この説明文がカタログごとに若干異なっていたことで、顧客の混乱を招いていた。そこで、2010年11月発行号から表記を統一した。

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トップページからワンクリックでお客様サポートのページにアクセス。FAQへは2クリックで行ける

応答率、回答率の向上とVOC活用に注力

 現在、お客様センターでは目標応答率を90%、センター内での目標回答率を90%に設定しているが、2011年2月時点では応答率88%と、わずかに目標を下回っている。また、回答率は80%で、目標を達成するにはもうひとがんばりだ。同センターでは、相談員一人ひとりが1日の対応本数や自己回答率(相談員1人当たりの総受付件数に対して、エスカレーションせずに回答できる率)の目標を設定し、半年に1度、管理者が個人面談を行って目標の達成具合を確かめているが、今後もこうした取り組みを継続的に行っていくとともに、状況に応じては回線数を増やすことも視野に入れながら、応答率と回答率を高め、目標をクリアしていきたいとしている。
 もうひとつ、今後の取り組みとしては、VOCの活用をより一層、強化していく方針。VOCを共有するインフラが整った今、そのさらなる活用を目指して、情報の抽出・分析・提案・検討・改善策立案・改善実施のサイクルをしっかりと回していく構え。また、VOCを活用するには、対応履歴の残し方にも工夫が必要であることから、お客様センターではインプットするスキルを高め、顧客のニーズを確実に改善提案につなげていきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年4月号の記事