コンタクトセンター最前線(第111回):熊本コールセンターの開設や苦情把握システムの本格稼動でコールセンターの機能を強化

大同生命保険(株)

中小企業を中心に、低廉な保険料で大きな保障が得られる個人定期保険の開発・販売に注力している大同生命保険(株)。同社のコールセンターでは、年々拡大する業務内容に伴い入電数が増加。これに対応するべく熊本に新センターを開設したほか、苦情の把握を補完するために独自のシステムを開発して、コールセンターの機能強化を図っている。

アウトバウンドからスタートし業務を拡大

「小異を捨てて大同につく」に由来する社名を持つ大同生命保険(株)。同社は、1902(明治35)年に朝日生命、護国生命、北海生命の3社が合併して誕生した生命保険会社である。これまで中小企業を対象に低廉な保険料で大きな保障が得られる個人定期保険の開発・販売に注力してきた。2009年度中に引き受けた契約のうち、企業からの契約数は94%に達しており、契約企業数は37万社に及ぶ。また、同年度末現在の個人定期保険の市場占有率は19.2%で、業界第1位となっている。
 同社のカスタマーサービスセンターが管轄するコールセンターは、保険商品の契約の継続および万一の場合の手続きを迅速かつ確実に行うために不可欠な顧客窓口として位置付けられている。
 コールセンターの開設は1997年。本社のある大阪に拠点を設け、保険料の口座振替ができなかった契約者に対して口座振替不能案内の発信業務を担うセンターとしてスタートを切った。その後、1999年には契約内容の照会などを受け付けるインバウンド業務をスタート。以降、支社担当者や顧客へ手続き書類を本社から郵送する本社直接保全を推進する中で、コールセンターで受け付ける手続きをひとつずつ増やし、インバウンド業務を拡大していった。加えて2008年度には、契約者から支社への入電を契約者の希望に応じてIVRでコールセンターへ転送する仕組みを構築。営業担当者が不在でも、コールセンターが代わりにお申し出を受け付ける体制を整えたことで、顧客満足度の向上と営業担当者の業務負荷軽減を実現している。
 こうした変遷を経て、現在のコールセンターが担う業務は多岐にわたる。
 まず、インバウンド業務では、主に3つのお申し出に対応している。1つ目が、契約者からの契約内容などの照会への回答、さらには営業担当者を含む各種手続きの受け付けおよび必要書類の送付。2つ目が契約者・株主からのT&Dホールディングス株についての照会への回答。3つ目が、取引先からの各種問い合わせ受け付け(大代表)となっている。
 次に、アウトバウンド業務では、主に口座振替不能時の入金勧奨と、お礼コールを行っている。お礼コールは、新規契約者に対して初回保険料が口座から振り替えられた時と、一時払い終身保険に加入した契約者に対して実施している。
 そのほか、これらに付随する業務としてバックヤード業務がある。具体的には、管理職によるエスカレーション対応や電話応対内容を支社に送信する際のコール連絡シートの内容確認、至急の支社宛連絡などを行っている。

2010年6月に熊本コールセンターを開設

 現在、コールセンターは、大阪と熊本の2カ所にある。熊本コールセンターは、2010年6月に開設したばかりだ。新センター開設の理由は、コールセンターのインバウンド業務拡大に伴い、入電数が増加を続けていることと、災害リスク、パンデミックの発生などへの備えから。また、コールセンターでは、熊本を選択した理由として、安定的に人材を確保できることを挙げている。
 スタッフ数は、両センターを合わせて100名。内訳は、大阪が80名、熊本が20名となっている。現在、熊本は大阪の4分の1の規模で、業務内容も契約内容の照会と各種変更手続きの受け付けに限定しているが、スタッフ数、業務内容ともに、これから徐々に拡大していく計画だ。
 コールセンターの電話窓口には、NTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・サービスを利用している。携帯電話からの着信も可能で、9時から18時までコミュニケータが対応。18時以降および土日・祝日と年末年始は、自動音声による案内を行っている。

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熊本コールセンター(左)と大阪コールセンター(右)。熊本コールセンターは、最大60席まで拡大が可能となっている

2拠点のメリットを生かしたセンター運用を実施

 2センターへの入電コントロールは、次のように実施している。まず、フリーダイヤルへの入電の場合は、発信者番号でコールを振り分け、東日本エリアからの発信であれば大阪コールセンターに、西日本エリアからの発信であれば熊本コールセンターに着信。次に、支社への入電の場合は、IVRで支社につなぐかコールセンターにつなぐかを契約者に選択してもらい、フリーダイヤルと同様に地域に応じて大阪・熊本の両センターに転送している。
 入電量については、両センターの要員数に応じて本社カスタマーサービスセンターで任意に設定することができる上、あふれ呼が生じた際には他方のコールセンターへ自動転送される相互カバーの体制を敷いている。
 コールセンターシステムには前出のIVRのほかに、ボイスロギングシステムと音声認識システムを活用。ボイスロギングシステムは、契約者からのコール内容の確認と応対品質向上のため、音声認識システムはコミュニケータのオペレーション支援とそれによる業務効率と応対品質の向上、苦情把握の補完に役立てている。
 このほか、応対履歴や受付状況を両センターで共有できる仕組みを構築。コミュニケータの端末にエスカレーション担当者の電話ステータスを表示してコミュニケータを支援しているほか、コミュニケータが作成した支社宛のコール連絡シートを両センターで閲覧可能とすることで、大阪と熊本の管理者が相互にサポートできる環境を整えた。
 こうした受付体制は、2拠点運用のメリットを生かしたセンター運営を実現していると言える。熊本コールセンターのコミュニケータのスキルアップと人員拡大が進めば、今以上に2拠点のメリットを享受することができるはずだ。

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コールセンターのフリーダイヤル番号は、大同生命保険Webサイトのトップ画面やコールセンターの画面で告知している

運用基本方針に則りコミュニケータの心構えやセンターの評価指標を作成

 コールセンターでは、運営の基本方針として「お客さまへ正確・迅速・適切な保全手続き・回答を均質に提供。お客さまの主たる窓口として効率的な運営体制を構築」することを掲げている。生命保険には多種多様な商品があり、変更や請求手続きも複雑かつ多岐に及ぶことから、業務知識研修を毎月実施している。コミュニケータは、正確・迅速な対応を心掛けるとともに「お客さまの立場に立ち、共感の心を持つ」「疑問・不明点を解決し、電話して良かった、また電話しようと感じていただける対応を行う」ことを、日々の業務に臨む心構えとしている。さらに、コールセンターでは、心構えを具体的な行動規範に落とし込み、コミュニケータに周知。同時に、コミュニケータの実践レベルを知るとともに、センターが基本方針に則って運営されているかを測るために、評価指標を設けている。
 いくつか代表的な評価指標を紹介しよう。インバウンド業務におけるスピードと効率を測る指標として用いているのが、後処理時間と保留時間、そして応答率である。後処理時間については、コミュニケータの勤続年数やスキルレベルに応じて設定されているが、平均すると6分51秒としている。保留時間は、1通話当たり累計で1分30秒以内。応答率については、現状で96%と高いレベルを実現していることから、目標値は設定していない。応対品質を測る指標としては、外部評価によるスコアと社内の管理者が行うモニタリングスコアを用いている。
 アウトバウンド業務については、一般的にコミュニケータ1人当たりの発信件数が効率の指標として用いられるが、同センターのコミュニケータはインバウンド業務も兼務しており、発信に携わるのは短時間であることから、指標としての数値は設定していないという。

音声認識システムで苦情の把握を補完

 コールセンターにおける特筆すべき取り組みとして、音声認識システムを活用した苦情把握が挙げられる。前述の通り、もともと音声認識システムは、コミュニケータのオペレーションを支援することによる業務効率と応対品質の向上を図ることを目的に導入されたわけだが、苦情把握において抱えていた①人的判断ではバラつきがある、②履歴は定型句で残すことからお申し出の背景やニュアンスが残らず、お客さまの感情が見えない、③キーワード検索では苦情でない通話も抽出してしまう、といった問題の解決策として、音声認識システムでテキスト化した通話を活用することに着目。迷惑メールの分類に利用されているベイズ理論に基づく「苦情確率モデル」を構築し、2009年に苦情把握システムを開発するに至ったのである。
 苦情把握システムの基礎となっている「苦情確率モデル」は、過去の通話データから通話に登場する単語をすべてデータベースに登録し、各単語が苦情と通常通話に出現する回数に基づいて各単語の苦情の重みを数値化(ポイント化)。判定対象となる全通話に出現する単語に、単語が登場した回数を掛けて苦情ポイントを算出して、各通話の苦情ポイントを割り出すというものである。そして、この「苦情確率モデル」で導き出された結果を基に、苦情ポイントの高い順に専用画面に表示することで、苦情の把握を補完するのが苦情把握システムだ(図表)。

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 この取り組みは、コールセンターでの成果を発表する「コンタクトセンターアワード2010」において、先進性・独自性が評価され、最優秀テクノロジー部門賞を受賞している。
 コールセンターで同システムの本格運用を開始したのは2010年4月。以降は、全通話をモニタリングしなくても、確率の高い通話だけモニタリングすることで苦情かどうかを最終判定することができるようになった。これにより、それまで苦情把握に費やしていた時間が短縮された上、苦情を漏らすことなく把握できるようになったことは言うまでもない。事実、4月の本格運用開始から5カ月間で、キーワード検索では見つけられなかった苦情を54件発見することができたとのこと。また、コミュニケータが苦情と認識しなかった理由を探り、コミュニケータにフィードバックすることで、全コミュニケータが均一な苦情判断基準を持てるようになってきたという。
 今後、コールセンターでは、苦情確率モデルを応用して、苦情にとどまらず相談や照会、要望・期待の声を把握することで、業務改善やサービスの向上を推進していきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2011年2月号の記事