コンタクトセンター最前線(第105回):24時間有人対応のコンタクトセンターを構築しCS向上と販売機会の損失防止に貢献

(株)ニチイ学館

1968年に創業し、「教育事業」「医療関連事業」「ヘルスケア事業」を3本柱に事業を展開している(株)ニチイ学館。同社では2003年8月に、教育事業のコンタクトセンターを長野県上田市に移設。2009年7月には、「ヘルスケア事業」のコンタクトセンターも上田コールセンターに移管し、24時間有人対応をスタートした。これにより、CS向上と販売機会の損失防止に貢献している。

医療・介護分野における人材の育成と輩出を展開

 1968年に、医療事務スタッフの育成および派遣に着目して創業した(株)ニチイ学館。以来、医療や介護現場のニーズをいち早くとらえ、これに素早く応えることでビジネスを拡大してきた。現在は、「教育事業」「医療関連事業」「ヘルスケア事業」を3本柱に事業を展開。医療関連事業とヘルスケア事業の人材を教育事業で育成する、教育から就業までを担うビジネスモデルを特徴としている。
 各事業について見ると、まず同社の原点である教育事業では、医療や介護をはじめライフスタイルを豊かにする幅広い教育講座を提供している。2010年5月にはeラーニング講座の開講を発表し、9月のグランドオープンに先駆けて、新サイト「まなびネットスクエア」を立ち上げた。現在、介護職を対象としたストレスマネジメントや語学、コミュニケーションなどをテーマとした9講座を開講。同社では、eラーニング講座の開講を第二教育事業創業期と位置付けている。
 医療関連事業では、全国の病院・診療所を中心に約1万1,000件へ人材を派遣し、医療機関の経営の健全化と効率化に寄与。医療サービスの向上と患者満足度の向上をサポートしている。
 ヘルスケア事業では、訪問介護やデイ・サービスなどの在宅系サービス、グループホームや有料老人ホームなどの居住系サービス、福祉用具レンタル・販売、配食や家事代行などの生活支援サービスに至るまで、トータルな介護サービスを提供している。
 ビジネスにおけるもうひとつの特徴は、全都道府県に拠点を設けていることにある。東京に本社を構え、全国に11営業統括部、97支店、14営業所からなる一大ネットワークを築き上げ、有機的に3事業を展開。超高齢社会を迎えた今、医療・介護分野に携わる民間企業として、大きな社会的責任を背負っている。

長野県上田市にコンタクトセンターを開設

 現在同社では、長野県上田市にあるコンタクトセンターで、教育事業とヘルスケア事業のカスタマーサポートを行っている。上田コールセンターの開設は2003年8月。関連会社に併設している物流センター内に設置された。同センターの開設前は、教育事業の顧客窓口には全国の支店を活用していたが、2000年に介護保険制度が施行されたことに伴い受講者が急増したことから、大量のコールに対応するために、順次アウトソーシングに切り替えていった。その後、M&Aにより取得した企業が持つコールセンターに業務を移管してインハウス化することで、運用ノウハウの蓄積とスケールメリットを追求したが、さらなるコスト削減を目指し、長野県上田市に移設したという経緯がある。上田市は、創業者であり現在は代表取締役会長を務める寺田明彦氏の出身地であることから、地域雇用への貢献もセンターの移設目的のひとつであったという。
 一方、ヘルスケア事業のコンタクトセンターは、介護保険法の定めにより24時間稼動が必須であったことからアウトソーシングしていたが、こちらも2009年7月に上田コールセンターに統合し、現在に至る。

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上田コールセンターのオペレーション風景。繁忙期には上田支店の社員が応援に駆けつけることもある

CS向上と販売機会の損失防止に貢献

 同センターの具体的な業務内容は、次の通り。教育事業においては、資料請求、問い合わせ、意見・要望の受け付け。ヘルスケア事業においては、介護サービスの利用者向け窓口としての意見・要望の受け付け、サービス変更、担当ヘルパーへの取り次ぎのほか、配食や家事代行といった生活支援サービスの資料請求や問い合わせの受け付けとなっている。
 受付チャネルには、電話、Webメール、はがき、チャットを利用。電話窓口には、NTTコミュニケーションズ(株)のスマート・コンタクトセンターを導入し、教育事業、介護サービス、生活支援サービスごとに異なる番号を用意している。
 またチャットは、前出のeラーニング講座の開講に合わせて、受講生からの問い合わせ用チャネルとして導入した。受付時間帯は、全サービス24時間・年中無休となっている。
 介護サービスが24時間受け付けの理由は、前述の通り、介護保険法の定めにより、24時間利用者が連絡可能な窓口の設置が介護サービス提供者に義務付けられているためである。同センターでは、全国の介護サービス拠点の緊急連絡網を整備し、夜間・深夜の利用者からの連絡を迅速に引き継いでいる。また、例えば日中にヘルパー車両の駐車に対して苦情が寄せられた場合には、5分以内に運転手と連絡がとれる仕組みを構築している。こうした対応が、CS向上と信頼感の醸成につながっていると言えよう。
 教育事業における24時間受け付けの理由は、販売機会の損失防止である。上田コールセンターの開設以前から、24時間、自動音声応答装置で資料請求を受け付けていたが、2009年7月より同センター内で介護サービスの24時間の有人対応を開始したことから、資料請求だけでなく教育事業のすべての用件を同様の体制に切り替えた。これにより、いつでも思い立ったときに資料請求や問い合わせができるようになったほか、Webメール返信のリードタイムが短くなり、CS向上にも貢献している。

スタッフに求める8つの資質

 インハウス・コールセンターの運用においては、スタッフの募集・採用・研修も自社で行わなければならない。同センターでは、スタッフに求める資質として、以下を挙げている。
 1つ目は、明るく元気で、いつも笑顔を絶やさないこと。
 2つ目は、際立ったコミュニケーション能力。これは、各種サービスの利用者や受講生からの問い合わせに、付加価値を付けて伝える力を意味する。
 3つ目は、会話の冒頭で顧客のイメージを察知できる能力。一人として同じ顧客はおらず、多様化する入電者一人ひとりに合った対応が求められるためである。
 4つ目は、本社との信頼関係を築けるコミュニケーション力。通信網の発達とITの進歩により、今では地方でも支障なく業務をこなせるようになっているが、何事においても本社との連携は必須であることから、これを重視しているという。
 5つ目は、高いコンプライアンス意識。同センターでは膨大な個人情報を管理しているためだ。
 6つ目は、ハードクレームにも折れることのない強い精神力。
 7つ目は、オペレーターの必須項目でもある言葉遣いや一般知識、業界知識。とりわけ日本地理の知識は、全国に支店・拠点を構えていることから不可欠となる。
 8つ目は、CS向上や業務改善への意欲。
 もちろん、はじめからすべての資質を備えた人材を採用するのは至難の技であるし、採用後の教育で補うべきこともある。また、オペレータに不可欠な資質と社員に不可欠な資質には違いがあるが、同センターではこの8つをすべてのスタッフに求めているという。

事業別に異なるフリーダイヤルで対応

 同センターのスタッフ数は、社員が12名、パートタイマーが24名の計36名。24時間を3シフトに分けて、平日の日中は20名、土日の日中は10名、深夜は4〜5名で受け付けている。
 社員とパートタイマーの役割は明確に分けられており、社員が業務管理・人事管理・システム管理といったセンター運営にかかわるマネジメント、エスカレーションとあふれ呼への対応といったスーパーバイザー業務を、パートタイマーがオペレータとして1次受付を担っている。
 電話の受付体制を見ると、事業内容ごとに教育グループとヘルスケアグループに分かれており、事業別に異なるフリーダイヤル番号を設けて、該当グループに電話を着信させている。
 教育事業についてはIVRを利用し、①資料請求、②受講生用ヘルプデスク、③eラーニング講座に関する問い合わせ、④教育講座副材料(問題集など)の受注の中から、該当する用件を顧客に選択してもらうことで、教育グループ内でのスキル・ベース・ルーティングも実施。迅速かつ的確な対応を行うことで、サービス品質の向上を図り、顧客満足度の向上に努めている。
 一方、ヘルスケア事業については、介護サービスも生活支援サービスも高齢者の利用が多いことから、IVRは使用していない。ダイレクトにオペレータに着信させ、迅速かつハイタッチな対応を行うことで、利用者の満足度向上に努めている(図表)。

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音声認識ソリューションで通話を音声と文字で蓄積

 多くのコンタクトセンターで利用されているシステムのひとつにCTIが挙げられるが、同センターではこれを導入しておらず、フリーダイヤルの基本サービスとオプションサービスで、センターの高機能化を図っている。一例を挙げると、各種教育講座の資料請求の受け付けとヘルスケアの介護サービスの各1回線にフリーダイヤル・インテリジェントサービスを導入し、オプションサービスを利用して迷惑電話を拒否したり、緊急連絡の際に相手の電話機にセンターのフリーダイヤル番号を通知したりしている。また、ウィスパー機能により、通話開始前に発信地域をオペレータに知らせることで、スムーズな対応をサポートしている。
 このほか、2010年4月に(株)アドバンスド・メディアの音声認識ソリューションAmiVoice®CommunicationSuite を導入。全通話を文字化して通話からダイレクトに顧客の声を収集し、音声データと合わせて蓄積している。蓄積した通話は、センター内はもちろんのこと、本社との共有も可能となった。

業務の閑散期はバックヤード業務を実施

 用件別に受付状況を見ると、教育の資料請求は年間約70万件。チャネル別内訳は、Webメール80%、フリーダイヤル15%、はがき5%となっている。なお、Webメールの50%は自社サイトからの請求で、残りの50%は資格系サイト経由での請求である。コール数を見ると、平均月間コール数は1万2,000件で、内訳は資料請求が50%、問い合わせ、意見・要望が50%であった。
 ヘルスケアの平均月間コール数は3,000件。最も多いのは、サービス変更や担当ヘルパーへの取り次ぎ依頼で、全体の50%を占める。そのほかの内容は、ヘルパー車両の駐車や運転に関する苦情、サービスに対する意見などとなっている。
 時間帯別の受付状況を見ると、大半が日中と夜間に寄せられるが、深夜にも1時間に5〜10本の入電がある。当然のことながら、深夜は日中に比べてコール数が少ない。また、1年を通して見ても1〜4月と8〜10月のプロモーション集中期以外は閑散期となるため、人あまりの状況を作らないよう、業務量が少ない時間帯と時期において稼働率を高める工夫が必要となる。
 稼働率を高める施策としては、空き時間を活用したWebメールへの返信、はがきで受け付けた資料請求のデータ入力、音声認識の不備の修正といったバックヤード業務を数多く行っている。

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各サービスのパンフレットやWebサイトにフリーダイヤル番号を記載

応対品質の向上とVOCの活用を推進

 前述の通り、資料請求の8割がWeb利用となっており、教育講座の受講申し込みでもモバイルを含めたWebの利用が増加している。このことから、将来的にはコール数の減少が見込まれるが、同センターでは電話をハイタッチなチャネルとして重視しており、今後はより一層、電話対応の品質向上に取り組んでいく意向。同時に、全オペレータへのサービスに関する教育を拡大し、効果的な営業トークの展開や情報提供を推進していきたいとしている。
 一方では、24時間稼動の付加価値をこれまで以上に追求していく構え。ニチイ学館の総合的なカスタマーセンターとしての意味合いを強めていくとともに、今後はテキスト化して蓄積した顧客の声(VOC)をデータベース化し、マイニングソフトを導入して分析を行い、その結果をマーケティングに活用していくという。ビジネスの拡大に向けて、VOCを基点に社会に有益かつ低コストのサービスを開発し、広く提供していくことを目指している。


月刊『アイ・エム・プレス』2010年8月号の記事