コンタクトセンター最前線(第104回):フリーダイヤルを導入しさらなるVOC活用と販売貢献を目指す

(株)コーセー

半世紀以上にわたり良質かつお客さまのニーズに合った化粧品を提供し続け、幅広い年代のお客さまから支持されている(株)コーセー。同社お客様相談室では、問い合わせ・相談・苦情の受け付けにとどまらずお客さまの声活用にも注力しており、2009年4月にお客さまの声を集約・蓄積・解析する「スマイルデータシステム」を導入した。また、2010年4月には、電話窓口にフリーダイヤルを導入して相談室の機能を向上。お客さまの声のさらなる活用と売り上げへの貢献を目指している。

18ブランドの問い合わせに対応

(株)コーセーは、1946年に創業した日本の化粧品メーカーである。現在同社では、最先端技術と研究成果を集結して作り上げたハイプレステージブランドから、付加価値を追求しながらも化粧品専門店やドラッグストアなど幅広い流通チャネルでより多くのお客さまに提供するプレステージブランド、そして、気軽に使える優良品として開発されたコスメタリーブランドまで、グループ会社のブランドも含めて約30のブランドを提供。幅広い年代のお客さまに支持されている。
 30に及ぶブランドのうちの「COSME DECORTE」とコーセーブランドの「ESPRIQUE PRECIOUS」や「雪肌精」、セルフ展開を行う「ファシオ」など、18ブランドに関する問い合わせ・相談・苦情を受け付けているのが、同社お客様相談室(以下、相談室)である。
 相談室の開設は1972年。当初は総務部に「情報室」として設けられていたが、その後、幾度かの組織変更を経て1993年に現在の「お客様相談室」に改称。「コールの瞬間から最後の挨拶までずーっと心の満足&笑顔!!」を信条とし、問い合わせや意見・要望に対応している。
 同社ではかねてよりVOC活用を行っていたが、相談室を基軸にこれを活発化しはじめたのは、相談室が2008年に独立した部署となり、社内での位置付けを高めてから。さらに、2009年4月には、スマイルデータシステムを導入。既存のクレームデータシステムを販売会社、全国54カ所の拠点、受注センターなどにも拡大し、苦情を全社で共有する体制を整えた。続いて、2010年4月にはNTTコミュニケーションズ(株)のフリーダイヤル・サービスを導入。相談室の機能を高め、VOCの収集・活用を活性化している。

スペシャリストが迅速かつ的確に対応

 相談室はインハウス・コールセンターで、東京本社内に設置されている。お客さまからの問い合わせや苦情は、フリーダイヤル電話、eメール、手紙、来社で受け付けているほか、販売会社を介して寄せられる。電話の受付時間帯は、平日の午前9時から午後5時まで。土日・祝日および年末年始と夏期休暇は相談室も休業となっている。
 受け付けに当たるのは18名のスタッフ。一次受付を行うオペレータ9名、スーパーバイザーの役割を担うカスタマー・リレーションシップ(CR)マネージャー4名、グループ長3名、課長1名、室長1名の1課3グループ体制で構成されている。ここで特筆すべきは、スタッフの大半が研究や開発、教育、美容スタッフ、営業などの経験を持つ、各部門のスペシャリストであること。相談室には製品の成分、使用方法、美容相談、苦情などあらゆる用件が寄せられるが、内容を問わず迅速かつ的確に対応することで、顧客満足(CS)を高めていると言えよう。
 受付状況を見ると、年間受付件数は全チャネル合計で約3万7,000件に上る。受付履歴情報はすべてスマイルデータシステムに蓄積され、対応業務の改善や商品の問題発見・改良に役立てられている(図表1)。

1007S1

フリーダイヤルによるアクセスは約3割

 前述の通り、相談室ではこの4月に電話窓口にフリーダイヤルを導入した。その背景には、企業の社会的責任(CSR)を全うしようという思いがある。
 NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルは、1985のサービス開始以来、数多くのコンタクトセンターで利用されており、生活者の認知度も非常に高い。生活者を対象とした窓口にはかなり普及しているが同社では未導入であったことから、CSRを果たしていないのではないかという懸念を抱いていたのである。加えて、同社が入会している(社)消費者関連専門家会議(ACAP)の会員企業においても、顧客窓口へのフリーダイヤル導入率が年々高まっていた。
 こうした状況の中、同社ではさらなる①CS向上、②お客さまとのコミュニケーションの推進、③企業イメージの向上、④取引先に対する信頼性の向上に向けて、2009年にフリーダイヤルの導入を決定。この4月より利用を開始した。
 導入に当たっては、①〜③を踏まえ、携帯電話やPHSからの着信も可能にするとともに、以下の準備を行った。
 ひとつは、オペレータの増員だ。フリーダイヤル導入後はコール増が見込まれることから、3名増員して18名体制とした。
 もうひとつは、フリーダイヤル番号の告知である。フリーダイヤル導入と同時にホームページの問い合わせ窓口の記載を改めたほか、4月以降に発売される新商品から順次、フリーダイヤル番号を記載したパッケージに切り替えているところだ(資料1)。また、4月下旬に新設したモバイルサイトからも容易に問い合わせができるよう、モバイルサイトでもフリーダイヤル番号を告知している。

1007S2

【資料1】告知媒体 4月以降に発売された「VISEE」のパッケージ。裏面には、フリーダイヤルが印刷されている

1007S3

各ブランドのページや問い合わせ窓口一覧でフリーダイヤル番号を告知している

 現在は、一般加入回線からフリーダイヤルへの移行期間であるため、2種類の回線を併用するかたちで受け付けを行っている。4月以降、フリーダイヤルの利用は着々と増えており、5月下旬には電話の約3割がフリーダイヤルによるアクセスとなった。相談室では、新商品への切り替えが進むに従って、ますますフリーダイヤルの割合が増えると見ている。

相談室の業務を支えるスマイルデータシステム

 一般加入回線もフリーダイヤル番号も、ブランドごとに専用の番号を用意。着信と同時にブランドが特定できるとともに、スマイルデータシステムのポップアップ機能により発信者を特定できる仕組みになっている。これにより、お客さまとの会話が始まる前にブランドを特定できるほか、悪質なクレーマーからの電話を事前に把握することができる。これには、オペレータの心理的不安を和らげると同時に、迅速な対応をサポートする効果がある。
 スマイルデータシステムは、ポップアップ機能やeメールの送受信などを可能にするCTIをはじめ、ナレッジ(FAQ)検索やエスカレーションなどを可能にするコールトラッキング、eメールや通話録音などを管理する通信・通話管理といったお客さま対応に必要な機能のほか、VOC活用をサポートするデータマイニング機能も実装(図表2)。相談室の業務を強力に支えている。

1007S4

クレーム情報は全社で瞬時に共有しスピーディーに対応

 製品の成分や使用方法などの一般的な問い合わせには、オペレータの知識やスマイルデータシステムのナレッジ(FAQ)検索などをフル活用して対応。すべてを相談室内で完結しているが、苦情については販売会社や工場と連携して対応に当たっている。販売会社にはお客様窓口担当者がおり、相談室に苦情が寄せられると苦情を申し出たお客さまの居住地域を担当するお客様窓口責任者に連絡。相談室が訪問対応についてサポートを行った後、お客様窓口責任者と営業担当者がお客さま宅を訪問対応している。
 一方、販売会社に苦情が寄せられることもある。この場合は、販売会社側で対応するが、苦情受付情報をクレームデータシステムに入力し、本社・販売会社はもちろんのこと工場を含む全社で共有。相談室で対応の進捗状況を把握し、たらい回しや放置を防いでいる。
 販売会社から相談室に寄せられる苦情の件数は、コンタクト全体の約10%を占めており、対応に要する労力も大きかったが、クレームデータシステムの拡大により、工場への調査依頼や調査結果の伝達など、拠点間の情報伝達と共有がスピーディーに行えるようになった。その結果、発生から解決までの苦情対応期間を従来の3分の2に短縮することに成功した。加えて、同システムを苦情に伴う返品の経理処理とも連携させることで、煩雑な返品処理を簡素化。バックヤード業務の改善も実現した。
 このほか、以前は、帳票を用いて苦情案件を管理していたことから、報告もれが生じることもあったが、同システムの導入を機に入力の徹底を図ったことで報告もれが減少し、これまで報告されていなかった小さな苦情も収集できるようになった。
 なお、クレームデータシステムに入力された情報は、相談室の業務終了後にバッチ処理により、スマイルデータシステムに反映。苦情を集計・分析・解析して関連部門へフィードバックしている。

1007S5

オペレータたちは、モニターに表示された受付状況と応対者のステイタスを確認しながら、後処理より対応を優先するなどして応答率を高めている

心にゆとりができ深い聞き取りが可能になった

 最後に、この4月以降、オペレータに生じた変化に触れたい。フリーダイヤルを導入したことで心にゆとりが生まれ、今まで以上にじっくりお客さまと向きあえるようになったという。従来は、お客さまに電話番号を尋ねて折り返していた。しかし、中にはこれを好まないお客さまもおり、その場合はお客さまが通話料を負担していたことから、必要な情報を伝えて早く電話を切らなくてはならないという思いが先に立ち、最低限の情報を伝える対応に終始していた。しかし、現在では通話料を気にする必要がないことから、愛用の理由を聞き出すなど、一歩踏み込んだコミュニケーションができるようになったというのだ。相談室では、こうした対応がリピーターの育成につながるとともに、収集したVOCが商品の改善や新商品の開発に大きく役立つことを期待している。
 相談室では今後も、販売に貢献する相談室を目指して、じっくりとお客さまの声に耳を傾けていく意向。併せて、フリーダイヤルとスマイルデータシステムの導入でVOCの収集や社内共有をめぐる環境が整った今、その活用をより一層、促進していきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2010年7月号の記事