1972年の創業以降、「ロッテリア」をはじめとするファーストフード・レストランチェーン経営を行ってきた(株)ロッテリア。2006年4月より経営再建に乗り出した同社では、顧客の声を聞き、商品開発やサービス改善に役立てる取り組みを推進し、ファン作りに注力している。その活動の中心的部門と位置付けられているのが、ロッテリアお客様相談センターである。顧客の声活用の効果は早くも表れており、業績は回復へと向かいはじめた。
お客様相談センターが顧客の声活用の中心を担う
「ロッテリア」は、(株)ロッテリアが経営するハンバーガーを中心としたファーストフードチェーン。2009年1月末現在、全国に529店舗を展開している。
競合他社との価格競争などの結果、営業不振に陥ったロッテリアは、2006年より(株)リヴァンプの支援により経営再建に乗り出し、同年4月より「新生ロッテリア」として本格的に活動を開始した。美味しいハンバーガーを楽しい気持ちで召し上がっていただきたいというまっすぐな願いを込めて、「ストレートバーガー ロッテリア」をショップスローガンとして、誠実で洗練された店づくり、こだわりの商品づくり、サービスづくりに取り組んでいる。
そのひとつの結実として、2007年11月に発売を開始した『絶品チーズバーガー』は、多くの顧客に支持されロッテリア史上最大のヒット商品となった。この勢いに乗り、2008年5月に『絶品ダブルチーズバーガー』、同年11月に『絶品ベーコンチーズバーガー』を発売。ハンバーガーに次ぐ人気メニューであるポテトにもてこ入れし、同じく11月に旬のじゃがいもをまるごと味わえる『産直まるごとポテト』を商品化した。“絶品”と“産直”の投入を機に、ロッテリアの業績は回復に向かっている。
ロッテリア復調の秘訣は、執行役員などの幹部や店長らが顧客の声を聞き、顧客視点で店舗、接客、商品を見直し、スピーディーに対応してきたことにある。その活動の中核としての使命を担っている部門が、ロッテリアお客様相談センターである。
店舗本部、営業本部、商品本部と同じフロアにあるお客様相談センター。180cmほどのパーティションで雑音を遮っている(上)/オペレータの目に入る壁には、店頭に貼っているポスターなどが貼られている(下)
より迅速な対応を目指しロッテから相談窓口を独立
ロッテリアお客様相談センターの開設は1992 年。それ以前は、親会社である(株)ロッテのお客様相談室で問い合わせや意見・要望を受け付け、ロッテリア本部へフィードバックするという方法で対応していたが、よりスピーディーな対応を実現するため、独立に踏み切った。
ファーストフードビジネスの特徴として、客単価が低く、顧客数が多いことが挙げられる。従って、問い合わせや意見・要望も多く寄せられる傾向にある。たくさんの声の中には、ヒントも数多く含まれていると認識していたことも、独立を後押しした。
コンタクトセンターをはじめとする顧客接点に寄せられた声を商品やサービスの開発・改善に生かす取り組みは、近年はVOC活動と呼ばれ、業種・業態を問わず多くの企業が推進している。ロッテリアにおいては、90年代から顧客の声活用の有効性を認識していたにもかかわらず、業績不振に陥ったということは、顧客の声を効果的に活用できていなかったと考えられる。この点については、新生ロッテリアとしてスタートした後に改善を図り、今日においては適切な活用を実現している。
お客様相談センターの開設とともにフリーダイヤルを導入
同センターの受付時間帯は、月曜から金曜日の9時から17時までで、土・日は休業。受付チャネルには、電話とeメールを利用している。ロッテリアの顧客は学生が多いことから、eメールは、パソコンからだけでなく、携帯電話からも利用できる環境を整えた。
電話窓口には、センター開設に合わせて、顧客がアクセスしやすい環境作りを目的に、フリーダイヤルサービスを導入。顧客の通話料金の負担をなくした。さらに、携帯電話からの着信も可能にすることで、回線の制約を取り払った。
対応に当たるのは社員、契約社員、パートタイマーと雇用形態の異なるオペレータたち。ロッテリアではプロダクトマネージャー制をとっていることから、同センター所長をトップとして、それ以外のスタッフは雇用形態を問わず並列に位置付けられている。
受付内容は、商品・店舗・ロッテリア全般に関する問い合わせおよび、意見・要望など。同センターでは、迅速・正確、かつ顧客の話を耳と心で真摯に聞くことをモットーに対応している。
店内で使用するトレーに敷くトレーマットには、お客様相談センターのフリーダイヤル番号が記載されている。過去には、店内で飲食中の顧客からお客様相談センターへ「冷房が効きすぎている」といったお申し出をいただき、センターから店舗へ冷房の設定温度を下げるよう指示するということもあった
2人1組の対応によりワンストップかつ正確な対応を実現
同センターの電話対応は特徴的だ。1本の電話を2人1組で対応しているのである。具体的には、ひとりのオペレータが顧客との直接対話を担当。もうひとりのオペレータがスピーカーで会話を聞き、店舗へ確認が必要な問い合わせ内容であれば、社員専用電話回線を使って店舗へ電話をかけて確認をとり、顧客対応中のオペレータにフィードバックしている。同センターでは、この方法を採用することにより、ワンストップで正確な情報伝達と問題解決を可能にした。
一方、eメール対応は、電話対応オペレータが兼務している。店舗の所在地やロッテリアの語源など、回答が定型化されている内容については即時に返信。逆に、回答が定型化されていない内容については、毎日、受付時間終了後に行っているミーティングで回答内容を検討した上で返信している。eメール対応は文字だけのやりとりとなることから、誤解が生じないよう、文面には細心の注意を払っているとのことだ。
eメール対応法として、難易度の高い問い合わせには電話で対応するというやり方もある。しかし、同センターでは、顧客が選択したチャネルに返信チャネルも合わせるべきという考えに立ち、eメールにはeメール、電話には電話で対応している。
顧客の声の共有とその活用を繰り返すことで社内に浸透
同センターに寄せられる問い合わせ、意見・要望の件数は、月間1,000件ほど。このうち、フリーダイヤルとeメールの割合は1対1となっている。eメールの内訳を見ると、パソコンからのメールが4割、携帯電話からのメールが6割となっており、まさに、ロッテリアの顧客層の特徴が受付状況にも表れていると言える。
また、同じeメールでの問い合わせでも、パソコンと携帯電話とでは、問い合わせ内容に違いが見られる。前者は、困りごとを伝える際に使用されることが多く、文章も長い傾向がある。後者は、最寄りの店舗へのアクセスなど、ちょっとしたことへの問い合わせが大半で、文章は比較的短い。
同センターに寄せられた問い合わせとその対応の履歴は、すべて社内ポータルに登録し、全社で共有される。その中から、同センターが重要と思う顧客の声を抜粋して週次、月次で報告書を作成。社長をはじめ経営陣へ報告し、川上から川下までの情報共有を推進している。
このほか、同センターと店舗本部、営業本部、商品本部とで顧客の声を共有する会議を毎月開催している。ここでは、同センターに寄せられる声だけでなく、各店舗のスタッフが記入する「気づきメモ」に書かれた内容も共有し、改善策の検討などを行う。
実際に行われた改善や、顧客からいただいたお褒めの言葉は、月1回の事業報告会で発表し、社内で共有している。
この活動を何度も繰り返すことにより、今では顧客の声を活用する仕組みが浸透。以前に比べて、顧客の声を商品や店舗サービスに素早く反映させることができるようになった。
顧客とともに作り上げた『絶品チーズバーガー』
ロッテリア史上最大のヒット商品となった『絶品チーズバーガー』は、全売上高の約20%を占めるまでに成長した。販売数も右肩上がりで伸びており、2009年3月には2,000万食を突破する見込みだ。これまでの実績を見る限り、ハンバーガーの販売数には波があり、キャンペーン期間中にはぐっと伸びるものの、キャンペーンの終了に伴い減少。またキャンペーンが始まると伸びる、というのが一般的なパターンであった。ところが、『絶品』は違った。発売当初に販売数量がぐんと伸び、その後若干落ちたものの、それ以上落ち込むことはなく、一定の販売数を維持しているのである。この背景には、顧客の声の活用があると言っていいだろう。
まず、包装材の改善を3度も行った。1度目は「油ジミが汚らしい」という指摘を受け、紙のランクを上げて油ジミを解消。2度目は、顧客から「包み方が汚い」という意見が寄せられるとともに、「気づきメモ」でメイト(店舗スタッフ)から「きれいに折れるようにしてほしい」という要望が寄せられたことから、折り目がわかるよう点線を入れた。そして3度目は、「テイクアウトしても美味しく食べたい」という要望に応えて、電子レンジでの温め方と温め時間を記載した。
「肉がパサ付いている」という指摘には、焼き時間や焼き温度の管理を徹底するなどオペレーションを改善。使用しているナチュラルチーズも、シュレッドタイプからスライスタイプに変更し、肉の上から流れ落ちないようにした。さらに、「もっとボリュームがほしい」という声に応えて『絶品ダブルチーズバーガー』を発売。「絶品チーズバーガーをもっと美味しく食べたい」という要望には『絶品ベーコンチーズバーガー』を発売することで対応した。『絶品チーズバーガー』には多くの顧客の声が反映されており、顧客とともに作り上げていったハンバーガーであると言っても過言ではない。
【改善その1】油ジミを指摘され厚手の紙に変更→【改善その2】きれいに包めるよう折る部分に線を入れた→【改善その3】テイクアウトしてもお店の味を再現できるよう、温め方を記載
同センターでは、今後も現状に満足せず、常にベストではなくベターであるという認識の下、真摯な気持ちを忘れずに業務に取り組む意向。ロッテリアのファンがハンバーガーのファン、ひいてはファーストフードのファンへと成長していくことに期待している。
顧客が並んだ順に注文を受けられるようレジ前にロープを張り、銀行のATMなどと同様の並び方を取り入れた
旧メニュー(左)と新メニュー(右)。顧客が注文しやすいよう、セットメニューの見せ方を変更した