コンタクトセンター最前線(第74回):水道に関する問い合わせ窓口を統合しお客さまの利便性向上を図る

東京都水道局

東京都水道局では「東京水道経営プラン2004」の主要施策のひとつとして掲げている「お客さまサービスの向上」を実現するために、お客さまセンターを開設。それまで23区内の営業所や各市町で取り扱っていた水道の開始・中止などの受け付けや各種問い合わせに対応する業務をセンターに統合した。センターでは、受付時間を延長するなどして利便性の向上に努めているほか、集まった声をもとにお客さまニーズの実現にも意欲的である。

都内に2 つのセンターを開設

 都民生活と首都東京の都市活動を支えている東京都の水道事業。しかし、都の水源は、渇水に対する安全度が低いなどの課題を抱えていることに加え、現在の施設の中には、老朽化による機能低下やバックアップ機能が不足するものがあるなど、施設水準のさらなる向上が必須となっている。また、水道水に対してより一層の安全・安心を求める声が強まっているほか、都民のライフスタイルの変化を背景に、お客さまにとって利用しやすいサービスの提供など、さまざまな取り組みが求められるようになってきた。
 こうした諸問題を解決するため、東京都水道局では、東京水道経営プランを策定。同プランの主要施策のひとつとして「お客さまサービスの向上」を掲げ、都民ニーズに対応した質の高いサービスを提供する体制の構築に着手したのである。
 こうした背景で新設されたのが、お客さまセンターである。センターは2拠点ある。まず、2005年1月に23区を対象とする「お客さまセンター」を開設。続いて2006年11月に、多摩地区7市町を対象に「多摩お客さまセンター」を開設した。後者では、2007年4月より対象を25市町に拡大し、今日に至る。

センター開設でお客さまの利便性が向上

 センター開設の効果としては、引っ越しの手続が1回の電話ですむようになったことなどが挙げられる。これまでは、例えば文京区から千代田区へ引っ越す場合、文京区内の営業所に中止の申し込みをし、千代田区内の営業所に開始の申し込みをするというように2カ所への連絡が必要だったのである。現在、23区は都が直接業務を担っているが、多摩地区には都が直接業務を担う市町と業務を委託している市町があるため、このメリットを享受できないお客さまがいたのだ。同局では、都内の各種受付業務などをセンターに集約することで、お客さまの利便性を高めていきたいと考えている。
 もうひとつ、東京水道経営プランで掲げた、お客さまにとって利用しやすいサービスを提供するために、センター開設と同時に行ったことがある。受付時間の延長だ。センター開設以前の受付時間は平日の午前8時30分から午後5時15分までで、共働きの家庭や一人暮らしの会社員・学生などは利用しづらかった。それを日・祝日を除く朝8時30分から夜8時までとすることで、お客さまの利便性を高めた。なお、漏水事故などの緊急対応は24時間365日行っている。

広報紙上

お客さまセンターを告知している水道局の広報紙。多摩お客さまセンターの開設時にはポスティングも行った

ナビダイヤルで公平な利用環境を実現

 センターの業務内容は、①開始、中止の受け付け、②給水契約の名義変更など諸届け変更の受け付け、③料金に関する問い合わせ対応、④水道工事や水漏れに関する問い合わせ対応、⑤ご意見、ご要望の受け付けなど。これらに、電話、ファックス、はがき、インターネットで対応している。
 電話窓口には、お客さまセンターでは一般加入回線を使用し、多摩お客さまセンターではNTTコミュニケーションズのナビダイヤルを使用している。2つのセンターで電話回線を使い分けている理由は、通話料の課金体系にある。23区内はどこからかけても市内通話料金で利用できるが、多摩地区の場合は発信地域によっては市外通話料が必要になるケースがあるのだ。
 お客さまの発信地域によってサービスの利用料が異なってしまっては、公平なサービス提供ではなくなる。そこで、多摩お客さまセンターの電話窓口に、通話料の負担割合を契約者(東京都水道局)が設定できるナビダイヤルを採用。お客さまの発信地域にかかわらず、一律市内通話料で利用できる環境を整えた。さらに、携帯電話(PHSを除く)からの着信も可能にしている。

繁忙期の人材確保が課題

 68、69ページの写真1、2は、両センターのオペレーション風景である。広々としたフロアに、規則正しくオペレーションブースが並ぶ。運営はシステム構築からコールセンター運営までを手掛ける企業に委託している。お客さまセンターの席数は約400、多摩お客さまセンターは約120。両センター合わせて520席と大規模なセンターである。スタッフ数は、前者がスーパーバイザーとオペレータを合わせて約380名。後者が同じく約100名となっており、前者で平均約16万件/月、後者で平均約5万件/月のアクセスに対応している。

【写真1】
【写真2】

23区を対象としたお客さまセンター(上)と、多摩地域25市町を対象とした多摩お客さまセンター(下)。後者は年間100万件のコールが寄せられると想定して作られている。センターの告知媒体には、広報紙や請求書などを活用している

 センターの業務の中でも、水道の開始、中止の受付業務は、引っ越しシーズンに当たる3月から4月にピークを迎える。これを見込んだ席数を用意しているため、520席が常に稼働しているわけではない。両センターでは、予測コール量に合わせて増員・減員を行い、適切な人員配置に努めている。
 しかし、繁閑の差が大きいことから、1年を通して適切な人員配置を行うのは難しく、センター運営における大きな課題となっている。短期間に必要な人材を確保することに加えて、その人材は迅速かつ的確に対応し、お客さまの満足を得られる応対ができる人材でなければならないことが、難易度を上げているという状況だ。
 人材確保は受託企業がセンターごとに行っているが、例えばお客さまセンターでは、毎年10月から採用・研修を行い、年明け間もなくやってくる繁忙期に備えている。

スキルの定着とレベルアップに向けた施策

 もうひとつの課題として挙げられるのが、オペレータのスキルの定着とスキルレベルの向上である。これを実現するためには、フォローアップ研修の体制を整備すると同時に、働きやすい環境を整え、離職率を抑えることが不可欠となる。
 フォローアップ研修は、モニタリングを行い評価し、その結果をオペレータへフィードバックするというもの。基本的にモニタリングは委託先のスタッフが行うが、都として望む対応ができているかを確認するために、都の職員もモニタリングを行う。また、スーパーバイザーについては、特に着任後の2〜3カ月間はきめ細かなフォローを行い、業務をサポートしている。
 働きやすい環境の整備については、両センターとも居心地の良い休憩室を設けているほか、仮眠室やロッカールームを完備(写真3、4)。また、オペレータやスーパーバイザーが気兼ねなく要望を伝えられるように、ご意見箱を設置している。2007年10月には、お客さまセンターにヨーグルトの自動販売機が設置された。これはご意見箱に寄せられた声が採用されたものである(写真5、6)。

【写真3】
3_DSCF3551休憩室
【写真4】
4_DSCF3553ロッカールーム

お客さまセンターの休憩室(上)とロッカールーム(下)。休憩室は見晴らしがよく、明るい雰囲気で居心地がよい

【写真5】
5_DSCF3564ご意見箱
【写真6】
6_DSCF3556ヨーグルト自販機

休憩室に設置されているご意見箱(上)と、要望が採用され導入したヨーグルトの自動販売機(下)。ヨーグルトの売れ行きは好調である

 また、「お助けボード」も働きやすい環境作りに貢献している。これは、シフト確定後に予定が入ってしまった場合などに、オペレータ同士で勤務を調整する仕組み。専用の用紙に社員番号・氏名・該当日などを記入して、センター内や休憩室に設けられたボードに貼っておくと、交代を引き受けられるオペレータがその用紙を本人もしくはスーパーバイザーに持参するようになっている(写真7)。

【写真7】
08sai1

オペレータ同士で勤務の交代を行うためのお助けボード(上)と専用用紙(下)

お客さまの声に応えてクレジットカード決済を開始

 お客さまセンターでは、お客さまの声にも耳を傾けている。最近の例としては、クレジットカード払いの取り扱い開始が挙げられる。センターに寄せられる意見・要望の中に、「なぜクレジットカード決済をやらないのか?」といった声が寄せられていたのだ。すでに、電気やガス、電話はクレジットカード決済が可能なことから、こうした声が増えるのは当然のことと言えるだろう。
 さらに、広報サービス課が2006年度に実施したモニターアンケートの結果を見ると、希望する支払い方法として「クレジットカードでの支払い」との回答が10%で、「口座振替」と「請求書(銀行、郵便局などでの支払い)」に次いで3番目に入っていたのである。こうした理由から、クレジットカード決済へのニーズが高いことを実感し、2007年10月から23区内のお客さまを対象に取り扱いを開始した。
 なお、多摩地区25市町においては、2008年度の導入を予定している。
 お客さまセンターでは、今後も広報サービス課と連携して、お客さまの声を活かすVOC活動を推進していく意向で、現在、テキストマイニングツールの導入を準備している。お客さまのニーズが多様化する中、今後はどのような意見や要望が寄せられるかわからない。センター開設当初は、とにかく目の前のコールに対応することに力を注いできたが、現在は運用も落ち着いてきた。これからは今以上に積極的に、VOC活動を推進していきたいとしている。


月刊『アイ・エム・プレス』2008年1月号の記事