コンタクトセンター最前線(第66回):変化する普及状況に対応しながら地上デジタル放送全面移行をサポート

総務省地上デジタルテレビジョン放送受信相談センター

2003年3月に開設された総務省地上デジタルテレビジョン放送受信相談センター。 同センターでは、 2011年7月の地上デジタル放送全面移行に向けて、 国民・視聴者からの問い合わせや相談に対応する一方、 販売店や関係者などへの正しい情報提供に努めている。 2007年4月に立ち上げたWebサイトでは、これまでの相談内容をもとに作成したQ&A集の掲載を開始した。

受信に関する相談窓口として開設

 2001年の電波法改正並びに放送普及基本計画および放送用周波数使用計画の変更により、国の政策として導入が決定した地上デジタル放送。2003年12月より関東、中京、近畿の一部での放送開始を皮切りに、2006年12月1日には全国全放送局の親局での放送が開始され、全世帯に対する地上デジタル放送のカバー率は84.0%となった。受信機器出荷台数も、同年同月には累計で1,500万台に達するなど、地上デジタル放送の普及は着実に進んでいる。
 総務省地上デジタルテレビジョン放送受信相談センター(以下、受信相談センター)は、上記した一部地域での放送開始に先駆けて、生活者からの受信に関する問い合わせや相談を受け付ける窓口として2003年3月に開設された。受信相談センターでは、2011年7月24日までにアナログ放送から地上デジタル放送へ全面移行を実現するという国をあげての大きなミッションの達成に向けて、電話での受信に関する相談受付に加えて、エレクトロニクス関連イベントへの出展や地方自治体とのタイアップイベントの開催などを通して相談に対応している。このほか、受信相談センターと(社)デジタル放送推進協会(Dpa)、テレビ受信向上委員会と共同で電器店などを対象に「地上デジタルテレビ放送講習会」を開催し、デジタル化への理解の深化に努めている。この講習会はこれまでに200回ほど開催され、約1万2,000の販売店が受講した。

専門知識をもつ放送局などのOBをTSVとして採用

 電話窓口の受付体制を見ると、受付時間帯は平日の午前9時から午後9時までと土日・祝日の午前9時から午後6時まで。100名を超えるスタッフがシフトを組んで対応に当たっている。スタッフは、オペレータ、スーパーバイザー(SV)、テクニカルスーパーバイザー(TSV)、そしてセンター長をはじめとする管理者で構成されており、オペレータは1次対応を担当。SVは2次対応およびオペレータの教育、生産性・応対品質の管理を行い、TSVは特に専門的な知識を必要とする2次対応に当たる。
 地上デジタル放送の受信方法には、アンテナ受信とケーブル受信がある。また、戸建て住宅の場合アンテナなどは専用だが、集合住宅ではひとつのアンテナなどを全世帯で共有するというように受信環境が異なる。さらに、同じエリアであってもアンテナの向きが住宅ごとに違うほか、大きな建築物や山などの地形が受信に影響を与える場合もある。的確な回答を行うには、国民・視聴者からこうした情報を引き出すコミュニケーション能力と豊富な専門知識が必要となるため、放送局や受信機メーカーのOBの中から、コミュニケーション能力にも長けた人材をTSVに採用した。

相談センター

受信相談センターの応対風景。撮影に訪れた際には、応対中のオペレータにサイド・バイ・サイドで指導に当たるTSVの姿が見られた

ナビダイヤルで公平なサービスを実現

 電話回線はNTTコミュニケーションズのナビダイヤルを使用している。ナビダイヤル導入の背景としては、公平なサービス提供の実現が挙げられる。受信相談センターは国民の税金によって運営されているが、インターネットや販売店などで情報を収集する人もいるため、すべての国民・視聴者が受信相談センターを利用するわけではない。加えて、1拠点で全国からの問い合わせに当たっていることから、発信地域によって負担する料金に差が生じないことが望ましい。そこで、発信地域を問わず全国一律の料金で通話が可能なナビダイヤルの導入を決定したのである。
 ナビダイヤルは、あらかじめ携帯電話からの着信を拒否するよう設定することもできるが、受信相談センターでは携帯電話からの着信も可能にしている。加えて、IP電話からの発信などナビダイヤルがつながらない場合に備えて一般加入回線も用意。電話がつながりやすい環境作りにも注力している。

ナレッジシステムと独自のツールで対応を支援

 受信相談センターが日々の対応においてモットーとしていることは、「的確な回答」を行い、それにより生活者の「満足を得る」ことである。前述の通り住宅によって受信環境が異なることが、受信相談センターの受付業務を複雑で難しいものしていることは確か。こうした状況の中、生活者の「満足を得る」には専門知識を有するTSVの確保だけでなく、ナレッジシステムによるサポートも欠かせない。そこで受信相談センターでは、エリア情報システムと3D地図ソフトを活用している。
 エリア情報システムは、郵便番号をキーとして放送局ごとに受信可能なエリアを検索することができるシステムである。例えば、本誌編集部でテレビ神奈川が受信できるかどうかを調べる場合、郵便番号を「113‐0033」と入力して放送局を選択すると、瞬時に該当エリアとそのエリアの受信状況がオレンジ色で表示される。
 3D地図ソフトは、地上デジタル放送の送信点と相談者宅の間の見通し状況を把握するためのツールである。これにより、より一層、適切な対応を行っている。
 一方、ペーパーベースの「早見表」も用意している。これは、各都道府県の中継局別に電波の受信状況やそのエリアで受信できる電波を記した資料で、エリアごとに受信可能な電波を一目で知ることができる。

DSCF2764 相談センターのテレビ

早見表(左)とすべての席から見える位置に設置されている大型のテレビ(右)。テレビには、テレビ番組を映すほか、早見表に反映されない情報を表示している

相談内容は認知度向上や受信機の普及に応じて変化

 地上デジタル放送の認知度向上および視聴エリアの拡大に伴い、年々、受信相談センターに寄せられる相談件数は増加の一途をたどっている。テレビCMなどにより受信相談センターをPRしたことも、相談件数の増加を後押ししているようだ。2004年度は2万7,063件だったものが2005年度は5万4,259件とほぼ倍増。2006年度も2倍に膨れ上がることが見込まれている。
 受信相談センターで受け付けた内容とその回答は、応対画面に入力してデータベース化される。それをもとにデイリーレポートやマンスリーレポートを作成し、センター運営の効率化に役立てている。また、データベースに蓄積した情報をもとにQ&A集を作成。この4月にオープンしたばかりのWebサイトへの掲載を開始した。
 地上デジタル放送の認知度向上および視聴エリアの拡大は、問い合わせ内容にも変化を及ぼしている。まず、一般的な問い合わせを見ると、受信エリアや放送開始スケジュールに関する相談は31.5%(2004年度)から25.0%(2005年度)となり、6.5ポイント減少。同様に、受信方法についても25.7%から21.7%となり、4.0ポイント減少した。
 逆に、増加しているのはデジタルテレビやチューナーなどの受信機や録画機の機能などに関する相談(9.1%から 16.2%)、デジタル放送の特徴に関する相談(4.4%から7.0%)で、着実に受信機の普及が進んでいることの表れと見ることができる。また、要望・苦情も2.4%から4.1%と増加傾向にある。項目としては「費用負担」「デジタル化(政策など)」「周知の方法(周知、広報、報道)」が増えている。特に「費用負担」については、前年比で7.3ポイント上昇した。

個別対応の増加を見据えて運営体制の充実を図る

 一般的な問い合わせは、減少している相談と増加している相談が混在しているのに対し、全体的に増加傾向にあるのが、TSVが対応する専門知識を有する相談である。具体的には、集合住宅など共同受信施設での受信方法や改修経費および高度な受信システムに関するものと、特定チャンネルの受信不良や受信障害、混信に関するもので、2006年4月から5月にTSVが対応したコールは、全コール数の約4分の1を占めた。受信相談センターでは、今後もTSVによる対応が求められる、一軒一軒の受信状況に応じた相談件数の増加を予測している。
 さらに、新しい受信機が登場するなど、地上デジタル放送を取り巻く環境は日々変化する。受信相談センターのモットーである「的確な回答」をすることで国民・視聴者の「満足を得る」ためには、変化への対応力が必要だ。
 以上のような状況に対応するため、今後、受信相談センターでは運営体制の充実・強化を図る意向。具体的な施策としては、第一にスタッフ教育に力を注ぐ。第二に、受信機購入者との直接の接点であり、購入後の相談先でもある販売店の対応力を強化。第三に、個別具体化する相談への対応力向上を挙げている。

トップページ よくある質問

受信相談センターのホームページ。画面の右下にはナビダイヤル番号が掲載されている。番号はページが変わっても常に画面に表示されるため、サイト閲覧中に直接、問い合わせたいことがあれば、すぐに電話をかけることができる(写真左)/受信相談センターに寄せられた問い合わせをもとに作成されたQ&A。受信方法や特徴、録画など、質問内容をカテゴリー分けすることで、検索性を高めている(写真右)

入退出管理などの徹底により個人情報の取り扱いに備える

 今後、個別対応が増えることで新たな課題が浮上する。それは、個人情報の適正な取り扱いだ。一般的な問い合わせへの対応においては、相談者の個人情報は必要ないことが大半であったが、一軒一軒の受信状況に応じた個別の相談が増加すれば個人情報を取得する機会が増すことが想定される。すでに、今後増加する個人情報にも対応できるセキュリティを備えている受信相談センターでは、さらに「放送受信者等の個人情報の保護に関する方針」を踏まえ、放送事業者や事業者団体などの関係者が連携・協力して、個人情報の適正な扱いに関する取り組みを推進していく方針を掲げている。
 新たな課題はもうひとつある。それは、悪質商法への対応である。昨今、地上デジタル放送に関する誤った情報や不十分な情報によって関連商品・サービスを売りつける、いわゆる悪質商法による被害が発生しているのだ。地上デジタル放送の普及に伴い被害拡大の可能性があることから、被害防止のための呼び掛けを徹底することも重要な役割となっている。
 2011年7月の地上デジタル放送への全面移行まで5年を切った。これからも、受信相談センターが担う役割は状況に応じて変化するだろう。アナログ放送終了まではもちろんのこと、地上デジタル放送全面移行後の対応にも注目していきたい。


月刊『アイ・エム・プレス』2007年5月号の記事