コンタクトセンター最前線(第65回):「お客様とのつながり」に関する活動をリードするお客様サービス室

日本ハム(株)

日本ハム(株)では、2003年よりお客様に安心・満足・感動していただける品質を目指してOPEN品質・アクションプログラムを展開している。 OPEN品質における5つの基本方針のひとつである「お客様とのつながり」に関する活動をリード しているのが「お客様サービス室」である。 今回は、同社お客様サービス室の日々の活動や課題を紹介する。

「お客様とのつながり」を推進する中心的存在

 日本ハム(株)は、食肉、加工食品、ハム・ソーセージ、水産品、乳製品など食品を中心とする事業領域で多彩な展開を行っている食品メーカーである。皮なしウインナーの「ウイニー」や、パリッとした食感とジューシーな味わいが人気の「シャウエッセン」など発売から数十年というロングセラー商品は、誰もが一度は口にしたことがあるだろう。
 同社の設立は1949年。約60年にわたって私たちの食卓においしさを届けてくれていた同社に、2002年8月、グループ会社における牛肉偽装が発覚した。長い月日をかけて培った生活者、株主、取引先、これらすべてのお客様の信頼をたった1日で失ってしまったのである。さっそく同社は、グループ内に遵法意識を徹底させるとともに再発防止システムを構築し、失われた信頼を取り戻すべく再建に乗り出した。同年9月に品質保証部を設立し、翌年3月よりOPEN品質・アクションプログラムに着手したのである。
 OPEN品質の“品質”は、お客様が安心しておいしく同社の商品を食べることができるように、お客様の視点で商品やサービスを提供すること。“OPEN”は、お客様の立場から、お客様が知りたい情報をできる限り開示することを意味し、5つの基本方針を基盤としている(図表1)。この基本方針のひとつである「お客様とのつながり」に関する活動の中心的存在として活躍しているのが、今回紹介するお客様サービス室である。

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 お客様サービス室は1969年、消費者サービス室として発足した。当時は本社・事業本部商品政策部の管轄であったが、その後、宣伝課、営業企画、マーケティング部を経て、営業部門と生産3事業部門の4カ所に分散配置された。
 1991年には現在の呼称に変更。その11年後に当たる2002年に不祥事が発覚した。同年、これを受けて新設された品質保証部に移管。さらに、2004年には品質保証部門から独立し、社長直轄の部門となり現在に至っている。

異なるフリーダイヤル番号で適切なスタッフにコールを振り分ける

 お客様サービス室の主な業務内容は、電話とeメールで寄せられた商品に関する問い合わせおよびご意見・ご指摘への応対である。
 お客様サービス室は日本ハムの大阪本社内に設けられている。電話対応は日祝日を除く午前9時から午後6時まで。電話回線には、1991年より NTTコミュニケーションズのフリーダイヤルを導入し、ハム・ソーセージ、調理食品、惣菜の3カテゴリーで異なる番号を使用している。
 その目的は、迅速で適確な対応の実現にある。ハム・ソーセージの窓口には、保存方法や添加物に関する問い合わせが多く寄せられるのに対し、調理食品と惣菜の窓口には調理方法の問い合わせが多く寄せられる。ひと口に問い合わせと言っても、回答に必要な知識や説明方法が異なることから、別個のフリーダイヤル番号を用いることで用件に適したスタッフにコールを振り分けているのだ。お客様サービス室では、スタッフをハム・ソーセージチームと調理食品・惣菜チームの2つに分け、1チーム当たり4回線で対応している。
 一方、eメールへの対応は、ホームページの開設にともない1995年よりスタート。eメールで寄せられた問い合わせはいったんホームページ事務局が受け取り、お客様サービス室での対応が必要なものを同室へ転送している。
 お客様サービス室に寄せられる問い合わせおよびご意見・ご指摘は、年間約1万8,000件。このうちご指摘は約3分の1を占める。
 また、受付チャネル別の内訳を見ると、大半がフリーダイヤルによるもので、eメールは年間を通じて1,000件ほど。一般家庭へのインターネットやブロードバンドの普及が進んでいるとはいうものの、食品に関する問い合わせなどにeメールを利用するお客様はまだ限られているようだ。

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問い合わせ先が明記されたWeb画面(左)とメールフォーム(右)。メールでの問い合わせには、氏名、eメールアドレスと用件のみを必須項目としており、住所や電話番号、性別、年齢は任意項目となっている

「問い合わせをして良かった」と思っていただける対応を目指して

 お客様サービス室のスタッフ数は、管理者を含めて合計12名。スタッフの多くは、ハム・ソーセージと調理食品・惣菜の両方に対応できるマルチスキルスタッフである。そのため、商品カテゴリーに応じたチーム別の受付体制を敷いてはいるもののスタッフは固定せず、フレキシブルな受付体制を実現している。
 お客様サービス室が日々の応対において心掛けていることは、お客様に「日本ハムに問い合わせて良かった」と思っていただける対応をすることである。これを実現するには、まず聞く力が必要だ。用件を正確に把握しなければお客様の満足は得られない。次に求められるのが、適確な回答をするために必要な食に関する知識を備えることである。
 上記を踏まえると、人と話すのが好きな人、もともと食への関心が高い人や料理が好きな人、人生経験が豊富な人がスタッフに望ましいと考えられる。そのため、お客様サービス室では、スタッフの採用基準にこれらを盛り込み、最適なスタッフの採用に努めている。
 また、採用後は発声練習と電話応対の基礎、商品知識の習得、ロールプレイングで構成される導入研修を実施。その後、OJTを積み重ねることで、時間をかけてマルチスキルス タッフへと育成していく。
 さらに、応対に当たってはお客様の視点が欠かせない。自社商品の知識にとどまることなく、食生活に関する広い知識を身に付けるために、お客様サービス室では全スタッフによる食生活アドバイザーの資格取得を目指している。お客様の満足度を高める要とも言える人材。その採用から教育までの至るところに施されている細かな配慮を見ることができる。

お客様応対とお客様の声の分析を支援するシステム「SMILE」

 お客様対応に加えて、もうひとつお客様サービス室が担う重要な業務がある。それは、応対履歴のデータベース化だ。
 同社では、2003年8月にお客様ご指摘対応システム「SMILE(スマイル)」(図表2)を導入した。これは、お客様サービス室での応対とお客様の声の分析をサポートするシステム。現在ではグループ各社への導入を終え、各グループ企業内での情報共有と本社での全グループの情報把握を実現している。

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 「SMILE」が網羅しているのは、日本ハムおよび同グループの商品を納品している店舗情報、個々の商品情報、FAQの3種類。お客様サービス室に問い合わせが寄せられると、応対スタッフは用件に応じて必要な情報を検索して回答する。お客様サービス室ではすべての通話を録音しているが、用件がご意見やご指摘であった場合、受付情報データベースに登録。この情報を基に、関連部門で調査を実施し、何らかの改善が必要な案件については迅速に対応している。
 「SMILE」の導入以降、お客様の声の蓄積は着々と進み、現在、約7万件が登録されている。最近では年間の傾向を見ることができるようになったという。さらに、2006年の1年間で商品の改善につながった例は300 を超えた。
 必要なシステムには投資を惜しまない同社では、2005年10月に、テキストマイニング・システムを導入した。目的は、長期にわたって蓄積した大量のお客様の声を分析し、そこから価値ある情報を見つけ出すこと。現状、お客様サービス室に寄せられる問い合わせ件数は1日当たり約100件であるため、管理者が目を通すことができる範囲と言える。テキストマイニング・システムで効果を発揮するには、大量のデータを使用することが望ましいとされていることから、お客様サービス室では同社が1965年から組織化している奥様重役会やWebアンケートの情報も蓄積していく意向だ。このほか、テキストマイニングの活用においては課題も多く、マイニングノウハウの取得も不可欠としている。

お客様および社内への情報発信をスタート

 お客様サービス室では、2006年12月より新たな取り組みとして全グループへの情報発信に着手した。イントラネットからアクセス可能な社内ポータルサイト内にお客様の声を公開しているのである。お客様の声には、問い合わせとご指摘・ご要望があるが、ここでは問い合わせ情報を公開している。
 問い合わせ情報を公開する意図は、問い合わせに潜む価値ある情報の活用である。例えば「お気に入りのベーグルがいつも購入しているお店で品切れしていた。通信販売で購入することはできますか?」という問い合わせが寄せられたとすると、これをきっかけにベーグルが欠品していた店舗を見つけ、品切れ防止策を講じることができるわけだ。
 また、お客様サービス室では、日常業務でお客様と接しない部門のスタッフにも、ポータルサイトを通じてお客様の声に触れることで市場の変化に気付き、お客様をより良く理解してほしいと考えている。だが、ポータルサイトを活用した情報共有は、各スタッフが能動的にならなければ始まらない。そこでいかにサイトへのアクセスを促すかが、お客様サービス室の課題となっている。
 同室では、もうひとつの課題として、問い合わせをしてこないお客様への対応を挙げている。日本の人口は約1億2,000万人。この数字と同社に寄せられる問い合わせ件数とを比較すると、同社が対話できているお客様はごく一部であることは一目瞭然である。アクションを起こさないお客様に対しても、食品メーカーとしていかに情報を提供していくかを検討しているところだ。同室では以前、ホームページ上にバーチャル工場見学のページを作ったことがあるが、今後もさらにホームページの充実に貢献していく意向。さらに、各支社で行っている食育活動のための情報提供および参加も検討している。
 日本ハムが展開するOPEN品質の基本方針のひとつである「お客様とのつながり」をリードするお客様サービス室。同室が担う役割は大きく重い。これからも同室の活動に注目してきたい。

日本ハムお客様サービス室

ヘッドセットを着用して応対に当たるスタッフの様子


月刊『アイ・エム・プレス』2007年4月号の記事